VS 日比谷 (尽×主)


ってほんとにモテるんスねぇ・・・」
クラスメイトの渉が いつもの妙な敬語で話し掛けてきたのは、野球部の試合の直後だった
1年生の中でも可愛いと評判の、野球部のマネージャーと話していた尽は、その言葉に顔を上げた
今日はマネージャーの誘いで試合を見にきた
たくさんいる彼女の中の一人、野球部のアイドルである女の子
「マネージャーはみんなのアイドルだったのに、今はの彼女っスもんね」
どこか独り言のように言い、渉は片付けをはじめたマネージャーを見遣る
彼女のことを好きなのだろうか
いつも笑ってる、元気だけれどドジな女の子
尽にとっては、誰かを思い出させる存在
「好きなの?」
聞いたら、驚いたように渉がこちらを見つめ返した
「彼女のこと」
そういう口ぶりだったから、と
その言葉に、渉は真っ赤になって首を振る
「ちがうちがうっ
 ただ、なんとなく思っただけっスよ!!」
慌てて否定し、それから尽と彼女を交互に見る
「そりゃ確かにマネージャーは可愛いけど」
ごにょごにょ、と
口の中で言葉にならない何かが押し出される
不思議に思って見つめた尽の目の前で、真っ赤になって渉は言った
「俺にはもっと他に、俺の天使がいるんス!」

は? と、
尽は一瞬耳を疑い、それから無言でピュアな発言を吐き出したクラスメイトを見つめた
言った本人は、まるで告白でもしたかのように真っ赤になってあらぬ方へと視線をさまよわせ
しどろもどろになりながらも、付け足した
「マ ネージャーは可愛いけど、その人はもっと可愛いんスっ」
「へぇ・・・」
恋愛なんかには興味なさそうな渉の意外な発言に、尽は少しだけ微笑した
野球ばかだとクラスで知られている彼だから、初恋だってまだだと思っていたけれど
「意外」
「お、俺はあの人に惚れたっス
 試合の時とか一生懸命応援してくれてるのを見るとパワーが湧いてくるっス!」
誰に向かって話しているのか、
自分の肩の向こう、熱っぽく語りかけた渉に、尽は何かいい様のない気分になりながら振り返った
次にグラウンドを使う学校の生徒が 輪になって準備運動をしている
その隣に、華やかな女の子達がいた

「・・・・へぇ・・・・」
それは無意識だったが、その声に含まれた苛立ちのような皮肉のような色に ぴくりと渉が反応した
「え・・・?」
キョトンと、急に不機嫌になった尽を見遣る
それを真正面から見据えて、尽は完璧に作った笑顔で聞いた
「で? 何て名前の人?」

キャアキャアと女の子達は、試合の結果に満足してはしゃいでいた
はばたき高校の、もはや名物になりつつあるチアリーディングの応援
その一団に、当然がいるのを尽は知っていた
今朝だって、張り切ってでかけていったのだ
試合が終わったら野球部の人達とご飯を食べに行くんだといって
「名前・・・?」
また、渉の顔が真っ赤になった
その視線は一人の女の子を追い、それから恥ずかし気に何度かウロウロとさまよった
「へへ」
そうして、照れた様に笑って頭をかいた後、その名は告げられた
先輩っス!!!!!」

やれやれ、と
尽は何度もため息を吐きながら、彼女の用事がすむまで側の水飲み場に腰かけていた
先程、渉に無言で鉄拳をくり出して あやうく欲求のままに殴りそうになってしまった
「なっ、なななななな??!!!!!」
目の前でぴたりと止められたそれに目を白黒させながら 渉が口をぱくぱくさせて凝視してくるのに 尽は大きなため息で答えることしかできなかった
ここにもいたか
それが、まず最初の思い
それから、無性にむかついた
よりによってどうしてなんだ、と
可愛い子なら1年に、いくらでもいるのに、と
思いつつ、そのどの子よりも可愛いと思ってしまうの仕種や表情を思い出し、尽はしぶしぶ腕を下ろした
目の前できょとんとしている平和な渉の顔を殴ってやりたいと思ったのは、奴がを俺の天使だなんて言ったからか

