同じ想い (尽×主)


2週間前にもらったラブレター
好きな人がいるからつきあえない、と断った
それから大好きな人とデートをして、無意識にキスして、
すぐにふられてしまった
その時のことを、時間をかけて整理して、頭をぐちゃぐちゃにして ようやく答えを出した
それでもへの想いはまだ心にあって
尽の言った言葉は間違いだと、そういう答えを出した

先輩、一緒に帰りませんか?」
「え・・・・?」
いつもの劇の練習会の帰り、坂道の上では渉に会った
あの日から久しぶりに見る顔は、いつもの渉のはにかんだような笑顔で それで少しだけ安心する
「うん・・・」
渉に想いを告げられて、返事は今でなくていいと言われて答えられないでいた
それが災いして、二人がキスしてただのつきあっていただのと
言われて、怒った尽が渉に言ったのだ

は日比谷のものにはならないよ」

常識では考えられないことを、平気な顔をして言う尽
いつもはそんな風じゃないのに
二人の想いを世間が認めないことくらいわかってるから
だから 余計な詮索や好奇の目に触れないよう そういうことはけして言わないし見せないようにしているのに
「このあいだは・・・ごめんね」
少しためらってから、並んで歩く渉を見上げて言ったに 渉はいつもの笑顔を返してくれた
「大丈夫っス
 ジブン、打たれ強い方っスから」
「・・・え?」
「ジブン、あれから色々考えたっス
 諦めようともしましたけど・・・やっはり無理だったっス
 だから先輩のこと、好きなままでいさせてください」
「え・・・・・・・?」
驚いて、渉を見つめたに 渉は少し切な気に笑った
「先輩は、のことが好きなんスよね・・・?」
「え・・・・、う・・・ん・・・」
「だったら、ジブンにもまだチャンスはあると思うんスよ
 だって・・・その・・・先輩とは姉弟だから・・・その・・・」
言いにくそうに、
でも容赦なく 渉はを見つめて苦笑した
「今、そうやって好きって思っていても
 いつか目が覚める時が来ると思うんス、だからそれまでジブン、待ってるっス」
その言葉に、一瞬言葉を失って
それからは、とてもとても心が痛くなった
目が覚めたら
二人は姉弟なんだから
ああ、そんなこと 誰よりもと尽にはわかっていることなのに
誰よりそれを強く強く心に思っていることなのに
いつか目が覚めたら終わるような関係なら こんな風にはなっていない
いつか冷めるものじゃないから、こうやって禁忌といわれる想いを 二人抱き続けているのに
(でも・・・理解しろなんて言う方がおかしいんだよね・・・)
うつむいたに、渉は苦笑した
「ジブンの方が絶対、先輩のこと好きです
 姉弟同士の好きは、多分種類が違うと思うんスけど」
尽のはシスターコンプレックスの延長だと思うのだ、と
つぶやいて それから渉はうつむいたの横顔を見つめた
一生懸命考えた尽の言葉
と想いを交わしあって、キスしてセックスするような関係
それが今の二人だと言った
あまりに衝撃だったから、しはらく理解できなかったけど
よーくよーく考えて、何度も何度も心の中で繰り返してようやく渉は渉の答をみつけた

「それ、間違ってると思うっス
 だからジブンは先輩の目が覚めるまで先輩のこと好きでいます」

結局、分かれ道まできてもは顔を上げなかった
渉の言葉は痛すぎた
世間も、他の友達も 二人の仲を知ったらこう言うだろう
よくわかってる
だけど二人でいたいから、
尽が誰よりも好きだから こうして二人は秘密の関係でいるのだ
渉の言葉は間違いじゃない
おかしいのは自分達だと理解してる
でも、痛い
でも切ない
渉に二人の何がわかるというのだろう
それでもどうしようもなく魅かれるから、
諦めきれない想いだったから、こうして尽の側にいるのに
「じゃ・・・ここで」
「うん・・・気をつけてね」
最後に曖昧に笑みを浮かべて、
でもまたすぐに俯いてしまったは、そのまま十字路をまっすぐに歩いていった
その後ろ姿を見つめながら、ため息を吐き渡もまたうつむいた
(だって、こんなにまだ好きなんス・・・)
そして理解もできない二人の想い
何がどうなったら血の繋がった相手を好きになれるのか
それは間違っていると思うから をちゃんとした道に戻したい
そう思った
純粋に真直ぐな気持ちで

