ダブルデート (尽×主)


秋の晴れた日曜日
朝っぱらから鳴り響いた携帯に、は心地よい眠りをさまされた
? 今日暇よね? 遊園地来て!!
 デートしよっ、デート」
「ふぇ〜? 私寝てた〜」
「ちゃんと起きてよっ、女の子足りないんだからー
 11時に遊園地の前ねっ、わかった?」
「ふにゃー?」
一方的な電話は、親友の奈津実から
いつものけたたましい勢いで喋った後、電話は切れてツーツーという電子音だけを残した
「11時・・・?」
時計を見たらまだ9時
「なんかいい夢見てたのに〜」
もそもそと、それでも急な呼び出しに応えるべく は起き上がると大きく伸びをした
そこへ尽が入ってくる
「あれ? 珍しいな、もぉ起きてんだ」
「もー、部屋に入る時はノックするーっ」
「はいはい」
すっかり身支度を整えた尽が笑ったのを見て はハタ、と動きを止める
そういえば、昨日一緒に買い物に行こうと言っていたっけ
今の今まですっかり忘れていたけれど
「あ・・・」
あからさまに忘れていた、という顔をしたに 尽が苦笑する
「別にいいよ? 何か用事でもできた?」
「う・・・するどい」
「さっきの携帯鳴ったの聞こえたからね」
上目づかいに尽を見上げると、尽はちら、とを見下ろし
それからちょいちょい、と指でをこちらへ呼んだ
「なに?」
「今日の予定、俺の方はキャンセルしてやっていいよ
 そのかわり、熱〜いキス1回」
「えっ・・・」
すっとんきょうな声を上げたに、尽が眉を寄せる
「何、俺の方が先約だろ
 それを いいよって言ってやってるのに」
「わ〜ん、だって奈津実が〜」
「知らないよ、キス1回で許してやるって言ってんだから 素直にしたら?」
「わっ、私がするの?!!!」
「・・・・・当然だろ」
たまには、と
意地悪に笑ってベッドに座った尽の顔を困ったように見つめ、は手に握った携帯を見下ろした
本当は尽と買い物がしたかったんたけど
奈津実の勢いには勝てそうもなかったし、
今からかわりの女の子を探すのは大変そうだし、
最近ちょっと拓也のことで落ち込んでたから、奈津実に話を聞いてほしかった
この苦しい状況を、親友の奈津実には知っておいて欲しかった
「ごめんね・・・」
「いいよ」
結果約束を破ってしまうことになった尽に謝って、
は、そっと尽の方へと屈み込んだ
もう何度もしたキスも、自分からだと緊張する
触れた瞬間どきっ、として
思わず身を引いたら、その腕をしっかりと掴まれてしまった
「これで終わり?」
「う・・・・・」
顔が真っ赤になるのがわかる
恥ずかしくて、自分からキスなんてうまくできない
「だめだよ、ちゃんとしてくれなきゃ行かせない」
「・・・・」
意地悪な言葉に、胸がどきどきする
笑ってるその唇に、もう一度口付けた
尽がいつもするように、そっと舌を差し入れると その腕に抱き締められて 震える唇に吐息ごと飲み込むよう、尽の唇が重ねられた
そのまま舌をからめとられ、何度も何度も角度を変えて
濡れたようなキスが繰り返される
「ん・・・っ」
身体が一気に熱くなって、足が震える
それでも、尽は解放を許さず
そのまま まるでむさぼるように キスは長く続いた
が立っていられなくなるくらいに

約束の遊園地へと向かいながらも、の頭の中はぼんやりとしていた
尽に触れられると、痺れたようになる身体
熱いキスは頭が真っ白になる
その腕に抱き締められると安心するし、あの声で囁かれるとくらくらする
弟だなんて、意識はもうなかった
そこにいるのは、誰よりもを想ってくれる ひとりの男の子

