夏休み満喫計画 その5 (尽×主)


その日、夜になって突然が言い出した
「ねぇ尽っ、私のペンダント見なかった?」
風呂上がり、あとはもう寝るだけという時間
「ペンダント? 今日つけてたやつ?
 昼間はちゃんとしてただろ?」
最近が気に入ってつけている、拓也からのプレゼントのペンダント
今日、でかけた先でつけているのを一度見たけれど、それ以降は記憶にない
「探してもないの
 どっかで落としたのかなぁ・・・」
不安そうに がつぶやく
「風呂入る時はあったの?」
「・・・覚えてない・・・」
頼り無い返事に苦笑する
「落としたんだろうね、あそこに」
ちょっと意地悪に言ったら、泣きそうな顔でこちらを見上げてきた
「どーしよう・・・」
「どーしようったってね」
明日の朝には、二人は家へと帰る
明日取りに行く暇はなかった
今日のでかけた先は、なんたって少しばかり遠くて

「ね・・・尽ついてきて・・・?」

泣き出しそうな顔で、が見上げてくるのに尽は苦笑した
「本気? もぉ夜だよ」
「でも・・・あれ大事なの・・・」
拓也からもらったペンダント
尽にとったらどうでもいいものだったけれど、
「やめといた方がいいんじゃない? だってあそこ・・・」
にやり、と
その気もないのに じらすようにして 尽は言ってを見た
怯えたような顔をして、でもは必死にこちらを見ている
「だから一緒に来てって言ってるんでしょーーっ」
尽の意地悪、と
わめいたに、とうとう尽は笑い出した
「わかったわかった、泣くなよ」
目に涙をためているが可愛い
ちょっとからかうと、こちらの思った通りの反応をするから余計
尽はぽんぽん、との頭を軽く撫でた
「じゃ、着替えて行こうか、肝試し」
「ち、違うもんっ
 探し物だもんっ」
「行き先があそこじゃどっちも同じだよ」
笑った尽に、がまた何かを喚いた
それを聞きながら、尽は自転車と懐中電灯を借りに、祖父母の部屋へと行く
夏休みならではの、
こういうのも、まぁいいかもしれない

二人が向かった先は、夏にはつきものの
冷気漂う お墓だった
昼間、祖父母と一緒にお参りをしてきたところ
その時は車で行ったけれど、今は自転車
「ごめんね・・・」
「いいよ、30分もあれば着くだろ」
後ろに座って、尽の身体にぎゅっとしがみつきながら はその後ろ姿を見上げた
からかったり、意地悪なことを言ったりするけれど
こうやって、自分には関係ないことにも 尽は嫌な顔なんかせずにつきあってくれる
寝る前に、自転車で30分もかかるところまで連れてってくれて
真っ暗で、幽霊が出るかもしれない墓で、探し物を手伝ってくれるなんて
「ごめんね・・・」
つぶやくように言う
返事がないから、尽には聞こえなかったのだろう
ぎゅっと、さっきより強くその身体に抱きついて、は目を閉じた
暗い中、こうしていると安心する

「さて、たしかこっちの道通ったよね」
墓は、当然ながら人がいなくて
当然ながら 何か無気味な空気が漂っていた
ぴたり、と尽の腕にしがみついて、そろそろと歩く
辺りを懐中電灯で照らしながら 真面目にペンダントを探してくれている尽とは全く逆に、
は辺りをきょろきょろして、必要以上にオロオロしていた
「何か後ろが恐い〜」
「大丈夫だって」
「誰かがついてきてる気がする〜」
「誰もいないよ」
がこんなに怖がりだとは意外だった、と
笑ったら は怯えながらも心外そうに唇をとがらせた
「お化け屋敷だったら恐くないもんっ
 でもここって、本物がいるところでしょーっ」
幽霊が襲ってきたらどうするのよ、と
言ったに、尽はまた笑った
「大丈夫だよ
 襲ってきても、は俺が守ってあげるから」
絶対、と
言った尽の顔を見ると、いつもみたいに自信満々に笑っている
(なによぉ・・・)
守ってやる、なんて
拓也にも言われたことないのに
恋人に言うみたいな甘い声で、そんな風に言われたら
(ドキドキするじゃない・・・)
ぎゅっ、と
尽の腕にぴったりと抱きつきつつ、は言葉を飲み込んだ
恥ずかしいのと同時に、なんだか無性に嬉しくて
隣にいる尽が、まるで王子様みたいでドキドキして
「尽って幽霊恐くないの?」
その顔を覗き込むように聞いたら 彼は辺りに目をやりながら言った
「こわくないよ、信じてないからね」
そして、に視線をやって笑う
「まぁたとえいたとしても、俺達のところに出るのは先祖の霊だろ
 挨拶して帰ってもらえばいいんだよ」
どうせだから、探し物を手伝ってもらおうか、なんて
言ったのがおかしくて、は笑った
「もぉっ」
今まで背筋が寒かったのが、楽観的というか冗談めいているというか
尽の言葉ですっと楽になった
「そうよね、ご先祖様なら平気よね」
二人は、いつのまにか昼間お参りした墓までやってきていて、
尽が辺りを懐中電灯で照らした
綺麗に掃除をして、新しい花を生けて、
お酒とお菓子をおそなえして、線香も上げた
ぼんやりと、光でそれが浮かび上がる
そして、
「・・・・・!!!」
一瞬、視界に入ったそれに はひやっと全身が寒くなる気がした
お供えの横に、見覚えのあるペンダント
きちんと置かれているのを見て、言葉が出なかった
「もしかして、本当に探し物手伝ってくれたのかもね」
何気なく言い、それを手に取った尽に、は必死で抱きついた
「やっぱり恐いよーーーっ」
「あはは、大丈夫だって」
こうしてペンダントは戻ったんだから、と
尽は笑って わめいているを抱きしめて、その背をぽんぽんと叩いた
「ほら、お礼言って帰るよ」
「ふえーん・・・」
まだ半分怯えながら、は尽に促されて墓石へ向かう
「あの・・・ありがとうございました」
恐る恐る言って、それから尽を見た
「よし、帰ろうか」
「うんっ」
笑った尽から、ペンダントを受け取り それをしっかりとポケットにしまった
まだ心臓がドキドキしている
夏だというのに、今日は本気で背筋が寒い

帰り道
自転車をこいでいる尽に言ってみた
「尽って本当に恐いものないのね」
「そんなことないよ」
快活な声が帰ってくる
「幽霊も平気でしょ、虫も平気でしょ、何が恐いのよ」
なんだかんだで、無敵
そんな感じの尽の恐いもの
「前に言わなかったっけ?」
「えー? 」
くす、と
尽が笑ったのを、その背中の振動で感じた
だよ」
「え?」
には、かなわないよ」
またクスクスと尽が笑う
「なによそれ〜」
に嫌われるのが一番恐い、と
尽は言うと、また笑った
「なんか複雑」
つぶやいて、その背中に頬を寄せる
それって、尽の中では特別だということ
無敵の尽の、唯一の弱い部分
照れくさくなって、はぎゅっと目をつぶった
「変なの、尽」
「失礼だなぁ」
「だって変よ〜」
くすぐったい
優しい尽、優しい弟
なんとなく、嬉しくて、はこっそりと笑った
寒かった背筋も、今はもう 伝わる熱で温かい


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