君は見てる (尽×主)


本日の放課後は、今年はじめての文化祭委員会
文化祭の約2ヶ月前
各クラスから男女2名ずつ選出された 全ての学年の委員が勢ぞろいした
その前に立つのは、先月の選挙で選ばれた新生生徒会長
集まった皆に、尽は言った

「今年は新しい企画があります」

にこ、と笑って教室中を見回す
好奇に満ちた目がこちらに集まっている
その中にがいて、その隣にの彼氏の二宮拓也がいた
「後夜祭をやります、学校側の許可はもう取ってあります」
その言葉に、一瞬教室がシン、となって
それから一気にざわざわと騒がしくなった
生徒会役員の庶務が、全員に資料を配りはじめ、皆がどこか興奮した様子でいるのを見ながら、尽は相変わらずの よく通る声で話した
「後夜祭ははじめての行事ですので、役割分担や準備、当日の監視等、仕事は山ほどあります
 みなさん文化祭委員にはその中心となってもらいます、忙しいです」
覚悟してください、と
笑った尽に、委員達は例外なく、誰もが顔を輝かせた
特に2.3年生は、今まで後夜祭の開催が許されなかったのを知っているから その喜びも半端ではなく
互いに顔を見合わせて興奮気味に何か話している
教室中に満ちわたるその喜びに、尽は満足気に一人微笑した
「その資料にこれからのスケジュールと仕事内容が書いてあります
 委員をまず10組のチームに分け、仕事分担を決めます
 それから・・・」
興奮さめやらぬ面々に、はやくも事務的に説明をしながら 尽はチラと一番後ろの席に座っているを見た
隣の拓也と資料を覗き込みながら 何か話している
頬を染めているその様子は、後夜祭のことを知っていたにもかかわらず 今もまた喜んでくれているということだろう
もう一度微笑して、尽は資料の説明を続けた
心地いいと感じる

会議は2時間ほどで終わり、最後に今後の会議スケジュールを確認して解散になった
とりあえずは週に2日の会議
一ヶ月前には、週に3日.4 日と増えていくようなスケジュール
それでも、解散してゆく委員達の顔は明るかった
「会長ってすごいよねっ
 後夜祭だよーーー、去年だって署名したのにダメだって言われたやつでしょー
 それをこんな簡単に学校の許可は取りました、だって〜」
「格好いいよねーーー、すごいよねっ」
女の子達が話しながら教室を出ていく
「すげーな、
 俺の兄貴が言ってたけど、今までやったことないんだろ、後夜祭って」
「うん、そうみたいだね」
「それをお前OK取ったのかよ
 奇跡だなー」
同学年の生徒も、どこかわくわくしたような顔で言い、皆して盛り上がった様子で尽を囲む
「すげーな、お前にかかりゃチョロイんだな〜」
「ほんとお前、すげーなぁ
 軽くOK取ってくるもんなぁ」
その言葉に笑顔を返し、彼等が帰っていくのに手を振って
尽はようやく誰もいなくなった教室でため息をついた
最初の会議
文化祭委員もまた、内申点目当てでなっている生徒ばかりかもしれない、と
少しばかり不安もあった
あらかじめ調べたメンバーの、3年にはたしかに秀才といったタイプが何人かいた
だが、1.2年は文化祭というその特性から、お祭り好きのリーダーシップ取りたがりがなっていることの方が多いようで
それで、尽は少しばかり胸をなでおろしたのだ
そういうタイプなら、きっと張り切ってくれる
忙しくなる今年の文化祭までの2ヶ月間を、きっと楽しんでくれる
(2年か・・・例外が一人いたな)
余った資料をまとめて、一番後ろの席を、
さっきまで拓也の座っていた席を見て、尽は一つため息をついた
拓也は成績優秀、品行方正でとおっている
将来は一流大学進学
そのために、内申点にも気を使っているのだと 2年の先輩から聞いたことがあった
会議の間中、彼はスケジュールの紙をみながら顔をしかめていたっけ
そんなに嫌なら、最初から委員なんかやらなきゃいいのに

