キャンプへ行こう (尽×主)


風がさわやかな五月のゴールデンウィーク
の所属するチアリーディング部の3年生と野球部の3年生の中で とある企画がたてられた
両部の部長が恋人同士で、
そろそろ引退、最後の思い出にと
チアリーディング部と野球部の合同で 1泊2日のキャンプに行こうというものだった
参加自由
希望を出してきたメンバーの整理をしながら は未だ行くことを迷っている
キャンプなんて楽しそうで、話を聞いた時には絶対に行きたい、と思って
丁度尽が今、夏の大会に向けて野球部で助っ人をしているから 一緒に行けると喜んだのに
当の尽がいい顔をしないから
行くなら一人で行っといでよ、と
そう言う尽に それじゃ意味がないんだもんとつぶやいてみたり

結局、参加メンバーが出そろったのに、尽はOKを出さなかった
どうしてそんなに行くのが嫌なんだろう

「ねぇ、どうしても嫌?」
「バイトあるんだってば」
「そんなの休んでよ〜
 せっかく私とキャンプに行けるのに嬉しくないのーーーっ」
「だって行くのほとんど3年だろ?」
「そんなことないよ、渉くんだって行くって言ってたもん」
「・・・・は?」
その夜 尽のベッドに潜り込んで はがさがさと今日出来上がったばかりの参加名簿を広げた
「うわー、あいつレギュラー取る気ないのか?
 こんな時期にキャンプなんて言ってる場合じゃないだろ」
「でも部長さんもみんな行くから 堂々と行けるでしょ?
 1日や2日練習しなくたって平気だって、部長さん言ってたよ」
「・・・だから弱いんだよ、うちの野球部」
「ねぇ〜行こうよ〜」
「・・・はどうしてそんなに行きたいのさ」
「だってキャンプってしたことないんだもん」
「・・・じゃあ夏休みに連れてってやるよ」
「やだっ、もっとたくさんでやりたいのっ
 奈津実だって行くし、他の子だってみんな行くんだもん
 クラブのみんなとの思い出が欲しい〜」
「だから・・・だったらだけ行けばいいだろ?」
「尽もいなきゃ嫌なのっ」
ああ、なんて我侭なんだ、と
思いつつ 尽はこっそりため息をついた
参加メンバーはチアリーディング部は3年全員
1.2年も半分ほど
野球部にいたっては3年はもちろん、2年も全員参加になっている
(ほんと試合勝つ気あんのかな・・・)
恋もスポーツも青春も、と欲張るから 弱小なんだよと
素人の尽の助っ人に頼っている状況の野球部に苦笑しながら 尽は渉の名前を指でなぞった
渉とは今年も同じクラス
今は席も近くて、奴はほぼ毎日 愛しの天使とやらの話で浮かれている
現在片思い中のに、恋人がいようがいまいがおかましないようで
今日は廊下で見ただの、図書室で見ただの
新しくできた遊び場の話をしただの、何だのと
聞いていてうんざりするほどに
をこの手に入れている尽が、それでもイライラするほどに
渉は無敵だ
まるで世界には自分としかいないかのように話をして、幸せそうに笑う
(しょーがないな・・・)
やれやれ、と
尽はため息をついて、隣で今にも眠りに落ちそうなを見下ろした
は無防備だから、
本人の自覚なしに男を寄せつけながら歩く
仲良くなった男を下の名前で呼ぶのも
気軽にポンポン仲よさげに話すのも
男にある種の期待を持たせるのに充分なのに
本人にはその自覚がない
よって、「渉くん」とが笑うたび
渉が舞い上がって ますますに惚れるのに気付いていない
わかっていない
(これ以上 ライバルはいらないしな・・・)
やれやれ、と
まだ片付いていない何人かを思いながら 尽は参加者名簿を枕の向こうに押しやった
そうして もうスースーと寝息をたてているに そっとキスをして
微笑した
仕方がない
キャンプなんか面倒だけど
バイトもしっかり入っているんだけど
加えて生徒会の仕事をしようと思っていたんだけれど
全部譲ろう
が、これ以上わけのわからない男をひっかけてこないように

