大嫌い (尽×主)


尽のバイト先にが入ってきた
持ち前の我が侭を通す性格で、シフトもまんまと尽と一緒
そうして今日も、二人は並んでアルバイト

「あのね、
 もっと早い時間に変えてもらいな
 夜遅いんだから危ないだろ」
「やだっ
 は尽くんとアルバイトしたいの
 遅くたって平気だもん、尽くん送ってくれるもん」
(・・・・・そりゃ送るけどさ)
盛大に、溜め息をついて尽はレジの確認を終えてキーを回した
が入って1週間
毎日こんな会話が繰り返されている
「バイトしてる余裕なんかないだろ
 生徒会だって暇なわけじゃないんだから」
「大丈夫だもん、やれるもん
 それより少しでも長く尽くんといたいのっ」
「あっ、そ」
やれやれ、と
溜め息はつきない
もう2年近くここでバイトをしている尽は、当然のようにの教育係をまかされてしまった
口は達者で愛想はいいが、あんまり仕事ができると言えるタイプではないの面倒をみつつ、自分の仕事をするのは疲れる、と
尽は今日も溜め息で仕事を終えた
時計は10時を回っている
「帰るよ」
「はぁい」
嬉しそうに尽の隣を歩くを可愛いとは思うけれど
たとえがいなくたって彼女にするようなタイプではない
生徒会のメンバーとして、他のメンバーと同じくらいには大切な仲間だと思っているけれど
こうしてバイトが一緒になって、そのせいでわざわざを送って自分の帰宅が遅れるのは迷惑この上ない
帰るのが遅くなればなるほど、と一緒にいられる時間が減るのだから

その日、家に戻った尽を迎えたのは 不機嫌で そのくせ今にも泣き出しそうなだった
、何怒ってるのさ」
「怒ってないもん」
「だったらなんでそんな顔してるのさ」
「尽のことがむかつくからっ」
「・・・・そーゆうのを怒ってるっていうんじゃないの?」
「うるさいっ」
ぱふ、と
クッションが飛んできて、尽は心底苦笑した
「俺、なんかした?」
ちゃんがバイト先に入ったって聞いた
 そんで尽とシフトが一緒で帰りも尽がわざわざ送ってってるって聞いた」
「・・・ああ」
そのことか、と
さすが同じバイト先の奈津実を親友に持つだけあって情報が早いな、と思いつつ
尽はが投げたクッションを ぽすん、とのベッドに置いた
「しょうがないだろ、こんな時間に女の子一人で帰らせるわけにいかないし」
「こんな遅くまでバイトなんかさせなきゃいいじゃない」
「本人がやる気で店長も許可出してちゃ 俺にはどうしようもないよ」
「じゃあどうして尽が送ってくの?
 他の人でもいいじゃない」
「俺があいつのこと、まかされてるからね・・・」
他の人が送るといっても絶対尽じゃないと嫌だとが駄々をこねているのだとは、言わないでおいた
の顔がますます不機嫌になっていく
「俺に怒ることないだろ」
「どうして言わなかったの?」
(・・・のことなんか話したくもない)
心の中でつぶやいて
何かとの不安の種になるの存在を 尽は恨めしく思った
バイトして疲れて帰ってきて、ようやくの顔を見れると思ったのに
キスして抱きしめて いつものように今日は何があったとか、何をしてたとかそんな話をしながら眠ろうと思っていたのに
「尽のバカッ」
御機嫌ナナメのは、黙っている尽にもう一度クッションを投げつけた
ぱふんっ
さっきより強い力を胸のあたりに感じて
次の瞬間
「尽なんか大嫌いっ」
今にも泣き出しそうな顔をしたは、そう言うと尽を部屋から追い出した

無言で、尽はしばらくの部屋の前に立っていた
(俺が悪いのか?)
心の中で問いかけてみる
のお気に入りのクッションを抱いて、そのままズルズルと壁に背をつけたまま廊下に座り込んで
やがてその口から盛大な溜め息が漏れた
大嫌い、なんて言われたことがない
が子供っぽいのも甘えたなのも、知っているし
の存在に不安になっているのもわかっている
尽もなるべくの話はしないようにしているし、それ以前に
に想いが通じてからは、他の女の子とは必要以上に親しくならないようにしているのだ
が、余計な心配をしなくていいように
不安にならなくていいように
それでも そんな尽の気配りと努力はには通じない
届かない

真夜中、あのまま尽を追い出してフテ寝したはふと目を覚まし、起き上がった
(咽からから・・・)
寒いな、と思いつつ そっと部屋のドアを開けて廊下に踏み出す
途端、ドキン、と
一瞬心臓が止まるかと思う程 驚いた
「な・・・・何・・・?!! 尽・・・?!!」
廊下に、尽が座り込んでいる
が投げ付けたクッションを膝の上に置き、それに頭を乗せて眠っているのか起きているのか
「どうしてこんなとこで寝てるの?」
「寝てないよ」
の驚いて震える声に、尽がクッションから顔を上げた
「何してるの・・・?」
が部屋に入れてくれないから、考えごと」
え、と
思わず尽の側にへたりこんだは その言葉に目を見開いた
「あれからずっと、ここにいたの?」
「いたよ」
「・・・どうして?」
「どうしてって・・・」
複雑な表情をして、それから苦笑して、尽はを見遣った
今、何時だろう
あれから5時間位はたっているだろうか
夜中の廊下は冷えて寒かったけれど、尽は考えごとでそれどころではなかった
「さすがに大嫌いなんて言われたらヘコむ」
「え・・・」
「どうしたらに伝わるだろうって考えてた」
どうしたら、自分はのことしか見えていなくて
世界で誰よりもが好きで、大切に想っていて
のことなんかこれっぽっちも好きじゃなくて
いつもいつものことを考えているんだと、どうしたらはわかってくれるだろう
「いつも考えてるけど、今夜は本気で思いつめたね」
そうしてまた、苦笑する
吐く息が白くなって消えていって
裸足の足が廊下の冷気で痛くなるほど
「こんなとこにいたら風邪ひくよ、部屋にはいろ・・・」
が追い出したんだろ」
「・・・尽がこんなことするなんて思わなかったんだもん」
今にも泣き出しそうな顔で、が言ったのが 少しおかしかった
大嫌い
嫉妬のあまり、つい口から出た言葉でも
けっこうキツイ
こんな時だからこそ、
の気持ちがわかるからこそ、辛い
それは思った以上に尽をヘコませた
こうやって夜中まで、考え込んでしまう程に
落ち込んでしまうほどに
「ごめんね・・・」
「撤回する?」
「何を・・・?」
「大嫌いって言ったことを」

キョトン、と
は尽の顔をみつめて それから急に真っ赤になった
「う、うん・・・」
撤回する、と小さくつぶやき
それからいい様のない幸福に似た感情が心に広がっていくのを感じた
大嫌い、って
のほんの一言に こんな風に落ち込んで
下手をすればここで一夜をすごすほどに
尽はを想ってくれているのだと ようやくわかる
今やっと、知る
「ごめんね?」
その顔を覗き込んだら そのままそっとキスされた
冷たい唇
ここ、寒いもんね、と
その頬に手を触れたら 尽は苦笑してもう一度キスをくれた
熱を分けるように 想いをこめて
ごめんね、ともう一つ
(大好き・・・)
そう伝わるよう 強く想って

大嫌いは、大好きの反対
大好きな心の裏側
本当は、大好きよりもっと上の気持ち
好きすぎて、嫌いになってしまう程に


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