それは嵐のように大きな衝撃を持ってやってきた
よく晴れた夏の、
その年最初のクィディッチの試合
空の主役は、奴だった

「スリザリン生、全員競技場に集合!!」
監督生の声が廊下に響き渡った
バタバタと、朝から大勢の生徒達が手に手に旗を持ち駆けていく
「全員 競技場に集合!!!」
その声をやりすごし、セブルスはそっと階段の陰からすべりだした
今日は新学期はじまって最初のクィディッチの試合
誰もが待ちにまった 祭りの日
それで朝から生徒達は大騒ぎだ
特にスリザリンは寮を上げての応援で、全員が競技場で応援することを強制されていた
何しろ去年も一昨年も、スリザリンはこのクィディッチの試合に勝つことで優勝杯を手にしてきた
自然、応援にも力が入り、生徒達の熱も上がる
「・・・・・くだらない・・・・・・・・」
そうして、そんな盛り上がりの中、この夏で2年になったセブルスは そんなお祭り騒ぎにまったく興味を持つことができず、監督生の目を盗んでここにいるのである
そう、この喧噪とは全くかけはなれた図書館という静かな空間に、彼はこっそり忍び入った
中には何人かの生徒がいたが、スリザリン生はもちろん見当たらない
試合は11時から
決まりのとおり皆、競技場に応援に行ったのだろう
そうして、今日の試合もまた 大歓声の中スリザリンの選手達が活躍し、勝利するのだろう
(一体あんなのの何がおもしろいんだか・・・・・)
本棚から2.3册 本をひっぱり出しパラパラとめくりながらセブルスはチラ、と時計を見た
あと10分程で試合は始まる
ここは競技場からは離れているから あの騒がしさはここには届かない
せいせいする、と
そうして彼は一冊の本を選び椅子のひとつに落ち着いた
クィディッチの試合は1年の頃 何度か見た
ものすごいスピードで飛ぶ選手達
飛び交うボールとぶつかりあうホウキと、選手と
そして、歓声と怒声のような応援と、色とりどりの寮の旗
耳が割れるような声の渦の中 ただ呆然とした
なんて乱暴な、と
それが最初に受けた印象
猛スピードで突っ込む選手
それを狙うかのように打たれたボール
怪我人が出ない試合などない
目眩をおぼえる程に、セブルスにはなじめない世界だった
あんなものの何が面白いのだろう
まるで喧嘩のようだと彼は思い、
そうして自然と競技場から足は遠のいた
スリザリン生は全員応援に行くこと、という横暴なきまりができてからも、今日のようにスキさえあればぬけだした
あんなものには興味がない
好きな奴だけ、やっていればいい
それが彼の言い分で、ここでこうして本なんか読んでいる理由なのである

11時が過ぎ、セブルスが読んでいた本に夢中になっていた頃 慌ただしく図書館に入ってきた生徒がいた
スリザリンカラーの旗を片手に、彼は何冊かの本を抱えていた
そうしてその少年はバタバタと持っていた本を本棚へ戻し、慌てて図書館を出ていこうとした
だがその目が、隅のテーブルで本を読んでいた同じ寮のセブルスを捕らえた
「え?! スネイプお前何してんだよ?!
 試合もうはじまってるんだぞ?!」
彼はセブルスに駆け寄ると 迷惑そうな顔の彼の腕をぐい、と掴んだ
「・・・・・わかってる、でもいいんだ
 僕は今日は行かない」
まだこんな所でウロウロしているスリザリン生がいるとは思わなかった
試合も始まり油断していたのに
「何言ってんだ!
 全員で応援するきまりだろ!!! 行くぞ!!!」
そうしてその少年に腕をつかまれ無理矢理にひっぱられセブルスは仕方なく席をたつ
一度立ってしまうと、後はもうその少年のなすがままである
彼は遅刻したのをよっぽと気にしているらしく、全力で廊下を走っていく
そして、10分後には試合の歓声の届く場所までやってきた
その声は、今まで聞いたどの歓声よりも大きく、まるで空が割れるかのように辺りに響いていた
「すげー、どーなってるんだろう!」
少年はもうセブルスなどにはかまわずに 競技場へとかけていった
その後を、まるで歓声に吸い込まれるかのようにセブルスも走った
階段をのぼり一つの扉を開ける
そこはいつもの応援席とは逆側で、入った辺りには赤と黄の旗がチカチカと目に眩しかった
(今日の対戦相手はグリフィンドールか・・・・)
思ったのも一瞬
歓声に誘われるように空を見上げた
何人もの選手達が飛び交い、凶暴なボールが交差する中
生徒達の何人もが指差し、その視線で負う一人の選手がいた
他の選手に比べたら ひどく小さな新人
赤と黄のユニフォームの、少年
彼はまるですべるように空を駆けた
風みたいだと、思った

