反則 (尽×主)


明日は渉とデートの約束があると言ったら、尽は冷たい目でじっとりとを見た後 ふーん、と
そういったきりそっぽを向いてしまった
「仕方ないでしょ、試合負けちゃって・・・
 ずっと練習だったんだから息抜きくらいつき合ってあげてもいいと思ったんだもん」
「はいはい、好きにしろよ
 別に何も言ってないだろ」
「だってすごく怒ってるもんっ
 そんなデートとかじゃないよっ、応援してたお礼だって言ってくれてるんだし・・・」
「だからいいって言ってるだろ
 楽しんでこいよ」
「・・・怒ってるでしょ・・・」
「怒ってるよ」

にこり、と
尽は冷たく微笑すると 机の上に広げてあった参考書に目を戻した
明日の渉とのデートのこと、尽になかなか言えなかったは 前日の夜中にこうして尽の部屋を訪れている
「怒んなくてもいいじゃない・・・」
「よくそーゆうことが言えるね」
「・・・なによぉ」
チロ、と
冷たい視線を受けたは、上目遣いに尽を見遣った
一週間前 大会に負けてしまって 野球部の夏は終わった
だから毎日続いた練習が、しばらくの間お休みになる
明日はその最後の日で、渉がぜひ、とをデートに誘った日だった

「先輩、今まで応援ありがとうございました
 先輩がいたからここまで勝てた気がします」

彼は笑ってそう言ってた
一生懸命、毎日毎日練習していた渉を知っているから
お疲れ、という意味で 一度のデートくらいと思ったのだ
だから気軽にいいよ、と
そう言ってしまった
尽が怒るのはわかるけれど
そしてそれがを想うがゆえだということも知っているけれど
こうやって冷たい目でみられると、やっぱりちょっと泣きそうになる

「ね、大丈夫だから
 渉くんだって本当に何の他意もないんだよ?」
本当は、渉に告白されて彼の気持ちを知っているけれど
そんなこと尽には言えなかった
だからこれは秘密
明日は友達としての、後輩としての渉との、ただの大会お疲れ様デートなのだから
「好きにしなよ」
パラリ、と
ページをめくりながら、尽はため息を吐いた
他意のないデート?
他意がなくて、男が女をデートに誘うもんか
渉はを好きなのだ
だから の応援が欲しいと言うし、
その応援で頑張れるし、こうやってデートにも誘う
はそれに気付いていないから そんな風にのんきに構えているんだろうけれど
「そんなに怒んないで・・・」
ね、と
困った顔でこちらを見上げてくるに、尽はまたため息をついた
こっちが怒ってるのがわかっていても、けして行くのをやめると言わないのがなのだ
には多分、友達や先輩や後輩といった 大切なものが沢山あるのだろう
そして、できればどれも欲しいと思っているのだろう
尽みたいに、全部を手放してもいいと思える程 相手に縛られてはいない
好きだと言ってくれるし
二人でいればたまらなく幸せだと言うけれど、でも
はそれだけでは嫌なのだ
尽も欲しいけれど、渉も欲しい
大切な後輩が頑張ったんだもん、と
だからデートにつきあうくらい何でもない、と言えるのだろう
(・・・片思いみたいだなぁ・・・)
やれやれ、と
尽は参考書をみながら苦笑した
想いが通じても、こうやって考え方の違いからすれ違いが生まれる
幼い頃から毎日毎日を見続けてきたから、それがの性格だってわかるし
そんなの想いを今さら疑ったりはしないけれど、でも
「それでも行かせたくないんだよ、
が俺を思うより、俺はを想っているから

次の日、尽は朝早くからいなかった
多少の罪悪感を抱きつつ、渉との待ち合わせの場所へ行くと 渉はもうそこに来ていた
「ごめんっ、私遅れた?」
「ちがうっス
 ジブン、緊張して30分前についたっス」
「え?!!
 30分も待ってたの?!!!」
「は、はいっ」
この陽射しの中? と
朝っぱらから容赦なく照りつける太陽を見上げ はクスと笑った
可愛いなぁ、なんて思う
自分とのデートにこんな風に30分も前から来てくれてるなんて なんか嬉しい
渉の気持ちを知っているから余計に、それはほんの少し心をどきどきさせた
年下だから、そういう風に見たことなかったけれど
渉もちゃんと男の子なんだな、なんて思う

