卒業 (尽×主)


今日は卒業式
在校生からの送辞を生徒会長である尽が、卒業生からの答辞を 学年首席の葉月が読み上げ 式は形式通り終わった
通常、卒業式に出席できるのは在校生では クラスから2人ずつ
たいていは学級委員が代表で出てくる
その他の生徒達は この日は休み
通常はそうだったが、今年は違った

今年は式を行う講堂から広い中庭まで 在校生達がズラっと並んだ
尽達 生徒会の企画した「卒業生を送るアーチ」である

わっ、と
式を終えた卒業生達が講堂を出ると、そこにいつのまにか整列した在校生達が歓声を上げた
手に手に、全員が花を持っている
「卒業生全員に花束を」と、生徒会が3年生に内緒で企画したこのアーチは、募金をつのるところから始まった
参加は自由
募金も自由
計算では一人300円出してくれれば 卒業生全員にそれなりの花束が用意できた
このために学校から予算を取ってもよかったけれど、どうせなら手作りっぽくやりたい、と
募った結果、予想を大幅に超える金額が集まり、
参加者も 想像を超えた
アーチは長く騒がしく、卒業生達を迎えた

、式が終わったら教会においで」

尽は、今朝 そう言って笑った
講堂を出た途端、歓声みたいな声が聞こえて、驚いている暇もなく 知らない子から花束をもらった
「先輩、卒業おめでとうございます」
「あ・・・・・ありがとう」
上履きのカラーから、1年生だとわかったけれど 名前も顔も知らない子
見るとクラスの誰もがそうやって並んだ在校生から花束を貰っている
「びっくりしたぁ・・・今の子誰だろう」
「わ、わかんない」
奈津実と一緒に歩いていくと、今度はクラブの後輩達が駆け寄ってきた
先輩っ、藤井先輩っ」
わっと、寄ってきた子達は手に手にやはり花束を持っている
「これ、クラブのみんなからの手紙です」
「卒業しても遊びにきてくださいっ」
そうして、一人がに向かって言った
「先輩の弟さんって最高ですねっ
 このアーチ、考えたのもあの人なんですよっ」
ほら、と
そうしてみんなが花束を見せる
「花束を渡す順番が決まってるんです
 誰に渡すかは決まってないけど自分の番がきたら出てきた先輩に渡すのっ
 全員に花束が渡る計算なんですよっ」
「すごいでしょ」
目の前に差し出されたたくさんの花束と、見渡せば卒業生の全員が手に可愛い花束を持っているのに は胸が熱くなった
明日はもう卒業だね、なんて 泣き出しそうになっていたに尽は笑っていったっけ
「寂しいって泣くより、嬉しいって泣く方がいいだろ」
楽しみにしてな、卒業式
たくさんの花で飾ってあげるから

「だから、泣かなくていいよ」

へへ、と
昨日の尽の言葉を思い出して は笑った
「私達の時も後輩がこんな風にやってくれたらいいなぁ
 先輩、今 どんな気持ちですか?」
問われて、奈津実とは二人顔を見合わせて笑った
「うれしいに決まってるでしょ!」

他のクラスメイトやクラブの子達が写真を撮ったり別れを惜しんだりしているのからこっそり抜けて
は校舎の裏の道をずっと奥へいったところ
今はもう使われていない教会まで走ってきた
「式が終わったら教会へおいで」
そう、尽が言っていたから
その約束のために、ここまで走ってきた
息をきらせながら、閉まっているはずのドアを押すと それはギィ、と音をたてて開いた
(あいてる・・・?)
中は暗くて、陽の光まぶしい外から入ってきたには何も見えない
ただ唯一、窓を飾る壮大な絵に
姫と王子の絵に、視線がいった
それは何か、懐かしい記憶をくすぐった


カツン、
静かな、外界から切り離された教会に 靴音が響く
窓の下、尽が立っている
少し慣れた目に その姿を捕らえて は立ち止まった
涙がこぼれそうになる
今日は卒業式
はこの学校を去り、尽は残る
寂しい思いがまた、胸に過った
家で過ごす時間なんか 一日のうち数時間
二人一緒にいられる時間が減るのが嫌だと、思ってしまう
不安になる
尽も一緒に卒業できたらいいのに

尽は柔らかく微笑して、の方へ歩いてきた
カツン、カツン、と靴音が響く
はっきりと顔が見える距離まで来て立ち止まると、尽はどうしようもなく言葉につまったを見下ろした
卒業式が嫌だと泣きそうになっていた
1ヶ月も前から そうしているからふ、と
その泣き出しそうな顔を晴らしてやりたいと思った
1ヶ月足らずで企画した在校生アーチ
式が終わって、花束をもらった卒業生達の笑顔を見て 尽は満足した
今頃もきっと、笑ってくれているだろう

「卒業おめでとう、

す、と
尽の手がの方へ差し出された
その先に、紫色のチューリップ
丁度窓から入る光が射して それは不思議に淡く光った
まるでアメジストみたい
そう思って尽を見たら、彼はクス、と笑った
「受け取ってよ、
「あ・・・・っ」
慌てて、その花に手を出す
たった一本のチューリップ
もう咲いてるんだね、なんて言ったら 相変わらず穏やかな顔をして尽は言った
「今朝、うちの園芸部に貰ったんだ、頼み込んで一番綺麗なやつをね」

そのまま、抱き寄せられてキスをもらって
静かな教会の中、二人互いの鼓動を聞いていた
こうしていると不思議と落ち着く
世界で一番近しい存在の、
世界で一番大切な人
いつのまにか、尽を想うようになって、いつのまにか尽が一番大切な人になった
こんな風に、切ない恋をするなんて思ってもみなかったけれど
恋愛ってもっと、優しくて甘くて幸せなものだと思っていたけれど
「あの絵本みたいに・・・?」
クス、
側で尽が笑うのを感じた
姫は王子のものだと誰が決めた
一人 姫を置いていった王子など、姫の心の中からとっくに消えた
そしてその無邪気な心を奪っていったのは、無名の赤い騎士
ずっと姫だけを見て、姫だけを愛していく誓いをたてた騎士だったのだ
は俺のものだよ、誰にも渡さない」
もう一度 甘いキスをもらって はそっと目を閉じた
どんなに切なくても
どんなに難しい問題が起こっても、二人
この想いがあれば平気
何だって乗り越えていける
卒業も、4月からの寂しさもきっと同じ
想いがあれば きっと平気

3月の、やさしい陽射しの中二人して こっそり手をつないで歩いていく
の左手は尽と繋がっていて
右手には可愛い花束と紫色のチューリップ
は知らない花言葉「永遠の愛」を添えられて
まぶしい光の中 二人は教会を後にした


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