得点はスリザリンの方が多くいれていたにもかかわらず、グリフィンドールの生徒達の熱はものすごいものがあった
まだスニッチが出ていない
あいつは期待のシーカーだ、と誰かが言うのが聞こえた
その期待のシーカーはというと、いくつものボールと選手の体当たりをかわしながら、空をすべっている
そこはまるで彼のための世界であるかのように、
空で彼は、自由だった
セブルスは我を忘れ見つめていた
こんなに軽々と、気持よさそうに飛ぶ選手をはじめてみた
試合中だというのに、彼には焦りのようなものがない
そんなものが一切感じられない動きをする
まるで楽しんでいるかのような
まるで遊んでいるかのような

やがて、その少年が突然にホウキの方向を変えてコチラへと向かってきた
「スニッチです! スニッチが現れました!!!」
かん高い実況が響き、また観客が沸き上がった
スリザリンのシーカーもホウキの向きを変えた
他の選手が援護して、先にスニッチを見付けた少年へとボールを打つ
悲鳴のような歓声が一瞬上がり、
だがその少年が、軽々とそれをよけた途端に それはまた割れんばかりの声援に変わる
そうして彼は、自分の倍ほどもあるスリザリンのシーカーの体当たりをも相手の身体に足をかけ、蹴り、その反動で見事にかわしてみせた
そして、
この競技場に入ってから今もまだ、彼から目の離せないセブルスのすぐ目の前で、いとも鮮やかに金色に輝くスニッチを掴んだ
歓声が、競技場全体を包んだ

呆然と、していた
何か衝撃のようなものがセブルスの身体に残った
はじめて試合を見て熱くなった
それを自分で感じていた
「無敵のシーカーだな! あいつは!」
側で誰かが言った
「あれでまだ2年なんだろ?!」
「今年は勝つぞ! スリザリンなんか目じゃねぇ!」
声援は空でゆうゆうと旋回している少年に向けられる
グリフィンドール席の、セブルスのいる場所からその顔がよく見えた
自分と同じ年くらいの、まだ幼い少年だった
太陽みたいに、彼はスニッチを片手に笑っていた

試合が終わってからしばらくたっても、彼のことは話題に上がった
スリザリンチームは彼一人に負かされたようなものだと、皆が噂した
期待の新人
彼はまだ2年になったばかりの、セブルスと同じ年の少年だという
「すげーよな、あいつ」
誰もが言う
そして、それはセブルスも同じ
こんなにも清清しい試合は見たことがない
余裕だからなのか
彼の飛び方は星が流れるようで、風が吹くようで、
速いのに、軽くて、見ていて嫌な気分にならない
暴力的だとか、卑怯だとか、
そんな印象の全くない飛び方
だからこんなにも、目にやきついて、心に残っている
「知ってるか? あいつ本気じゃなかったってさ」
「グリフィンドールの奴らが言ってた
 あれ位 あいつにはどってことないって」
それから生徒達は、グリフィンドールの試合には必ず駆け付け、競技場は超満員になる
皆が今や誰よりも有名なスーパーシーカーを見ようとやってくる
そうして、それはセブルスも同じ
彼の出る試合だけは 必ず見に競技場へと走った
あの小気味よいプレイが、見たくて
誰よりも空を制する彼を見たくて
そして、もちろんそれ以降、彼が出るとグリフィンドールは負けなしなのである

「ジェームズ・ポッターに負けなし!」
今日もセブルスは彼を見に 空に一番近い席へと駆けていく



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