カリスマ (尽×主)


夏休みが終わった
例年なら、生徒達の興味は 秋の文化祭へと移行する
クラスやクラブでそれなりに盛り上がる文化祭は、生徒達が楽しみにしている行事の一つである
だが、実は いつもその前にもう一つイベントがある
パッとしない、大半の生徒が興味を示さないそれは 二学期最初の公式行事である

「え?!!!」
掲示板にはり出されたポスターに、は思わず声を上げた
「どーしたの?」
「これ・・・っ」
職員室の前にある掲示板
そこに貼られているいるポスターは全部で5枚
今朝見た時にはなかったから、昼休みにでも貼られたのだろう
自身、どうでもいいと思って気にもしていなかった生徒会選挙のポスターだった
「何? これ尽くん?」
「・・・・・だよね?」
その中の一番左端に、の目が釘付けになる
知った名前
センスのいいデザインの、シンプルなポスターに、 尽と書いてある
「へぇ〜尽くん立候補するんだ」
「でも尽、1年だよ?」
「いいんじゃないの〜1年でも
 あの子目立つから当選するかもよ〜」
奈津実のおもしろがったような声を遠くに聞きながら、は尽の顔を思い出していた
生徒会選挙なんて、本当に誰も気にしないようなイベントなのに
それこそ、一流大学進学を希望している人たちが、内申点のためだけにやるようなもの
去年の選挙のことだって覚えてないし
実際、今の生徒会長が誰かなんて、言える生徒は少ないだろう
(そんなのに興味あったんだ・・・)
不思議な気分になる
クラブは面倒だといってバイトばかりしているのに
生徒会みたいなものに、興味を示すなんて
それとも、
尽もまた、この立候補している2年の優等生達と同じく 内申点目当てなのだろうか

ポスターは1週間はり出され、金曜のH.Rの時間に立候補者の演説があった
「なんかいっつも思うけどつまんないよねぇ・・・」
講堂に集められて、クラスごとに座らされて、生徒達はもう40分も誰だかもわからないような生徒の熱弁を聞かされていた
大きく欠伸をしながら、奈津実がこちらを振り返って苦笑する
「誰でもいいよぉ、もぉ
 さっさと帰らせて欲しいなぁ」
「うん・・・」
みんな言ってることは同じで、
僕が会長になったあかつきには、この学校をより良い方向へ変えていきたいと思っています、とか
一生懸命頑張ります、とか
手許の原稿を読み上げる姿に、最初の一人でうんざりしてしまった
それでも、がじっと前を向いているのは
今喋っている同級生の演説の次が尽の番だから
朝からそれが心配で気になって仕方なかったから
当の本人は何を考えているのか、今朝だっていつもみたいに笑ってたけれど
「大丈夫、俺 本番に強いから」
そう言って、何でもないような顔をしていたけれど

ぼんやりと考えている間に、周りからぱらぱらと拍手が起こって、は慌てて前を向いた
マイクを切ってひっこんだ同級生の代わりに、尽が壇上に上がる
途端に心臓が早鐘のように鳴り出した
同時に急に1年の列が騒がしくなって、それで先生の注意が一言入った
(尽が失敗しませんように・・・っ)
の感覚では、こんな全校生徒の前で演説するなんて考えられない程に大変なことで
壇上の尽が失敗して恥なんかかかないように、と
まるで自分のことのように必死で祈った
自然顔が緊張に強ばる
が緊張してどうするのよ〜」
振り向いた奈津実がおかしそうに言ったのも耳に届かない
見つめる先の尽は、落ち着いた手付きでマイクを手に取ると、一度講堂をざっと見回して笑った
「はじめまして、 尽です」
いつもの明るい声
視線が、ゆっくりと1年の列から2年の列へと動いているのが ここからでもわかった
その間も、尽は何か話している
「どうせなら、最高の3年間にしたいと思いました」
その言葉を言った時、尽はまっすぐにこっちを見ていた
ドキ、として瞬きもできずに尽をみつめかえす
がここにいるとわかって見ているのだろうか
動けないに、尽はまたにこっと笑った
「だから立候補しました
 何かを変えるには、それなりの力が必要だと思ったので」
その視線は、やがて3年の列の方へと動いていき 落ち着いたいつもの調子で話していた尽は、最後にこうしめくくった
「俺を選んでいただけたら、3ヶ月以内にとびきりのイベントを一つ提供します」
不敵な笑みが、講堂を見回す
誰からともなく拍手が起こり、一礼した尽が壇上を去った
50分程度費やして、いつものように選挙は終わったけれど、
教室へ戻るまでの間も、の足は震えていた
(な・・・なんかすごい・・・・っ)
今まで興味のかけらもなかった生徒会選挙
生徒会がどんな仕事をしているのかなんて知らないし、
そもそも仕事なんてしているのか、活躍しているのを見たことがないけれど
そんなものに尽が興味を示して、
こうしてみんなの前で演説して、
はただもう尽ばかり見ていて、演説で何を言っていたのかなんて聞いてもいなかったけれど
他のみんなの様子からじゃ、尽を皆がどう思ったのかわからなかったけれど
それでも、は全身が震えるのを感じた
凄い、凄い
今も目にやきついている、壇上の堂々としていた姿を は多分一生忘れない

