尽不在1日目 (尽×主)


9月の中旬から、尽は修学旅行に出かけていった
「お土産まってるね〜」
「はいはい、いい子にしてるように」
「むむ、何よそれ〜」
「色んな意味では心配だから」
「大丈夫よ」
「ならいいけど」

出発の朝、いつもより早く家を出る尽を玄関で見送って、はひらひらと手をふった
ちょうど一年前 自分が行った時のことを思い出して少しだけ苦笑する
あの頃は拓也とごたごたしたりしてたっけ
随分前の気がするけれど、まだ1年しかたっていないのか
これから何日間か尽がいない
そう思うと少しだけ寂しい気もして
ほんの少しだけワクワクした気分にもなる
はボーっとしてるから心配だなんて尽は言ってたけど
普段はてんで尽に頼りっぱなしのだけれど
「私の方がお姉ちゃんなんだから」
つぶやいて、はにまっと笑った
家の留守番を初めてまかされた子供の気持ち
そんなのが胸にあふれてくる

・・・今日 暇か?」
「え?」
放課後、劇の練習を終えた後 珪が言いにくそうにそう言った
「どうしたの? 暇だけど」
宿題もないし、と
笑ったに 珪はほんの少し笑みを返す
「ちょっと遠いけど、遊園地行かないか
 今日だけ特別に、ライトアップしてるって聞いた・・・」
ひかえめな誘いに、は一瞬珪の顏を見つめて
それからパッと顏を輝かせた
「行くっ、
 私 今年の夏休みのナイトパレード見に行けなかったのっ」
クラブがあまりにも忙しくて、と
その言葉に、珪も嬉しそうに笑った
仕事先のスタッフから特別情報として聞いた遊園地の秋の紅葉ライトアップ
普段頑張っている御褒美に、彼女とでも行ってきたら、ともらったチケット
まっ先にが浮かんだから、思いきって言ってみた
と、こうしたいということを言葉にする
珪にとっては難しくて、今まで諦めてしまっていたことを 珪は最近後悔している
言えばは笑ってくれるかもしれないのに
こうやって、誘いに嬉しそうな顏をしてくれるかもしれないのに

夕方の遅い時間から、二人は遊園地の門をくぐった
「わぁ、向こうの方が綺麗っ
 すごいね、秋にライトアップしてるなんて初めて聞いたっ」
「俺も・・・ 」
色付く時期を調整しているのか、ここが山の側だから紅葉が早いのか、園内の木々は丁度色づきはじめて綺麗だった
夏のナイトパレードとはまた違う控え目な光が色付いた葉を照らす
ぼんやりと淡く、
見る人たちも静かに囁きあうようで、園内はどことなく大人の雰囲気が流れていた
「こんな遊園地も新鮮でいいね」
「ああ」
隣で、木々を見上げる珪に は笑った
普段、無愛想な横顔が どこかキラキラして見える
「珪くんって、こういうの好きなの?」
「ああ、好きだ」
ふ、と
珪の視線がに落ちた
見つめられ、ドキ、と
心臓がなるのが聞こえて、はなんとなくさっきまで練習していた舞台の台詞を思い出す
美しいドレスをきた姫だから、好きになったんじゃない
あなただから、好きになったんです
その珪の言葉には、なにか引き込まれるものがあってドキドキする
台詞だと分かっていても、幸せな気持ちになる
シンデレラって、幸せ者だなぁなんてはいつも思うのだ
珪が自分を見て、そう言うたびに
「綺麗よね、綺麗なものって見てて幸せな気持ちになる」
「ああ」
また、珪が木々を見上げた
くす、と
微笑してもまた、その視線の先を追う
隣に尽がいたら、こんなの見て何が楽しいのさ、なんて言うのだろうか
寒いだけだとか何とかいいながら それでもつきあってくれるんだろうけれど
呆れたような顏をして、が満足するまで一緒に見上げてくれるんだろうけれど

