似たものたち (尽×主)


夏休みには週に1回、チアリーディング部の練習がある
今日の練習もハードだった、と
ふらふらの足で、は靴箱の鍵を開けた
今日は尽も学校にきている
サッカー部に助っ人を頼まれたとかで、練習試合をするらしく
出掛けに 今日は一緒に帰ろうと言っていた
(尽もぉ終わってるよね?)
さっきグランドを覗いたら誰もいなかったから、試合は終わっているはずだ
待ち合わせは、この靴箱あたり、と
そう言っていたから、少し待てば来るだろうか
「はー、疲れちゃった」
上履きから靴に履き替える
暑さと、ハードな練習でふらふらになっている身体をのろのろと動かし がようやくロッカーを閉めようとしたその時
聞き慣れた声が 聞こえてきた

「え? 俺?」
「うん、私 くんのこと・・・」

向こう側の廊下から下りてきた二人分の足音
辺りには人がいないから、その声の主はすぐにわかった
そのまま二人は一年生の靴箱の方へ行き、のいる靴箱のちょうど向かい側でぴたりと止まる
「私、くんのこと好き・・・」
震えるような女の子の声
それにドキ、として は思わず息を殺した
告白している
こんなに側で
そういえば以前もこういうところを目撃してしまったことがあったっけ
あの時尽はその告白に対してOKを出し、その日からその子は尽の彼女になったんだけれど
(・・・尽ってこんなことしょっちゅうなのかな・・・)
今度の子もOKするのだろうか
無意識に緊張して、まるで自分のことのように は尽の言葉を待った

「ごめん、気持ちは嬉しいけど」

それはの予想していなかった言葉だった
当然のように、前の時と同じように肯定の言葉が出てくると思ったのに
まるで自分が告白を断られたみたいに、の心は重くなった
沈黙が一瞬、辺りに広がる
やがて、女の子が口を開いた
「・・・うん、わかった・・・私こそごめん・・・」
先程と同じく震えるような声
少しだけ涙声なのは、多分彼女がほんとうに尽を好きだったからだろう
そして、それでも その想いは受け入れてもらえなかったから
「ごめんね」
「ううん、いいの、言えただけで・・・」
尽の声は優しい
まるで自分がふられたような気持ちになりながら、はうつむいてため息をこぼした
彼女がたくさんいて、
色んな女の子に好かれていて、
だから、告白されたらいつもOKを出しているんだと思っていた
そんな風に勝手に考えていたけれど

「そっか・・・全員とつきあうなんてできないか・・・」
そして、またため息が出た
以前 偶然告白されているのを聞いた時にはOKを出していたのに
その彼女と、今の彼女の差は何だというのだろう
尽にとって、彼女にする基準って何なんだろう
わからなくて、また重い息を吐いた
気持ちが暗くなっていく

?」
「・・え?」
いつのまにかぼんやりと、考え込んでしまっていたらしく、
呼ばれて顔を上げた時には 側に尽がいた
「つ・・・尽?!!」
「どうしたの? 固まってたよ?」
くすくすと、側でおかしそうに笑うのを聞いて 一気に顔が真っ赤になった
一体いつこちらに来たのだろう
こんなとこにいたのを見つかってしまったら、さっきの会話を聞いてたことがバレてしまうではないか
「う・・・ちょっと考え事してて・・・」
あたふたと言い訳をしてみたに、尽が意地悪な目を向けた
「盗み聞き? あんまりいい趣味じゃないよ?」
「ちっ、違うわよっ
 あんた達が後から来て、告白とかやりだしたんでしょっ」
靴箱に背をつけるようにして、尽を見上げると にこにこと意地悪な目が見返してくる
怒っている様子はないけれど、真っ赤になっておたおたしているを楽しそうに見ている尽は、弟という感じがまったくしない
もっと年上か、同級生の男の子みたいに思える
「何考えてたの?」
「何って・・・」
まっすぐみつめてくる目
意地悪だけど、優しい声
いつもの笑顔でこちらを見下ろすその顔に、はふと、さっき考えていたことを口に乗せた
それはほとんど無意識だったけれど、ほんの少しだけ尽を責めるような色が混じった
「ねぇ、なんでさっきの子は断っちゃったの?」

