賭 (尽×主)


もうすぐ体育祭
毎年マンネリ化している体育祭のプログラムを見ながら 尽は生徒会最後の仕事になるであろうこの行事の見直しを考えていた
新しい競技
新しい企画
どうせやるんだから、と
頭をひねる
みたいなどんくさい子でも活躍できる、楽しめるもの
それでいて派手で体育祭の目玉みたいになるものがあったら、いいのに
お金もかからなくて、危険じゃなくて
学校の許可を取るのが簡単なもの
資料を目の前に、尽はここ2.3日 そうして悩んでいる

そして体育祭の1ヶ月前
早くも今年のチーム分けが発表され、新しい企画が掲示板にはり出された
チーム対抗応援合戦
1チーム15分で、応援パフォーマンスを行うというもの
音楽に合わせて全員で踊ってもいいし、何人かで昔ながらの「フレーフレー」というのをやってもいい
15分という時間をフルに使って いかにチームが協力して目立つか
それを見にきた客に投票してもらって1位を決めるというもの
運動が苦手な子も、これなら楽しめるだろうと
ベッドの中で話したら はわくわくしたような顔で素敵、と そう言ってくれた
尽の、生徒会最後の大仕事である

「おおー、なんか新しい企画 楽しそうやんっ」
チーム分けは1学年2クラスごとに、1年〜3年までで構成される
体育祭委員がくじを引いての、このチーム分け
はまどかのクラスと同じチームだった
「赤団ってのが良くないか? 勝利の色って感じがする」
「うんっ、そんな感じがするっ」
達は最高学年だから チームのまとめ役
早速チームリーダーを各学年から4名ずつ 他3年の有志数名で15名ほど選出し、会議を開いた
応援合戦で、どのようなパフォーマンスをするのかという議題で
「狙うは優勝やろ
 客は絶対派手なんが好きやからな
 全員でノリノリに踊りまくったらええねん
 うちのチーム チア部が何人かおるやろ
 女の子はあんな感じでお色気でいこうや」
「そんな1ヶ月でマスターできるの?」
「簡単なんやったらできるんちゃう?
 ぽんぽん持って振るだけでもけっこう派手やろ、全員でやったら」
「じゃあ男は何するの?」
「えー・・・周りで行進?」
「そんなの可愛くない」
なんだかんだと言いながら、祭り好きのまどかの指揮でポンポンと話がまとまる
側で聞きながら 今回は敵の尽を思いはこっそり微笑した
尽は黄団
一緒のチームになりたかったけど、こればっかりは運だから仕方ないとして
昨日した約束に、はちょっとだけ自信を持ちだした

「どっちが応援合戦でいい点とるか 賭けようか」

勝った方が 負けた方を一日言いなりにできる
こっちには無敵の祭り好き まどかがいるんだからと言ったら 尽は笑ってた
それは強敵だね、なんて言って
たった3時間ほどの会議で、ほぼ決定しそうなこのチームにはうきうきした
これならもしかしたら 尽に勝てるかもしれない

そして次の日から、空いている教室を借りての秘密特訓
結局のクラスは 全員でダンスに決定
今流行りの音楽に合わせて、全員が踊るというもの
うまくいけば、迫力もあるし
全員できっちりあえば、美しいものになるだろうと まどかもも張り切っていた
チーム一丸となって、極秘の極秘の特訓が続く

「ねぇ・・・尽のとこは何やるの?」
「秘密」
「ちょっとだけ教えてよぉ」
「敵に手の内は見せられないね」
「けちー」
は毎日筋肉痛で大変そうだねぇ」
「き・・・筋肉痛なんかじゃないもんっ」
「ダンスでもやってんの?」
「ややや、やってないもんーーーっ」
夜、ベッドの中で
はわたわたと、毎日の練習でクタクタできりきり痛い身体を慌てて引いた
「そんなんじゃないもん」
「そぅ?」
隣で、涼しい顔をして 尽がくすくす笑う
どのチームも今や 新しい企画に夢中で
旗を作ったり、凝ったチームは衣装まで作っているらしい
みんなはじめてのことにワクワクしながら、極秘で練習や作業を進めて
ひそかに囁かれる噂程度にしか お互いの出し物について知らない
チーム全員でやるとは 赤団と黄団だけで、
あとは「応援団」というのを作って有志でやるのだとか
衣装を作ってるのが 青団で 旗を作ってるのが緑団だとか
「尽の秘密主義〜」
「そりゃあ を言いなりにできる権利がかかってるからね」
「今回は私だって自信あるんだから〜」
「うん、楽しみにしてるよ」
「むっ、また余裕かます〜」
くすくすと、おかしそうに笑った尽に はむくれながら
それでもかなりの仕上がりになっているチーム全員のダンスで 絶対負かしてやるんだという気合いで一杯だった
応援団長のまどかにつられて、最初はじめての企画に戸惑って
ダンスなんてやったことがないと言っていた全員が 今ややる気マンマン
女の子は格好いい振り付けに心踊らせながら練習に励んだし
男子もなかば照れながら みんなの動きが揃うにつれやる気を出し
上手く踊れるようになるにつれ、迫力が増していくのに満足していった
今や全員で、優勝を狙っている