っ、サ店寄ってこ〜」
クラブを終えた後、奈津実の言葉にはふるふると無言で首をふった
あのあと、何をやってもうわの空
H.Rで投票した選挙結果が気になって、クラブどころではなかった
あれから3時間程たっているから、そろそろ結果が出たかも知れない
たしか去年は、選挙の次の日には掲示板に結果がはり出されていたはずだ、と
かすかな記憶をたぐり、は奈津実に不安気な笑みを返した
「明日つきあう、今日はちょっと用事があるんだ」
「そぉ? じゃあ先帰るね」
不思議そうな顔をしながらも、ヒラヒラと手を振って遠ざかっていく奈津実の背中にため息を吐きつつ
は鞄を持ち直した
そして意を決したような顔で、職員室へと向かった

「ああ、 まだ帰ってなかったのか」
職員室の前には氷室や他の教師がいた
そろそろ下校時間だ、という氷室の声を上の空で聞きつつ、は他の教師が今まさに掲示板にはり出している紙を覗き込んだ
二人分の名前と、数字
上に書かれた名前には、赤い花がつけられていた
「ああ、弟の結果が心配で見にきたのか」
隣で氷室が苦笑した
そして、呆れたような調子で くいいるように紙を見ているに言った
「安心しなさい
 君の弟は 見事、当選だ」

その結果は、多分誰もが予想しなかった、
でも誰もが望んだ結果だった
次点に3倍以上の差をつけての、尽の独走
前代未聞の、1年生の生徒会長の誕生だった
(すごいすごいすごいっ)
一刻も早く家に帰って尽に報告してあげたくて
は廊下を駆け出した
息が切れても足が止まらない
気持ちがはやって、必死に校舎の外に出た
そしてそこで、尽に会った

「あれ?  まだいたんだ」
いつもの涼し気な顔
「つ・・・尽・・・・・っ」
「どうしたのさ? そんなに急いで」
息を切らして、尽の顔を凝視したに、彼はおかしそうにクスクス笑った
顔を真っ赤にさせて、全速力で走っていた
見たいテレビでもあるのだろうか、と
言ったら が抱きついてきた
「え・・・・・?」
「尽ーーーーーーーーーーっっ」
温かい身体
ぎゅぅっと力いっぱい、それこそ押し倒さんばかりの勢いのに 尽は驚いて目を丸くした
「どうしたの?」
「尽っ、アンタ当選してたっっ」
「え? 何が?」
およそ、当事者とも思えないノホホンとした言葉に はがゆくてが叫ぶように声を上げる
「選挙に決まってるでしょっ、選挙っっ
 あんた他の2年の人差し置いて会長に!!!」
「ああ、そのこと」
まくしたてるに、尽はにこっと笑った
「そんなの当然だろ
 そうでなくちゃ見る目なさすぎるよ、みんな」
なんて余裕のコメント、と
は尽の言葉に 呆れて言葉を失った
演説の時もそうだったけれど、評価や結果が気にならないのだろうか
落ち着き払ったその様子に、はぽかんと口を開けた
「・・・アンタ無敵ね」
「そう?」
壇上で見せた笑顔がこぼれる
「言ったろ、本番に強いんだって」
「・・・・・強いっていったって・・・」
限度があるだろう、と
全校生徒を前に平然と笑って話したのも
結果なんかお見通しだと言わんばかりのこの自信も
では考えられない大胆不敵さ
本当に無敵だ、と
興奮が一気に蒸発したような気持ちで、はまじまじと尽の顔を見た
「すごいのね・・・ほんとに・・・」
尽には、人を魅きつける力があるのだろうか
たくさんの女の子達が尽を好きだと言うのも
全校生徒の7割の票を集めたこの実力も
(カリスマってこーゆうのを言うのかなぁ・・・)
見上げた先で笑った尽にため息をついた
1年生の女の子達はもちろんのこと
2年も3年も面白がったのか、可愛いと思ったのか
女の子の票はほとんど入った計算で
それはまぁ、なんとか納得できるにしても
「よく2.3年の男の子が尽に入れたよね・・・」
生意気だって思わなかったのか、と
つぶやいたに、尽は笑った
「クラブで助っ人してるからね
 色んな運動部に知り合いがいるんだよ」
まるでそれをも計算にいれて、助っ人を引き受けていたみたいに
さらりと言った言葉に はめいっはい苦笑した
それだけで、7割もの票が入るだろうか
隣で大きく伸びをした尽をこっそり見遣って はまたドキとした心臓に慌てて尽から視線をそらした
多分、が感じたことを他の皆も感じたのだろう
面白そうだとか
何かやらかしてくれそうだとか
そういう雰囲気を、尽は持っている
尽には、カリスマがある
人を魅きつける力
それは、確実ににも影響を及ぼしている
「ね、3ヶ月以内のイベントってなに?」
「ん? それはお楽しみ」
「えぇーーーっ、私には教えてくれたっていいでしょーーーっ」
「じゃあヒントをあげるよ」
悪戯っぽい目が、真直ぐにを見ている
優しい光がゆらゆらしているその目を見つめて、は尽の言葉に頬を染めた
そんなつもりなかったのに、
相手は弟だってわかってるのに
ドキドキしっぱなしの心臓は、言うことを聞いてくれなかった

「それは、のためにやるんだよ」

楽しみにしてな、と
不敵に笑った顔に、は無言でうなずいた
心臓は相変わらず、尽への想いにドキドキしている
目の前で笑った弟に、ドキドキしている


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