「尽?」
ふ、と 声をかけられて尽は顔を上げた
ドアからが顔をのぞかせている
「今日も残業?
 帰るなら、一緒に帰ろ?」
「え? 」
もうとっくに拓也と帰ったと思っていたけれど
まだ学校にいたことに、尽は驚いてを見た
「二宮サンは?」
「あー、予備校があるからって先に帰っちゃった
 私 ちょっと教室に忘れ物しちゃってね
 取りに行くの 待つ時間ないって言われちゃって」
「・・・ふーん・・・・・」
と一緒に帰ることと、予備校
好きな人と一緒にいられるなら、予備校なんかさぼってもいいと思うのは 尽だけなのだろうか
の忘れ物なんて、取りに行くのに5分もかからないだろうに
それさえ待つ時間がないなんて、何なんだろう
拓也はを大切にしてない
そんな、気さえしてくる
「うん、帰るよ」
にこっと笑って、尽はの側へと歩いていった
「ほんと?
 じゃあね、帰りにケーキ屋さん寄ってかない?」
「いいよ」
クス、と
顔を輝かせたに笑って、尽はの鞄を手に取った
ありがとう、と言うように 尽の目を見て笑ったは それからふ、と何か言いたげに動きを止める
「どうかした?」
「うん・・・」
あのね、と
が尽をまっすぐに見つめ、
それから彼女は 少しだけ言いづらそうに
だけど、いつもの優しい、どこか尽を気づかっているような声で言った
「尽が頑張ったの、私はちゃんと知ってるからね」

一瞬、尽はの言葉の意味が理解できなかった
何のことを言っているのだろう
そんな思いが顔に出たのか、が照れたように慌てて付け足す
「あ、だって・・・
 みんな後夜祭ができるの喜んでたけど・・・
 なんか尽が簡単に許可とってきたみたいに言ってたでしょ
 ほんとは、すごく大変だったのに尽ってそれを言わないから・・・
 だから、ちょっと私悔しかったから・・・」
上目づかいにこちらを見上げて、は尽の目を覗き込むようにした
「尽が後夜祭の開催許可取れたのは、尽が頑張って先生の文句の言えない企画書を作ったからでしょ
 氷室先生が言ってたよ
 自分も消防法とか調べたけど、尽はそれ以上に勉強したみたいだって」
それを聞いた時すごいと思ったのだ
は自分の弟の、誰も知らない努力に感動すらした
たった一人で、誰にも頼らずに
たくさんの資料を読んだり、そういう機関に電話をしてアドバイスをもらったり
高校一年生の行動力にしては感心に値する、と
あの氷室でさえが誉めていた
それを、誇りに思ったものだ
だから余計に、
は尽のその努力を知っているから余計に思った
みんなが奇跡みたいだ、と言ったのも
さすが会長、軽くOK取ってくるな、と誉めたのも
本当は違うのに、と
まるで天からふってきた神様のプレゼントみたいに言うけれど
そんな簡単に手に入ったものじゃないのに、と

「ありがとう、
尽は、少し頬をそめたに にこっと笑った
正直驚いて、それからとてつもなく嬉しかった
去年、がやりたいと言っていた後夜祭
自分はまだ中学生で、手の届かなかったの高校のこと
来年、自分がと同じ高校に通うようになったらきっと
きっと、この手でそれを実現させてみると考えたのだ
だから、あの企画書作りも苦にならなかった
何度却下されても
何度、ここが危険だからダメだとか、ここの責任はどう取るのか、とか
言われても、言われても
のためにやるんだから、それで充分だよ」
あの努力
それは全部のため
だから、後夜祭開催にこぎつけるのがどんなに大変だったか、とか
とれだけ自分が頑張ったか、とか
誰にも言う気はない
「私はちゃんと知ってるからね」
その言葉だけで充分だ
それさえも、望んでいなかった 思い掛けない一言
「ありがと」
悪戯っぽく笑って、尽はそっとの腕を取った
「!!」
そのままその唇にキスをする
一瞬、ここが学校であることを気にしたが逃げようと身を引いたが
それより早く、尽はを捕まえた
逃がさないよ、
そんな風に嬉しいことを言ってくれたら、俺はどんどん止まらなくなる
優しく、
ふわっと口付けて、いつもよりは短かめに唇を放した
真っ赤になって怒ったようなが、途端に背後を振り返る
「大丈夫、誰もいないよ」
「いっ、いたらどうするのよっ」
「そんなヘマはしない」
クス、と
笑った弟に、はもう、と
小さくつぶやいて、すたすたと人気のない廊下を歩き出す
心臓のドキドキが止まらない
追い掛けてきた自分より背の高い顔を睨み付けて、は言った
「ケーキ奢ってくんなきゃ許さないから」
「はいはい」
心地いい笑い声がすぐ側から落ちてきた
わかっているのか、わかってないのか
このドキドキの原因は、悪戯な目をしたまま の鞄と自分の鞄を片手に持って
何ごともなかったのかように、ごく日常の話をしている
二人にとって、キスしたりすることは本当に日常だけれど
1年程前から、尽はそうやってに触れるけれど
にとってのそれは、日に日に意識する対象へと変わっていく
(なんなのよ・・・)
以前とは明らかに違う自分のこの反応に、は戸惑いながら小さくため息をついた
ただそれが、不快ではないから
こうして、自分はここにいる


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