、おそーい」
「ごめん〜」
遊園地に着くと、奈津実はもう来ていた
「よぉ、〜ひさしぶりやな〜」
「おはよう、
そして、その隣にまどかと、拓也
一瞬、の身体がぴくりと反応して
顔から笑顔が引いたのに、拓也は静かに微笑した
「あんた達最近デートしてないんだって?
 予備校で忙しいのはわかるけど、ちゃんとデートくらいしとかなきゃだめだよ〜」
奈津実の声が遠くに聞こえる
ああ、誰がそんなことを言ったんだろう
デートをしてないのは当たり前なのに
二人は別れたから、もう会ったりしない
こうやって、顔をあわせるだけで苦しいのに、
恐いのに
「奈津実・・・」
「さっ、今日はめいっぱい楽しもう!!」
一人 はりきっている奈津実には、の声は届かなかった
「行こう、
当然のようにの手を取り、拓也が言ったのに は震えながら小さく首を振った
「ど・・して・・・」
どうして、こんなデートに拓也は来るのだ
相手が誰だか知らなかったわけじゃないだろうに
今朝の電話で聞けばよかった
誰が来るの?
あの朝のバタバタでそんなこと、考えてる余裕なかったけれど
「どうしてって?」
まどかと奈津実が並んで遊園地のゲートをくぐるのを見ながら 拓也がクスと笑った
「藤井さんに言ったんだ
 最近、二人の時間が合わなくてロクにデートもしてないってね
 そしたら君を呼んでくれた
 いい人だね、彼女は協力的で、単純で」
それで、背筋がぞっと寒くなる
別れて欲しいと言っても、別れてくれない拓也
気持ちがこんなに冷めてしまっては、二人の関係に何の意味もないだろうに
どうしてこんなことをするのだろう
「それは、が好きだからだよ」
その言葉に、以前のような甘さはない
「そんなの・・・」
「さ、行こう
 藤井さんが変に思うよ
 せっかく彼女がセッティングしてくれた場を台なしにしたくないだろ」
手を引かれたのに、振払う力なんか入らなくて、それではよろよろと歩いた
不快で、恐い
こんなことになるんなら、来るんじゃなかった
でがけに、キスをくれた尽の顔が過って涙がにじんだ
尽の側に、帰りたい

いくつかのアトラクションを楽しんだ後、遊園地のキャラクターグッズを見に入った店で、の側にまどかが寄ってきた
「楽しんでるか?」
いつもの陽気な声に、は笑って答えようとして
瞬間にじんだ涙に、あわてて俯いた
奈津実はまどかが好きだから、当然まどかと一緒にいるし
と拓也はつきあっていることになっているから、二人がばらばらになることもなかった
それで、ずっと拓也の隣にいて
ずっと息苦しかった
嫌いになったわけじゃない、と言ったけれど
今はもう、残っていた想いも冷めた
側にいたくない
拓也が、わからない

「どーしたんや、自分らうまくいってへんのか?」
ぽんぽん、と
泣き出したの髪をなでて、まどかが困ったように言った
そういう雰囲気を、の表情から読み取っていたのか 泣くに動揺した様子も見せず いつもの落ち着いた様子でまどかは苦笑した
「私たち・・・もぉ・・・つきあってない・・・」
震える声で言ったら、うんうん、と優しく相づちを打ってくれた
「ほんなら藤井がおせっかいしたんやなぁ
 そんな早よ言うたら良かったのに
 二宮ももつきおーてるふりなんかせんでエエのに」
呆れたような声
それに安心して、はまどかを見上げた
涙が止まらない
いつ奈津実や拓也が戻ってくるかわからないのに
一度溢れてしまったものは どうしてもとまらなかった
「よしよし、泣かんでええ
 そんな嫌なんやったら俺がフォローしたるからな」
まるで子供をあやすみたいに 髪をなでられて
側で笑ったまどかに は泣きながらひとつうなずいた
助けてほしかった
この息苦しい状況から
せめて、奈津実と二人きりになれて 奈津実に全部話せればいいのに

