シンデレラと王子 1 (尽×主)


夏休み後半、多分どのクラスよりも団結しているのクラスは 文化祭委員の提案で早くも秋の文化祭の準備のため集まっていた
全員が揃った頃 文化祭委員が黒板に何やら書き出した

「シンデレラ」

ざわ、と教室が騒がしくなる
「3年の出し物は全クラス演劇です
 このクラスはシンデレラをやりたいと思います」
そうして、委員は教室の一番後ろの席でぼんやりとしていた珪の名を呼んだ
「葉月くんには王子役をやってもらいます」
ざわ、と
教室が唸り、珪が驚いたように顔を上げる
なんてワンマンな委員だろう、と
思いつつ は内心 珪の王子を想像してほくそえんだ
たしか委員の子は珪のファンだったはずだ
特権をフルに生かして 珪の王子をなんとか見ようとしているのだろう
モデルという仕事がら 女の子に人気のある珪は 普段は王子なんて絶対に呼ばせない
そういうの、嫌なんだ とか何とかいって暗い顔をしているけれど
今 指名された珪は どうしていいのやら不満のような戸惑いのような顔をして、ただ座っている
「異義のある人は申し出てくだささい」
異義の前にまず話し合って演目を決めるべきだろう、と
多分誰もが思っていたが 多分大抵の人間がシンデレラでも別にかまわないと思ったのだろう
そして、いつも無口で無愛想な珪が王子なんてものをやるのが見たかったのだろう
異義は、誰からも上がらなかった
「では他の役を決めます」
そうして、次々に黒板がうめられていき 最終シンデレラの役だけが残った
「女子は一列に並んでください」
ワンマン委員は手際よく会議を進めていく
何だ何だといいながら 身長順に並ばされた女子のまん中あたりで列は切られ 半分程が席に戻らされた
「舞台は見た目も重要です
 葉月くんと身長のつりあいがいい人をシンデレラにします」
続いて あまりにも低すぎてつり合わない女子も席へと戻され
を含む5人ほどが残ってしまった
「誰かやりたい人いませんか?」
問われて5人ともが顔を見合わせる
「私やったことないし・・・」
「私も」
「私はクラブが忙しいから練習できないと思います」
「私絶対いやっ」
「私は手芸部だから衣装の方がいいなと思うけど・・・」
それぞれの意見を聞き、最初の二人が残された
(しまった・・・嫌っていったら免除だったんだ・・・)
候補が二人になって 急に不安を感じたは チラ、と同じく残されたもう一人を見た
と同じように緊張した顔をしている
「どっちかやってくれませんか?」
「え・・・どうしよう・・・」
「私 本当にやったことがないのでできるか不安です・・・」
そうして、もじもじとして困っている二人に、今まで黙ってみていた氷室が声をかけた
「ではダブルキャストにしたらどうだ
 そういうのも面白い演出だと思うが」
え、と
氷室を見遣ったら 彼は学生時代に演劇をしていたことがあるとかで 嬉しそうに話しだした
意外な担任の一面に感心しつつ もう一人の候補と顔を見合わせる
「あ、でもそれなら台詞も半分ずつだし・・・」
「そっか、ちょっとは楽だね」
「じゃあそういうことでいいですか?
 具体的にどこで交代するかは台本ができてから打ち合わせしましょう」
バタバタと2時間程で 全ての項目を決定し
達氷室学級は そうしてどのクラスよりも早く準備に取りかかった
大道具の子なんか週2回 学校にきてもうつくり出すのだとか
階段を作れという委員の無茶な意見を聞きながら はそっと珪を見遣った
いつもみたいにぼんやりと席に座っている珪からは 何を思っているのかわからなかったけれど
(そっか、珪くんが王子様なんだった
 なんか嬉しいかも)
はそう思って、そっと微笑した
手芸部の子達がはりきって作る相談をしている王子の衣装を着た珪は きっときっと格好いいと思うのだ