ちょっとだけ、尽に悪いなぁなんて気持ちになりながら、と珪は閉園まで園内を見回っていた
ゆっくりと散歩しながら ところどころで明るく淡く照らし出される木々を見て言葉を交わす
ちょっと恋人同志みたいでドキドキして
照れくさくて、恥ずかしくて
「ねぇ、珪くんのファンの子とかいたら恋人かな、とか思われちゃうね」
笑っていったに、珪がぴたり、と足を止めた
「別に・・・関係ない」
「ん? まぁそうなんだけどさ
 私達、恋人じゃないから そう言えばいいよね」
でもファンって思い込み激しそう、と
同じ様に足を止めたの頬に、珪はそっと手を触れた
「え・・・?」
誰よりも愛しい
見ているしかできなかった、笑ったり泣いたりするのこと
3年目に、欲しいと思った
何もしなかった2年間を後悔して、
思いきってかけた言葉に、が笑って応えてくれたのに 感じたことのない幸福感を感じた
ああ、が好きなんだと思った
どうしようもないほどに
それは日に日に増していく想い
こうして手を伸ばせば触れられる距離にいるのに
多分、誰かを好きなには どうしてもどうしても届かない
時々、悔しくて、痛くなる
こういう想いを、初めて知った
「・・・珪くん?」
「なんでもない、ごめん、おまえ震えてる・・・」
不安気に、見上げてくるの顏が 側のライトの光に照らされて
思わず抱きしめてしまいたくなるほどに 
それは遠く遠くに感じた
今ここで想いのままに抱きしめたら、は自分を軽蔑するだろうか
嫌いに、なってしまうだろうか
「冷えてきたから、帰ろう」
「あ・・・うん」
そ、と
頬に触れた手が離れると、は慌てて俯いた
ドキドキしている
急に触れられて驚いた
その手が冷たくて、珪の顏が切なくて
どうしたのか、と一瞬言葉を失った
珪のああいう目を、はじめて見た
みんなが無愛想だとか、感情がないんだとか
そう言う珪の、あれが素顔なんだろうかと思った

その夜、家に戻っても は珪のあの顏が忘れられなかった
舞台の練習の時にも、時々切なそうにしているけれど
そんなものとは比べられない程、痛い顔
何を想っていたんだろう
あの時、何を考えていたんだろう
ごろん、と
尽のベッドに寝転がって は目を閉じた
少しだけ不安になる
今、尽がここにいたらいいのに
尽に黙って珪と二人、デートみたいなことをしたから こんなにも心が揺らぐのだろうか
珪があの時何を考えていたのかなんて、わからなくて
ただあの痛い眼差しだけが心に残って
は、小さくため息をついた
尽に聞いたら答えをくれるだろうか
珪が泣きそうな顏をしていた理由
すごく痛そうだった理由
(・・・その前に叱られるかなぁ)
そういうデートみたいなこと、しちゃうんだ、って
俺がいないからって浮気? って
「浮気じゃないもん」
くす、と笑ってつぶやいて
は、尽のベッドに潜り込んだ
早く帰ってきて欲しい
ぎゅっ、てして欲しい
は俺のものだから、揺らぐ必要ないんだよって、言ってほしい
尽がいないと、弱くなる
珪のあの目に、引き込まれそうになる
うとうと、と
携帯を握りしめたまま、はそうして眠りについた
しばらくして携帯が2度なっても、起きなかった

「もぉ寝たかな、早いなぁ・・・」
やれやれ、と
時計を見上げて尽は電話の向こうのアナウンスに苦笑した
時間は9時
まぁ、いいけどね、と
後ろで呼ぶクラスメイトに手でヒラヒラと返事をして 応答メッセージの通りに留守電を残す
「おやすみ、
 明日はもう少し早めにかけるよ」

秋の夜、二人は別々の場所で それぞれを想いながら眠りにつく


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