冬まつり (尽×主)


ある日、が一枚のチラシを持ってやってきた
「ねぇ、尽
 今度の日曜 これ行かない?」
見ると、どこぞの短大の学園祭のチラシ
珍しく冬に開催されるそれには、楽し気な出店の紹介やら当日のイベントやらが載っている
「いいけど、どしたのソレ」
「あのね、私ここの短大に行こうかな〜って思ってるの」
「へぇ・・・」
言われて、裏面の学校紹介を見た
家からだと電車で1時間くらいの場所にある
のことだから、進路のことなんか全く考えてないだろうと思っていたのに
こんな時期からもう志望を決めているなんて、と
尽は意外な思いでを見遣った
「あのね、チアリーディング部あるんだ ここ」
「ああ、それで」
「うんっ」
頬を紅潮させ、は笑うと尽のベッドに寝転がって言う
「ね、ちょっと遠いけど行こ?
 学校見学もかねて〜」
上目づかいに見上げてくるに、尽は苦笑してハイハイ、と
そのチラシをに返した
むしろ遠出は苦にならない
二人が姉弟だなんて誰も知らない場所でのデートは、いつだって大歓迎だ

日曜日、二人は豪華に飾られた短大の門をくぐった
さすがにその賑わいは、高校の文化祭の比ではない
「いいなぁ・・・予算いっぱい出るんだろーなぁ」
つぶやいた尽の側でがクスクス笑った
「なんか会長サンって感じの発言」
「・・・そう?」
苦笑して、尽は案内の人に手渡されたパンフレットを広て目を通す
門からずっと、奥の校舎に向かって両サイドに出店が並び
中庭には舞台が設置され、何やら調子よく喋る司会の進行のもと、お色気なイベントが進められている
「わー、こんなに寒いのにあの人水着だぁ・・・」
「すごいね」
呆れたように舞台を見遣るの手を取って、尽はとりあえず新校舎と書かれてある方へと向かった
が入学したら入るであろうチアリーディング部のショーがあるとプログラムに載っているから
今の時間ならちょうどやっているはずだから

「わっ・・・・・すごい・・・」
新校舎と本館の間の芝生の広場には人だかりができていた
チアリーディング部の演技はもう始まっていて
軽快な音楽に合わせて、何人もの女の子が技を披露している
「すごーーーーーい」
は頬を染め、演技が続く間ずっと すごいすごいと連呼しながらそのショーに見とれていた
その横顔に、
頬を紅潮させ興奮している様子に 尽は微笑する
何かに夢中になってるは、とてもとても可愛いと思う

興奮さめやらぬまま、校舎でやっている催しと店を覗き、屋台に戻ってきた二人は、そこで銀細工を並べた小さな出店をみつけた
「何サークルさんですか?」
「シルバーアクセサリー友の会です」
(わー、なんか誰かを思い出すなぁ・・・)
ここだけどうも 表通りから見えない位置のようで 客足があまりなく
店番をしていた人は、とても暇そうに見えた
「今なら暇なので自分で好きなように作れますよ〜」
「え? ほんと?」
「はい、二人おそろいの指輪なんかどうですか?」
「え・・・っ」
店の人が優しそうなのに気を許して話していたが 急に頬を染めた
「・・・」
ボンヤリと
この場所じゃ売れないだろうな、とか
雰囲気が地味だ、とか
考えていた尽は そんなにはっとする
ああ、もしかして もしかして
「・・・じゃあ、作ってみようか」
「え・・・ほんと?」
「作り方、教えていただけるんですよね?」
「ええ、もちろんです〜」
頬をそめて見上げたに 微笑した
もしかして、はこういうの欲しかったんだろうか
想いが通じて、身体を重ねて
二人同じ時間を過ごしていることに、尽は満足していたのだけれど
は、こういう形あるものが欲しいと 思っていたんだろうか
だからこんな風に、興味を示したのだろうか
誰も気にとめないような こんな地味な店に

