VS 葉月 (尽×主)


夏休み、毎日毎日遊び暮らしているは、今日も夜からでかけていった
「あれ? は?」
「クラスの子達と花火するっていって出ていったわよ」
「こんな時間から?」
「ええ」
尽はテーブルの上においてあったチェリーを一つ口に放り込むと、壁にかかった時計を見た
9時
いくらクラスの子達と一緒だといっても、遅すぎるんじゃないの、と
これから出かける自分を棚に上げ、少しばかり呆れてみた
って毎日遊んでるよなぁ」
尽としては、たまには二人で家でゆっくりしていたかったりするんだけれど
はまるで休みが逃げてしまうかのように、それこそ必死に遊んでいた
いつもいつも、家にはいない
(チェ・・・
 俺もと花火したいなぁ)
心の中でつぶやいて、小さくため息をついた
今日だって、彼女と花火をする約束をしているけれど
本当はとしたくて、余分にいっぱい買って、部屋においてあるのに

達は、近くの公園に集まっていた
クラスの男の子と女の子がわいわいと、買ってきた花火を持ち寄る
夏休みに入ってから会っていなかった子達と話に盛り上がったり、
次々に火をつけては、花火の色や熱さを楽しんだり、
1時間もしないうちに みんなのもってきた花火は灰になった
「なんかものたりないね〜」
「あれ? もぉおわっちゃったのー?」
急に暗くなったのに、が振り向くと 何人かが燃えかすを片付けている
「・・・おわった」
側にいた葉月の言葉に、はえー、と不満の声を上げた
「私まだ全然やってなかったのにーっ」
久しぶりに会った仲のいい子と喋っている間に、やりそこねた、と
言って他 何人かの話に夢中になっていた子達が苦笑した
「なんか喋りにきただけだったね〜」
「ほんと、楽しみにしてたのにー」
「私7色に光るやつ好きで買ってきたのになぁ」
言ったら、側で葉月がくすっと笑った
「うかつ・・・」
ぽそっと、つぶやくその言葉に が彼を見上げると、葉月は少しだけ照れくさそうにして微笑した
「おまえ、すごくうかつだな」
「な、何よ、失礼ねーっ」
葉月が笑うから、可笑しくて も笑って言った
「だって久しぶりに会ったから盛り上がったんだもん〜!!!
 珪くんだって久しぶりなんだから、いっぱい話したいんだから」
「ああ、おまえ・・・ちょっと日に焼けたな」
「えっ?!! ほんと?!!
 やだー気をつけてたのにー」
「いや・・・なのか?
 夏らしくて、俺は、好きだ・・・」
キョトン、とした葉月の顔
優し気に口元を緩めて笑ったのに、は少しだけ赤くなった
「え・・・」
「そういう健康的なの・・・いいと思う」
照れているのか視線をそらして、
だがその口元にはやはり笑みが浮かんでいる
「えへへっ、誉められちゃったっ」
「ふ・・・っ」
同じく照れたように笑ったに、葉月は小さく声を上げた
めったに聞けないような、笑い声が耳に心地いい

それからみんなは、何をするでもなく仲のいい者同士が残って話をしたりしていた
夜の公園が、いつになく賑やかで時々通りすがりの大人が怪訝そうに覗いていく
「珪くんはずっとお仕事なんだね
 けっこう大変? モデルって気使いそうだね」
「・・・さぁ、よくわからない」
「んー、まぁ珪くんマイペースだから平気かぁ」
「・・・」
遠慮のないに、時々眉をよせながら 葉月は側の電灯の光りでぼんやりと照らされているの横顔を見ていた
という女の子
入学式の日に教会で出会って、思い出に変わりかけていた想いがふと目覚めた
同じクラスで1年を過ごし、
活発で、でもどこか抜けているその様子が愛しいと思うようになり
自分のことを 皆がどこか敬遠する中、珪くん、と
何の気がねもなく名前で呼んできたことに、驚いて
だが、それがとても嬉しかった
「だって、名前で呼んだ方が仲良しさんって感じがするでしょ?」
だから名前で呼ぶんだ、と
いつかは笑って言った
たとえ彼氏がいても、葉月にはどうでもよかった
の楽し気な横顔を見つめていられれば、それでいい
今もそう、思う

「ね、今度スタジオってやつ見学させて?」
「え・・・?」
「だってなんか格好いいじゃない?
 一回そーゆうの見てみたかったんだ〜」
「・・・かんがえとく・・・」
きらきらした目をして、が笑う
ミーハーだな、と思いつつ
それでも不快じゃないのは、に打算や裏がないからだろうか
他のとりまきの女の子達みたいに、私が私が、と
無理矢理な想いや都合を、押し付けてこないからだろうか
「おまえ、変わってる・・・」
ぽつり、とつぶやいた
「えぇ?!!
 変わってるのは珪くんでしょー!!!」
頬を膨らませたに、ちょっと笑って
それはそれで失礼だ、と思いつつ
葉月は言葉を飲み込んだ
を前に、思ったことの半分くらい言葉にできたら、自分はもう少し に近付けるだろうか

