昔、大好きだった人がいた
優しくて、
あたたかくて、
彼は色々なことを僕に教えてくれた

「いいかい、リーマス
 もし君がこれから先の人生で、失いたくないと思える存在に出会えたら・・・」

森の側の一軒家
町から離れたその場所に彼は一人で住んでいた
あたたかな陽射しの下、まるでガラス玉みたいなきれいな目をして彼は笑む

「何があっても、放してはいけない
 けして失くしたくないと思う存在に出会えたら・・・・・・・」

どこか寂しげなその目は、時々空を見上げていた
浮かんでいる雲を追うように
どこか遠くを見ているかのように

「どんなに辛くても、あきらめてはいけない
 その痛みは、それを失うことに比べたら本当に本当にささいなことだから」

彼は笑っていたけれど、
その言葉はとても重く重く響いた
彼が何を背負っていて
彼が何を考えていて
彼が何を見つめていて
彼が何を欲しがっているのか

「今はまだ、わからなくてもいいんだ」

その時には、わからなかった
彼を理解するには、少年はまだ 幼すぎた

「リーマス、まだ具合悪いのか?」
「うん、まだこないだの風邪 ひきずってるみたいなんだ」
「お前 細っこいからなぁ
 なんか年中具合悪いんじゃないか?
 大丈夫かよ? 薬、もらってきてやろーか?」
「いいよ、そんなにひどくないし
 2.3日寝てれば治るよ」
いつもみたいに、
軽く笑って、リーマスはヒラヒラと手を振って部屋へと入った
ベッドが3つ並んでいる
まだ夕方で、相部屋の相手はそれぞれに外で活動中である
窓際の、ひとつに腰掛けてリーマスは溜め息をついた
満月が、昨晩過ぎたところだった
身体は何ともない
今回も、無事に終えることができた
あの不快な時間
一晩という、長く痛い時間
その後は、その時の疲れからか、体調が悪い
だるさと目眩に辟易しながら、それでもこうしてここにいられること
それに安堵し、リーマスは目を閉じる

「リーマス、お前は最近 よくここに来るな」
「うん、だって僕 あなたのこと大好きだから」
見上げた顔はよく陽に焼けて、少し寂しそうに笑っていた
「そうか、ありがとう」
彼と知り合って半年が経とうとしている
今やリーマスは毎日のように ここに遊びに来ては、彼と話をし、歌い笑う
そして、夜になると家に帰る
それを毎日繰り返していた
当然のように毎日、毎日

「人は、強くならなくては生きていけない」
ある日、彼は誰へともなくそう言った
陽が沈みかけ、あたりが夕焼け色に染まる頃
「さぁ、今日はもう帰りなさい」
いわれて、リーマスは彼のいつもの寂し気な顔を見上げた
「あのね、今日はね、満月なんだよ
 一年の中で、一番きれいに月が見える日なんだって」
少しだけ、彼が笑った気がした
「そうか、じゃあ早く帰って家でゆっくり月を見なさい」
「違うよ
 そうじゃなくて、僕はあなたと一緒に見たいんだ」
「それはできない、リーマス
 今日はもぅ、帰りなさい」
静かな、でも強い口調に、子供は反論できなかった
茜色の森を背に、とぼとぼとリーマスは帰途についた

満月って綺麗なんだって
真っ暗な夜を照らす唯一の強い光
静かに、でも美しく輝いていて
どこか彼に似ていると思うんだ
仲良くなって、大好きになった人だったから、一緒に見たいと思ったんだ
それだけだったんだ

その夜、リーマスは一人で夜空を見上げた
月はまんまるく輝いて、暗い夜を照らしていた
「こんなにきれいなのに」
彼も、今頃見ているのだろうか
それとも、彼は月が嫌いなんだろうか
子供はボンヤリと思いにふける
獣の遠吠えを、遠くに聞きながら

次の朝、いつもより早く家を出たリーマスは 走ってあの人のもとへとやってきた
勢い良くドアをあけて、だが立ち止まった
そこに、いつもいるはずの彼がいない
ベッドはきれいに整っていて、誰かがいた気配もなく
家の中はシン・・・と静まり返っていた
「出かけたのかな」
つまらないな、と
リーマスはもぞもぞと彼のベッドにもぐりこんだ
冷たい
ここに彼はいない
言い様のない寂しさに、リーマスはまるくちぢこまりながらやがて眠りに落ちていく