尽にとって、彼女というものがたった一人唯一の人ではないのなら
言い寄ってくる子全員とつきあったってかまわないはずなのに
尽のことを本気で好きだと思っている子に対して、あんなにあっさりと断りの言葉を言えるのは何故なんだろう
どうして、あの子ではダメだったのだろう

「・・・だったらなんで、は二宮サンなのさ?」

質問に、新たな質問が返された
見上げると、どこか真剣な目をした尽がこちらを見ている
「え?」
「なんでは二宮サンを選んだのさ
 別に他の誰かでもよかった?
 自分を好きだって言ってくれるなら、葉月サンでも姫条サンでも?」
「え・・・・?」
そんなことあるわけがない、と
言おうとして、は尽の言わんとしていることを理解した
たしかに誰でもいいわけではないから
好きだと言われたって、つきあう相手は選ぶ
誰だって
だが、それならどうして 尽はたった一人とではなく複数の女の子とつきあったりするのだろう
理解できなくて、は無言で尽をみつめた
が二宮サンを選んだように、俺だってつきあう子を選ぶよ
 別に誰でもいいわけじゃない
 ただ、本当に欲しいものは手に入らないから 代わりで我慢してるんだ
 その代わりになれる人を、彼女に選んでるってこと
 さっきの子は・・・代わりにはなれなかったから」
だから断ったんだよ、と
まるで数学の解き方を説明しているような淡々とした口調で、尽は言った
それから少しだけ笑うと、付け足す
「例えばね、しっかりしてるようで実はドジだったり
 何かに一生懸命になったら周りが見えなくなっちゃったり
 甘えただったり、はりきり屋だったり、声が似てたり、しぐさが似てたり・・・
 そういう子に、俺は魅かれるんだ」
に注がれた視線は、どこか切な気で
それでいて、何よりも愛しいものを見るような目で
は、その顔を見つめ返す以外に、何もできず何も言えず
二人は、しばらくそこに立っていた
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響くまで

帰り道、肩にの体温を感じながら 尽はこっそり苦笑した
先程の会話なんかもう忘れたのか、自転車の後ろで ははしゃいだように声を上げる
スピードの出し過ぎだとか、坂が急で恐いだとか
可愛い声
大好きな人
が笑うのも、怒るのも泣くのも ずっと幼い頃から見てきた
の全てを知っている気でいたから
いつのまにかが知らない男に恋をした時、どんなにどんなに悔しかったか
手を伸ばせば届くところにいるのに
どうしたって手に入らない人
この世の誰より近しい人なのに、世界で一番遠い人
(・・・)
大好きな人の名
どんなに想っても、とどかない人の名
「その人を一番想っている人に、権利が与えられたらいいのにね」
つぶやきは、誰とへもなく
「何か言った?」
「何でもないよ」
後ろからこちらを覗き込むように体重をかけてきたに、笑い返す
「そんなことしてたら危ないよ」
「大丈夫よ〜」
心地いい声がすぐ側で笑う
この世のどこかに神様がいて
それぞれの心の中を見て、その想いの重さを計って比べて
一番想いが大きい人に、愛しい人を手に入れる権利をくれたらいいのに
そうしたら、は自分のものなのに
(好きだよ、)
何度も口にして、
その全てを 本気では受け取ってもらえなかった言葉達
笑い方が似てる子や、しぐさや話し方が似てる子を見ると を思い出した
みたいに甘えただったり、
みたいに、ドジだったり
そういう子には優しくしてあげたいと思った
そしてそれは、恋に似た感情に育つ
似ているだけで、へ抱くものには なりえないのだけれど
それでも その似たもの達には他の人より優しくできたし、愛しいと思えた
だから「彼女」として 似たもの達は側にいる

「尽も罪な奴ねっ」
風の音に混じって そんな声が聞こえた
苦笑がこぼれる
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
罪なのは、誰?
今もこの胸を独占して止まない、、君だろ
「どうしてよぉっ」
「自分で考えなよ」
まだ暑い夏の夕方、オレンジの空を見上げて尽は言った
「無意識に俺を捕らえて離さない、それが罪だよ 


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