当日、なんだかんだで参加者が多くなったこの旅行に 保護者として野球部顧問がつきそい
一行は山のロッジにやってきた
側には綺麗な川がながれる 自然満喫スポット
少し行けば広場があり、そこでカレーなんかを作って食べる
女の子が作ったキャンプのしおりに書いてあったな、と
尽はロッジから見えるの姿を追いながら考えていた
は尽のロッジの真下のロッジに泊まるらしく そこから今は外に出て 奈津実と楽し気に歩いている
「ああ、先輩と1泊2日・・・たまらないっす〜」
先輩その他大勢と、だろ」
隣でうっとりとした声を上げた渉に、尽は呆れて苦笑した
簡単に予想できたことだけど
こんな調子の渉と始終一緒かと思うと少々うんざりする
隣で荷物から花火や何やらと取り出すのを見ながら 尽はを想った
こうして他人の中にいると余計に、恋しく想う
も、同じように想ってくれているだろうか

その日は、実はアウトドア派なんだという野球部顧問に色々と教わりながら、薪を割ったり小枝を拾ってきたりして、なんとかご飯をたいてカレーを作った
「いやーん、楽しい〜」
「こーゆうの、青春っスよね〜」
「そうなのよっ
 やっぱ渉くんって話わかるわ〜」
カレーの鍋をかきまぜながら、が笑い
火にフーフー息をふきかけながら とんでくる煤で顔を真っ黒にして渉も笑った
「あの二人バカなとこが似てるのよね」
「そうですね・・・」
それを遠くで見ながら 呆れたように奈津実が言ったのに尽は苦笑した
恋人同士の両部の部長は、新婚さながらイチャイチャしているし
意外にこんな場所で恋の花が咲きそうな何カップルかが それぞれに楽しんでいる
そんな中に、と渉もいる
二人楽しそうに、まるでこれから恋が始まりそうな雰囲気で
「あーゆうの、気にならないの?」
「なりますよ」
「日比谷ってのことがやっぱ、好きなの?」
「好きみたいですね」
「だからどーして、そう冷静なのよ?」
「別に冷静じゃないですよ」
お互いに皿を洗いながら、視線はと渉に向けて ひそひそと話す
話しながら、尽のさらりと言った言葉に 奈津実はその顔をまじまじと見た
「もしかしてアンタ、怒ってる?」
「・・・」
その質問に、尽は人の悪い笑みを浮かべただけだった
奈津実が、驚いたように尽を見遣る
「へぇ、意外〜」
「俺は独占欲強いですよ?」
「そんな風には見えないけどなぁ」
「見せないようにしてるんですよ」
笑って、尽は洗った食器を乾いたタオルで拭いた
人が自分をどう見るかを、尽はちゃんと計算してコントロールしている
大抵のことを難無くこなせてしまう尽は、何においても余裕に見えるだろうし
それでいいから その評価を尽は放置している
勉強もスポーツも、さらっとこなして
恋愛にだって余裕で、
独占欲なんかこれっぽっちもないような顔を、いつもしている
今までは本当にそうだったから
独占したい女の子なんて、以外にはいなかったから
だから今も、その評価は変わらない
と尽、二人の仲が公にならない限りは
だがそんな尽の内心は、渉とのツーショットに イライラでいっぱい
いくらは自分のものだとわかっていても
の笑顔に、腹が立つ