「よ、起きたか?」
目をさますと、そこにシリウスがいた
「気分どーだ? バタービール飲む?」
心配気にベッドの端に腰掛けて 彼は笑った
「ありがとう、今何時?」
「夜の9時、そろそろジェームズも戻るんじゃねーかな?」
シリウスは明るくいってグラスにバタービールをついだ
「オレ様がひよわなリーマスのために買いに走ったんだぜ」
そう言って渡されたグラスは暖かくて、
それでリーマスは少し笑った
「嬉しいよ、ちょっと寒かったんだ」
夢の中の子供のように
心が震える程、寒かった
あんな風に、待つのは好きじゃない
誰もいない場所なんて 耐えられない
「熱はないな?
 身体が弱ってるだけなんだろーな」
彼の手が額に触れる
遠慮ないそのしぐさが、心地いい
人にこうやって、突然触られるのは好きじゃない
だけど、彼だけは特別
彼になら、大丈夫なのだ
突然触れられるのも、こうやって眠っている間に側にいられるのも
「お前、手、どうしたんだ?」
何かを見ていた彼が、突然言った
「?」
「これだよ、どーしたんだよ」
腕をとられ、シャツのそでをまくられる
手首にはくっきりと痣に似た擦り傷が残っていて
それをシリウスは驚いたような顔で見た
「ちょっと擦りむいたんだよ
 ぼーっとしてたら階段から落ちてさ」
笑って言う顔を、彼はじっと見て少し怒ったような顔をした
「おまえな、それ本当か?
 誰かに何かされたんじゃねーの?」
こんな痕、ころんだくらいでつくか、と不満そうに口にする
「そうじゃないよ
 誰かにやられたんなら、君やジェームズに仕返ししてもらうんだけどね」
残念ながら、と
悪戯に笑うと、彼は不満そうに手を放した
「ならいいんだけどな
 気つけろよな、お前今度は骨折るぞ」

心配してくれる人がいる
想ってくれる人がいる
それは心地よく、安心をもたらす
ああ、僕はまだここにいてもいいんだ、と
目をとじることができる
あの日の、子供みたいに

やがて目をさましたリーマスは、部屋にあたたかい湯気がたっているのを見た
「あ・・・・・」
ベッドから起き上がると、彼がそこにいた
「ああ、今朝は早かったんだな
 森に狩りに行ってたんだ、悪かったな」
彼はベッドへと近付いてリーマスの頭を撫でた
「ううん、勝手に寝てごめんなさい」
「いや、かまわないよ」
彼は、また火の側へと戻り 何か温かな食事を作っている
その後ろ姿を見ながらリーマスは言い様のない不安にかられる
子供特有の何かが知らせたのか
それとも、あんまり彼ばかり見ているからなのか
「ねぇ、大丈夫?」
どこか辛そうなその姿が痛くて、そう声をかけた
それしか、言えなかった

「可愛いリーマス、
 お前と出会えて良かったよ」
彼は、突然自分にしがみついてきた幼い子供を抱き締めた
「大丈夫、私は大丈夫だから
 だからお前はもう帰りなさい
 そして、二度とここへは来てはいけない」
ガラス玉みたいな目が、悲しく揺れるのを見た
この人は一体、何を想っているんだろう
何を感じているんだろう
どうして、こんなに苦しそうにしているんだろう
「ここへはもう来てはいけない
 私はいつか、お前を傷つけてしまうから」
もう一度、強く抱き締められた
彼の腕が震えているのに 幼い子供は気付いていた

森の側に、狼男が住んでいると、誰かが言い出した
満月の夜になると、無気味な声が響くのだという
森で狩りをしていた人の馬が殺されて、その人も命からがら逃げてきたと
その噂は、一気に辺りに広まった
「森の側に住んでいる奴がいたな」
「あいつが狼男か」
言う間に満月の夜がやってくる
大人達は、森へと迫る


早鐘のような心臓を抑え、子供は走っていた
知らせなければ
あの人に、逃げてといわなければ
その夜、いくつもの松明の光が森を目指した
遠吠えが、響く
リーマスは もう通い慣れた家の扉をあけた

「リーマス? どーした?」
シリウスの声に、我に返る
「なんでもない、ジェームズ遅いな、と思って」
「そーだな、練習長引いてるのかもな」
試合が近いし、と
言った彼の首に手をまわした
「・・・・・・」
無言でシリウスが視線を合わせてくる
それを受けて、リーマスは微笑した
「少しだけ、」
「あいつが帰ってきたらどーすんだよ」
困ったような顔をした彼に、リーマスは悪戯っぽく笑う
「ジェームズなら気付いて出てってくれるよ」
最中に入ってくるようなヘマはしない人だよ、と
それでシリウスは苦笑した

