所有の印 (尽×主)


最近流行っているもの
恋人の名前をほったブレスレットをすること
女の子が好きそうな華奢なデザインを豊富に揃えた、プレゼントなんかにもってこいのもの
クラスでも、何人かつけている
女の子達は皆、誇らし気に 彼氏の名前の入ったそれで腕を飾る

そういえば、彼女達の中でも 欲しいって言ってた子いたっけな

テニス部の助っ人に、学校にきていた尽は、女子テニス部の子達の腕に それがついているのを何度か目にした
たしかに見た目も可愛くて、色んな種類があるから友達とあまりかぶらない
彼氏の名前が入っている、という
その独占欲や所有欲を満たすという意味で、男にも人気があるようで
尽は彼女に買ったことはなかったけれど
そういえば、何人かが欲しいと言っていたのを思い出した
(・・・所有されて嬉しいか?)
冷たいドリンクを飲みながら、それを差し出したテニス部のマネージャーの腕にもそれがあるのを見た
それをつけているだけで、彼氏持ちだとわかる
それがいいのだろうか
彼の名前のプレスレットで、彼に所有されていると安心するのだろうか
(理解できないなぁ)
尽にはたくさん彼女がいて
みんな尽を好きだと言い、側にいる
自分も彼女達を可愛いと思うから、
他の女の子達よりは特別に感じるからつきあっている
それでいいと尽は思う
それ以上なんて、求めない
独占したい、とか
所有したいとか、思わない
それは相手がじゃないからか

帰り道、家の側で尽は二宮拓也に会った
「コンニチワ」
「ああ、尽くん」
久しぶり、と
彼はにっこりと笑った
どこか余裕のあるその表情に、不愉快な気持ちになりながら尽は作り物の笑顔を浮かべる
「デート帰りですか?」
「うん、遊園地に行ってね」
夏休み最後だから、と
笑った拓也に、尽はふぅん、と
朝、せっせと支度をしていたを思い出した
髪をセットして、お気に入りの服を着て、
拓也が喜んでくれるように、と彼のプレゼントしてくれたペンダントをつけて
(・・・・・)
苦笑に似た笑みが漏れた
「じゃ、また明日」
早々に切り上げて、家の中へと入る
なんなんだ、あの余裕の微笑みは
夏休み、拓也の予備校が忙しいとかで と拓也はあまり会えてなかったはずだ
デートだと聞いたのは長い休みの間に3回ほど
奴が模試や勉強なんかを優先している間に、をさらってやるなんて思っていたのに
そういうことを彼は一切心配しないのだろうか
(自信があるんだろうなぁ)
イライラしながら、尽はリビングへのドアを開けた
両親はいないのか、だけがソファに座って雑誌を見ていた
「おかえり、尽」
「ただいま」
にこっと笑ったの顔を見る
いつにも増して御機嫌に見えるのは気のせいではない
は拓也が大好きだから、久しぶりのデートが楽しかったのだろう
それで、こんなにも笑っているのだろう
イライラと、
余計に不機嫌になった尽は、ため息を吐きかけて 視界に映ったものにふ、と動きを止めた
「・・・・・」
もう何度も目にした、銀色のプレスレット
さりげないシンプルなデザインのものは、たしかテニス部の女の子が一人してたっけ
「あ、これねぇ」
尽の視線を追って、は自分の腕を飾るブレスレットを腕ごと差し出した
「可愛い?
 拓也くんが今日くれたんだっ」
嬉しそうな声
紅潮した頬に、笑みが乗る
本当に嬉しいんだろうな
拓也の名前がほられたブレスレット
女の子にとって、彼氏に所有されているということは 安心できて幸せなことなんだろう

ぐい、と
尽は無言で 差し出されたのその腕を取った
「きゃっ」
雑誌が音をたててソファから落ち、
の身体は簡単にソファのクッションに沈んだ
驚いた顔で、がこちらを見上げている
「尽・・・?」
の腕
それを飾る所有のブレスレット
アキラは僕のものだって、言ってるつもり?
こんなもので
「こんなもので・・・?」
無意識に腕に力が入って、それでが顔をしかめた
「痛い・・・尽・・・」
怯えたような、怒ったような顔
「何するのよっ」
押し倒されて、その手をふりほどこうともがくのを、さらに強い力で押さえ付けた
の力で、俺にかなうわけ、ないだろ

「いたい・・・っ」
・・・・・・・・・」

何かを言おうとしたの言葉ごと、飲み込むように唇を重ねた
熱いものが触れる
身体を押さえ付けて、歯列の間に舌をすべりこませて、
無理矢理のキスに、苦し気な吐息がもれる
「・・・っ」
何度も、
何度も何度も、繰り返しキスをした
が嫌だともがいたって、抗議に似た声を出したって
「ね、
 こんなの無駄だよ、そう思わない?」
濡れた唇は、熱い息を漏らして
目は、戸惑いに似た色を浮かべてこちらを見上げている
震える舌をからめとり、角度を変えて、やわらかく、強く
彼女とだって、こんなキスはしない
「無駄だよ、そんな所有」
「何・・・・がよ・・・」
の声が震えて、
目にうっすらと涙が浮かんで、
それで、ようやく尽は微笑を浮かべるのに成功した
嫉妬にまだ心がおだやかじゃないけれど、
でも今は、この手の中にいる