結局、その後は まどかが強引にと乗るとひっぱりまわし、
せっかくのデートを邪魔するなと文句を言う奈津実を言い包めつつ 無事に夕方を迎えた
「はー、疲れたね」
「うん」
最後に乗ろうと言った観覧車に並びながら、は奈津実の顔を見遣った
「ごめんね、奈津実」
「ん? 何が?」
「後半、ずっとまどかくんと乗っちゃって」
「ああ、いいのよ
 あんたが悪いんじゃないでしょー
 あのバカがあんたと二宮のデートぶちこわしてんだから・・・何考えてんだか」
「・・・違うの、奈津実」
ようやく奈津実と二人きりになれた
まどかが無理矢理、拓也を買い出しに連れ出してくれたから
やっと言える、と
は怪訝そうな顔をしている奈津実に 切り出した
「あのね、私と拓也くん・・・もう別れたの」
それは、奈津実にとって予想もしなかった言葉で
だが目の前のは、とても冗談を言っているような顔ではなかったから
理解できないと言った顔をして、奈津実はしばらく黙っていた
「でも二宮があたしに言ったの一昨日だよ?
 とデートする時間が取れなくて、すれ違ってるって」
「うん・・・でも・・・本当なの」
キョトンとした奈津実を見つめて、は声が震えるのを必死に我慢した
奈津実は親友だから、奈津実だけにはわかってほしい、と
拓也に別れを告げてから2週間
バタバタしていてちゃんと言えてなかったけれど
「私達、別れたの・・・
 私、他に好きな人がいるから・・・」
そして、それでも拓也は別れてはくれないけれど
こうやって何も知らない奈津実を利用して、何ひとつ変わらぬ顔をしてデートしたりするけれど
「・・・そ・・・なんだ
 なんかびっくりするよ、そんな急に言われたら」
今にも泣き出しそうなに、奈津実は苦笑して それから笑った
「元気だしなよっ
 二宮よっぽどあんたのこと好きなんだね
 別れてるのに別れてないフリしてデートとかって普通できないよねー」
いつもの調子で笑ってくれる
言う間に、二人の前に観覧車が降りて来た
「あーあ、あいつら間に合わなかったね」
「うん・・・」
「ま、いっか
 あたし達二人乗ろ」
「うん」
笑った奈津実と、心がようやく少し温かくなった
二人は観覧車に乗り込んだ
奈津実が、先に乗ったの背中を 少し含みのある目で見ていたのに 当然は気づかなかったけれど

「おー、回っとる回っとる」
自動販売機でジュースを買った帰り、歩きながら少し遠くに見える観覧車を見上げてまどかが笑った
「しかしアンタもよーやんなぁ」
黙って後ろを歩いている拓也に声をかけると、拓也は無言で視線だけを返した
モテてるからなぁ
 アンタらが別れたって知ったらどんだけの男が喜ぶか」
「・・・別に僕には関係ないよ」
「嫌がってる女につきまとーて何が楽しいんや?
 潔う諦めたらエエのに、ちょっと見苦しいんちゃう?」
「なりふりなんかかまっていられないくらい、が好きだからね」
「へぇ・・・こらまた優等生には似合わん言葉吐いたなぁ」
からかうような、まどかの言葉に 拓也はそれ以上は返事をしなかった
「ま、可愛い女やから気持ちはわからんでもないけど
 好きな女泣かせてまで側にいたいか?
 よぉ考えて行動しぃや」
大きく伸びをする
これだけゆっくり時間をかけたから、と奈津実は二人 先に観覧車に乗っただろう
が望んだように、親友に話をすれば 少しはも安心できるだろうか
あんなに不安そうに、心細そうにしていたは可哀想だったから
ここへ来てからずっと、どこか俯きがちで辛そうな顔をしていたのが とても気になったから
「これでオレにもチャンスがあるってわけやな」
一人楽し気に笑って、まどかは夕暮れの空を見上げた
少し前から気になっていた
彼氏がいて、しかも二人はラブラブだと聞いたから 諦めていたけれど
「再熱やな」
つぶやいて、満足気にまどかは笑った
そうとわかれば、遠慮はしない

秋の日曜日
それぞれに、それぞれの想いを抱えながら、4人は遊園地を後にする


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