夕焼け (尽×主)


修学旅行から戻って、クラスは微妙な雰囲気だった
今まで仲のよかったと奈津実が、最近ぎくしゃくしていて、
加えて、の元彼氏の拓也と、まどかが殴り合いの喧嘩をして修学旅行の途中で帰されたのに 噂が噂を呼んでいた
「だって藤井さんって姫条くんのこと好きだったでしょ?
 だから4角関係なんじゃないの?
 さんをとりあって、二宮くんと姫条くんが喧嘩したらしいし」
「でもなんか、二宮君とさんって別れたって噂もあるよ?」
「なんか、ぎくしゃくしてるよね」
「うん・・・」
休み時間も、放課後も、はぼんやりしていることが多くなった
窓の外の夕焼けを見る
あの色が好きで、小さい頃 尽と坂道の上でずっと見ていた
の髪の色は夕焼け色だね、なんて
尽が言ってくれたのがすごく嬉しくて、
それから自分の赤すぎる髪の色も好きになった
秋の夕暮れ
好きな色が見れるのはほんの短い時間だけ
ぼんやり、と
尽やまどかや奈津実のことを考えながら はまたため息をついた
どうして、恋愛はこんなに難しいんだろう

「大丈夫だった・・・?」
「平気や、平気
 あいつがむかつくこと言うから ついブチ切れて殴ってもーてん
 そしたら意外にやり返してきよってな、なんや気づいたら殴り合いや」
修学旅行から帰った次の日、口元にばんそうこうを貼って登校したまどかに はまっ先に声をかけた
あの夜の喧嘩
理由はわからなかったけれど、二人がそんな風に殴り合ったのを見たのがずっと心にひっかかって
どうして? と
聞いたらまどかはにこっと笑った
は自分のもんや、とか言いよるからな
 勘違いすんなって、わからしたったんや」
いつもの明るい顔
喧嘩慣れしているまどかの怪我はたいしたことはなく、むしろひどいのは拓也の方だった
その日と次の日の2日休み
3日目に出てきた時には 顔にばんそうこう、腕に包帯を巻いていた
まどかも拓也も、お互い顔も合わさず、もちろん会話もなく
その日は終わり、そして今日
バイトがあるからと6限目をさぼって帰っていったまどかに、拓也は薄く微笑した
それに誰も気付かなかったけれど

手許の日誌に視線を戻して、はため息をついた
教室にいる時、まどかは何かとに気を使ってくれる
昨日はチャーハンを作ったんだと一緒にお弁当を食べたりして、拓也がに近付かないようにしてくれた
拓也が側へ来る度
話しかけてくるたび、心が重くなるにとったら、まどかの行動も言葉もとても救いになっていた
だが、そのせいで
奈津実はに、距離を置いている
自分の好きなのはまどかじゃなくて尽なんだと、
そう言っても、この状態では信じてもらえないかもしれない

ガラ、と
静かな教室にドアを開ける音が響いて はふ、と顔を上げた
誰かが忘れ物を取りにきたのだろうか
振り返ると、拓也がいた
瞬間、身体中の血が凍りついたような感覚に陥って
あの、修学旅行での悪夢が蘇った
身体が、動かなかった

「今日は、姫条もいないしね・・・」
拓也は、そう言ってゆっくりと近付いてきた
窓の外は茜色に染まり、
今が一番綺麗な時間
がたん、と
逃げようとしたの身体は、机と椅子に阻まれた
そうして拓也の手が伸びて来る
「いや・・・」
触らないで、と
払い除けた手を、そのまま掴まれた
恐いくらいに、強い力だった

そのまま椅子に押し付けられて、両腕を取られたのに必死に抵抗した
いやいやと、激しく首をふって、腕をありたけの力で押しやって
それでも、拓也は小さく微笑しただけで 何なくの動きを封じた
椅子に座らされたの両足の間に膝を突っ込んで、
窓際へと追いやり、押し付け
逃げられないよう両腕を押さえ込むと、勝ち誇ったような目が見下ろしてきた
「諦めて、僕のものになりなよ 
それは落ち着いているけれど、優しさのかけらもない声
そんなの恋とか愛じゃない、と
無性に悲しくなった
こんな人じゃなかったのに
もっと優しくて、人の気持ちのわかる人だと思ったのに
が悪いんだよ
 僕から離れるから、僕以外の人を好きになるから
 僕のものにならないから・・・」
切ない声
優しく穏やかな顔
微笑がこぼれて、ふ、と口付けがおりた
苦しい
苦しい
助けて
「つく・・・し・・・」
無意識に名前を呼んだ
大好きな人
この心を奪っていった人
尽、助けて
今すぐここに来て、
ここから、救い出して
「尽・・・・・・・・・・っっ」

