尽不在2日目 (尽×主)


その日 朝から調子の悪かったは、5限目の数学の時間が終わった後 氷室に呼ばれた
、顔色が悪いが、体調が良くないのか」
「え? 」
ざわざわと、休み時間に入った教室の喧噪の中 は自分をどこか心配気に見下ろす氷室を驚いて見つめた
「いえ、ちょっと風邪ぎみみたいで」
ぞぞ、と
今も背中が震えたのに表情を崩しながら、は答える
昨日、珪と遅くまで遊園地にいたのがいけなかったのか
その晩、尽からの電話を待ちながら、ふとんもかぶらず眠ってしまったのがいけなかったのか
それとも今朝のシャワーがいけなかったのか
「自己管理はしっかりしなさい
 もうすぐ試験だ、体調を崩していては万全の体制で臨めないぞ」
「はい」
少し呆れたような顏で、去っていく氷室を見つめては苦笑した
びっくりした
友達だって誰も気にしなかったの様子に気づくなんて
体調が悪いのか、なんて
今まで氷室に言われたことがなかったのに
(どうしたんだろ、急に)
そんなに目立ったのだろうか
そんなにさっきの授業中、態度に出ていたのだろうか
それで心配してくれたんだろうか
「はぁ・・・」
自分の席に戻って、は小さくため息をついた
今日はいつもみたいに尽が起こしてくれなかったから見事に遅刻した
坂道をダッシュしたにも関わらずの遅刻に 朝からどっと疲れてしまったのだ
体調が悪く見えるのはそのせいだろう、と
あと一時間、嫌いな英語の授業が残っているのにうんざりしながら は窓の外を見つめた
尽がいないと、朝から調子が出ない
何かが足りなくて、心に穴があいたみたいになる

授業中、まるで何か魔法の呪文でも聞いているみたいな気持ちになりながら は必死に教科書の英文を追っていた
3年になってからずっと、珪に教えてもらった英語は、1.2年の時に比べたら遥かに理解できるようになっていた
だが、それでも苦手意識は抜けず
聞くと嫌な気持ちになる
ずーん、と頭が重くなって
背中のぞくぞくが、ひかなくて
は何度もため息をついた
早くこのつまらない授業が終わればいいのに
はやくこのつまらない日々が終わって、尽が帰ってきたらいいのに
ポケットの中の携帯を指先で確認して、その顏を思い出してみる
昨日はせっかく電話をくれたのに眠ってしまっていたから、今夜はちゃんと起きていよう、とか
今、何をしているのかな、とか
授業が終わったら 入れてくれていた留守電をもう一回聞こうかな、とか
意識は尽へとばかり移っていって、結局授業なんか頭に入らなかった
そうしてようやく、長かった授業が終わった

放課後
は一人 誰もいない教室にいた
本当は珪と一緒に勉強するはずだったんだけれど、6限目のあと女の子に呼び出されて教室を出ていった珪は、30分たっても帰ってこず それではただボンヤリと窓の外を見ていた
「なんかだるいなぁ・・・」
ただ座ってるのも辛くて、机につっぷしてみる
冷たい机が頬に気持ちよくて それで少し楽になった
(寝不足かなぁ・・・?)
目を閉じたら 眠れそうな気がした
ぞくぞくはなくなったけれど、頭がぼーっとする
ただ待ってるだけって結構つまらない
でも英語なんて一人で勉強する気にならない、と
はしばらく机につっぷして目を閉じていた
珪がくるまで眠っていようか

ガラリ、
遠くでドアの開く音が聞こえても は顏を上げられなかった
?」
珪だろうか
側で声がした
起きなきゃ
勉強しなきゃ
せっかく、珪が時間を取ってくれてるんだから
、どうした・・・?」
それでも身体を起こせなかったの腕が強い力で掴まれた
、しっかりしなさい」
遠くで声が聞こえて、ようやくはそこにいる相手を悟る
ああ、先生だ
ちょっとだけ、目をあけたら氷室の顏がぼやけてみえた
・・・」
何か言う声も聞こえない
頭が朦朧としてよくわからなくて
は、また目を閉じた
身体が浮いてるみたいな浮遊感が気持ちよくて
額に触れた手が冷たい、なんて思いながら そのまま意識を落とした
身体が熱くて仕方がない

を助手席に乗せ、車を走らせながら氷室はため息をついた
授業中も、帰りのHRの時も だるそうにしていたが気になって なんとなく放課後教室へ行った
そうしたらが机につっぷして眠っていて
こんなところで寝るくらいなら早く帰りなさい、と注意して
反応がないのに戸惑った
返事もしないでつっぷしたままで
ああ、まさか、と
嫌な予感は当たった
は熱でぐったりしていた

遊びすぎか、寝不足か
体調管理もできないようでは、と呆れながらも
氷室はの机の上に出ていた英語のノートやら参考書やらを思い出して小さくため息をついた
を3年間担任してきて、一生徒として見守ってきた
1年の時も2年の時も 赤点ギリギリだった英語の成績が3年になって上がり出したのに 何かわくわくした気持ちになったものだ
本人が頑張っている証拠だと氷室自身とても満足していたのだけれど
(無理をしているんじゃないだろうか・・・?)
少しだけ心配になって、眠っているに視線をやった
見下ろす顔は もう苦し気ではない
保険医にもらった薬が効いているのか 今はスウスウと落ち着いた呼吸で眠っている
「・・・・・・・・・」
無意識に呼んで、それからふ、と苦笑した
自分は教師だから のように苦手教科を克服しようと頑張る生徒には、つい目がいく
今までずっと、は英語さえ克服すればもっともっと上を狙えると思っていたから余計
こうやって、努力しているのであろうその姿が目につく
つい、見てしまう
やれやれ、と
氷室はため息をついた
気になりはじめていた存在だったから余計、こうやって無防備なところを見てしまうと意識する
何も知らず眠るに苦笑して、それから自分自身にため息をついた
意識したところで何もかわらない
自分は教師で、は生徒なのだから

その夜、まだ早い時間に鳴った携帯のコールに やっぱりは出なかった
「・・・まさかもぉ寝たとか?」
時計は7時
いくら何でも起きてるだろ、と
今日はのお気に入りのドラマがある日だし、と
苦笑して、尽は携帯をパチンと閉じた
たった2日、側にいないだけで不安定でならない心が を欲してたまらない
せめて声だけでも、と思って電話をしているのに
受話器の向こうでコールは鳴りっぱなし
いっこうに出る気配はないし、かけ直してくる様子もない
(俺ばっかり好きみたいだな)
少しだけ不満に思って、またため息を吐いた
どれだけ好きだと言っても、言ってもらっても
足りない気がするのは、多分自分の方がを好きだからだ
が思うよりずっとずっと、尽はを好きだからだ

2日目、声も聞けないまま
やっぱり留守電が一件
、明日声が聞けなかったら、俺そっちに帰るからね」


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