「日比谷くん」
ふ、と
声をかけられて振り向いた渉の後ろには髪の長い女の子がいた
2週間前ラブレターをくれた相手だった
先輩のことまだ好きなの?」
言われて、渉は苦笑する
ラブレターをもらって、好きな人がいるから応えられないと断ったのに この子は毎日のように電話をかけてくる
好きだと言って
振り向いてと言って
私が誰より渉を想ってると主張する
「・・・先輩のこと好きっスよ」
「いいかげん目を覚まそうよ
 あの人は別の人とつきあってるんでしょ?」
「それでも・・・」
「ねぇ、私が日比谷くんのこと一番に想ってるよ
 先輩なんか目じゃないくらい、日比谷くんのこと好きだよ」
「・・・そんなの・・・押し付けだと思うっス」
「押し付けじゃないよ
 日比谷くん、むきになって周りが見えてないんだよ
 ちゃんと目を覚ましてよ
 追いかけたって振り向いてくれない人だよ、先輩は
 私なら、日比谷くんの全部を包んであげられる
 日比谷くんのこと ちゃんと理解してあげられるよ」
もうとっくにの姿なんか消えてしまった十字路の向こうを見つめながら 渉は大きくため息をついた
好きだ、という言葉
最初は嬉しかった
自分みたいな人間を 好きだって言ってくれる女の子がいるんだってこと
少し誇らしくてくすぐったかった
でも、つきあうとなると話が別で
自分には、以外は考えられなかったから その想いを断った
好きな人がいるから、その人を見ていたいと言って
その人以外は考えられないと言って
「日比谷くん・・・私の気持ち、わかって・・・」
「わからないっスよ」
ぽつ、と
真直ぐ前を向いたまま、渉は言った
嬉しかった言葉も、自分のへの想いを否定された瞬間から 鬱陶しいものに変わってしまった
彼女は目をさませというけれど
はけしてふりむいてくれなくて、
自分のこの想いは無駄で、意味のないことだというけれど
彼女が一番 渉を理解していて、一番好きだと想っていると、言うけれど

「ジブンの気持ちはジブンだけにしかわからないっス
 ・・・そんな決めつけるようなこと、言われたくない」

間違ってる、とか
意味がない、とか
目を覚ませ、とか

「・・・・・・!」
苛ついて、彼女に対して言った言葉に はっとして渉は口をつぐんだ
心をこんなにもイライラさせる言葉
ああ、それを今さっき に向かって言わなかったか
自分もに、目が覚めるまで、とか
その想いは間違いだとか、言わなかったか
全てを知ったような顔をして
背筋が凍るような感覚と、重い石を飲まされたみたいな圧迫感が同時に襲ってきた
胸が痛い
吐き気がする
ああ、別れ際のの目が まるで泣いてるみたいだったのはそのせいか!!