その日のデートは渉の特選コースらしく
朝に待ち合わせてショッピング
その後 軽く食事をしてボーリングに行き、ゲームセンターに寄り、夕方に映画というフルコースだった
「ふわ〜疲れたね〜」
「ボーリングで体力つかいましたからね」
「ふふ、こんなに遊んだの久しぶりだなぁ」
「ジブンも久々っス」
「そうよね、そしてまた明日から練習なんだよね」
「はい」
映画館のロビーを歩きながら、渉はチラ、との横顔を見た
大好きな先輩
最初は憧れて、可愛いなぁなんて言ってただけなのに
いつしか自分を応援してて欲しいなんて思うようになって
の応援があったら何だってできる、そんな気がした
「先輩、ここらへんどうっスか?」
「うん」
ぽすん、と座った席は映画館の一番後ろ
映画は今大人気の恋愛ものを選んだから、周りはカップルだらけで しかももうほとんど席が無い状態である
「よかったね、席あいてて
 これ流行ってるみたい、みんな見たって言ってた」
「先輩 こーゆうの好きかと思って」
「うん、好きよ」
楽しみ、と
笑った顔にドキとしながら、渉は顔が熱くなるのを感じていた
可愛い、年上の人
大好きな人
見てるだけじゃ嫌だと思った
だから、想いを告白した
初めてだったから、とてもダサい告白だったけど それでも
決死の覚悟で言った
が、同じ様に想ってくれればいいのに、と今は祈るように想っている

しばらくして、館内の灯りが落ちるとスクリーンに映像が映し出された
どこかの街のラブストーリー
男と女が出会って、恋をして、別れる
そんな話だった
2時間もので、ラストの別れのシーンは女の子達に好評だと雑誌に書いてあったけれど

(・・・?)
ふ、と
違和感を感じて、渉は画面に向けていた視線を隣へと移動させた
映画が始まって40分ほどたった
男が女を見つけ、二人が互いを認識しあったとても綺麗な場面なのに
(・・・寝てる?)
すぅすぅ、と
微かな寝息が、すぐ隣でした
ぎゅっ、と
膝の上にバッグを握りしめたまま うつむいては眠っていた
映画がつまらなかったからか、朝からのデートで疲れてしまったからか
わからなかったけれど、渉は妙にドキドキした
大画面の恋愛ドラマ
美しい風景、センスのいい男女
ドラマチックな恋、素敵な台詞
どれも一気に頭に入ってこなくなって、ただ目の前のしか見えなくなった
「あの・・・先輩・・・」
俯いているのが苦しいだろう、と
そっと肩に手をかけたら、こつん、と
思ったより簡単に の身体は渉へと寄り掛かった
「・・・!!!!」
ドキドキ、と心臓が鳴る
それを必死に押しとどめながら 渉はそっとそっとの顔を覗き込んだ
目を閉じて、本当に眠っている
こんな無防備な顔 はじめてみた、と
思ったら一気に、愛しさが溢れ出した
ああ、好きだと感じる
こんな風に側にいてほしい
ずっとずっと
自分のものになって欲しい

ス・・・、と
その唇にキスをした
それは無意識で、だが鮮明に その感触は唇に残った

スクリーンの中の大恋愛よりも、目の前で眠っているにドキドキして
まだ返事も聞いていないのに 勝手にキスを奪ってしまった
に恋人がいたら、とか
に好きな人がいたら、とか
いつもはそればっかり考えているのに、こんな時には都合良く頭から抜けて
それで渉は身体中の体温が上がるのだけを感じていた
ドキドキが止まらない
罪悪感と高揚感が同居する身体に、止められない想いが暴走しはじめる


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