勧められるままに椅子に座り、
見たこともないような道具で銀板に線を引いたり糸ノコで切ったり
あげくはバーナーで熱したりと、作業は微妙に大掛かりだった
「こーゆう風に作るんだ・・・」
「これだとあんまり危なくないんですよ〜」
尽が一生懸命作っている横で、は興味津々にその手許を覗いていた
にとって、指輪は特別な気がして
だから色んなアクセサリーを買うけれど、指輪だけは自分では買ったことがなくて
好きな人からもらって、その人の特別の証っていう風に身につけていたいから
だから今まで、指輪をしたことがなかった
拓也だって、そんなのくれなかったから
「彼氏、センスありますね〜」
「え・・・」
「上手いですよ、はじめてでしょう?」
「尽は・・・器用だもんね」
「実は必死だけどね」
黙々と作業をする尽をチラと見遣りながら 「彼氏」と
そう言われるのにドキドキする
普段は姉弟としか見てもらえない二人だけれど
誰も二人のことを知らない場所まできたら、ちゃんと恋人同士に見えるんだ、と
は嬉しくて こっそり笑った
店の人が尽を彼氏というたび
を彼女というたび
くすぐったくて、あたたかくなる
今だけは、全てから許されて二人恋人でいられる気がする

女二人が雑談に花をさかせている間に、尽は見事に二つの指輪を完成させた
(あーもぅ二度とやりたくない・・・何時間やってんだ、これ)
想像以上の細かい作業に ため息が出た
頭痛すら感じる
「素敵なのができましたね〜」
サイズとデザインの違う二つのリング
シンプルだけどとても可愛いと感じた
店の人が言ったみたいに、多分尽にはセンスがあるから
初めてなのに こんなオシャレに出来上がるのだろう
「はい、じゃあコレ」
可愛い袋に入れてくれて、それは尽の手に渡された
「どうも」
「ありがとうございました〜」
バイバイ、と手を振りながら遠ざかっていく店の人を何度も振り返りながら が笑う
「あの人今サークル一人でやってるんだって
 私ねぇ、可哀想だから入学したら入ってあげることにしたの」
「・・・チアリーディングとかけもち?」
「うん、月に2回くらいしか活動しないんだって」
「へぇ・・・」
あの人喜ぶんじゃない、と
苦笑しながら 尽は旧校舎の方へと歩いていく
学園際では使われていないため、あたりはだんだんと人が少なくなっていった
「あれ? どこ向かってるの?」
お腹すいたから屋台に行こうよ、と
が言ったのに 苦笑して尽は歩を止めた
(まぁここなら、人がいないからいいか・・・)
そう思って そのまま黙っての手を取る
迷いなく左手を
こういうものは、ここにつけておくものだろうから
が望んでいるものは、こういう恋人の証なのだろうから
「ちょっと不格好だけどね」
「う・・・ううんっ」
薬指にはめられた銀の指輪に は真っ赤になった
そのまま、その指にくちづけられ ドキン、と
心臓が跳ねる
言葉が出てこなくなった
あんまりあんまり、ドキドキして

冷たい金属の感触がして、
それから温かいくちづけが降りてきた
指輪が欲しいなんて、今まで言えなかったけど
そういう印みたいなのを、尽があまり好きじゃないのを知っているから余計
なのに手に入れたおそろいの指輪
微妙にデザインを変えてあるから パっと見てお揃いだなんて誰も思わないだろうけれど
それでも、は嬉しかった
と、尽をつなぐもの
そんな気がした
尽の手作りの、この指輪が

そっと、二人はキスをして
誰もいない校舎の影で 少しの間だけ抱き合った
寒い風が吹き抜けていくけれど、
遠くに祭の喧噪が聞こえるけれど、
ここは二人の世界
同じ銀色の指輪が また二人の距離を近くした


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