後夜祭 (尽×主)


後夜祭は7時から行われた
続々と、グラウンドに運び込まれる各クラスから出た巨大ゴミ
お化け屋敷のセットとか、演劇の大道具とか
とにかくそれを8個ほどの山に積んで、まわりに器用に木材を積んで、やがて火がつけられる
赤々と、燃え出したキャンプファイヤーをかこみ、自然と輪ができると、音楽が流れた
もうおなじみのフォークダンス
この一ヶ月間、昼休みの放送で延々かかり
自主練習に、たくさんの生徒が参加してこの日を待っていた
今日がその、本番
文化祭委員は今も、忙しく動き回っている

さん、こっち」
「あ、拓也くん」
後夜祭開始から30分ほど遅れてグラウンドに上がってきたを見つけて、拓也が手招きした
「ちょっとまっててね、
 全クラス、片付け終わったって報告してくるから」
は、校舎担当
全てのクラスの片付けが終了し、教室の鍵が返されるのをチェックする係
予定より30分程おくれて、全ての担任教師に確認をとり、今やっとここへ来たのだった
他の委員も、それぞれに自分の役目で動いている
「報告なんかいいよ、どうせもう始まってるんだし」
「だめだよ、ちゃんと言いにこいって言われてるんだから」
拓也は、ここでゴミを山に分けるのに指示を出す係だったから が来るのが待ち遠しかったのだろう
じれったそうに、後をついてきた
「委員はつまらないね、みんな楽しそうなのに僕らはまだ仕事なんて」
「そぅ? 私はなんか楽しいなっ」
「僕はさんと踊りたいよ」
が、生徒会の役員に報告をしているのを見ながら拓也がつぶやいた
うらやましそうに、踊っているクラスメイト達を見ている
「ああ、さん
 すみませんけど、向こうの監視にあたってもらえませんか?
 屋上に思ったより人数取られてしまって、人足りないんです」
「わかった、あっちの輪ね?」
忙し気に本部で進行表を見ていた生徒会役員の言葉に、が笑って答えたのを拓也は大袈裟にため息をついて肩をすくめた
「他の委員はもう遊んでるよ?」
「いいじゃない、別に」
さんは僕と踊りたくない?」
「あとで踊れるよ」
当日の仕事分担表を配られた時、不服そうにしていたから 拓也は自分達委員がこの後夜祭で遊べないのを不満に思っているのだろう
にとったら、当然の、予想されたことだった
尽の企画書を何度も何度も読んだから
これだけの人数のいる場所で、8つものキャンプファイヤーを作って
あげく、夜の学校という特殊な場所で、危険はどれだけ気をつけても常にあった
だから、教師や委員が万全の配置で、始終監視している
何か起こってからでは遅いから
だから、委員は当日、この素敵なお祭り騒ぎの中、遊んでなどいられない
ほんの30分ずつ、交代で当番を抜けられる以外は

「拓也くんは、遊んでていいよ?」
一緒に8つ目のキャンプファイヤーの監視についた拓也に、が苦笑した
「今、休み時間でしょ?」
さんと一緒じゃなかったら意味がないよ」
「・・・ごめんね」
彼氏の言葉に、は困ったような顔で笑った
拓也はを大切にしてくれる
好きだと言って、優しくして、いつも想っていてくれる
も拓也が好きだった
だから、二人はこうしてつきあっている
だけど、

カチ、と
校舎の時計が8時を刺した時、ドォン、という音とともに急にあたりが明るくなった
フォークダンスの曲が止まり、踊っていた生徒達が皆 一斉に空を見上げた
そこに、二発目
またドォン、という音とともに空が明るくなった
大輪の花が咲く
「え・・・何?!」
「花火?!!!!」
流れる曲がいつのまにか雰囲気のあるものに変わっていた
ざわざわと、生徒達が空を見上げたまま呆然としている上に もう一発
今度は歓声が上がった
「うわーーーっすごいっ」
「花火だーーーっ」
屋上から、光が溢れるように下りてくる
同時に空には大輪の花が咲く
「綺麗ね・・・」
うっとり、とはその花火と光の流れを見上げた
尽が最後まで粘って実現させた、屋上からの花火の打ち上げ
大学の学園祭なんかでそういうことをやっている専門の業者まで呼びつけて、直接理事長と交渉したとか
それで、理事長に、予算を出させるのに成功したとか
(尽、頑張ったね・・・)
尽は昼頃からずっと屋上で業者と準備をしていた
今も、屋上にいるのだろう
姿の見えない弟に、
この素敵ないイベントの主催者に は心の中でつぶやいた
(最高に素敵よ・・・)
長い間、一緒に頑張ってきた
放課後遅くまで残ったり、何度も会議をして意見を出し合ったり、
尽がいろんな機関に電話をしている横で、それの会話を記録したり
はできるかぎり、尽を手伝った
文化祭委員として、
尽の姉として、
尽の側にいる、一人の女の子として
さん・・・」
ふ、と
誰もが空を見上げる中、隣からかかった声には拓也に視線を向けた
「ん?」
途端、その唇にそっとキスされ 驚いて目を見開いた
こんな場所で
みんな花火を見ているからって、こんな側に人がいるところで
「た・・・拓也くん・・・」
唇がはなれると、は俯いて小声で相手を責めた
「何・・・急に・・・」
この心に生まれた、怒りのようなものは何だろう
突然、場所も考えずにされたことだけではないような、この重いような気持ち
「こんなとこで・・・しないで・・・」
ドキドキさえも、今はしなかった
花火が上がり、辺りが明るくなって、
それで、拓也の顔が見えた
「好きだよ、さん」
「拓也くん・・・・・」
どう答えでいいのか分からなかった
ただ不快感だけが唇に残っている
何だろう
どうしてこういう気持ちになるんだろう
「好きだよ」
また花火が上がった
また、キスをされた
は動けなかった
側で、誰かがひそひそと、何か言ったのが耳に残った

