流れ星 (尽×主)


この秋はじめての社会見学はプラネタリウムだった
ほとんどの社会見学に参加していたは、今回ももちろん参加
「星は好きか?」
「はい、好きです」
「そうか、ではレポートは期待できるな」
「うっ、あまり期待しないでください〜」
ロビーで氷室と話しながら、はじめて来るプラネタリウムに少しドキドキする
星は好き
ロマンチックだから
キラキラ光ってるのを見ていると飽きないし、落ち着く気がする
もらったパンフレットを見ながら開場時間を待った
どんな風な星が見えるんだろう

開場と同時に生徒達は中へと入り、も氷室と一緒に足を踏み入れた
っ、こっちこっち」
「え?」
はこの席ね」
「え? あ、うん」
ざわざわと仲のいい友達同士、並んだ席を取り合う中 も腕を掴まれた
だが「ここ」と座らされた席の側には 奈津実や、その他の仲のいい女の子が誰もいない
「えー? どうしてみんなそっちなのー?」
身を乗り出して、そう言ったに だが奈津実は悪戯っぽく笑っただけだった
「まぁいいからいいから」
そして、
なによぉ、と
不満を顔に出した時、隣に誰かが来た気配がした
見上げると、そこにいつもみたいに微笑んだ拓也がいた

「拓也くん・・・」
「あんた達最近デートできてないんでしょー
 こういう時くらいデート気分味わっときなよ」
「そうそう、二人きりでね〜
 邪魔しないでいてあげるから」
前の方の席で、奈津実が笑った
学年公認のカップルだった達は、今や拓也の思惑通りに学校公認の仲になりつつある
二人が放課後抱き合ってただのキスしてただの
噂はよく女の子達の口にのぼるし、
何かとみんなで、二人を一緒にいさせようとした
今もそう
望んでもいないのに、こんな風に
「僕がお願いしたんだ」
当然のように隣に座って、拓也は笑った
「最近忙しくてデートしてないからって
 そしたら、みんないい人だよね
 こんな風に協力してくれたよ」
その言葉に、は胸が痛くなった
どうして、二人はもう別れたのに、こんなことをするのだろう
まだ二人のことを恋人同士だと思っているみんなに、何度もう別れたんだと言おうと思ったか
でも、その度に聞いてはもらえなかったし、
言っても拓也が否定しただろう
少し喧嘩をしただけだとか
今、は機嫌が悪いんだとか
「こんなの・・・意味ないよ」
声が震えた
ブー、という音とともに照明が落ちると 涙がこぼれた
隣にいる拓也
想いは冷める一方で、
不安と嫌悪が身体を支配した
こんな場所、一刻も早く出ていきたい

星の説明は、2部構成になっているらしく、途中で一度休憩が入った
拓也の方を見もせずに、まっ先にロビーへと出て は携帯で慣れた番号を押した
3コールで相手が出る
? どうしたの?
 社会見学なんじゃなかったっけ?」
いつもの明るい声が返ってくる
今朝、プラネタリウムに行くんだと言ったら 氷室先生もロマンチックだね、なんて言って笑ってた
「もぅ終わったの?」
「ううん、今休憩
 なんかね、星みてたら夏休みのこと思い出したよ」
「ああ、田舎の星はすごかったもんね」
「うん・・・」
尽の声を聞いて、少しだけ心が安心した
優しい声
快活で、自信に満ちていて
大丈夫だと言ってくれているようで
は、こっそり深呼吸した
後半開始5分前のブザーが鳴る

空に輝く星
見上げながら、心は夏の田舎へと飛ぶ
毎日どこかへでかけては、二人で遊んだあの夏休み
星を見たり、蛍を探したりしたっけ
いつも尽はのために、そこにいてくれた
思い返して、ドキ、とした
そう、
尽はいつもいつも、のことばかり考えて側にいてくれた
悪戯っぽく笑って、当然のように
を守っていてくれた
すぐ隣で
(尽・・・会いたいよぉ・・・)
側にいて当然だった存在だから
ほんの少し離れているだけでも こんなにも寂しく感じる
望まない相手が隣にいて
それが当然のように、を自分のものだと言うのが悔しくて悲しくて
違うのに
この身も心も、尽だけを向いているのに

「どうだった?」
「綺麗でした」
「そうか、レポートの提出は明後日だ」
「はい」
やっぱりいち早くロビーに出たは、2番目に出てきた氷室と少しだけ話をした
拓也とは一切口をきかなかったし、見もしなかった
何人かのクラスメイトがこの後の遊びの相談をしている
そを横目で見て一言注意し、氷室は生徒達を解散させた
「ねぇ
 この後ボーリングかカラオケ行かない?」
「え? 」
「姫条とかも呼んであるんだ〜
 それに二宮も来るってさっ」
「え・・・・」
出口へと向かいながら、いつのまにか、側を歩いている拓也を見上げた
また不安が広がる
そうやって、なんでもない顔をして 隣にいるのが恐い
笑ってるのが、恐い
「私・・・」
拓也が来るならやめておこう、と
そう言おうとした時だった
出口の前に、尽がいた
も、拓也も、一瞬動きを止めた

の姿を見つけると、尽はにこっと笑った
どうしてここにいるのかなんてわからなかったけど、
一気に、心が温かくなる
ああ、尽が側にいる
それだけで、こんなにも安心する

