ある夜、いつものように森を散策していたら、銀色に輝く乙女を見付けた
彼女はぐったりと泉の側に倒れていて、
ぴくりとも動かなかった
可哀想に、森の魔物に襲われたのだろうか
身体は、ひどく冷たそうだった

「大丈夫か? 」
その時、牡鹿の姿をしていたジェームズは、そう・・・と彼女へ近付いて問いかけた
わずかに届く月明かりに、乙女の身体が不思議に発光する
人ではない、と思いながらもジェームズは、魔法を解いて側に佇んだ
「大丈夫か?」
返事はなく、かわりにかすかな呼吸の音が聞こえた
生きている
そっと抱き起こすと、胸の辺りがべっとりと銀色の液体で濡れていた
「お前、怪我してるんだな・・・」
乙女を横たえ、ローブをかぶせて、ジェームズは再び牡鹿に姿を変えた
全速力で、森を駆ける
夜の闇が、目の横を飛んでいった

「セブルス、セブルスっ」
真夜中、窓を叩く音に眠りをさまされ、セブルスは不機嫌にカーテンを開けた
「・・・・なんの用だ、ポッター」
「急いでるんだ
 ユニコーンの傷を止血する薬、くれ」
「・・・・はぁ?」
窓の向こうで切羽詰まったような顔をしているジェームズに、セブルスはまじまじとその顔を見つめた
ユニコーン? 止血?
だいたい何故そんなものがこんな夜中に必要なんだ
「ユニコーンより、お前の止血をした方がいいんじゃないのか?」
いつも不敵に笑ってる、よく陽に焼けた顔
小さなひっかききずがたくさんあるのは気のせいじゃないだろう
手も、赤く血が滲んでいる
こんな夜中に何をしているのか
「オレは大丈夫だって
 ちょっとひっかいたたけ」
それより早く、と
手を伸ばした彼に、セブルスは溜め息をついた
いつもいつも、こいつの行動は意味がわからない
第一、医者でもない者がユニコーンなんかの止血剤を持ってどうするのか
そもそも男ではユニコーンに近付くこともできないのに
いや、それよりも
ユニコーンなんかがそんなにヒョイヒョイいるものか
「おまえはワケがわからない」
憮然として、セブルスは棚からビンをひとつ取り出してジェームズの手へと押し付けた
「さっさと行け
 僕は眠いんだ」
「サンキュ、セブルス」
にかっと、
いつもの明るい笑みでジェームズは言い 薬を受け取って去っていった
遠ざかるほうきの影が禁断の森の方へ消えていくのを見届けて、ぶるっと、
セブルスは一人身震いする
あの魔物の巣に、いとも簡単に出入りして、
不思議に平気なジェームズを、時々怖いと思う
今もまた、正体不明な不安が胸を過った
夜は静かである

大急ぎで先程の泉の側へ戻ると、乙女はまだそこに横たわっていた
「よかった、もぅ大丈夫」
発光する身体を支え、ローブでその銀色にベタベタするものをぬぐい、泉の水で傷口を洗った
そうしてセブルスからもらった薬を塗り付けて、
持ってきた包帯をきつく巻いた
乙女は、一度だけ苦しそうに眉を寄せた

朝、
ずっとその場で乙女の身体が冷えないようにと抱いていたジェームズは
ふ、と何者かの気配に目をさました
いつのまにか眠っていたようで、空はうっすらと白んできている
「あれ・・・・・仲間が来てくれたのか」
光を浴びた木々の間に、何頭もの真っ白いユニコーンがいた
こちらを、見ている
「よかったな、おまえ」
腕の中の乙女に、言った
同時に彼女が目を開けて、それから僅かに微笑した
「あなたは人ですか? なぜこのようなところに・・・?」
透き通るような声だった
「うん、人だけどね」
散策中だったよ、と
笑ったジェームズに、乙女はまた少し微笑した
「死を、覚悟しておりました
 あなたのおかげで、こうして朝を迎えています
 あなたへ、感謝の印を捧げます」
「・・・いいよ、別に」
笑ったジェームズに、乙女は静かに首をふり、そうっとこちらへ手を伸ばした
朝の光に透き通りそうな手が、頬に触れ
そうして乙女のやわらかなキスが、ジェームズの右目に落ちた
熱いと、思った
「ユニコーンは男性を嫌います
 ですが、あなたは特別のようです
 あなたは、まるで森の王です」
唇が離れると、乙女は微笑した
敬意に満ちた目だった
「そぅ? オレはふつうの学生だけど」
「いいえ、あなたは森に愛されている」
魔の森を、散策できる人間が他にいますか、と
こんな風に、臆せず森を歩く者が他にいますか、と
見つめられ、ジェームズは笑った
「そんなのオレがここに興味があるからだ
 怖くなんかないし」
魔物も、迷いの森も
己の魔力に自信があるから平気だし
恐れより、興味が勝つからこうしている
「いいえ、あなただからです」
森の王を、森は敬愛を込めて見守っていますと
乙女はそうして立ち上がった
途端にその姿は、見事に美しいユニコーンへと変わり
そうして、彼女はス・・・、とジェームズへ頭を垂れた
同じ様に、集まった者達も次々と頭を垂らし、敬意を現すかのようにし
それにジェームズは笑った
「変なの、触られて怒るかと思ったのに」
「あなたになら」
その言葉を最後に、乙女のユニコーンは仲間の元へと駆けてゆき
そうしてやがて、それらはいなくなった
静かな森に、ジェームズは残される

その日、廊下でセブルスは一人で歩いているジェームズを見かけた
「・・・・授業をさぼって森で遊んでいたのか」
ふん、と
朝の授業に出ていなかった嫌味を言うと、彼はにこっと笑った
「ちょっと美女とデートしててね」
それより薬助かったよ、と
その言葉にセブルスはふん、と息を吐いた
得体の知れない奴
あんな森で一晩を過ごしただなんて考えられない
魔物も、悪魔もごっちゃまぜに生息しているような場所で
一度奥深くへ入ったら、二度と戻れないといわれているのに
「おまえ大丈夫なのか?」
顔に軽い傷跡がたくさんあったはずだ、と
目を向けて、一瞬セブルスは息を飲んだ
「・・・・お前、目が・・・・・」
「ん?」
キラリ、と
一瞬その目が金色に光ったのは気のせいか
いつも黒くて優し気なその深い輝きが、
まるで魔の月みたいな色をして、そこにあったのは気のせいか
「・・・なんでもない」
瞬きをしたジェームズの、その目はいつもの優しい目だった
どうかしているのは自分だろうか
心配で眠れなかったから そのせいだろうか
金色の目は魔物の目だという
まそかジェームズが、と
セブルスは溜め息をついた
彼が本当に、時々わからない

「あなたは、森の王のようです」
乙女の唇からもたらされたのは、不思議な力だった
これは未来というものなのか
見えるものは、哀しいものが多かった
月の色みたいな、目が映すもの
それに最愛の人が泣くのを見て、ジェームズは苦笑した
「なんだ、やっぱり触られて怒ってるんじゃん」

与えられた未来を見る目
嘆きのこれから
死は確実に二人をわかつと教えられ
希望を残すことが、必要だと知った
ジェームズは苦笑する
望まずに得たこの力で、何をするのか
何ができるのか



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