花火は15分ほどで終わり、歓声の中、尽が軽く挨拶をした
「また来年もできたらいいですね」
そうして、音楽は再びフォークダンスのものに変わる
学年なんか関係なく、好きな輪で、好きなように
誰もが楽しんで踊っていた
生徒はもちろんのこと、教師も、委員もみな笑っている
それを壇上から見渡して、尽は満足気にした
その視線が、探していたの姿を捕らえ、
彼女が小走りでよってくるのに 口元に笑みが浮かんだ
「尽っ、大成功だねっ」
「うん、おかげさまで」
今までキャンプファイヤーの監視をしていたのか、遠くの輪からわざわざ走ってきたに尽は笑った
「楽しんでる?」
「もちろんっ」
「花火は見れた?」
「うん、見れたよ」
尽は? と
言った言葉に、尽は苦笑して だがどこか悪戯っぽい目をして言った
「見てる暇なかったな、色々大変で」
ちっとも大変そうじゃない口ぶり
それがくすぐったくて、は無性に嬉しくなった
この大成功
尽が頑張ってきたからだと みんなに言って回りたい
どうしようもなく、はただ尽の横顔を誇らし気に見つめた
ここにいる、尽にドキドキする

夜9時
2時間続いた後夜祭は、歓声の中幕を下ろした
専門の業者を呼び火の始末をしてから、解散
委員と有志で残って片付けを手伝ってくれた面々と教師が学校を後にしたのは10時を大分過ぎてからだった
「楽しかったね」
「うん」
尽の自転車の後ろにのりながら、は笑う
尽といると楽しかったし、誇らしいこの気持ちを共有できた
何かを成し遂げた後のこのすがすがしさは、クセになりそうだ
、委員お疲れ様」
「尽こそ」
拓也とは、こんな風な気持ちにはなれなかった
花火の時に感じたあの不快感
突然のキスに、戸惑い以外の感情が混ざったとすれば それは
(・・・だって、汚された気がしたんだもん・・)
尽がどれだけ頑張ってあの花火の打ち上げの許可をもらったか
許可が出たあとも、業者選定から安全面への配慮
いろんなことを考えて、何度も学校側と相談して、打ち合わせして、
ようやくこぎつけた、努力の結晶みたいなもの
見て感動した
ほんの一瞬も、見のがしたくないと思った
尽が、頑張った成果だから
今も尽は、屋上でこの花火のために頑張ってるのだから
なのに、
、二宮サンとなんかあったの?」
「え?」
自転車をこぎながら、いつもの調子で尽が言った
「何かって・・・?」
「なんか二人、様子変だったよ?
 けんかでもした?」
茶化すような口調に、は曖昧に笑った
「別に何もないよ」
あの時だけは、尽の作り上げてきたものを見ていたかった
すがすがしい感動に、身を浸していたかった
同じように委員として頑張ってきたなら、みんなそう思うと思った
なのに、拓也はそんな風ではなく
あんな風に突然人前でキスしたり、
まるで自分のことばかり、自分達のことばかりで
(ちょっとむかついたんだもん・・・)
いつもは、嬉しい拓也のキスも あの時は嫌だった
同じ気持ちになれない拓也に、不信に似た気持ちになった
拓也より、尽といたかった
こうして、今、尽の側でドキドキする
「帰ったらお祝にケーキ食べよう!」
「え?! こんな遅くに? 太るよ」
「いいでしょー、今日ぐらいー!」
「あはは、しょーがないなぁ」
尽が笑ったのが、触れてる身体を伝わってまで届いた
この距離、安心する
「尽・・・」
そっとつぶやいて、は自分の鼓動に耳をすませた
確実に、今、早くなっている
その理由に、は気付いて認めかけている
あたたかさを、感じながら


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