調教 (アルベルト×ユーバー)


月のない夜だった
新しい雇い主である少年に、最初の仕事をいいつかった
「手に負えないのがいる・・・任せてもいいか」
幼さと憂いの混じったその表情に、アルベルトは苦笑して言った
「わかりました
 私のやり方に口を出さないでいただけるのでしたら、やりましょう」
案内された部屋には、ひとりの黒い甲冑を着た男がいた
「彼が、ユーバーだ」
表情は長い前髪と兜の影でよく見えない
何をするでもなく、ベッドに腰掛けていたその男は、部屋に入ってきたアルベルトにチラ、と視線をやって口を開いた
「なんだ、殺してもいいのか?」
「違う、新しい仲間だ
 軍師の・・・・」
咎めるように声を上げたルックを制して、アルベルトは苦笑した
やれやれ、
ここにきて最初の仕事がこれの相手か
殺していいのか?
それしか頭にないような、低レベルな獣同然の思考回路
薄く笑って、アルベルトは口を開いた
「アルベルト・シルバーバーグだ」
宜しく、と
そして、彼はルックに部屋を出るよう促した
「頼む・・・」
「おまかせを」
静かに答えた彼に、ルックは黙って部屋を出ていき、
部屋には沈黙が下りた
「軍師かぁ・・・
 シルバーバークは知っている・・・おまえもその血か」
にぃ、と
ユーバーの薄い唇が笑みの形に曲がるのを アルベルトは黙って見ていた
「レオン・シルバーバーグと、同じ軍にいたのだったな、おまえは」
「あれの作戦は良かった
 思う存分に暴れた、お前もそういうのを考えろ」
カツカツ、と
アルベルトの足音が響く
側に寄っても彼の顔はよく見えず、それでその顔をぐい、と上げさせた
「?!!」
一瞬、ユーバーの前髪が揺れて、驚いたような目がアルベルトを凝視した
「ここに不似合いな格好だな、脱げ」
「・・・・・何?」
彼の鋭い目が、一気に殺気を帯びていくのを見ながら、その色違いの目を見下ろしアルベルトはもう一度静かに言った
「その、甲冑を脱げと言った」

途端、ユーバーの剣がシュッ、と顔の横をかすめた
「死にたいか・・・・・・・」
にやぁ、と
嬉しそうな、どこか狂ったような顔でユーバーは言い
ツツ、と頬を流れていく血を感じながら、アルベルトは溜め息をついた
「まるで獣だな」
「気に入らない奴は殺す
 お前の血は、きれいな色だ」
くくくく、と
楽し気にユーバーは剣をアルベルトの喉元につきつけ、狂気じみた目で笑った
「殺すのが余程好きなようだな」
「好きだ」
「私の言う通り動けないような駒は必要ない
 お前がこちらの指示通り動けるよう、私がお前を調教する」
パン、と
つきつけられた剣を手で払い、
驚いた顔で、再び斬りかかってきたユーバーの、その額に左手を押し付けた
「?!!!」
ゴゥっ、と熱に似た衝撃が放たれる
一瞬で、ユーバーは動けなくなった
身体が、うごかせなくなった

「な・・・・・・・・・なんだ・・・・・」
突然に部屋へ入ってきた軍師
何の前触れもなく触れられ、命令され
あげく、その剣を払われて、今や動きを封じられた
悪鬼と呼ばれたこの自分が、どうしてこんなにも簡単に剣をはじかれたり、
動けなくされたりするのか、
ユーバーは、驚きと衝撃に ただアルベルトを凝視した
「ルック様にはたしかに手に余るだろうが・・・
 俺にしたらお前のような獣は、恐れるに足りん」
その目は冷たくて、まるで軍師とは思えない力だった
そう、これは紋章の力だ
この自分の動きを抑えているのは、何かの紋章の力に違いない
「何を・・・した・・・・」
ギリギリ、と
屈辱が序々にユーバーを支配した
こんな弱そうな男に
こんな奴に、いきなりこんな仕打ちを受けて、黙っていられない
絶対に殺してやる、と
腕にありったけの力を入れた
その剣で、あの咽をかっきってやりたい
あの余裕の笑みを浮かべている顔を、切り刻んでやりたい
「お前は雇い主の命令もきけないそうだな
 勝手に殺すな、戦うなといわれたにも関わらず、何度殺した?
 ここにいるからには、私に従ってもらう」
「誰が・・・・おまえなんかに
 俺は混沌を好む、殺すためにここにいる」
「では、私に従えるようになるまで調教するだけだ」
パシッ、と
彼の左手で頬を叩かれて、ユーバーは一瞬気が遠くなる程の痛みを感じた
何なんだ
一体何だというのだ
たかだか軍師がこんな力をもっているはずがない
かすむ視界にグラグラ揺れるその顔を必死で睨み付けた
絶対に、殺してやる
この男だけは許さない

