尽不在3日目 (尽×主)


今日は朝からがいない
空いた席を見ながら 珪はぼんやりと昨日のことを考えていた
昨日、と英語の勉強をすると約束して
教科書を開けて、ノートを開けて さぁ始めよう、という時になって隣のクラスの女の子に呼び出されてしまった
すぐ戻るから、と言って ひとり教室にを残して そのまま屋上へ行って
好きです、って告白を聞いた
好きなんて、一体どこが、どうやって、どんな風に?
今までずっと、そう思っていた
告白されてもちっともピンとこなかったのに 昨日はそう言ってくれた女の子の その言葉がとても嬉しかった
誰かを好きな気持ちを自分も持っている
知っているから、だから
その言葉の意味が今はわかるから
嬉しかったし、苦しかった
好きだと言ってくれるその子に応えることができないから、
正直に 今好きな人がいるんだと それだけ言った
そうしたら彼女が泣くからどうしても
どうしても置いていくことができずに、ただそこで泣き止んでくれるのを待ってた
ずっと、長い間
そうしてようやく教室に戻ったらはいなくて、
ああ、連絡もせずに1時間以上も待たせてしまったから仕方がない、と
少し沈んだ気持ちでいたんだけれど

、昨日倒れたんだってー」

朝のH.Rの時に 奈津実が騒いでいたのを聞いて いてもたってもいられなくなった
放課後に熱が出て、氷室に連れて帰ってもらったとか
だから今日もお休みなんだとか
「大丈夫かなぁ? 倒れるって相当だよねぇ」
「そういえば昨日ちょっと元気なかったね」
「遅刻したからだとか言ってたけど」
心配気に話す女の子達の声を聞きながら 珪はゾクゾクと腹にいい様のない嫌なものがたまっていくのを感じた
ちっとも気づかなかった自分
の様子が変だったなんて、思いもしなかった
疲れた風な顏をしているのは、彼女の言うとおり朝っぱらから走ったあげくに遅刻したからだとか
さっきまで意味のわからない英語の授業だったからだとか
そんな風に思っていた
まさか倒れる程の熱があったなんて

2時限目がはじまった頃、から珪にもメールが入った
昨日はごめんね
勝手に帰ってごめんね
気づいたら家にいたの
長い間待たせた珪を一言も責めないメールに、胸が痛くなった
今すぐに会いたいと思った

多分、この衝動は 自分に対しての怒りのため
2限目が終わるとすぐに教室を出ての家に向かい、無意識にチャイムを押して、それからようやく我にかえった
ああ、何をしているんだろう
会ってどうするのか
熱があるから寝てなきゃならないに会いに行くなんてきっと迷惑だ、と
思った時 ドアが開いた
パジャマ姿のが、驚いた顔で出てきた

「あれ、珪くん?」
お母さんかと思った、と
は笑った
「今ひとりなの
 お母さん買い物に行ったんだけど 家の鍵忘れていったみたいでね」
だからチャイムを鳴らしたんだと思ったのだ、と
意外に元気そうには笑った
「昨日はごめんね
 なんか気がついたら家で寝てたの
 氷室先生が車で送ってくれたみたい、それも覚えてないんだけど」
「いや・・・」
謝るのはこっちだ、と
思いながらも言葉が出ないのがはがゆくて、
珪はの紅潮した頬を見つめた
まだ熱は下がりきっていないらしく、見てとれる程に頬が紅い
「寝てなくて大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
にこ、と
笑った顔にぎしぎしと 心がしめつけられる思いがする
こんなに好きなのに、何をしてやれるわけでなく
気づいてもやれず、教室で待たせっぱなしで
今こんな風に会いにきても、何も言えないままただ立っているだけなんて
「あのね、珪くん
 昨日できなかったとことか、また英語教えてくれる?」
「ああ・・・いくらでも」
「今日 劇の練習あるのに休んじゃったから、一緒に練習してくれる?」
「ああ」
「ほんと? よかった」
勝手に帰ったから怒ってるかと思った、と
メールの返事もこないし、と
は破顔した
珪が憧れる、素直な言葉
心地よくて、愛しくて それで珪はようやく笑った
「いくらでも、おまえのためなら」
そうしてまた、想いは膨らむ
への、想いがつのる

その夜、やはり早い時間にかかってきた電話に はようやく出ることができた
「どうして昨日は出なかったのかな?」
ちょっと意地悪な声にドキドキしながら は2日ぶりにきく尽の声に安心した
さっきからまた熱が上がってるみたいで 食欲もなくて
なんとなくだるかったのが 尽の声を聞いたら急に楽になった気がする
「えへへ、なんか熱出ちゃったの」
「熱?
 今もあるのか?」
「うんー、さっき計ったら38度くらいあったよー」
「・・・葉月サンと遊園地なんか行くからだよ」
「むぅ、違うもん
 尽がいないからだもん」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
尽の声を聞いたから、と
受話器の向こうから聞こえてきた声に 尽は小さく苦笑した
なるほど、昨日電話に出なかったのは熱でダウンしていたからか
今日メールがなかったのもそのせいか
「俺、帰ろうかな」
「え? 」
「俺の声聞いたら少しはマシになるんだろ?」
「うん」
「じゃあ俺が抱きしめたら もっとよくなるよね」
「・・・修学旅行中でしょー、帰れるわけないじゃない」
「でも帰ってきて欲しい?」
「そんなの無理だよぉ・・・」

泣きそうなの声に、尽はどうしようもなくなってしまった
帰ってきてほしい? なんて言ったけれど本当は逆だ
帰りたい
が熱があるなんて聞いたら余計に、いてもたってもいられない
こんなところで楽しく修学旅行だなんて、
が心配でそれどころじゃない
今すぐの側にいきたい
今すぐ帰りたい

「待ってな、すぐ帰るよ」

無理だという言葉を聞きもせず、尽はそう言うと電話を切ってしまった
「なによぉ、修学旅行抜けるなんて無理に決まってるでしょー」
ぎゅう、と
携帯を抱き込んで布団に潜り込み、はそっと目を閉じる
2日ぶりに聞いた尽の声は とてもとても安心した
大好きな人の声
って、呼んでくれるだけで身体があたたかくなる
グラグラ不安定なのが、落ち着く
「本当は帰ってきてほしい・・・」
そうして、いつもみたいにぎゅってして、抱いてほしい
尽がおやすみ、って言ってくれるとよく眠れるから
気持ちいい夢がみられるから
「帰ってきて・・・、尽」
目を閉じて、その腕の強さを思い出そうと小さく息を吐いて
それから、尽の言葉を頭の中で繰り返した
「待ってな、すぐ帰るよ」
うん、待ってる
だから早く修学旅行が終わって、帰ってきて、ぎゅって抱いて
そしたらすぐに、熱なんか下がるから

3日目、は深い眠りにおちていく
熱にうかされながら
尽の声を、夢で聞きながら


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