恋と友情 (尽×主)


今日はドッチボール大会
尽の企画した、学年混合の秋のスポーツ大会

「きゃーーーっ、やだーーーっ」
「女子、逃げてないで取れよっ」
「無理ーーーーーっ」
男女混合のチーム編成で、広いグラウンドに何面もコートを取って
朝から女の子達の悲鳴と、男の怒声が響きあっていた
「ちょっと男子ーーーっ
 女子には手加減しなさいよっ」
「勝負にそんなこと言ってられるかっ」
敵チームの鈴鹿に、奈津実がさっきから何度も怒鳴っているのを側で聞きながら はひやひやといつ飛んでくるかわからないボールを見ていた
ドッチボールは、誰でも知ってる誰でもできる球技
ルールも簡単だし、と
尽の提案したこの行事に、今みんなは大盛り上がりで楽しんでいるが や他の普段球技なんかやらない女の子にとっては迷惑きわまりない
容赦ない攻撃をくり出してくる敵の魔の手から逃げながら、はさっきからどんどんと仲間が減っていくコートの中で 心臓をドキドキさせながら立っていた
こういう緊張する球技は嫌い

「女子もボール取らな攻撃できへんでー」
外から攻撃するチームリーダーのまどかが陽気な声を上げた
達のチームで まだ中に残っている大半が女子になってしまっている
避けるのは上手いが、ボールが取れない
それで、さっきから達のチームは攻撃に回れない
「そんなこと言ったって・・・」
「だってあいつら本気なんだもんーーーっ」
まどかに向かって、奈津実が敵を指差して訴えた
瞬間、ボールを持った子が 得意気な顔をして奈津実を狙う
大人気ない、容赦ないスピードボール
それはまともに奈津実の顔に向かっていった
「奈津実っっ」
一瞬 ひやっとして、
敵がボールをなげる前に は奈津実にとびついていた
「きゃぁっ」
ドタ、ズシャー
そんな音がして、乾いたグラウンドの土煙りが舞う
ボールは奈津実にもにもあたらなかったけれど、二人してグラウンドに転がった
そしてそこへポスン、と
情けをかけてくれた鈴鹿が投げたボールが飛んできて、奈津実の肩に当たって跳ね、の背中にあたって、地面を転がっていった
「ああっ、もぉ何してんのよ、アンターっ」
「あーん、ごめん奈津実〜」
剛球からは身を守れたものの、勢い余って転んだ二人ともがかすり傷を作って あげくアウト
もぉ、と
先に立ち上がった奈津実が、苦笑して手を差し出した
「あんたってほんとドジ
 二人ともアウトになってどーすんのよ」
「ごめんね・・・」
おそるおそる手を取ったに、奈津実が笑った
距離を置いていた自分
なのに、迷わず助けようとしてくれた
へたりこんで、膝をすりむいて、今泣きそうな顔でこちらを見上げている
「でもありがと
 おかげで痛いのに当たらずにすんだよ」
そうして、立ち上がった二人とも 膝を擦りむいているのに苦笑した
「あっちで手当てしよっか」
「うん」
本当に、久しぶりに奈津実が笑ってくれた
今までなんとなく、二人顔を合わせても 挨拶くらいしかしなくて
いつもみたいに、一緒にクラブもいかなくなっていた
気まずさは、ますます二人に距離を作り
それで、お互い一歩を踏み出せずにいた
まどかがの側に、いつもいるから余計に

試合を途中で抜けて、と奈津実は水道で傷を洗った
それから、用意されていた救急箱から消毒を出してスプレーする
「ここちょっと持ってて、これ貼るから」
「うん・・・」
ガーゼを切って、傷口にあてて、
それからテープで止めた
お互いに手当てをしあいながら 奈津実がくすっと笑い出した
「ごめんねっ、なんか気まずくしちゃって」
「え・・・?」
「やっぱアンタいい子だよね
 あんたは何も悪くないのに あたしが勝手に拗ねてただけなのにギクシャクしちゃってさー
 ・・・なのに助けてくれるんだもんね」
ほんとお人好し、と
言って奈津実はにこっと笑った
「かなわないなぁ、だからあいつ のこと好きになるんだろーなぁ」
両想いだね、と
奈津実は言って、苦笑した後大きく伸びをした
切ないような表情を浮かべて
「仕方ないからあたしは手ぇ引いてやるかっ」
その横顔に、ドキ、としては慌てて言葉を探した
違う、そうじゃない
奈津実は誤解している
「違うの、奈津実
 私、まどかくんのことが好きなんじゃないっ」
ああ、両想いだなんて そんなんじゃないから
奈津実は何も諦めなくていいのに
「へ? 何を今さら
 だってあんた達なんか雰囲気いいし・・・」
「違うのっ、まどかくんじやないのっ」
「じゃあ誰よ?」
「・・・・っ」
言葉を飲み込んだに、奈津実が怪訝そうに首をかしげた
「いいよ? 別に気使ってくれなくても
 あたしが先に好きだったのにー、とか言わないよ?」
「ちがうの・・・」
どうしようもなく、はうつむいて、それから困ったように奈津実を見た
奈津実に言って、信じてもらえるだろうか
こんな想い、誰も認めはしない
でも、だからといって、ここで違う名前を上げて奈津実に嘘をつきたくはない
「あの・・・」
あの、と
が言った時、中間結果報告、と
マイクで尽の声のアナウンスが入った
自然、視線がそっちへといく
その声を聞きながら、はもう一度奈津実を見た
大好きな奈津実
親友だから、気まずくても毎朝挨拶だけはしようと思った
この不安な気持ちを誰よりも聞いてほしいと思ったし、いっぱい相談したいことがある
いつも一緒だったからこそ、どれだけ奈津実がまどかを好きなのかを知ってるし
だから逆に、奈津実もの想いを知ってるはずだった
だから、こうやって、
まどかとが両想いだと勘違いして、自分は身を引いてくれようとしている
このことで、もまた悩んでいると知っていてくれているから

