年下の彼氏 (尽×主)


人ってどうして他人の噂をするんだろう
誰かと誰かがつきあってて、誰かは誰かと別れた、だなんて
自分の恋愛でいっぱいいっぱいのには、そんなこと考えてる余裕もないのに
友達はみんな、の恋愛を詮索する

「ねぇ、後輩が言ってたんだけど
 って年下の子とつきあってるの?」

え?! と
は一瞬、あんまり驚いて台本を取り落としそうになった
只今恒例の劇の練習会
夏休みだというのにまずまずの出席率で「シンデレラ」の準備は順調に進んでいる
「ど・・・して?」
年下って、尽のことだろうか
尽といるところを見られて、彼氏だと思われたのだろうか
外で、そんなにべたべたしていることはないから、一緒にいるところを見られただけなら弟だと言えばすむことだけれど
「こないだの日曜、映画行ったでしょ
 あの流行ってるやつ」
「あ・・・うん・・・」
「そこで後輩が見たんだってさ
 と自分のクラスの子がキスしてるのを」
「え・・・?!!」

今度は、ばかりか側で台本に目を通していた珪までもが驚いたように顔を上げた
「えぇ?!!! してないよっ、そんなこと」
「でも映画行ったんでしょ?」
「行ったけど・・・
 渉くんは友達で・・・デートとかじゃないしつきあってるとかでもないよ?!!」
「けどキスしてたって言ってたよ〜
 なんか恋愛なんか興味なさそうな男の子らしくてすごい意外がってたけど」
「み・・・見間違いじゃない・・・かな・・・」
「あやしいなぁ〜
 でもまぁ、年下だしねぇ、がわざわざ年下とつきあうわけないかぁ」
「・・・・・え?」
「だって、年下っていい?
 話合わなくない?
 つきあうんだったら先輩か同級じゃないと、子供っぽすぎてつまんないよ」
「・・・そ・・・かな・・・」
「そうだよ」

わいわい、と
練習の合間にくだらない噂話なんかをしながら楽しんでいるクラスメイトの隣で、はしゅんとうつむいた
何を見られてキスしていたなんて言われているのかわからないけれど
渉とはそんなんじゃないし、キスしただなんて覚えもない
ただ映画を見て帰っただけ
途中眠ってしまったから、映画の内容なんか全然覚えていないけれど
(年下って・・そんなにダメかなぁ・・・)
みんなの言葉に、苦笑した
今だれとつきあってるの? とか
好きな人いるの? とか
そういう質問は笑ってごまかしてしまえるけれど
何気ないみんなの一言が、ちくりと心に痛いことがある
渉がどう、とか尽がどうとか、そう言われたわけじゃないけれど でも
年下なんてつまんないよね、って否定されたら悲しくなる
尽も渉も、ちゃんと男の子で ちゃんとしっかりしているのに
を好きだと言ってくれるその想いに、年下とか年上とか関係ないと思えるのに

ボンヤリ、と
台本を見つめていたら 側で珪が苦笑した
「お前、さっきからページ進んでない」
「え? あ・・・っ」
「ぼーっとして、何考え込んでるんだ?」
「あ、別にたいしたことじゃないんだけど・・・えへへ」
いつもみたいに笑おうとして、失敗して
は情けない顔で苦笑した
「珪くんは年下の彼氏って変だと思う?
 年下だとつまんない? 」
「・・・年下の彼氏、いるのか」
「え?! あの、もしもの・・・話」
「・・・・・・・・・・・・・別に・・・」
別に、と
珪は何か微妙な顔をして、それから苦笑まじりに言った
「好きになったら相手が年下でも年上でも関係ない
 そういうのは 本当の恋愛を知らない奴の言うことだ」
気にするな、と
付け足した言葉に は真っ赤になって それから泣きそうになった
「そうだよね・・・好きになったらそんなの関係ないよね」
年下でも、年上でも
姉弟でも
「えへへ」
力なく笑って、それから慌てて台本に目を戻した
尽を好きになって、色んなことを考えた
間違ったことをしているんじゃないかという罪悪感
身体を重ねた時、恐かった
これは罪じゃないかと、思ったから
でも、尽を好きだから
この想いがあるから 受け入れた
全部を、尽の全部を
そして今ふたり、同じ想いで側にいるのだから
「ごめんね、珪くん、変なこときいてっ」
笑っては言って、それからクラスメイトに呼ばれて席を離れてしまった
取り残されて珪は苦笑する
年下の彼氏がいるんだろうか
年下の誰かを好きなんだろうか
渉の名前を聞いて、少なからず動揺したのはやはり
自分もを欲しいと思っているからか
(・・・関係ない
 年下でも、年上でも
 ・・・誰かのものでも、誰を好きでも・・・)
それは、今までに知らなかった程に激しい想い
珪の中で、の存在は日に日に大きくなっていく

その日、夕方から
尽と待ち合わせたは、そのまま映画館へと入った
「また寝るんじゃないの?」
「今度は寝ないよ、大丈夫」
「そぉ?」
くすくす、と
笑いながらチケットをによこして、尽は時計をチラと見た
「この時間でこれだけ客いるのか
 ほんっとに人気なんだなぁ」
「うん、渉くんと行った時も人いっぱいだったよ
 立ち見の人もいたし」
「せっかく座って見れたのに寝てたんだろ」
「・・・だって朝から色々回って疲れてたんだもん」
「寝るのは相手がつまんないからだよ」
「え?」
「日比谷じゃの相手は役不足だってこと
 俺と映画見て寝たことなんてないだろ」
「・・・ないけど」
ちら、と
横目で見られて は赤面して俯いた
(なによ、自信家・・・)
「日比谷はガキだからな」
「尽だって同じ年じゃない」
「年齢じゃないよ、経験」
「・・・」
何よ、年下のくせに、と
言おうとして、は昼間の友達の言葉を思い出した
年下が相手だとつまんないとか
我侭をきいてもらえないとか
あまやかしてくれないとか、頼れないとか
たしかにそうかもしれないけれど
渉といる時のは、いつも気をはっててお姉さんぶってみたりしているけれど
(そっか・・・年齢じゃないんだ)
年下だからどう、とかではなく
「尽だから、だもんね」
「え? 何が?」
「ううん、こっちの話」
「・・・?」
側にあったチラシを見ていた尽が怪訝そうな顔をしたのに、はにこっと笑った
尽はしっかりしてるし、我侭をきいてくれるし
頼りになるし、つまらなくない
渉が頼り無いというわけではないだろうけれど、やっぱり
は尽が好きだから、渉と見て寝てしまう映画でも
尽と見たら眠っている暇なんかないくらい楽しんでしまうだろう
素敵素敵と、小声で囁きながら
そしたら尽は、苦笑しながらハイハイって、笑ってくれるだろう
年下だなんて感じさせない目をして
優しい顔をして
「尽、大好きよ」
灯りの消えた映画館で、はそっと囁いた
スクリーンの光に照らされた尽の顔が、驚いたようにこちらを見て
それからクス、と笑った
「どうしたの、今日は嬉しいこと言ってくれるね」
そうして、そっとキスされた
スクリーンに映像が消えたほんの一瞬
館内が、真っ暗になった一瞬に

ドキン

尽だから、ドキドキする
尽だから、年下でも年上でも関係ない
好きになったらそんなの意味ない、と 珪の言葉を思い出した
珪も、本当に好きな誰かがいるんだろうな
だから、あんな風に言えるんだろうな
微笑して、はぎゅっと尽の手を握った
この想いには、何もかなわない
この想いがあるから、二人はこうしてここにいられる


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理