二人は時間を忘れて話をしていたが、いつのまにか辺りには2.3人しか人がいなくなっていた
「そろそろ帰る?」
「そうだね〜」
残っていた子達も、11時を回った時計を見て言い出した
「あちゃ、もぉこんな時間かぁ」
「ああ・・・」
といると、時間を忘れるな、と思いつつ
葉月は、の頼り無い後ろ姿を心配気に見遣った
こんな時間だから、送っていかなければ危ない、と
それを口にするか、一瞬迷った
その時

っ」

公園の入り口で声がした
聞き慣れた声
「尽?」
「まだいたの? もぉ遅いよ」
「うん、今から帰るとこ」
「じゃ一緒に帰ろう」
俺も今帰りだから、と
その声の主は 近付いてきてそう言った
「あ、こんばんは、葉月サン」
そうして、葉月にペコリと頭を下げる
「ああ」
苦笑した
いつも、こうな気がする
思ったことを言葉にする
その行為が億劫だとか、恥ずかしいとか、そういうことではないのだけれど
葉月にはどうしても、苦手で難しい
や尽のように
ポンポンと言葉が出れば、今夜ももう少し長くといられたかもしれないのに

「ハイバイ、珪くん」
「ああ・・・おやすみ・・・」
手を振って弟と一緒に公園を出ていくを見送っていると、
途中でチラ、と尽がこちらを振り返った
その目がまっすぐ葉月をみて
それから少しだけ微笑した
(・・・)
ちょっと含みのある笑み
瞬間、何かピンとくるものがあったけれど、それを言葉にするのは難しい気がした
(よくわからない・・・)
尽の目は、いつもどこか挑戦的で、見られると何かそわそわする
その度に 何か思い当たることがあって
それから、やはりそれをうまく表現できず消化不良を起こす
難しいな、と
葉月はため息をついた
ようするに、たぶん
こういう想いをに対して抱いているのが、自分だけではないのだと
それだけはなんとなく、わかる

家への道を歩きながら は結局花火ができなかったのだと頬を膨らませた
「・・・なんでさ」
「喋ってたらいつのまにか終わってたの〜
 私、最初の1本しかやってなかったのにー」
「あはは、ドジだなぁ」
「むっ、何よ、尽までーーっっ」
「何、他に誰かにも言われたの?」
「珪くんにうかつだって笑われた」
「・・・葉月サンに、ね」
チラ、と 尽はの横顔を盗み見した
珪くん、と
が彼を名前で呼ぶのが気に入らない
って仲いい人は男でも名前で呼ぶんだ?」
「ん? そぉよ」
どうして、と
不思議そうに きょとんとした目がこちらを見つめ返してくる
「なんかちょっとヤだな、妬ける」
「え?」
我ながら、どうしてこんなにもやきもち妬きなんだろう、と思いつつ
元もとハンデが大きいんだから仕方ないよ、と自分に言い訳しつつ
尽は、の腕をとって、その歩を止めた
そのまま、そっと口づける
「・・・っ」
驚いたように、身体を堅くして は立ち止まり
ふ・・・、と解放されると 真っ赤な顔をして両手で尽の身体を押し退けた
「もぉっ、こんなことばっかりするっ」
「だってさ」
くす、と
ものすごく一方的な気持ちを正当化し、突然のキスも同じく正当化する
が俺が妬くようなことするから」
「なにがよーっ」
頬をそめたまま、また歩き出したの手を取って、尽は笑った
「ハンデ大きいんだから、これくらい許してよね」
俺は葉月のように、思ったことを躊躇して口にしなかったりはしない
欲しいものには手を伸ばすし、
思ったことは全部言う
伝えて、伝えて、それでもまだ足りない
欲しいって言っても、全部手に入らない
足りない、足りない
夏休み、久しぶりに会って、名前を呼んでもらって
二人で話をして、それでおしまい
そんなので満足したりはしない
もっと一緒にいたければ、送っていくよ、と言うし
それで足りなければ、帰り際にきっとキスを奪う
「尽って、強引」
「そう?」
そうよ、と
むくれた顔で軽くにらみつけてきたに、悪戯な微笑を返した
「相手がだからだよ」
本気だから譲れない、と
尽は笑った
怪訝そうに、隣を歩く本命の人は 眉を寄せただけだった

そして、その夜
家の小さな庭で、尽と二人きり
のためにたっぷりと買ってあった花火で、尽はと夏の夜を過ごす
足りなければ、もっともっと
そうしてきっと、明日も に手を伸ばす


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