深く唇が重なる
最初に必ずキスをして、それからゆっくりと身体を倒す
首筋や、肩や、胸元に舌を這わせて
そうして、何度も何度もキスをくれる
シリウスのそういう抱き方が好きだった
彼に触れられているのが、心地よかった
「もっとして、シリウス」
誘う言葉に、彼は少しだけ笑った
「病人だから手加減してやってんだけど」
「いらないよ、そんなの」
ふーん、と
悪戯な笑みが返ってきた
ああ、なんて心地いいんだろう

扉の向こうには、一匹の獣がいた
いや、何というべきか
人のようで、獣のようで
それは、本で見た人狼という生き物
それが、そこにいた
「・・・・・・・・・」
子供は立ち尽くし、彼を見つめた
声が出ない
逃げて、と
危険を知らせにきたのに
「来るなと、言っただろう」
彼は、いった
しわがれた、まるで彼のそれとは違った声で
「あ・・・・・・・・・」
それで急に身体が震え出した
怖い
この人が怖い
そして、同時に痛い
あの目
あれは、これを背負っていた目だったのか
「に・・・・逃げて・・・・・」
震える声で、やっとそれだけ言った
だが、彼は首を振る
「無駄だ、」
彼は視線を落とした
毛に覆われたその肢体
それが赤黒く血に染まっていた
まさかそれは、先月負った怪我か
それを隠して、彼は自分に微笑んでくれていたのか
「どう・・・したの・・・・それ・・・・」
「もういいんだ
 リーマス、早くここを出なさい」
そして、二度と来てはならない
今度こそ、二度とここへ来てはならない
「どうして・・・・どうしてそんなことを言うの?!」
子供は、感情の渦に飲み込まれたかのように一気にまくしたてた
「そんなこと言うなら、最初から友達にならなきゃよかったのにっ」
森で迷子になったのを見つけてくれたのが彼だった
それから家へ行くようになり、仲良くなった
彼は色んな話をしてくれて
リーマスは、彼といるのが楽しかった
彼の側にいたいと思った
彼を、とても好きだった
「長く一緒にいられるとは思っていなかった
 いつか、この日がくるとわかっていた
 最悪の事態が来る前に、私はここから去ろうと思っていた
 それが、たまたまこんな形になっただけだ」
そして、と
彼は続ける
「それでも、私はお前に出会えて良かった
 おまえがまだ、こうして私を見てくれているということ
 それが何よりも、嬉しい」
ガタガタと、震えながらリーマスは言う
「勝手に決めたら嫌だっ
 そんなこと、お別れとか、そんなこと勝手に決めたら嫌だっ」
想像もできない
人狼であるということ
それがどんなことなのか
こうして、満月のたびに姿が変わり、化け物になってしまう身体のこと
こんなに血を流して、今にも死にそうな程に弱っている彼の痛みとか、苦しみとか
想像もつかなくて
理解できない自分が悔しかった
もっと頭が良かったらわかるのだろうか
もっと大人だったら、理解できるのだろうか
彼の気持ちや、言葉の意味や、寂しい微笑みの理由
「僕はあなたが好きなんです
 だから、逃げてっ」
知らない間に、子供は泣いていた
大粒の涙が視界をくもらせて邪魔だった
腕で乱暴にそれを振り払って また彼を見た
壁に背を預けて座っている、瀕死の化け物を

シリウスの鼓動をききながら、
荒い息の下、また口付けを繰り返す
何度も何度も、確かめるように
そうして、与えられた刺激に声を上げる
本能のままに
求めるままに
「もっと、シリウス・・・・・もっとして・・・・・」
彼の背に腕を回し、彼の動きに合わせて身体を受かせる
繋がった部分が熱くて、
頭の芯までしびれている
「あ・・・・・あっ・・・・・・・シリウス・・・・・・・・っ」
何度、名前を呼んだだろう
激しく何度も奥を突き上げられ、重い衝撃を飲み込みながら背を反らせて
やがて、彼の熱を感じて高みへと果てた
力強く抱きしめる腕の中で、彼の名を呼びながら