カツンカツン、と
足音が響く
夕焼け色に染まった教室
長い影が伸びて、その主は冷たい声で言った
「勘違いしてませんか? 二宮サン」
途端、ぐい、と拓也の身体が離れた
その肩にかけられた尽の手が、強い力でから拓也を離す
の騎士は姫条サンじゃないんですよ
 姫条サンが帰ったからって、何安心してんの?」
尽特有の、自信に満ちた目が真直ぐに拓也を見下ろした
そしてその、落ち着き払った声は 容赦なく拓也を攻撃する
「修学旅行での停学2日
 旅行中と今回の、レイプもどきの行動
 いいかげんにしとかないと、あなたの大切なエリート人生に傷がつくよ?
 職員会議にかけてもいいんだよ
 これ以上、に触れたら、あなたをこの学校から追い出してあげるよ」
冷たい言葉は、雨のように降り注いだ
「俺は本気だからね
 姫条サンみたいに甘くないよ?
 殴って気がすむ程、俺は優しくないからね」
今や、全校生徒から支持され、教師にも絶対的な信頼をもつ生徒会長の言葉は、鋭く拓也に突き刺さった
を傷つける奴には容赦しないよ
 わかるよね? あなたより、俺の方が力も地位も頭もある」
恐い程の威圧感
いつも笑ってて、優しくて、明るい人気者
裏表のないような真直ぐな印象を受けるのに、嘘か冗談か本人はよく笑っていった
「俺も計算高い種類の人間だからね」
それは、不快ではなかったけれど
そう言われても、そんな気にさせないから
尽の言葉も行動も、清清しくてワクワクするから
こんなこと、思ったことなかったけれど

「君こそ、アブナイ考え方してるよ」
「なんとでも、自覚はあるんで」
のためなら、何にも容赦のない尽
どんな手段を使っても拓也を排除すると 言った言葉に、拓也は無言で、二人に背を向けた
「・・・わかったよ」
それから、つぶやいて一つため息をついた
「だけど、君たちが結ばれることなんか一生ないだろうね」
そうして、まるで呪いみたいな言葉を吐いて 彼は教室を出ていった
ようやく、教室に静寂が戻る

尽の腕の中で、はぼんやりと小さい頃のことを思い出していた
新しく引っ越してきた街
仲の良かった友達ともお別れして、泣いていたに尽が言った
「俺はずっと、ねぇちゃんの側にいるよ
 お別れなんか、来ないよ」
だから泣かないで、と
幼い弟は、この街で見つけたとっておきの場所に連れていってくれた
手をつないで、幼い子供が二人 必死に坂を上り
その上から、真っ赤に街をそめる夕陽を見た
茜色、と尽の髪の色と同じ
お別れはこないよ、と
その言葉を、今も覚えている
本当にずっとずっと、尽は自分の側にいてくれるのだろうか
二人、一緒にいられるのだろうか
「あんなの、ただの負け惜しみだからね」
不安なの胸中を察したのか、尽はを優しく抱きしめながら笑った
「これであの人も元のエリートコースに帰るんじゃない?
 まだに手出すようなら、本気で退学にしてやるよ」
「・・・尽ってば本気なの?」
「本気だよ」
「そんなのできるわけないじゃない」
「できるよ、俺なら」
冗談か、本気がわからない様子で、尽はくすっと笑った
は何も心配しなくていいよ」
「尽って・・・ほんとに鬼」
「あはは、今頃気付いたの?」
「・・・・・」
不安な心に、温かさが広がっていく
触れられたところから、尽の熱が流れ込んでくる
大好きな尽
そうやっていつも、自信満々でいてくれるから
全てが可能に思えてくる
尽なら、何でもできる気がする
「大好き・・・」
「俺も大好きだよ、
囁かれて、優しいキスをもらった
尽の腕の中は安心する
茜色に染まる教室で、は目を閉じた
二人ずっといられたらいいのに
昔の尽の言葉通り、
拓也の言葉なんか、跳ね返して
「ずっと一緒だよ、俺が離さないからね」
尽は囁いて、もう一度キスをくれた
二人、今は鼓動が聞こえる距離にいる


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理