その日、解散してからと珪は二人して図書室に向かった
週に1度の勉強会として もう通いなれた図書室
二人の特等席みたいになっている窓際の席で 教科書を広げたに珪が言った
「おまえ・・・嫌じゃなかったのか・・・?」
「え?」
見上げると、いつもよりちょっとだけ難しい顔をした珪がこちらを見つめている
「何が?」
「シンデレラ」
「別に嫌じゃないよ?
 ただ台詞・・・覚えられるかほんと不安で・・・
 私 劇とかやったことないし、小学校の時は犬の役だったからワンって言えば良かったのよ」
「・・・犬・・・」
「花咲か爺さんの犬」
「・・・へぇ・・・・主役だな・・・」
「えー、あんなので主役なの?」
「主役だろ」
クス、と珪が笑う
それを見ても笑った
「珪くんは嫌じゃなかったの?
 なんか無理矢理っぽかったけど平気?」
仕事もあるのに、と
言ったに珪は微笑した
「おまえと一緒だから、嫌じゃない」
そうして、ふ、と窓の外に目を向ける
突然指名されて戸惑った王子役
王子っていうのが気に入らなくて 嫌だと言おうと思ったけれど
なりゆきでがシンデレラになって それで急に嫌だなんて言うのが惜しくなった
舞台の上だけでも、愛する二人でいられるなら
この胸に生まれている想いを伝えることができるなら
「楽しみだな」
「うんっ、台本できあがったら一緒に練習しようねっ」
「・・・ああ」
無邪気に笑うに 珪もまた笑った
の笑顔は明るくて、見ていてとても気持ちがよくなる
安心して、側にいられる
気を使うこともなく
自然のままに存在していられる
苦手だ嫌いだといいながらも、教えたことをちゃんと復習してきたり
わからなくなったと電話してきたりするのが可愛くて
今までにこんな風に愛しいと思った人はいないという程に 心に住みついてしまった女の子
思い出の中の少女から確実に成長して変わったといえるのに
同じ安らぎを与えてくれる
そんなに、この想いは止まらない
「珪くんの王子 楽しみだなぁ」
その言葉に微笑した
が言うなら 王子も悪くはないかもしれない

その日、家に戻ったは、尽に主役抜擢を自慢していた
「気が早いね、のクラスは」
「なんか委員の子がすごくはりきっててね
 氷室先生も異常に燃えてるから」
「へぇ・・・で、王子役は誰なの?」
「王子は珪くんっ」
「・・・・・・ふーーーーーーーーん」
表情一つ変えずに思いっきり妬いた尽に は笑った
冗談っぽく言ってみる
「もしかして尽はやきもちやいてくれてるの?」
その言葉に 尽はこちらを見て それからやっぱり表情を変えずに言った
「うるさいな、あたりだよ」
「え?!! ほんとに?!!!」
「何? いまさら
 俺はいつでもの周りの男に妬いてるよ」
「・・・ほ、本当?」
キョトン、と
本気で驚いてはベッドの上に座り直した
「うそ」
「こんなこと嘘言ってどうすんのさ」
「でも・・・」
何をいまさら、と
尽は苦笑して ぽすんとを押し倒した
「あのね、
 俺が自信満々なのは のこと以外だけだからね
 に関しては、嫉妬もするし不安にもなるよ」
「でも・・・そんなの誰によ・・・
 尽の方がモテモテのくせに」
「二宮、姫条、日比谷、葉月、氷室」
「えぇ?!!! 珪くんも? 先生も?!!!」
「その他大勢」
「何よそれ〜」
は自分が思ってるよりスキ多いからね
 気が気じゃないよ、知らない間に男の気引いてるし」
「そんなことないもんっ」
「あるから言ってんの」
ス、と
口づけられ、目をとじたら何度も角度を変えて尽のキスが降ってくる
尽がそんな風に思ってたなんて今まで知らなかった
尽に好きだと言い続けられ
同じように尽を想うようになったは、自分が不安になることはあっても
尽がこういうことで嫉妬したり不安になったりするなんて考えたことなかった
独占欲が強いのは知っていたけれど 嫉妬なんて尽には似合わない
いつも自信たっぷりで
いつもしっかり物事を考えていて
だから、尽の言葉がなんだか嬉しくて仕方がなかった
独占欲も、嫉妬も
心地いい
愛されていると感じるから
強く強く、感じることができるから
その夜、同じベッドで目を閉じて は尽のことを想った
尽が同じ年だったなら、文化祭で一緒に劇ができたかもしれないのに、なんて思いながら
叶わない想像を、ちょっとだけしながら


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