途端に渉は走り出していた
後ろで彼女が何か言ったけれど、聞こえなかった
の、あの曖昧な笑顔が目に浮かんだ
ああ、どれだけ傷つけただろう
と尽がどんな想いで二人 一緒にいるのかなんてわからない
自分の中のへの想いが、誰より勝ると言い切れる
でもでも、それでも
(先輩・・・・!!!)
それでもの想いを、否定していいはずはないのに
を、傷つけていいはずないのに
自分が言われてこんな不愉快でやりきれない気持ちになった言葉を に向かって吐いていたなんて
世間の常識なんかで、を否定したなんて

先輩っ」
窓の下で怒鳴るような声を上げたら しばらくして窓からが顔を出した
そろそろ暗くなる 夏の夕方
灯りのついた、の自宅の前
「先輩っ、ごめんなさいっ」
驚いたような、戸惑ったようなの顔が 涙でぼやけてだんだんと見えなくなっていく
胸がしめつけられそうで、痛くて痛くて痛くて
怒鳴りでもしないと、声なんか出なかった
「どうしたの・・・? 渉くん・・・っ」
おろおろと、頭を下げた渉に が窓から身を乗り出した
「まってて、今・・・下りるから」
「先輩っ」
顔をひっこめようとしたに、また渉が怒鳴る
傷つけたこと、何も知らない自分が偉そうにの想いを否定したこと
謝りたくて、ここまで走ってきた
自分はまだガキで、最低だと思った
一番言ってはいけない言葉を、平然と言ってのけたのだから
誰よりも好きな人に対して

「おれ・・・何も理解しないであんなこと言って・・・すみませんでしたっ
 先輩のこと好きなくせに・・・あ・・あ・・んなこと」
ずび、と
鼻をすすって ぐい、と腕で目をこすって 渉は窓のを見上げたまま大きく息を吸い込んだ
考えなければいけなかったのは、その想いが間違いだとか正しいかとかではなく
どれほどが、尽が、互いを想っているかということ
誰かを好きになったことのある人なら誰もが知っている想い
胸が痛くて切なくて、でも愛しい想い
それをも尽も、渉と同じように持っているはずだったのに
どうしてそれを理解せず、間違っているだなんて言ってしまったのか
自分は自分のことしか見えていなかった
ふられた自分が可哀想で、相手の想いを否定してしまった
心を踏みにじるみたいに、ひどいことを言ってしまった
「ごめんなさい・・・っ、先輩
 お、おれは・・・」
窒息しそうな息苦しさ
どうしようもなくただ窓からこちらを見ているに、渉はもう心を決めた
どんなに痛くても
どんなに悲しくても
自分はを諦めよう
どれだけ時間がかかっても
どれだけ心がしめつけられても
「先輩、おれ・・・先輩のこと大好きです
 だから・・・おれのことを見てくれなくていいですっ」
なんて格好悪いんだろうと思う
泣きながら、さよならなんて
好きだけど、この想いが叶わないのを知っているから
でも唐突に気付いてしまったから
これ程に痛い想いで もまた尽を想っているのなら
「せ・・・先輩が笑っててくれたらおれはそれでいい・・・からっ
 だから・・・お・・おれが今日言ったこと・・・き、傷つけたことを許してください・・・っ」
もう少し大人だったら、と思う
自分はどうしてこんなにバカなんだろうと思う
たった一年上だというだけで、葉月や姫条がとてもとても大人に見える
見ていてわかるから
彼等もまたを好きなんだろうということ
そして、ちゃんと 相手を傷つけずに恋愛をしていること
見ていてとても、よくわかるから
「先輩は・・・笑ってて下さい
 そしたらおれは・・・うれしいです・・・っ」
言葉もちゃんと選べない
何を言ってるのか自分でもわからない
半ばしゃくりあげながらそう言って、渉は今にも泣き出しそうな顔をしているを最後にもう一度だけ見つめた
大好きだった人
最初、好きだと思ったのはやっぱりそのキラキラした笑顔だった
可愛くて、明るそうで、元気で
野球部の応援に来る度にドキドキした
あの笑顔に、いっぱい救われたから
辛い時も苦しい時も、の笑顔に励まされてきたから
だから
先輩、大好きです
 それはずっと、かわりません」
そう言って、渉はへへ、と
涙でよごれた顔をもう一度腕でぬぐうと、はにかんだように笑った
もやもやして重くて吐きそうだった心が、少しだけ軽くなった気がした

