告白 (尽×主)


今日は一人でショッピング
なぜかって、尽が突然の欠員とかでバスケ部の試合にかり出されてしまったから
引退前、最後の大会で勝ち進んでいる和馬のバスケ部が こんなところで負けたら可哀想だと
のり気じゃなかった尽を無理矢理試合に行かせて
は空いた今日一日を、ぷらぷらと町でショッピングしながら暇潰していた
夕方には、尽が試合を終えて帰ってくるから
そしたら前から観たいといっていた映画を見て帰ろう、と
は上機嫌だった
尽は今頃 今日のデートがおシャカになったのを不満に思いつつコートを走っているのだろうか

「ねぇねぇ、君ひとり?」
「え・・・?」
ボンヤリと店を見ていたに突然、その声はかかった
一人で大分うろうろして、服を見たりアクセサリーを見たり
久しぶりの一人ショッピングを満喫していたは、驚いて振り返る
見知らぬ背の高い男がいる
ひとなつっこい笑顔を浮かべて
「え?」
「さっきから見てたんだけどさ
 一人なんだったら俺とどっか行かない?」
年上に見えるから大学生だろうか
ノリのいい話し方に、は少し苦笑した
「待ち合わせしてるんで・・・」
「え? でもずっと一人でウロウロしてるじゃん?」
「・・・え・・・・と」
ずっと一人で、って
一体この人は自分のことをいつから見ていたのだろうと思いながら の身体は自然あとずさった
こういうの、好きじゃない
ナンパなんて、する方もついていく方も 気が知れない
何を思ってこんな見ず知らずの相手に声をかけるんだろう
「だって君可愛いからさ
 俺もドタキャンくらって暇してたし
 二人で楽しいとこ行こうよ〜車あるしどこでも連れてくよ?」
大袈裟な身ぶりで話すその男には曖昧な笑みを浮かべた
尽からはまだ連絡がないから、尽が助けに来てくれるのは期待できなくて
かといって、目の前でペラペラ話しているこの男をどうすれば撃退できるのなんかわからなくて
「あの・・・ほんとに待ち合わせなんで」
それで は困って辺りに視線を走らせた
誰か、
誰か助けてと心の中でつぶやいてみる
「ねぇねぇ、ほんとに楽しいって
 俺いろんなとこ知ってるからさぁ」
ね、と
強引に腕を取られて、は思わずびくっと身体を震わせた
強い力に怯える
ああ、なんか嫌だ こういうの
こうやって馴れ馴れしく話し掛けてくるのも、手を取られたりするのも

先輩!!!」

その時、聞き慣れた声がして 視界によく陽に焼けた顔が映った
彼はいつもみたいな笑顔で、ぶんぶんと手を振ってこっちへと走ってくる
「渉くん・・・」
先輩っ、みんな向こうで待ってますよっ
 早く、早くっ」
いつものノリで、
渉は言って の空いている方の手を取った
「あの、すいません
 先輩の手、放してくれますか?」
そうして、自分より頭一つ分大きい男に向かって、にこりと笑って言ってのけた
ちょっとだけドキ、とする
一瞬戸惑ったような男が 何か言いかけたのを遮るよう
渉はさらに言葉を続けた
「先輩は忙しいので、あなたとは行けません」
そうして、まだの手を放してしなかった男の腕をとり、
半ば無理矢理に からひっぺがすと そのままの手を引いた
ふら、と
勝手に身体が動いて
あとは、渉が走るのについて足が動いた
胸のドキドキは、その後から聞こえ出した

