予感はあったんだ
おまえが、まるで霧みたいにつかめない
手をのばしても、届かない
遠くへと、
おまえは微笑して 逝ってしまうだろう

「リーダー?」
かけられた言葉に ナチはやっと現実に戻った
ああ、ここはまだ戦場だった
溜め息ににた呼吸が無意識にこぼれる
あれから毎日のように戦いを続けて
何事もなかったかのように、先頭に立ち指揮を取っている
「どうする?リーダー」
仲間の言葉に答え、軍師に策を仰ぎ 検討し決断を下し、そして戦場へ
慣れてしまった行動
ただ機械みたいに 勝利へと歩いていこうとするこの身体
戦場に、あいつはいない

あの日、ナチは最期に彼の微笑を見た
いつもいつも、側で優しく笑ってたグレミオ
ナチを理解し、痛みを癒し、苦しみを包み込んでくれるために存在してた人
あいつは自分だけのために、そこにいた
「・・・・・」
ナチはその名を呼ばない
あの時を最後に、それは禁忌となってナチを戒める
決めたことがある
「あいつは、もういないんだ」
あきらめに似た、決意
だからもう、彼を呼ばない

「どうして?」
突然、声をかけられてナチは驚いた顔をした
「どうして泣かないのさ」
冷たい口調
でもわかっている
それでも彼が自分を想ってここに来てくれたこと
「泣けないよ」
苦笑に、ルックは苛立ちをその顔に浮かべた
「平気じゃないのに平気な顔したって意味ないんだよ?
 君はそんなに大人じゃなかっただろ?
 何無理してんのさ」
泣きたい時は泣けばいい、と
言う少年こそが 何故か泣き出しそうな顔をしている
「どうしてルックがそんなこと言うの?」
苦笑に、彼はナチをにらみつける
「別に、
 ただ無理したって痛みがひくわけじゃないって君に教えてあげようと思って」
そうしてルックはナチに背をむけて ひとつ溜め息を落とした
「あんなに好きだっただろう?
 それで、そんな平気な顔してるから ちょっと幻滅したんだよ」
心が痛い
ナチが辛くないはずなんかない
よく知ってるし、よくわかってる
だからこそ、泣いていいのに
どうして無理をしてまで、強きリーダーを演じるんだろう
「君は子供だから、泣きわめいて役目を放棄すると思ってた」
自分がそんなナチなんかについていくはずもないとわかっていて
ナチなら どんな悲しみも超えて皆をまとめていけると信じていて
でも、なお納得できない自分の中の矛盾
「彼の後を追ってもおかしくないと、思ってたよ」
まさか、こんなにも平気そうに日常を繰り返すなんて想像もできなかった
ナチは、強い目を変えなかった
「うん・・・・・僕もそう思ったよ」
笑って、ナチは言う
その存在はもう、特別になってしまっていたから
彼がいないなんて、考えられない程に それはナチの一部だったから
「僕も、そう思った」
グレミオがいなくては生きていけない、なんて
そんなこと
「・・・・そんなこと、なかった」
苦笑に、ルックは溜め息をひとつこぼした
「あの人がいないと、泣くこともできない?」
ふ・・・と、二人の視線が交差する
「僕なんかには、わからないことだと思ってた?」
皮肉な口調にナチは目をふせる
そうして力なく、苦笑した
「ごめん・・・そうじゃないんだ・・・」
ルックの言葉

アノ人ガイナイト、泣クコトモデキナイ?

それこそがきっと、事実なんだとナチは知ってる
リーダーとしてナチはここにいるのだから
彼が泣いて立ち止まっては 何も始まらず全てが壊れてしまうのだ
ここで、止まってはいけない
皆に今必要なのは、それでも強い目をしたリーダーなんだから
「あいつはもう、いないから」
オデッサの意志を継ぎ、リーダーと呼ばれるようになって
人々の期待と仲間の希望と、たくさんの痛みと幸せをその肩に背負い
負けることが許されなくなって
「僕は強くなくてはいけないから」
それはとても重かった
でも、ナチはそれでも笑っていられた
「グレミオがいたからだろ
 それくらい、僕だって知ってたさ」
彼だけが、昔と変わらず坊ちゃん、と
私がいなくては、と笑うのだ
いつも側で、
立場や責任なんか別のところで、呼んでくれた

「ナチ様」

心地いい声
グレミオだけが きっと泣いても許してくれる
泣いても、微笑して側にいてくれる
グレミオだけが、
「だから、泣けないんだ」
苦笑が、哀しい
「バカだね、君も」
だったらどうやって癒すのさ、と
ルックもまた痛い顔をする
グレミオの前でだけ ただの少年に戻れるから
グレミオがいない今、こんなにも
こんなにも哀しくて苦しくても、ナチは泣けない
そうして、
一体この少年はどうなってしまうんだろう
「バカだよ・・・・・・」
ふいに、ルックは風とともに姿を消して そこにはまたナチだけになった
「・・・・うん」
知ってる、と
つぶやきも風に消える
いつまで、保つんだろう
どこまで、行けるんだろう
グレミオが、いないのに

ボンヤリと
いったいどれくらいの時間 そこにいただろうか
やがて夜は終わり朝がくる
その淡い光をみつめながらナチは同じ色をした髪を思い出していた
陽に透けてきれいだった長い髪
彼が振り返ると光がふわりと漂うから、ナチは彼の髪が好きだった
最期の時にも見た あの色

「どうか強く」

そうして閉ざされた扉に消えた 優しい微笑と金の髪
ナチは知っていた
彼なしで、正常など保てないこと
そうして、
それでも人は生きていけるということ
それから、自分にはやらなければならないことが まだあるということ
失うと直感して伸ばした手を 振払われたのは初めてで
それから あんなにも痛ましい微笑も初めて見た
どうして、と
泣きたかった
泣けないかわりに、めまいと吐き気で気が狂いそうだった
この扉の向こうに、今すぐ行けたらもう何もいらないのに

「坊ちゃん、強く生きてください」

なんて残酷な言葉
でも自分は死ぬことなんか許されない
オデッサとの約束も、仲間の希望も、人々の明日も、親友の魂も
ナチにはけして捨てられなかった
そうしてグレミオがいなくても、生きていけることをナチは知ってた

「苦しいけど」

苦笑してナチは立ち上がる
戦いは終わらず、戦況は厳しい
やらなくてはいけないことが山程あり、ナチにはリーダーとしての義務がある
朝日の中、少年はそして戦場へ帰る
己のひかりを見失ったままで

2000.05.18

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