それは入学のパーティのすぐ後だった
右も左もわからない新入生達が そわそわと不思議の廊下を監督生についていく
「グリフィンドール生はこっちだ」
自分の背の倍程あるその背中をチラと遠くで見て、ピーターは自分と同じ新入生達の中、足を緩めた
ノロノロと、歩く
そうして、辺りを笑いながら、緊張しながら、隣の誰かと話をしながら歩いていく同級生達を観察した
ホグワーツに入る前、彼は不思議な力を幼い頃から自覚していた
そして、それに戸惑いはなく、むしろ当然のように受け入れ それを高めることに興味を持った
やがて彼の元にホグワーツから入学許可証が届き、今 彼はここにいる
ピーターは童顔で、背が低かった
このグリフィンドール寮に分けられた生徒の中では一番に小さい
だが、この時点で 彼にまさる魔力の持ち主はここにはいない
(誰にしようかな・・・)
心の中でピーターはつぶやいた
組分けが終わり席についてから食事をしている間中、ずっと考えていたことだった
いや、入学が決まってから今日まで、ずっとずっと考えていたことだった
学校に入ってまず最初に彼がしなければならないこと
教科書の内容なんか簡単だ、などと思っている彼が そんなことよりもずっと気にしていること
それは、ここでの安住のため 自分を守る壁を見つけること
自分を常に守ってくれる存在を得ること
ピーターは、周りの生徒達を注意深く見渡す

その日、ピーターは談話室の隅で まだ緊張と興奮のおさまらない新入生達と、それを何だかんだとひやかす上級生達を見守っていた
同級生でも上級生でもかまわない
とにかく、ここでの生活の中で、自分を危険というものから保護してくれるもの
それが必要だと彼は思っている
できれば、優秀で、目立つ存在で、
その影で自分が何をしても彼らにかすんでしまうくらいのものがいい
そしてできれば、
真直ぐな目をした、友情なんてものを大切にするようなものだったら尚いい
ここでの7年の友情ごっこ
できれば欺くのに楽な相手
そういうのが、どこかにいないだろうか

グルリと見渡すと、新入生達の中にはあまりグループみたいなものができていなかった
入学当日だから無理もないだろう
上級生は、監督生が4人程のグループでなんだかんだと仕切っている他は
日焼けした10人程のグループが学年に関係なしに騒いでいるのが目についた
(クィディッチの選手かな?)
体育系のノリはあまり好きじゃない
どれもこれもバカに見える
頼りにはなりそうだが、自分とはあまりにも不釣り合いだろう
かといって2年生や3年生に、これといって目立ったグループはいなかったし
7年生で見付けても、来年には卒業してしまうのでは意味がなかった
(・・・・まぁ、もう少し時間をかけたらいいか)
そう思って そろそろお開きとなりかけた歓迎会を抜けた
明日から、授業がはじまる
それぞれの実力を知ってからでもいいか、などと
ひとりごちてピーターは部屋に戻った