そして当日
待ちに待った午後一番の応援合戦
前日に行われた団長のくじで、パフォーマンスの順番が決まっていた
「1番 赤団」
「うわっ、トップ?!!!」
「あはは、縁起ええやんか」
発表された順番では、尽の黄団は最後
敵はそこだけだ、と
思いつつ、高鳴る胸を抑えて はチームメイト全員とグラウンドへ出た
流行りの、ノリのいい音楽がグラウンド上に響き渡る

は色んなことを考えるな」
「あの子は企画力に優れているね
 ああいうリーダーがいると、学校生活もより楽しいものになる」
職員席で、氷室は隣で満足そうにグラウンドを眺める理事長を見遣った
尽の出してきた企画に、この1ヶ月間 クラスや学年の枠をとっぱらって みんなが協力して盛り上がっているのを見て感心したものだった
こういう行事を楽しむ方法を、尽は知っているだけでなく全員に提供できるのだな、と
イキイキした目をする生徒達を見ながら思ったのだ
おかげで授業中居眠りする者が続出したり
宿題を忘れてくる者が増えたりと うんざりな面もあったがやはり
こうして皆が嬉しそうに この1ヶ月の成果を発表するのを見ていたら こちらも教師として嬉しくなる
今グラウンドで 一糸乱れず全員で踊る、などというパフォーマンスを見せている自分のクラスの生徒に鼻が高くなる思いなのだ
100人以上が全員で、などと どれだけ大変だっただろうと
思うと、勝手に顔が綻んだ
こんなことをやってのけた生徒達に 拍手が沸き起こる
それぞれが、やりきったという顔で、席に戻ったのに微笑が浮かんだ
この応援合戦
やったこともないのにうまくいくのか、と
心配した教師より、乗った生徒の方が数倍も 楽しむことに関しての才能に長けているとそう思う

続いての青団は、有志30人程のダンス
お揃いの衣装に身を包んで、青色の傘をくるくる回して、と
コミカルな動きはとても可愛かった
ダンスという点では 達のチームの迫力にかなわないものの その細かい小道具にまで凝ったパフォーマンスは見ていて楽しい
「いやぁ、よそのチームもやりおるなぁ」
「ほんと、可愛い〜」
目をキラキラさせながら、みんながくいいるようにグラウンドを見つめる
他の競技と違って、敵ながら
この1ヶ月間お互いにどれだけ頑張ってきたかがわかるから、見ていてとてもとてもウキウキする
なんだか勝ち負けは二の次に思えてきた
終わったチームに 惜しみない拍手が起こる
次の緑団の ものものしい音楽とともに行進しながら旗をふるというパフォーマンスも
その音楽も行進しながら自分達で演奏して
オーオーオーオーオー、と
やっぱりものものしいかけ声も、ほんの少しも乱れない足並みも 見ていて圧巻だった
「可愛いのの次だから・・・すごいよね」
「軍隊みたい・・・」
パチパチと拍手をしながら 続いての放送を待ち望む
次はいよいよ尽のチーム
みんなが、見守る中 全員が制服に着替えて 黄団がグラウンドに出てきた
ズラッ、と
全員がグラウンドの内側に背を向けて、達や他のチームの席に向かって立つ
大きな2重の円を作り、客席や教師席の前、全ての客の前に 黄団の生徒が立った
「え・・・・・」
色鮮やかな黄色のTシャツが目に映る
きっとお揃いで用意したのだろう、そこまでは良かったが
「えぇぇぇ、ちょっと・・・」
「うわーーー」
男子が女子のセーラー服を
女子が男子の制服を着ている
紺色のブレザーの下に黄色のTシャツ
ブレザーのボタンはとめないで、女の子全員が 同じく黄色のはちまきをしていた
「女はともかく 男はこれ・・・拷問やな・・・」
「じょ・・・女装してる〜〜〜」
早くも、チーム席や客席から笑いが起こる
それを合図にか、教師席のまん前に位置した太鼓が鳴った
ザッ、と男装の女子が前に出る
勇ましく、声を揃えて「フレー、フレー」と
その昔ながらの「応援」がグランド中に響いた
「やーん、素敵〜」
「格好いい〜」
ドンドン、という太鼓の音と
女の子達の 少し高い それでも綺麗にそろったかけ声
それにはワクワクした
紺色のブレザーに黄色のTシャツ
色合いも目立つし、びしっ、びしっ、と上げられ下げられる手の揃った動きがとても格好いい
「なんか憧れるね〜」
目の前で凛々しい表情の黄団の女の子を見ながら いいなあなんて思ったりした
格好いい女の子って、見ていて憧れるから