それから2時間程して、ユーバーはふと意識を取り戻した
「・・・・・・」
ベッドから身を起こすと身体に違和感を感じた
額に妙な痛みを感じる
兜を脱ぎ窓ガラスにその姿を映すと、額にくっきりと月のような模様が浮かんでいた
気味悪いその形をどこかで見たことがある気がする
「なんだ・・・・・」
だが、今は身体は動く
先程の男はここにはいない
剣を取り、奴を探して殺そうと、立ち上がった
その時ガチャ、とドアがあきアルベルトが入ってきた
「ああ、ようやく起きたか」
瞬間、ユーバーは動いていた
この速さ、この威力
今度こそ確実に仕留めてやる
この生意気な男を、八つ裂きにしてやる、と
喜々として彼を捕らえた
だが、剣はアルベルトには届かず、
床に膝をついたのはユーバーの方だった
激痛が、
感じたことのない激痛が、額から身体を縦に貫いていった
「ぎぃ・・・・・・・・・・っ」
耐えられなかった
何だというのだ
彼は何もしていない
できるはずもないスピードだった
訓練を積んだ者だって、あの攻撃は避けられるはずがないのだ
ユーバーは数々の戦いでその力を認められてきたし、
自分にかなう者などそういないということを知っている
なのにどうして、
この男は平然として、ここに立っているのか
「その甲冑を脱げと言っただろう」
冷たい声だった
落ち着いた目
何も畏れないそれは、軍師なんかのものではない
「お前・・・・何をした・・・・・・・っ」
身体を切り刻まれるような痛み
いや、それ以上のもの
それが引かない
額の辺りはもう感覚がなく、視力も急激に衰えていく
「何なんだ・・・・・・・」
呻くように言ったユーパーの、そのきつい目を静かに見下ろして、アルベルトはその長い前髪を乱暴に掴んだ
「!!」
今までに、こんな風に自分を扱った者などいない
顔を上向かせられ、ユーバーは彼の冷たい顔を睨み付けた
ああもう、気が狂いそうだ
この痛み
こいつが何かをしているのだ
この男が、何かをしている
だからこんなにも、痛みがあるのだ
どうしようもない力が、かかっている
この身体に
「この髪もうっとうしいな・・・・」
ス、と
その手が放されても ユーバーはアルベルトを睨み付けていた
どうしたらいい
どうしたらこの男を殺せる
殺したい
こんな奴
こんな生意気な男
こんなことをされて、黙っているわけにはいかない
許しがたい、この男
「言った通りにしろ、ユーバー」
「はっ、だれが・・・・・・・・・・・」
痛みに耐えて、必死に、
ユーバーはもう一度腕に力を込めた
どうしても一撃
この腹立たしい顔に一撃入れたい
渾身の力を込めて、くり出した
だがその剣も、アルベルトには届かなかった

「学習能力のない男だ」

そして、また激痛がユーバーを襲い、
一気に視界が白くなった
バタン、と
ユーバーは自分の倒れる音を聞いた

今度は、ユーバーは床で目を覚ました
痛みはもうなく、だがアルベルトの気配がすぐ側でした
「・・・・・・・おまえ・・・・何をした・・・」
窓際のイスに座って、コチラを見下ろしているその涼し気な顔を、まるで噛み付くように、
ユーバーは殺気立って睨み付けた
「おまえのような低俗な者にはこういう方法が一番だろう」
ス、と彼が左手を上げると また彼に痛みが走った
「あぐ・・・・・・っ」
頭が割れそうに痛い
痛みなんてものを、もう感じなくなっている程に強くなったこの身体が
どうしてこんなにも、
どうして、
「あぁぁっ」
どうしようもなく、ユーバーは床を思いきり叩いた
やり場のないこの怒りと屈辱
だが痛みは容赦なく身体を蝕み、ユーバーにはもうどうすることもできない
どうしようもない
「私に従えない者はいらない
 私の指示通りに動けない者は使えないからな」
彼が立ち上がって、こちらへと近付いてきた
恐怖に似たものが支配する
正体不明のこの男
怖いと感じた
自然、身体が引いた
だが、逃げ道などなかった
「痛いだろう
 大人しく従うなら、許してやるが」
彼が床に膝をつき、冷たく微笑した
「だれが・・・・・・・・・」
腕を振り上げて、その顔を殴りつけた
魔物も八つ裂きにする腕なのに、
それでもいとも簡単に攻撃は受け止められた
熱い
アルベルトの、手袋をした左手に掴まれた腕が熱い
そう感じた瞬間、
まるで炎でも上がったのかと思うような熱が腕を焼いた
「・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!」
声も出なかった
ただ、もがいてその腕を振りほどこうと必死になって
ようやく振り切った時には、ガクガクと身体中が震えた
怖い
怖い
この男が怖い

「・・・・・・・・・寄る・・・な・・・・・・・・」
呼吸が乱れて、目はただ彼を凝視して
ユーバーはあとずさってドアに背中を押し付けていた
焼かれたように痛む腕も、
彼が思いのままに操る額からの激痛も、ユーバーにはどうしようもなく長く耐えられるものではなかった
今もジクジクと、まるで細胞組織が溶かされたような痛みを持つ右腕は動かずただ熱をもってここにある
「私の言葉には素直に従え」
簡単だろう、と
アルベルトはベッドの上を指した
見なれない服がきちんとたたまれて置いてある
「その目立つ甲冑を脱いであれに着替えろ
 そのうっとうしい髪もなんとかしろ」
そうして、彼はユーバーを残して部屋を出ていった
残されてただひとり、ユーバーはしばらく動けないでいた

その夜、アルベルトがユーバーの部屋へ行くと、彼は言われた通りに着替えて、ベッドで眠っていた
腕の痛みが相当ひどいらしく、苦痛の表情を浮かべて腕を抱き込むように眠っているその姿に アルベルトはひとつ苦笑した
「まるで獣だな」
動物がこういう風に眠るのを思い出して微笑した
ルックに言って用意させた服は、今まで甲冑を着ていたユーバーには違和感があったが、あの真っ黒い甲冑に比べたら大分目立たなくなった
これなら、ルックや自分と共に行動していてもつり合いがとれるだろう
もう一度微笑して、アルベルトは部屋を出た
あれが自分の命令をキチンときけるようになるのにまだ時間がかかるだろうが
とりあえず最初の作戦が進められそうだ、と
ひとりごちて、そっと扉をしめた
今夜も月はない


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