やがて、怒声とともに辺りを松明の灯が囲んだ
「まだ間に合う、逃げなさい」
静かに、彼は言った
「私が正気を保てるのも もう時間の問題だ
 こうしていられる間に、ここから出なさい
 でないと私は本当に お前を殺してしまう」
彼は、側に置いてあった瓶のふたをとり一口飲んだ
脱狼薬だろうか
だが、それは完全には効かず 彼は姿を化け物に変えてしまっている
「お前をこんな風にしたくない
 薬もなく、治りもしない
 病よりもやっかいだ
 おまえに、こんな人生は似合わない」
だから、頼むからここから逃げてくれと
彼は言った
そうして、動けない自分は、こうして人の意識のあるうちに外の大人達に殺されよう
それで、終わり
それで、いいと彼は言った
「いや・・・・・いやだっ」
だが、リーマスには納得できない
大好きな彼が消えてしまう
こんなに優しいのに
こんな姿になっても、中身はまるでいつもの彼なのに
「いや・・・・・」
だが、その途端、乱暴に扉が開き、大人達が中へと入ってきた
「やめてっ」
悲鳴に似たリーマスの声が上がる
それと同時に、誰が撃ったのか銃声が響いた

ダーーーーーーーーーーーン
ダーーーーーーーーーーーン

耳が割れるかと思った
そして、反射的にリーマスは倒れた彼へと駆け寄った
「戻りなさいっっ」
大人達の腕が伸びる
だが、そより先に、倒れた人狼が起き上がるのが早かった
彼はもはや、意識ある目をしておらず
人狼そのものの本性を現している
「化け物がっっ」
再び、誰かが銃をかまえた
だが、それより先に 彼の爪が何人もの大人達をなぎ倒した
「やめてっっやめてっっ」
なんてことだ
あんなに優しかった人が
薬でああやって意識を保っていたのに
静かに、死を覚悟していたのに
傷つけたくない、と
言っていたのに
これは、彼の意思ではないのに

「やめてっっ、お願いっっ」
必死にその身体にしがみついた
ああ、彼の身体は血まみれで
今撃たれた傷からは、新しい血がボタボタと流れている
ああ、そんなに暴れたら死んでしまう
死んでしまう
「お願い、やめてっっ」
だが、声は彼には届かなかった
乱暴にその身体を床に押し付けられ 爪で肩を押さえ付けられた
大人達から悲鳴が上がる
銃声がまた響いた
リーマスの顔に、肩に、
彼の赤い血が、降ってきた

その瞬間、リーマスは あのガラス玉みたいなきれいな目を見ていた
そうだ
この目、何かに似ていると思っていた
そう、月
彼の目は、月に似ている
綺麗だな、と
はじめて見た時に思った
それからリーマスは、よく彼の目を見つめるようになったのだ

ダーーーーーーーーーーーーン
ダーーーーーーーーーーーーン

銃声とともに、激痛が走った
どこに、なんてわからなかった
身がさけるような痛み
そして、無意識に伸ばした手に、獣のごわごわした毛が触れた
側で何かが倒れる音を聞きながら、リーマスは消えかける視界に倒れた彼の姿を見た
心がぎゅっと痛かった
息もできないほどの悲しみ
死んで、しまったのだろうか
もう二度と起きて笑ってくれないのだろうか
彼に教わりたいことは、まだまだたくさんあったのに
彼の話を、もっと聞きたかったのに
そしていつか、
彼を本当に理解できる大人になりたかったのに

「噛まれたか・・・・」
「可哀想に・・・・・」
遠くで、声が聞こえた
カチャリと向けられた銃口
ああ、
人狼にかまれた人は 同じくそうなってしまうんだっけ
それを完全に治す薬はなく、
開発されている最高のものでも、彼が飲んでいた せいぜい意識を留める程度のもの
化け物から、救われることはできない
そう、本では説明されている
変な狼男のイラストのついた本だった
その実体が、これ
こんなに痛ましい彼の姿
ボロボロになって、彼は今ここに倒れている
そして、自分も彼の牙にかかった
(いいんだ・・・・・)
リーマスは、目をとじた
人狼になる者を、このまま大人達が生かしておくわけがない
そして、
今まさに、自分に銃口が向けられている
(いいんだ・・・・・・・・・)
あの変なイラスト
狼男には注意しましょうなんて注意書き
なんて意味のない
あれを書いた誰に、彼の痛みがわかるだろう
誰に、彼の優しさが理解できるだろう
悲しい目をして、それでも優しく微笑んでくれた彼
色んなことを教えてくれた
こんな別れが待っていても、それでも彼は言っただろう
出会えて、良かったと