「あ・・・ありがと、渉くん」
「いいい、いえ・・・っ
 たまたま先輩を見つけて・・・なんか困ってるっぽかったのでつい・・・
 余計なことだったらどうしようかと・・っ」
商店街を抜けた小さな広場で、走ったせいで息を上げながら二人はクス、と笑いあった
いつのまにか全力疾走で
まるで悪いことをして逃げてきたみたいで、少しおかしかった
不快だったり不安だったりした気持ちが、今はきれいに消えている
「ううんっ、すごく助かった
 困ってたの、待ち合わせだって言っても信じてくれなくて」
「ああゆう人多いっスね、特に先輩は可愛いから・・・」
「え?」
「え・・・・? あ・・・いや・・・っ」
さらっと、言った言葉を聞き返したに、渉ははた、と動きを止めた
そして、途端に真っ赤になる
つられて、も少し頬を染めた
「ああああ、ええと・・・その・・・っ
 先輩はよくナンパとかされるっスか?」
「え? そんなこと・・・ないと思うけど・・・
 ナンパっていうか ああゆうのは時々・・・」
「あ、やっぱりよくあるっスか」
真っ赤になった顔で笑って、渉は持っていたスポーツバッグを持ち直した
どこかモジモジと、その様子はとても落ち着きが無く見える
「先輩は、か・・・可愛いから目ぇ引くっスよ」
「え?」
「ジブンもさっき、すぐ先輩だって分かったっス」
「・・・・・」
にこ、と
照れくさそうにして、渉はを見た
あんなに沢山人がいる街の中で、自然に目がいった存在
だとすぐにわかった
バス停からの立っていた場所まで そんなに近くはなかったけれど
自分にはわかる
多分、日増しに大きくなっていくへの想いがあるからか
それともやっぱり、が目立つからか
「ええと・・・大丈夫だったっスか?」
「うん、おかげさまで」
「よかったっス」
どこかテンポの悪い会話をしながら ほすん、とペンチに座ったを見下ろす
一つ年上なのに、どこか抜けてる感じがするのがいい、と
どこか見ていて不安になるような
危なっかしさが気になって仕方なくて
入学して、葉月を見ていたはずなのに いつのまにか
いつのまにか ばかりに気がいくようになっていた
葉月のような男になりたいだなんて思っていたけれど、今はそうは思わない
自分は自分らしく、
に似合う男になりたいとそう思っている
「だれと・・・待ち合わせなんスか?
 時間、大丈夫っスか?」
「ん? 平気よ」
尽なの、と
が言うと、渉はどこか安心したような顔で笑った
「こ・・・恋人と待ち合わせかと思ったっス」
「ん〜・・・」
が曖昧に苦笑する
それに違和感を感じながらも、渉はとりあえず笑った
まどかとつきあってるだの、葉月と仲がいいだの
には色んな噂があるから、その中のどれかが本当で
だからには恋人がいるんじゃないかと思っていたけれど
「先輩、つきあってる人いないんスか?」
「え? 何? いきなり・・・」
「あ、いや、その・・・
 き、気になって・・・・・っ」
困ったような顔をしたと、ある種の決意を秘めた渉と
二人、しばらく言葉を出せなかった
シン、と
互いの顔を見つめあって、やがて渉が口を開く
「その・・・先輩、ジブン先輩のことずっと見てたっす・・・!!!」
1年の時に、可愛いなぁなんて憧れて
仲良くなってからは、その危なっかしさから目が放せなくなって
の応援のおかげで、今年念願のレギュラーが取れた
今の自分にとって、が一番で
がいたら、何でもできそうな そんな気さえするのだ
が、好きでたまらない
「ジ・・・っ、ジブン先輩のこと・・・・っ」
多分、今までの人生でこれ程緊張したことはなかったし、
これほど興奮したことはなかったと思う
野球が全てだった自分を変えた人
のおかげで、より頑張れる自分になれた そんな気がする
この恋は、無敵のパワーをくれた
「あの、だから・・・っ」
が、真っ赤になっているのに 渉も増々動揺した
生まれて初めての告白
幼稚園の先生に恋をしたのが初恋なら、これは2番目の恋
今度のは、本物だと確信している
「あああ、あの・・・だから、その・・・」
ああ、自分は何を言っているんだろう
こんな風に突然、何の前触れもなく
が困ってしまうんじやないだろうか
だが、それでも
一度口にしてしまったら 止まらなかった
言葉は勝手に溢れてくる
「あのっ、だから・・・っ
 おおおお、俺とつきあってくださいっ」
好きです、も伝えずにいきなりつきあってくださいだなんて
だれかが聞いていたら なんてマヌケな告白なんだろうと思うだろう
それでも今の渉にはこれが精一杯だったし
も、そんなことに気が回らない程に 動揺していた
思いもかけない、後輩からの告白
そんな風に渉が自分を見てたなんて知らなかったし
何より、自分はその想いに応えてあげられないのが辛かった
こんな、こんな大事な時に

「先輩のおかげでここまで勝ち進んでこれた気がするっス
 だから先輩の応援があったら、ジブン、甲子園だって行ける気がするっス」

彼がそう言ったのは3日前だった
地区予選のベスト4を決めた試合の後
目をキラキラさせて、彼は笑った
このまま甲子園まで、
もそう思ったのだ
自分なんかの応援で、渉が頑張れるのならいくらでも応援するよ、と
あの時は笑って言えたけれど
あの言葉の裏に こんな想いが隠されていたなんて

動揺が走る
順調に勝ち進んでいる野球部
勝利に大きく貢献している絶好調の渉
もし、この告白を断ったら試合に勝てなくなるんじゃないか
そんな気がする
不安が、心をしめつける
渉は本当に頑張ってきたから
努力と実力でレギュラーをとって、試合も勝ち進んできたのだけれど
それでも気になる
この想いを拒んだら、試合に響くんじゃないかって

その時、突然にの携帯が鳴り出した
「あ・・・ごめん、尽からだ」
慌てたに渉が笑う
ほっとしたような、どこか残念なような複雑な顔
「あの・・・すぐ返事が欲しいとかじゃないっス
 ジブン、試合に勝って先輩への想いを証明してみせますからっ」
笑って、渉は言うと ぺこっと頭を下げた
「あの、じゃあジブンは帰ります・・・っ」
そうして、まるで逃げるように身を翻すと駆けていった
動揺にの心臓と、
尽からの電話の音だけが、鳴り響いている
夏の地区予選
残すはあと2試合


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