「あれ? 尽くん?」
「どうも、藤井さん」
拓也のことはまったく無視して、尽はにこっと笑うと を見遣った
「迎えに来たよ」
「・・・うん」
声が震える
今一番会いたかった人
側にいてほしかった
心が読めるのだろうか
こんなところに、いるなんて
「え? なんか予定あった?」
「これからちょっと遠出するんだ」
「なんだ〜
 じゃあカラオケ無理かぁ」
「うん、ごめん」
のかわりに尽が言って、ボゥ・・・としているの腕を取った
「ほら、、いくよ」
「あ・・・・・」
強い腕
安心する
尽の側へとよろめきながら歩いて、は明るく手を振る奈津実に 同じ様に手を振り返した
「じゃ失礼します」
そうして、そのまま
尽について、駅まで歩いた
言葉は、出なかった

「ねぇ・・・どこいくの?」
人の少ない電車に乗って、しばらくした頃 はようやく口を開いた
「遠くの河原」
「どうして来てくれたの?」
の声が泣きそうだったから」
隣で、くす、と笑った気配があった
見遣ると、尽が優しい顔でこちらを見ている
「二宮サンも諦め悪いね
 藤井さんとかに上手いこと言ってと一緒にいられるようにしてるんだろうけど
 ・・・悪あがきだよ、そう長くはもたないよ」
苦笑まじりの言葉に、は小さくため息をついた
ずっと隣に座っていた拓也
二人は一切口をきいていないけれど、隣に座っているというだけで周りは二人をまだ恋人同士だと思っている
それで満足なのだろうか
の気持ちはどうでもいいのだろうか
「来てくれてありがとう」
ぎゅっ、と尽の手を握ったら うん、と落ち着いた声が返ってきた
このまま遠くへ
誰もいないところへ行きたい

夜8時、ようやく電車は目的地についた
「遠かったよ〜」
「家には言ってきてあるから大丈夫だよ」
「うん」
降り立った無人の駅
誰もいない田舎
「こんなとこ、尽来たことあるの?」
「うん、一度だけね
 バイトの先輩が釣りに連れてきてくれた」
「ふーん・・・」
誰もいないから、二人は自然手をつないで
尽の案内のまま、ゆっくり歩いた
駅の側の、河川敷
そこへ出ると冷たい風がふきつけていった
「わっぷ、息できない〜」
「ちょっと我慢して」
冷たい夜の風は、身体を冷やしたけれど、
もやもやとしたもの綺麗に消してくれる気がした
気持ちいい
辺りは静かで、尽と二人きり
やがて、風があまり来ない場所へと来ると 尽は座るように仕種で示した
草の上に腰を下ろすと、ふわりといい匂いが鼻をすくずっていく
「あ、草の匂いがする〜」
「田舎思い出す?」
「うん、思い出す〜」
同じようにして座った尽は、そのまま仰向けに寝転がった
も真似して寝転がる
そして、驚いて目を見はった
今まで歩いてきて、これに気がつかなかったなんて
視界いっぱいに広がる、星空
降るように輝く星たち
チカチカしているのに手が届くようなこの光景に は言葉を失くした
涙がこぼれそうだった

河川敷に二人して寝転がりながら 二人はしばらく星を見ていた
星なんかどうでもいいと言う尽は、
だがいつもいつも、のために素敵なものをプレゼントしてくれる
夏の蛍も、秋の星空も
このために、ここまで連れてきてくれたんだろう
泣き出しそうな声で、夏の田舎を思い出したなんて電話したから
心配してくれたのだろうか
尽はいつも、の気持ちを知っててくれる
そうして、こうやってのために側にいてくれる
「よく見てなよ、流れ星見えるから」
「え?!!」
「たぶんあそこあたり、釣りしてる時もよく見えたんだ」
「うそ・・・そんなの見たことないよ」
「見せてあげるよ」
側で尽が笑う
ドキドキしながら、空に目をこらした
見せてあげる、
どうしていつも、そんなに自信満々なんだろうなんて
思いながら、ドキドキが止まらない
いつまでもいつまでも、このままでいたい
ずっと尽の側がいい

スゥ、と
短い尾を引きながら星が空を移動したのは、それから10分程後のことだった
「あっ、今っ、今の?」
「ちゃんと願い事した?」
「え?!!! そんなのしてる暇なかったよーっ」
「じゃあもう一個見つけて願いごとしなよ」
「うんっ」
はしゃいだは、また空に目を戻す
こうして寝転がっていると 上と下がよく分からなくなって
自分も空にいるみたいな気分になってくる
まるで浮いているような感覚になり、すごく気持ちよくなる
今はもう、心もすっかり落ち着いて

ふいに、尽が起き上がってかがみこんできた
そのまま、視界の半分ほどをふさがれ 唇に触れられる
甘いキスは、何度も何度も降ってきた
静かなこの場所で、の唇からもれる吐息が、耳をくすぐっていく
「ん・・・尽・・・」
舌をすべりこませて、奥まで深く口付けるのに 身体の熱が一気に上がる
震える腕を尽の背中に回した
からみとられる舌に、目眩がする
まばたきして、目を開けたら 遠くの空にまた星が滑っていった
(ずっと、尽といられますように)
熱いキスが繰り返される
お互いの存在を確かめるように
想いを全部注ぎ込むように
(ずっと、二人でいられますように)
輝いていた星がまた一つ、落ちていったのが見えた
はまた、目を閉じた

誰もいない河川敷
流れ星に願いごとをして、
大好きな人をだきしめて、キスをして
二人は想いを囁きあう
最終電車のタイムリミットまで


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