少しだけ彼と同じになれた
少しだけ、彼を理解することができただろうか
払った代償は大きかったけれど

ダーーーーーーーーーーーーーーン

銃声が響いた
同時に、リーマスは意識を失った

「リーマス、大丈夫か?」
ペチ、と頬にシリウスの手があたる
「・・・・・うん、」
「やっぱボーっとしてんなぁ」
「シリウスが激しかったからだよ」
「手加減いらねーって言ったのお前だろ」
今さら頬を染めて、シリウスは言うとそわそわとグラスを持って立ち上がった
テーブルの水差しからなみなみと冷たい水を注ぎ それをもってまた戻ってくる
「ほら、顔ほてってるぞ」
「だれのせい?」
「だから、お前が言ったんだろっ」
それでリーマスはクスクス笑ってグラスを受け取った
「嘘だよ、ごめん
 シリウスに抱かれるの、好きなんだ」
飲み下した冷たい水が、身体を冷やすようで心地よかった
「そりゃ・・・どうも」
ポリポリと頬をかいてシリウスは言う
「飲んだら寝ろよ」
「うん、」
グラスをシリウスに返して、ベッドに横になった
視界に彼の横顔を捕らえて、安心する
「眠るまで、そこにいてくれる?」
「ああ」
リーマスは目を閉じる
ここは、暖かくて心地いい

目を覚ました時、そこは森の中だった
「リーマス・・・・・リーマス・・・・」
懐かしい、優しい顔がそこにあった
「どう・・して?」
彼も、自分も死んでしまったんじゃなかったのか
それとも、ここは天国なのだろうか
「ああ、お前をこんな風にしてしまった
 私は、どうしたらいいんだ・・・・」
朝日の中、彼は人の姿で泣いていた
身体中血だらけで、顔は青ざめている
倒れているリーマスにおおいかぶさるように、彼は泣いていた
「泣かないで・・・・・」
「お前を・・・・・お前を・・・・・」
男は何度も拳を地に打ち付けた
それで彼の胸の傷からまた血が流れた
「泣かないで・・・・・・」
大人達に殺されそうになったのを、彼が助けてくれたのだろうか
あんなに何度も撃たれて、傷だらけになって
それでもここまで、彼をつれて逃げてくれたのだろうか
「リーマス・・・・・」
「いいんだ、僕
 あなたと同じならいいんだ・・・・・」
またあの本のことを思い出した
狼男は恐ろしい化け物です
だから、森に入る時には噛まれないように注意しましょう
「僕・・・・あなたのような人になる・・・」
優しくて、賢くて
どんなに痛いものを背負っていても けして負けなかった人
憧れて、好きになった人
「あなたのような人になる・・・・・」
疲労からか、リーマスは長く目をあけていられなかった
そして、それは死期が近付いている彼も同じだった
「リーマス・・・・許すのか・・・私を・・・」
彼の声は震えていた
また大粒の涙が、彼の血で汚れた子供の顔に落ちた
「・・・・うん・・・・・・・・」
微かに、子供はうなずいた
「リーマス・・・・・・・・・・・っ」
「あなたに出会えて、良かった・・・・・・」
男の最期の声は 遠吠えに似ていた
森の静かな空気を裂き、それは響き渡り
幼い子供の傍ら、男は死んだ
人として
リーマスという、一人の少年に救われ死んだ

「いいかい、リーマス
 お前がこの先、けして失いたくないと思う存在に出会えた時
 たとえそれがどんなに辛いことでも、苦しいことでもあきらめてはいけない
 それを守るために、命を賭けなさい
 その痛みや苦しみは、失うことに比べたら 本当に何でもないことだから」
彼の言葉はリーマスの中に生きている
「この先、どんなに絶望しても、けしてあきらめてはいけない」
それは彼の生き方だった
そして、彼は優しくなれた
同じように今リーマスも想う
けして、失いたくないと思える存在に出会って
命をかけてもいいと思う人を見付けた
彼の側にいられるなら、あの痛みにも耐えられる
満月の日の、たまらない孤独にも耐えられる
次の朝、彼の腕に戻れるなら
彼が、こうして抱いてくれるなら

「おやすみ、リーマス」
静かな、シリウスの声が聞こえた
心地よく眠りに落ちながら、リーマスはあの森の悲しい男を思った
彼のように、自分も優しくなりたい、と



女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理