紅白戦 (尽×主)


野球部で、レギュラー決定の紅白戦が行われた
この1週間、毎日試合を行って、それでこの夏の大会のレギュラーを決めるのだとか
助っ人に入っている尽は 今日は白のセカンド
渉は赤のセンターである
「なんかワクワクするなぁ」
グラウンドを、フェンスのこちら側から見つめてが言い、
つきあいで見にきた奈津実が 隣でだるそうに欠伸をした
「野球ってトロトロ進むから見てて疲れるよねぇ」
「うーん、私もルールとかよくわかんないんだ」
としては、野球がどうこうではなく ただ単に尽の活躍が見たいだけ
助っ人なんだから 尽にはレギュラーだの何だのは関係なく
その点については何の心配もなく 気楽に見ていられるのだけれど
「ねぇ、尽くんてほんとに何でもできるのねぇ」
飛んできたボールを取って送球した尽に 感心したように奈津実が言った
「うん、すごいよね
 でも野球だったら ほとんどの男の子ができるんだって」
「へぇ・・・そーなんだ」
「うん、基本らしいよ」
「へぇ〜」
あっという間にチェンジで、尽のチームの攻撃になる
見守りながら ボードに書かれた名前を確認した
「尽は〜5番目に打つ人」
「へぇ・・・その順番になんか意味あんのかなぁ?」
「さぁ・・・上手い人順じゃない?」
なんだかんだと言いながら ヒットが出ればどっちのチームでもはしゃぎ
尽や渉、その他の知っている部員が活躍すれば 歓声を上げた
いつも夏の大会で最初のうちに負けてしまう野球部は、今年も意気込みだけは地区大会優勝を目指すと張りきっている
このあいだの練習試合で勝ったらしいから、勢いがついているんだ、と
尽は言っていたっけ
「渉くん レギュラーになれたらいいのにね」
「え? ああ
 ・・・は日比谷のこと お気に入りなの?」
「ん? だってあの子面白いじゃない?
 ど根性〜とかいって、いっつも遅くまで練習してるでしょ?」
毎日欠かさずローラー引いてるのよ、なんて
言ったに奈津実は苦笑した
この調子では、渉の想いには気付いていない
には尽しか見えていないから、そんなこと考えもしないのだろうけれど
のどこか そういう無防備なところが男の気を引くんだと 奈津実はため息をついた
面倒なことにならなければいいけれど

その日の試合は、尽のチームが勝った
「渉くん おしかったねっ」
うなだれている渉に声をかけると 渉は驚いたように顔を上げて真っ赤になった
「えぇ?!! 先輩来てたっすか?!!!」
「うん、見てたよ〜」
二人して水飲み場まで歩きながら 今日の試合の話をして
明日も頑張ってね、なんて言って笑う
そんなの横顔を見遣り 渉は大きく息を吸い込んだ
「あの・・・っ
 先輩、明日も来てくださいっ」
「え?」
「じ・・・ジブン・・・先輩の応援があったら勝てる気がするっス」
「え?」
「だ・・・だから・・・その・・っ
 先輩・・・ジブンのこと・・・応援しててください」
渉の顔は真っ赤で、
はキョトンと、そんな渉を見つめた
「ジブン、絶対レギュラー取りたいっス!!!」
叫ぶように言って、渉はある種の決意を浮かべた目を まっすぐにに向けた
「うん、わかった
 渉くん 今まで頑張ってきたんだもんっ
 絶対レギュラーとれるよ!! 私応援する!!!」
そうして、
そんな真直ぐな渉に、は笑っていった
毎日毎日、誰よりも練習しているのを見ていたから
どんなに一生懸命クラブをやっているか知ってるから
自分なんかが応援するだけで力になれるというのなら、精一杯応援してあげたい
そんな気持ちになった
渉を見ていると

「へぇ・・・じゃあ明日は俺の応援はしないんだ」
「そうは言ってないでしょー
 尽と渉くんが同じチームだったらいいのよ」
「残念ながら 明日も別チームだよ」
「う・・・」
尽の部屋で、
本日の出来事を話したに 尽は珍しく不機嫌そうな顔をした
「いいじゃない〜応援するくらい
 尽だって渉くんがレギュラーになったらいいと思うでしょ?
 尽は助っ人だからレギュラーとか関係ないんだし」
「恋人が頑張ってるってのに、違う男の応援するんだ」
「だから〜渉くんはレギュラーかかってるんだよ〜」
ふん、と
機嫌を損ねた尽に、は慌てて付け足した
「今回だけだよ〜」
そうして、
机に頬杖をついてそっぽを向いている尽を見上げる
「そんな怒ることないのに〜」
「はいはい、いいよ別に
 じゃあは日比谷の応援してやれよ」
「怒ってる〜!!!」
「怒ってないよ」
「怒ってるくせにーーーっ」
怒らせたのは誰だ、と思いつつ
尽は こんなにダイレクトに言われても渉の想いに気付かないにため息をついた
が応援してくれたら頑張れる
勝てる
だから、応援しててほしい
まるで告白じゃないか
あなたが好きです、特別ですって言っているようなものじゃないか
素でそんなことを言ってしまう渉も渉だが、
ここまで言われて 少しも気がつかないだ、と
尽はため息をついた
渉なんか目じゃないけど
が自分を想ってくれているのもわかってるけど
いい気はしない
が自分以外の男のために 明日も明後日も、この一週間ずっと
試合を見に来るなんて
その応援のためだけに来るなんて