「あのね・・・信じてくれる・・・?」
「え? 何が・・・?」
まっすぐにを見つめ返して、奈津実は怪訝そうに苦笑した
「信じてくれる?」
「親友だもん、信じるよ」
それで、は僅かに微笑すると 大きく息を吸った
あのね、
私の好きな人は、
この心を奪っていった人は、

「・・・・え?」

告げられた名前に、奈津実は一瞬硬直して、それから瞬きを何度かした
「尽くん・・・?」
そうして、自然と今壇上で喋っている尽へと視線をさまよわせた
尽って?
の弟じゃなかったっけ?
情報は、何度考えなおしても間違いなどなく
の口から出た名前は、世間の常識では恋愛対象にはならないはずのものだった
「・・・本気?」
「うん」
ひそひそと、囁くような声になったのは無意識に
うつむいて、それでもははっきりと言った
「私ね、尽が好きなの」
それは、衝撃以外の何ものでもなかった

二人はその後、ずっとそこに座って試合を見ていた
目の前のコートで 尽のクラスの試合が始まると 自然二人とも尽の姿を目で追うようになった
顔が良くて、頭も良くて、スポーツ万能
それだけなら葉月だってそうだけど、尽は加えて愛想がよく 今や学園の人気者
カリスマ輝く生徒会長なのだ
たしかに、奈津実から見ても格好いい男だと思う
年下じゃなかったら、多分惚れていたかもしれない
バイト先でも他校の生徒に人気があるし、女の子には優しいし、奈津実にも当然のように優しい
今だって、飛んできた剛球をいとも簡単に取りながら、女の子をかばいつつ相手を確実に減らしていっている
そして、
「きゃーっ」
「いやーーー、恐いーーーっ」
さっきまでの自分達と同じように 追い詰められた敵の女の子に対してにっこり笑って
ぽふん、と
何ともうまい具合にカーブのかかったボールで軽く当てるのだ
少しの痛みも感じさせないように
間違っても顔や髪に当たらないように
ちゃんと計算して投げているのが 目に見てわかった
こういうところがモテる要因なんだろうな、と思いつつ
隣でじっと 尽ばかり見ているに苦笑した
血が繋がってるなんてことは、多分本人が一番わかってて
こんな想い、誰も認めてくれないとわかってて
それでもは言ってくれた
信じてね、なんて不安そうにしながらも
奈津実には、言ってくれた
親友だから

「しょーがない、あたしだけでもアンタの味方になってあげなきゃね」
突然の言葉に、は試合に向けていた目を奈津実へと移した
「え?」
「尽くんのこと
 あたしだけでも応援してあげるって言ってんの」
その言葉に、の顔が赤くなっていく
そしてその目に涙がたまって、それはほろりとこぼれていった
「泣くことないでしょー」
「だって・・・奈津実〜っ」
ふえーん、と
抱きついて泣き出したに、奈津実は苦笑した
はいつから尽を好きだったんだろう
拓也と別れたと言った時には、もう別の人が好きだからと言っていた
ロクに話もできずに、勝手に相手がまどかだと思い込んで ギクシャクして気まずい空気を作って
はきっと辛かっただろう
こんなこと、誰にも相談できなかっただろうから
想い悩んで、倒れてしまう程に
「あたしも姫条のこと諦めずにすむしねっ」
「うん・・・」
ぎゅっ、と
お互い抱きしめあって、二人はまた前みたいに笑った
遠かったけれど、
そして未だ 二人の恋は前途多難だけれど
それでも友情は復活した
それが今は、何よりも嬉しい


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