「あーあ」
晴れた空を見上げて、尽はまたため息を吐いた
いろんな男に好かれて、あげくは彼氏の二宮拓也が大好きで
自分は年下な上に、血の繋がった姉弟
側で、こんなにノホホンと 何の悩みもなくを好きだと言える渉が羨ましくてむかついた
またため息をこぼす
どうしてはこういう風に、簡単に誰かの心をさらってくんだろう

「はぁ・・・」
「なにため息ばっかりついてんの?」
何度目かのため息の後、側でクスクスと笑う声が聞こえた
「悩んでんの」
「へぇ? 珍しいねぇ」
水でも飲みにきたのか、チアリーディングのユニフォームのまま がそこで笑っていた
「尽が悩むなんてっ」
おかしそうに言って、は水道に手をかける
冷水のたっぷり入った専用の蛇口をひねって、出てきた水に口をつけると、は自然背伸びするような体勢になった
視界の端にうつったそれ、前かがみになったの短いスカートが、風でひらっと揺れた
「・・・・、無防備すぎ」
ため息がでる
今にも見えそうな体勢で、本人はまったく気付かずに 冷たい水で咽をうるおしている
自分が今ミニスカートをはいているんだ、とか
こういう体勢をしたら下着が見えてしまうんじゃないか、とか
多分は考えないのだろう
こくこく、と美味しそうにあふれる水を飲み下す
「そんなだから俺の天使とか言われちゃうんだよ」
「何の話よ?」
「こっちの話」
ぐいっと、
濡れた唇を手の甲でぬぐい、が聞き返すのに 尽はあらぬ方向を見てつぶやいた
には教えてあげない」
「なによぉっ」
頬を染めて、が不満気な声を上げる
自分にしか見せないような その子供っぽい顔に ふと尽の顔がほころんだ
そう、こういう時
こういう顔をが見せる時に、とても愛しさを感じるんだ
相手が誰であろうとは渡せない
何度も何度も思ったことを、また思った
渉にも、渡さない

ふ、と
苛立ちに似たものを忘れかけた瞬間、その音が耳に飛び込んできた
キン、という澄んだ音
だが、それに混じった複数の声は悲鳴に近かった
「?!!!」
視界の端に、それが飛び込んできた時には 尽にはそれが何かなんて判断できなかった
ただとっさに、の身体を抱き寄せる
それしか、できなかった
瞬間、衝撃が を庇った肩に当たった

「つ・・・尽っ」
「・・・・・・」
無言で、腕の中の存在を見下ろし、無事なのを確認して尽は苦笑した
グラウンドから飛んできたのは硬いボール
片付けを終えた渉達の後、練習をはじめた他校の部員が打ったものが飛んできたらしい
遠くへと転がっていったそれを見遣って、尽はほっと息を吐いた
「大丈夫?
「う・・うん」
心配気に、がこちらを見上げている
「びっくりした・・・尽は・・・大丈夫?」
「大丈夫だよ」
これくらい、と
大袈裟に肩をすくめてみせて、ぽんぽん、と二度の髪を撫でた
「無防備だから危なっかしいよ、は」
「え?」
優しい目に視線をあわせると、尽はまっすぐにこちらを見て微笑した
どこか切ないような、愛しい人を見つめる顔
最近、尽がよく見せる表情
「危なっかしくて目が離せない」
だから他の男じゃダメなんだ、と
ひとりごちて、遠くで心配気にこちらを見ている渉を見遣った
そう、他の誰でもダメだ
いざという時手の届く距離に、
必要な時、守ってあげられる場所に
「だから、そこにいる間は話にならないよ」
見ているだけの男達には、を守るなんてことできないよ、と
渉に向かって、
そして、彼だけではない の周りの男達へ向かって
つぶやいて尽は苦笑した
他の誰にも譲れないから、自分はを手に入れる
の側から、離れない


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