それから一週間、約束通りは毎日紅白戦を見にきた
そして、神様の悪戯か
いつも尽と渉は違うチームで
が渉の応援をしてから、渉のチームが勝ち続けた
(あーあ、最悪)
今日が最終日
結局、どれだけ尽がヒットを打っても後が続かず点が入らず
それを繰り返して、今日もまた負け
イライラ、と
浮かれてのところに飛んでいった渉の顔を思い出して 尽は大きくため息をついた
(しかし奇跡だな・・・)
の応援パワーか、
どの試合も渉はファインプレーを見せ、今日なんかサヨナラホームラン
白いボールが場外に入った時はむしろ呆れた
単純なんだなぁ、なんて感心しながら やっぱりいい気がしないのはが取られたような気になるから

「あの・・・っ、先輩・・・っ」
いつもの水飲み場で、
まだ勝利の興奮冷めやらぬ渉が、同じく頬を染めてホームランの感動に浸っているに言った
「あのっ、先輩のこと・・・さんって呼んでもいいっスかっ?」
「え?」
「あああああ、あの・・・・っ
 ジブン、先輩にはほんとに感謝していますっ
 それで・・・先輩に似合うしっかりした男になりたいと思っていますっ
 だだだ、だから・・・その・・・っ」
めちゃくちゃで、あまり意味のわからないの言葉に が目をくりくりして
だが、名前で呼ぶくらいいいよ、と
微笑して、そう答えようとした その時

ぐいっ

「きゃ?!!」
突然、後ろから腕がのびて 尽に抱きしめられた
片腕だけで、強く引かれる
「日比谷、集合かかってるぞ」
尽は、を見ずにそう言って
それで渉は、慌てたようにと尽を交互に見遣り それから怪訝そうに言った
「あ・・・じゃああの・・・先輩 またあとで・・・っ」
そうして、ぱたぱたとグラウンドへと走っていく
驚いて
ドキドキして
は尽を見上げた
「ど・・・どーしたの・・・人前・・・で」
渉は変に思ったんじゃないだろうか
こんな風にしたら
抱きしめるみたいに、したら
「いいよ、なんて言うなよ?」
尽の声は やっぱり怒ったような色だった
「え・・・?」
さんって呼ばせろ?
 応援してください、の次はそれ?
 じゃあその次はあれだ、つきあってください、だ」
意地悪な、冷たい声
驚いて見上げたら 本気で怒っているような顔をして 尽は走っていく渉の後ろ姿を見ている
「そ・・・そんなこと言わないよ」
「言うよ、あいつはそーゆう奴なんだから」
「怒ってるの・・・?」
「怒ってるよ」
見つめられて、はドキン、と心臓が鳴るのを聞いた
本気で怒ってる目だ
いつもはこんな風に、を見たり しないのに
「ど・・して・・・?」
が無防備すぎるから」
そのまま、強くくちづけられた
痛い程に、熱いキス
目眩がする
ぐらぐら、と
まるで噛み付くみたいなくちづけに、はどうしようもなかった
いつも優しいのに
意地悪を言っても、視線やしぐさは優しかったのに
こんなに怒るなんて
こんな風に、痛くするなんて
「ん・・・・っ」
ようやく解放されて、は怯えた目で尽を見た
「私が悪いの・・・?」
「そうだよ」
「・・・ど・・・したら怒らない・・・?」
「日比谷と一生口きかなかったら」
「!!!」
また、くちづけがおりてきた
今度は少しだけ手加減してくれる
舌をからめとって、口内をかきまわして
熱い吐息が漏れるのを飲み込むように 何度も何度も角度を変えて
「ふ・・・・」
震えながら、は尽を見上げた
「そんなの・・・無理だよぉ・・・」
なんて無茶を言うんだろう
できっこないのに
そんな冷たい目をして
「意地悪・・・・」
ふぇ、と
とうとう泣き出したに 尽は大きなため息をついた
それから ぎゅっ、と
の身体を抱き締める
まるで子供みたいな嫉妬
は、悪くないのに
「ごめん、泣くなよ・・・」
ぽんぽん、と
の背を優しく叩いて、尽は苦笑した
は悪くない、俺が悪い」
ふえーん、と
しがみついて泣き出したを抱きしめて、目を閉じる
世界に二人きりになって
誰も二人の邪魔をしなければいいのに
こんな風に、他の誰かのことをが考えたりしないよう
尽が嫉妬したりしなくていいよう
自分と以外は、何もいらない
本気で、そう思う
叶わない願いに目眩を感じながら 尽は天を仰いだ
血が繋がっていたって、誰にも言えない関係だってかまわないと思っているのに
そんなの、覚悟があるから平気だと思っているのに
時々こうして苦しくなる
世界中に、は俺のものですって、言えたらいいのに

その日、渉は見事にレギュラー入り
夏の大会が いよいよ始まる


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