その夜、尽がチアリーディング部の1年生に呼び出されて「憧れてます」だの「先輩って呼ばせてください」だの言われている間に、渉はをロッジから連れ出していた
「昼間見つけたすごいキレイな場所があるんスよ
 先輩の好きそうな花とか咲いてたっす!!!」
「わぁ、本当?」
奈津実にすぐ戻るから、と言い残し 二人は夜の山道を歩いていく
「そこって遠い?」
「すぐっスよ! 下の広場への道を手前で曲がったとこっス」
「そうなんだ! 素敵ね!」
暗いからといって、渉が足下を大きな懐中電灯で照らす
時々木の幹や小枝につまづいたりしながらも、二人はなんとか渉の言う場所まできた
暗くてよくわからなかったが、どうやら温室みたいなものがあるらしく
その中に花がさいているのだという
しかし、懐中電灯の光に照らし出された花達は みな夜の眠りにおちていた
「あ・・・そっか、オレが見た時は昼だったから」
「しぼんじゃったんだね」
「す・・・すみません、せっかく来てくれたのに」
「いいよぉ、夜の散歩だと思えば平気平気
 じゃあ、散歩の続きで帰ろっか」
「・・・・はい・・・」
残念そうな渉は、しゅんとして、帰ろうと元の道に戻り出したの背を見遣り 名残惜しそうに振り返って温室の先の道をみつめた
あの先には何があるんだろう
少し灯りが見えるから 何か公園でもあるんだろうか
せっかくと二人きりで
せっかく、こうしてデートみたいなんだから もう少し
もう少し一緒にいたい、と
無意識に 渉はの手を取っていた
「どしたの?」
「あ・・・あの、もう少しだけ・・・っ
 向こうにも何かあるみたいっス」
「え?」
予想以上に渉の腕は力強くて、
表情も何か譲らないものがあった
「う・・・うん・・・いいけど」
たしかに渉の指さす方には灯りがあるから、何かあるのかもしれない
ここまで来たんだし、
渉が自分のために一生懸命してくれているのがわかるし、で
も強くは断れなかった
「じゃあ、あの灯りのとこまで行こうか」
「はいっ」
そのまま手をつないで、温室の奥の道を入っていった
少し上りで、
時々小道に分かれていて、
もうすぐ大会だね、なんて話をしながら 二人は灯りを目指した
それは近くなったり、遠くなったり
いつまで歩いても やはり最初と同じような距離で、目に映るけれど

「ねぇ・・・全然近くならないね」
「そ・・・そうっすね」
「もぉ諦めて帰んない?
 けっこう歩いたよね?
 あんまり遅くなったら奈津実が心配するから
 私、すぐ戻るって言ってきちゃったから」
時計を見たら ロッジを出てもう40分以上が経っている
暗いし、山道だしで ちょっと疲れた
それに、知らない道はなんだか恐かった
側に渉がいてくれても
懐中電灯の光が辺りを照らしてくれていても
「帰ろう」
「あ・・・でも・・・もうすぐ着くかも・・・」
「ちょっと疲れちゃったし・・・」
「あっ、だったらジブン、ちょっと見てきます
 先輩はここで待っててください」
「え?!!!」
どうしても、にいいとこを見せたいなんて思っている渉と
恐くて、帰りたいと思いはじめた
勝ったのは、勢いの強かった渉だった
に、恐いだろうからと懐中電灯を渡して、自分はさらに道を駆け上がっていく
「ちょっと・・・渉くんっ」
受け取った懐中電灯を抱きかかえ、がその名を呼んだ時には もうその姿は木々の向こうに消えていた
暗い山道に、は一人取り残された

それからすぐに、しゅん・・・、と
どうしようもなく 側に座り込んでいたのポケットで携帯が鳴り響いた
「きゃあっっ」
静かな場所で、妙に明るい曲が鳴る
「あ・・・・っ」
慌ててポケットから携帯を取り出して、震える手で耳にあてた
「尽ーーーっ」
、どこにいるの?」
着信メロディでわかる
こういう時、一番頼りになる人からの電話
誰よりが信じてる人の声
「えーん、わかんないー」
「一人? 日比谷は?」
「見て来るって先に行っちゃった」
「どうやってそこに行ったの? まさか迷ってるんじゃないよな?」
「違うよぉ
 温室のところから見える灯りを目指して歩いてたんだもん」
泣きそうになりながら、ちょっと怒ったような尽の声に それでも安心した
尽だったら絶対にここを見つけてくれる
尽と繋がったというだけで、不安は一気に消えていった
ここがこんなに暗くても
一人ぼっちで取り残されても
今、尽が自分を探してくれていると思うと 安心して待てた
切れた電話を握りしめながら はようやく安堵の息を吐いた