「日比谷」
「・・・うわっ?!!」
の家の前から走りさって、最初の角をまがったところで渉は声を上げて飛び上がった
まだぐじぐじ出ていた涙が 驚きで一気にひっこんだ
「・・・・・・いたっスか・・・」
「いたよ、恥ずかしい奴
 あんなとこで叫んでたら近所迷惑」
「う・・・ご・・・ごめん・・・」
帰宅途中、聞き知った声が聞こえてきて 角を曲がるのがとてもとても嫌だった尽は それが終わるまでここで始終を聞いていた
二人の間で何があって、こんな風に渉が泣きながら言ってるのかはわからなかったけれど
「日比谷にしては上出来」
痛そうに苦笑して、尽は言った
同じ年の渉の存在は、何かと尽をイライラさせたけれど
もし自分との血が繋がっていなかったら こんな感じで自分もを好きになったんだろうか、と
思ってちょっと複雑だったのだ
一つ年下だというハンデなんか全然気にしないような渉のまっすぐさが実はちょっとうらやましかったから
ああいう風に、何も考えず本能で行動できたらいいのに、なんて
呆れ半分思っていた
それでもを渡すわけにはいかなかったから、容赦なく排除したけれど
「失恋してレベルアップしてくもんだろ
 良かったじゃん、一個レベルアップして」
にや、と
わざと意地の悪い顔をした尽に、渉はむきーっ、と顔を真っ赤にさせた
まだ涙で少し濡れている目に、少しだけ光がさすのがわかった
自分も傷ついているのに、
それでもを想って、身を引くと言った渉は格好いいと思った
どんなにダサくても、渉の選んだ道は尊敬に値する
はそりゃモテるからいいっスけどねっ
 ジブンは最初で最後の恋だったんスからっ」
「へぇ、そりゃまたおおごとだな
 そういう奴こそ、さっさと次作ったりするんだけどな」
「自分はしないっス
 失恋の痛みに今はそれどころじゃないっス」
「新しい彼女作って、失恋の痛み癒してもらえば?」
「そんな相手に失礼なことできないっス
 それにジブンにはと違ってそんな子はいないっスよ・・・」
むぅ、と
心に残っていた僅かな痛みが、ゆっくりと引いていくのを感じながら 渉はクラスメイトを見つめた
同じ年なのに どこか冷めたような目をしていて
そのくせ生徒会長なんてものに自ら候補して、今や学校のカリスマ会長
そんな尽が普段何を考えて、どんな風な恋愛をするんだろうと思っていた
昔たくさん彼女がいたころ、尽らしいなと思っていたのに 一時から全員と別れたと聞いたからそれこそ意外で
どんな恋人がいるんだろう、と
それ程に好きな人なんだな、と漠然と思っていた
尽もまた、自分と同じように 痛くて痛くてたまらない恋愛をしていたんだと今わかった
みんなと同じように嫉妬して、怒って、嘆いて、きっと胸を傷めている
・・・ごめん・・・ス」
へへ、と
曖昧な笑みしか作れなかった渉に 尽は苦笑した
傷ついているくせに、そうやって言える素直さは自分にはないもの
そういう渉だから、きっとの心も救われているはず
「おまえ、いい奴」
そういう奴好きだよ、と
そして 尽はいつもの悪戯っぽい顔をすると静かに笑って言った
「お前にもいるよ
 十字路のところで、彼女まだ待ってたよ」

ようやく陽が沈み、暗くなってきた空を見上げて、尽はそっと息を吐いた
誰が何と言ってもかまわないけれど
誰に間違いだと罵られても平気だけれど
理解なんて求めてないけれど、でも
こうやって 認める、と言ってくれる人がいると泣きたくなる程に切なくて嬉しくなる
ごめん、は俺の台詞だろ、と
ふられたくせに、と
苦笑して、尽は少し笑った
渉が走っていった、道を見遣って


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理