勇ましい女の子の応援が終わると、いきなりノリノリの曲が流れ出した
ざっ、と
女の子達の後ろで直立不動だった男子が今度は前に出てくる
「お・・・男は何やんねん?」
スカートから汚い足を覗かせている男子達を目の前に、微妙に嫌な顔をしたまどかが言うと 目の前の黄団の男子がにやっと笑った
前奏が終わり、それぞれ隣の男同士が手をつなぐ
そして、彼らはいきなり音楽に合わせて 腰を振り首を振り 足を上げた
「きゃーーーっ」
「うわっ」
ぶわっとスカートが勢いよく舞い上がる
思わず叫んだの、
その隣でまどかがあんぐりと口をあけた
視界いっぱいに黄色がひろがる
全員、スカートの下は黄色のトランクス
途端 音楽をもかきけす大爆笑が広がった
「何見せんねんーーーっ」
「うるさい、黙って拝めっ」
もはや開き直って楽しんでいる黄団の男は、何度も何度も足を上げてパンツを見せる
そうして、爆笑の内に 尽のチームのパフォーマンスは終了した
「あれは反則やろーーーっ」
「すごいもん見ちゃった
 あのパンツ、他に何に使うのよ」
ひーひーと、
結局爆笑したまどかやも、
終わってしまえば恥ずかしそうに退散して着替えに走った黄団の面々も
みんながみんな、清清しい顔をしていた
最初は勝ち負けで頑張っていたけれど、やってみたらどこが優勝でもいいや、と
そんな気になる
自分達は精一杯で、自分達の出来に満足しているから余計に

結局、僅差で尽のチームが優勝した
達の迫力の全員ダンスは一歩及ばず
「企画勝ちだな、技術では私のクラスが勝っていた」
氷室の言葉に理事長が微笑する
「彼に企画でかなう者なんか いないかもしれんね」
応援合戦優勝トロフィーを受け取る応援団長の姿を見ながら 誰もがそんなことを思った
熱気に包まれた、体育祭がそうして終わる

「ただいま」
「あ、尽、おかえりー」
その夜 後片付けや何やで遅くに帰ってきた尽を待ち構えて、が笑った
「ねぇねぇ、あの黄色パンツ 今はいてるの?」
「え?」
完全に面白がっているに、尽は苦笑する
負けたっていうのに、この余裕
どうせ賭のことなんか忘れてるんだろうなぁ、なんて思いながら 尽はにや、と微笑した
「はいてるよ?
 なんなら見せてあげようか? ベッドの中で」
「え・・・」
そうして、
その笑みに賭を思い出したのか、
その言葉に反応したのか
急に真っ赤になって、はわたわたとあとずさった
「えーと・・・えへへ」
「賭は俺の勝ちだね」
「う・・・」
「どうしようかな、一日いいなり」
「わーん、お手柔らかに」
「今度の日曜ね
 いっぱい命令してあげよう、一日俺の奴隷みたいなもんだからね」
「どっ、奴隷ってねぇっ」
「じゃあメイドさん?」
「う・・・」
その響き なんかエロい、と
口の中でごにょごにょ言ったに 尽は満足気に笑った
「でも、のチームのダンス凄かったよ
 ちょっと焦ったかな」
「ほっ、ほんと?」
「ほんとほんと
 毎日練習しただけあるね、正当派でやってたらウチは負けてたね」
だからあえて、客のうけのいい笑いを取る方でいったんだけど、と
言って尽は微笑した
「それでも勝ちは勝ち」
そうして、その姿は浴室に消えた
賭は尽の勝ち
一日相手をいいなり権は、今 尽の手の中に


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