「・・・心配した」
「ごめんなさい」
15分もした頃、一気に駆け上がってきた尽が、息をきらせての前に現れた
「・・・・・・・すぐ戻るって聞いたんだけどな」
「だって渉くんが この先に何かあるのかもって言うから・・・」
渉が自分のためにそうやって一生懸命なのがわかるから、断れなくてと
は上目遣いに 尽を見上げた
「・・・あいつはほんとに・・・
 自分が方向感覚ないのわかってんのか?」
悪態をつきながら、
それでもに懐中電灯を持たせていった渉に 尽は少しだけ感謝した
道を探しに行ったのだから 自分こそ懐中電灯が必要だろうに
それでもが恐いだろうと、渡していったことは誉めてやろう
この光があったから、自分はすぐにをみつけられたし
も、こんな暗い山の中で必要以上に恐い思いをしなくてすんだ
「花を見せてくれようとしてたの
 渉くんを怒らないでね」
「・・・・・じゃあこの怒りはどこにぶつければいいのかな」
「う・・・・っ」
わざと意地悪に言った尽と、
言葉を飲み込んで 尽を見上げた
「まぁ、無事だったから良かったけど・・・
 二度と俺以外の男と夜に出歩かないって約束したら、日比谷を怒らないでいてやる」
「や・・・約束する」
は即答で答え
その様子に、尽は苦笑した
膝をついて、座り込んでいるにくちづける
戻ったらがいなくて
奈津実にきいたら すぐに戻ってくるって言ってたよ、と
そこで待つこと30分
どこがすぐにだ、と
いてもたってもいられなくて の携帯にかけたらずっと圏外で
ようやく10分後につながった時には 本気でほっとした
こんな勝手のわからない山の中
どうにかなってたらどうしよう、と
本気で本気で心配したから

「ん・・・・っ」
長い、いつもより激しいキスに は目眩がする程に感じていた
「はっ・・・ん」
解放されても、またすぐに唇を塞がれる
滑り込んでくる舌は、容赦なく中をかきまわし舌をからめとり
まるで噛み付くみたいに繰り返される
「や・・やっぱ怒ってる・・・っ」
「そりゃね
 どうしては俺以外の男にひょいひょいついていくのかなぁ、なんて思うからね」
「そ・・・そんなの・・・っ
 だって渉くんは友達・・・・・っ」
熱い息の下
あえぐように言ったのを またキスでその言葉を止めた
抱き寄せたの身体が震えて、
体温が上がるのを感じる
にとっては友達でも、渉にとっては好きな人なんだよ、と
教えてやる気はなかったが、
がもう少し、そういうことに気がまわればいいのにと
悔しくて、イライラした
だからこの罪は、に償ってもらおう

散々、意地悪な激しいキスを繰り返して
たっぷりお仕置きした尽は、くたっとして自分の腕の中で真っ赤になってるを見下ろした
「歩ける?」
「・・・・!!!」
返ってきた視線は、無理だと訴えているようで
その様子に尽はくすくす笑った
「日比谷戻ってこないから、先に戻るよ」
「え?! でもそんなことしたら・・・」
「奴には置き手紙」
「え・・・・」
が大事に抱えている懐中電灯に、尽は自分の携帯を開いてメール画面にメッセージを打った

「先に帰る 日比谷はこの携帯と懐中電灯を持って戻ってくるように 尽」

そうして、懐中電灯をたてて、その上に携帯を開いて置くと、腕の中でへたっているを抱き上げた
「さて、俺達は帰ろうか」
そのまま、元きた道を戻っていく
尽に抱かれながら
意地悪なキスで火照った身体を必死に抑えながら はそっと目を閉じた
静かで暗い山道も、
尽が側にいたら、何の、何の不安もない
ごめんね、と
妬いてくれた尽に心の中で謝って、はこっそり微笑した
5月の夜風が 二人の頬を撫でていく


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