次の朝、一年生達は初めての授業に奮闘していた
いや、授業の始まる前から戦っていた
教室がわからないのだ
あっちへウロウロ、コッチへウロウロ
そんな中、大量の教科書を持ってピーターはしっかり把握している教室へと向かっていた
(・・・・・レベルが低いというかなんというか・・・・)
今日の教室は、昨日寮に戻る時に通った道にあった
そんなことくらいわからない連中では話にならない
そんなことを考えながら歩いていると 急に目の前にピープスが現れた
「・・・・・・・・」
これが噂の、と
どう撃退してやろうかと考えていた時 向こうから一人の少年が走ってきた
「うわ?!!
 なんだこいつ!??」
黒い髪の、快活な印象の少年だった
ピープス達がおもしろがって彼へ向の周りをフヨフヨと飛び回る
「なんだよ、これ?!
 やっつけていいのか?」
唐突に、ポケットから杖を取り出して彼はビープスに向かってぶんぶん振った
(・・・・・・・・・・・・)
魔法使いの杖を、呪文を唱えるのならまだしも ただの棒のように振ってどうする、と
半ば呆れながら見ていると、急に足下をすくわれた
「?!」
ウヨウヨと集まってきたビープス達が新入生をからかってやろうと悪戯を仕掛けてくる
あやうく、転びそうになって
だが、ピーターの身体は誰かの腕で支えられた
「・・・・あ・・・・・・・」
黒い髪の、背の高い少年だった
整った顔が、どこか冷たそうな印象を受ける
だが、彼はピーターの身体を支え、立たせてやると笑った
「大丈夫か?」
「・・・・うん・・・・・・・・ありがとう」
「あれ、何なんだ?」
「さ・・・さぁ・・・・わからない・・・
 急に出てきて・・・・・」
慌てて、怯えた様子で答えて それからピーターは唖然とした
さっきからドタバタと何かしている気配があったビープス達が
今や、先程の少年の手の中のアミにゴソリと入れられ暴れている
「バーカバーカ
 ひっかかりやがって、ばっかじゃねーの〜」
片手にアミ、片手に杖を持って彼はカラカラと笑った
(・・・・・・・・・・驚いた)
ゴースト狩りに使う細い糸が店で売ってるのを見たことがある
彼の手にしているアミは それを編んだもののようだ
「すげー生け捕りかぁっ」
隣で、少年が興奮したような声を上げた
パタパタと駆け寄って アミの中を珍しそうに覗いている
「何なんだろーな〜これ〜」
「この学校 変なのいっぱいいるっていってたから」
楽しげな二人を見ながら、ピーターは少し興味を覚えた
声をかけようと、一歩近付いた時
「何してるの?
 あれ、それビープスだ」
後ろから声をかけられ飛び上がる程に驚いた
(け・・・・気配がなかった・・・・!?)
振り返ると、まるで女の子みたいな金髪の少年が立っている
「危ないよ?
 そんなの早く捨てちゃいなよ」
「ビープス?」
「そう、ここにたくさん住んでるんだって
 小賢しい奴らだから、あんまり関わらない方がいいよ」
ホラ、と
彼は手にした杖で そのアミを叩いた
シュ・・・と閃光に似た光が走り それでビープスは消える
「うわっ、何したの? お前」
「ん? どっかに飛ばしたんだよ
 そんなことより、授業始まるよ?」
にこにこと金髪の少年は皆を見回す
「あ〜オレ 場所わかんねーんだ」
「オレも」
黒髪の二人が顔を見合わせて笑う
「わからないって・・・・教室はそこだよ?」
ねぇ? と
問われてピーターはあいまいに笑った
「ぼ・・・僕も迷ってたんだ・・・」
「みんな先行き不安だなぁ
 ここ、昨日通ったでしょ?」
苦笑して、少年は笑った
たしかに、と
残りの二人も笑った

それから4人は一緒に教室へ入り、班を組めといわれて同じ班を組んだ
「僕、リーマス」
「オレ ジェームズ」
「オレはシリウス」
「僕はピーター」
にこり、とリーマスが笑い
よろしくな、とジェームズがいった
シリウスはさっきのビープスの話を何度も何度もしては笑って
そんな様子に、ピーターは満足した
気に入った
この3人が、とても気に入った
実力も性格も、まだよくわからないけれど、この印象に間違いはないだろうと思う
何より3人はよく笑った
それが、とても気に入った
この光
これなら自分の中の影を、隠してくれるだろう
この3人のまぶしさに、
世間は自分などには見向きもしないだろう
それでいい
いい隠れみのができた
そして、これは最強の壁になると直感する

その日から、4人はよく行動をともにした
ジェームズとシリウスはよく気が合ったし、リーマスもなんだかんだでそんな二人を気に入っているようだった
しばらくすると新入生達もいくつかのグループに分かれたが その中でもこの3人は飛び抜けて目立っていた
やがて、グリフィンドール生達は認識する
リーダータイプの快活で運動神経抜群のジェームズと
美形で優しくて女にダントツ人気のシリウスと
少女みたいな笑みを常にたたえた聡明なリーマスと
それにいつもいつもひっついて回っている おちこぼれのチビのピーターと
それでいい
できた3人のお荷物なフリさえしていれば
優しい彼らが「仕方ないなぁ」などといって守ってくれる
3人が大好きで憧れていて、いつも一緒にいたいと思っている頑張りやさんだけど落ちこぼれなピーターは、7年の間 ここで彼等に守られ生きていける
それでいい
それは全て彼の計画通り
ここで巧く生きていくための、彼の計画通り
やがて、彼は言う
「僕、君たちと出会えて良かったよ」
それは、嘘か本当か
本音か建て前か
誰にもわからない
彼自身にも、わからない



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