大好きな
尽は彼女を所有したいとは思わない
名前がほられたブレスレット
そんなもので、を所有した気になっている拓也にイライラして
それに素直に喜んでいるが、愛しさと同じだけ腹立たしい
好きだから、人のものにはなってほしくない
こんな風な安物の所有の印なんて、には似合わない
「無駄だよ、
 だって、こんなものじゃ俺がに触れることも防げない」
一瞬、尽の目がいつもの意地悪な光を宿した
そして、そのまま
今度は優しいくちづけがおりてくる
「・・・ん・・・・・・・・・っ」
ふわり、と
大切なものに精一杯の想いを注ぐかのようなキス
甘くて、ふわふわとした気分になるそれ
「・・・・・・」
解放されて、はどうしようもなくただ尽を見上げた
尽がわからない
怒って、キスして、
なのにこんなにも切なそうな顔をするなんて
「ね、二宮サンは、こんなもので安心してるけど」
あの帰り際に見た余裕の笑みは、これのことだったのだろうけれど
「こんなの、意味ないよ」
こんなもので、人の心が縛れるわけがない
こんなもので、が手に入るわけがない
・・・・・」
大好きな人の名を呼んで、尽はもう一度だけその唇にキスをした
もう抵抗もなく、されるがままになっているは 唇がふれるとそっと目を閉じた
掴んだ腕からも力が抜けて
まるで尽の想いに応えるかのように、そこにいる
(・・・・・世界に二人きりならいいのに)
いつもいつも想っていることを 今もまた想った
たとえ血が繋がっていても、
世界に二人しかいなければ、そんなの関係ないと言えるのに
誰にも邪魔をされずに、二人こうしていられるのに
恋人みたいにキスを繰り返して
(・・・なんてね)
そっと、
を解放して、尽はその腕を放した
あんまり強く握り過ぎて、赤く痕が残っている
それに苦笑しながら、ソファに押し倒されたままのを抱き起こした
同時にが起き上がろうと背中に腕をまわしてくる
それに少しだけドキ、とした
起き上がるためで、抱きしめてくれたわけじゃないんだけれど
「ごめん」
「・・・・何よ、今さら・・・」
「だってあんまりむかついたからさ」
その身体を放したくなくて、ぎゅっと抱きしめてみた
すると少しだけ警戒したような反応が返ってきて、それに尽は苦笑する
「大丈夫、何もしないよ」
「よ・・・よく言うっ
 あんだけさんざん・・・・・っ」
「さんざん?」
その顔を覗き込むと、は顔を真っ赤にさせた
可愛い
意地悪なことを言いたくなる
「キスしたのにって?」
その言葉に、がきっとこちらを睨み付けた
たまらないよ、そういう顔
こういう話が苦手だって知ってて、いくらでも意地悪言ってやりたくなる
「わかってるんなら・・・!!!」
「やめないよ」
抗議の声を上げるのを聞かずに、強く強くだきしめた
やめない
キスするのも、抱きしめるのもやめない
こんな無力なブレスレットより 何倍も何倍もを感じることができるから
を手の中に、捕まえておくことができるから
「ね、だから、そのブレスレット捨ててよ」
「えぇ?!!!」
がそんなものつけて学校行くなんて腹立つから」
「なっ・・・・」
怒ったというよりかは呆れた顔で、は尽を見上げた
「あんたねぇ・・・、捨てれるわけないでしょー」
「でも学校でしてるの見たら 俺今みたいなことしちゃうかも
 廊下とか、教室とか、職員室とかでさ」
「なっ、何言ってんのよっっ」
「本気だよ」

ポカン、と
は口をぱくぱくさせて、いつもの不敵な弟の顔を見上げた
子供みたいにやきもちやいて
こんな風に押し倒してキスしたあげく、この言い種
「・・・・あんた、ほんと子供みたい」
「なんとでも言って
 でも、今言ったことは本気だからね」
にっ、と
最後に笑って、尽はから離れた
荷物を持って、そのままリビングを出ていく
その様子をぽかんと見つめながら はまた一人つぶやいた
「何よ・・・やきもちなんかやいちゃって・・・」
そして、ふ、と顔を曇らせる
いつでもどこでもモテモテの尽がやきもちだなんて
しかも血の繋がった姉に対して
その彼氏に対して
(じゃあただの嫌がらせ?)
でもそう思うにしては、あまりにも真剣すぎたあの顔
尽が一瞬だけ見せた切ない目を思い出して、は戸惑いのため息を吐き出した
わからない
尽のことは、本当にわからない
あんな風にキスされるのも、抱きしめられるのも、
本当はドキドキする
身動きできなくなるくらい
頭がぼうっとなるくらい
拓也にだって、あんな風にはされたことがないのに
真剣で、恐くて、でも想いが流れこんでくるような、そんな
(わかんないよ・・・)
ため息をついて、は腕のブレスレットを見た
拓也がくれた、プレゼント
流行ってるし、可愛かったから、と
彼の想いも行為も嬉しかった
自分は拓也が大好きだし、誰が見ても恋人がいるってわかるなんて ちょっと恥ずかしいけどくすぐったくて嫌な気はしなかった
でも尽の言うとおり、それはただの飾りでしかなく
こういう風に尽に触れられても、拓也は何も言えはしない
拓也は何もできない
「・・・・」
複雑な想いで、はまたため息をついた
心に生まれてずっと存在し続けている、不思議な想いを感じながら


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