夏休み満喫計画 その4 (尽×主)


今日は従兄の結婚祝いの宴会の日
夕方から祖父母の車に乗せられて、尽とは従兄の家へと行った
従兄とも、10年ぶりの再会である

「あら〜ちゃん、きれいになって〜」
「まぁ、ほんとうにそっくりね〜」
「あらあら、ちゃんの方が美人よ〜」
着いた途端に、親戚のおばさん達に囲まれて、の周りはわいのわいのの大騒ぎ
何のことやらさっぱりなは、取りあえず愛想笑いを返しつつ、早々に祖父母と尽のところへ逃げてきた
「大人気だね」
「ね、なんでだろ」
思いつつ、御馳走の並んだ大きなテーブルにつく
親戚一同、揃ったところで、従兄とその嫁が遅れて登場する
それを見て、尽は驚いてその嫁の顔を見た
にそっくり
そうか、これか、と
隣のを見遣ると もポカン、とその嫁の顔を見ている
「すごい・・・なんか変な感じ・・・」
「だね」
苦笑する
よく見たら、の方が髪が長いけれど
年齢も 多分10近く離れているんだろうけれど
それでも目や口など、親戚かと思う程によく似ていた
「私、大人になったらあんな感じになるのかな?」
嬉しそうにが囁いてくる
それに苦笑しつつ
の方が可愛いよ」
尽は答えて、10年振りに見る従兄を見た
来ている親戚達と親し気に話しながら 酌をしてまわり 何か話してはまた別の親戚のところへ行く
それを繰り返しながら、従兄は二人のところまできた
ちゃんっ」
「あ、おひさしぶりです」
にこっとが笑うと、従兄は持っていた酒の瓶を置いての手を取った
ここに来るまでに相当飲まされていたから もうすでに酔っているのだろうと思いつつ
むっとして、尽は従兄の横顔を見る
「オレのこと覚えてる?
 あの時ちゃんまだ5才くらいだったから忘れられてるかもと思ってたんだよ」
「あはは、実はあんまり覚えてないです」
にこっと、
いつもの調子で笑ったに 従兄はうんうんと、その手を握ったまま笑った
「俺の初恋ちゃんだったんだよ、知ってた?」
「え・・・?」
(5才の子供に初恋?)
ロリコン、と
心の中で罵りながら 尽は小さくため息をついた
さっかから嫁がこっちを見ている
恐いなぁ、と思いつつ 少しばかり困った様子で従兄に手を握られたままのを見た
「シンジさん、奥さんが睨んでますよ」
なれなれしい従兄にうんざりして、小声で言った
すると、従兄はの手を放し 今度は尽に向きなおった
「お、生意気な尽じゃないか
 おまえ、俺のこと覚えてる?」
「いえ、全然」
本当は覚えているけれど
と尽が田舎に滞在している間ずっと、
毎日毎日遊びに来ては、をさっさとどこかへ連れていってしまった気に食わない男
10才も年の離れた、
あの頃の尽では全然かなわなかった憎き従兄
「あっはは、まぁあの時おまえちっちゃかったもんなー」
楽し気に笑って、従兄は次の親戚の所へ行った
(あー、五月蝿い)
やれやれ、と
ため息をつくと、隣でが小声で言った
「すごく酔ってるね、びっくりしちゃった」
「そーだね、酔っぱらいには気をつけな」
こんな席で、自分の嫁にそっくりな女の子を捕まえて、初恋は君だったなんて、
誰が聞いてもいい気はしない
今でものことが好きで、
によく似た妻をめとった
そういうことか? と、疑ってしまう

その夜、集まった若者はみんなで花火をした
「初花火だね〜」
パチパチと何度も色の変わる花火に喜びながら が言い
その火に照らされた横顔を見て、尽は笑った
さっきからもっぱら子供達の火つけ役にまわっている尽は、様子を見にきた従兄とその嫁にピクリと反応する
昔から、この従兄にはいいイメージがないから余計に

「花火か、いいねぇ」
煙草をふかしながら従兄はいい、自分も一本手に取ってライターで火をつけた
パチパチと、辺りが明るくなる
「お、ちゃんの終わったな
 これ、やるよ」
そうして、の花火の火が消える度に、かいがいしく横で新しい花火に火をつけ渡した
隣に、同じ顔をした嫁がいるのを ほぼ無視しながら

イライラ、と
尽は呆れて従兄のその様子を見ていた
に必要以上に構うのもむかつくけれど、
一番許せないのは、自分の嫁がそこにいるのに しか構わないということ
自分が一番に優先すべきは誰か、わかっていないから
どこかおもしろくなさそうに、
親戚のおばさんと話しながら 時々ちら、とを見る
そんな嫁の様子が気になって、尽は大きくため息をついた
そういうのは、男として最低だと思うんだけれど

「そうだ、ちゃん
 これからドライブでもしないか?」
「え?」
花火の後片付けをしながら 従兄が突然言い出した
「これから?」
時計を見たら もう11時を回っている
困って尽を見たに、尽は苦笑した
「せっかくですけど、今日は遠慮しておきます」
やんわりと、尽は言って
それからいつもの営業用スマイルを見せた
「もう遅いし、それにシンジさん酔ってますしね」
酔っぱらい運転は危険ですよ、と
言って、バケツやら何やらを持って立ち上がる
、そこのゴミ持ってきて」
「あ、うん」
そうして、名残惜しそうな従兄を置いて、裏のゴミ捨て場に向かった
やれやれ、とため息をつきながら

「尽って断るの上手ねぇ」
花火のゴミを捨てながら が言う
「そーだね、みたいに優しくないからね」
同じくバケツの水を捨てて尽はいい、
それから大きく伸びをした
「あの人変わってないなぁ」
「え? 尽、覚えてるの?」
「ん? まぁね」
「・・・覚えてないって言ってたじゃない」
「ああ、俺あの人のこと好きじゃないから」
さらり、と
言ってのけた尽に、が唖然とした
「え? なんで」
「なんでも」
昔さんざん、と遊ぶのを邪魔されたのも
こんな席で、が初恋だったと言ってのけたのも
嫁を無視してまで、にかまうのも
にそっくりな嫁をめとったのも
「ふーん、ダメだよ? 喧嘩しちゃ」
「大丈夫だよ、子供じゃあるまいし」
言って、尽は悪戯っぽく笑って、ふいににキスをした
「!!」
驚いて、頬を染めたに笑いかける
「今の約束」
「な・・・」
普通 約束といったら指きりでしょ、と
言いかけて、は言葉を飲み込んだ
暗くて尽にはバレていないと思うけれど、顔が熱くて仕方がない
「もぉ・・・」
怒ったようにぐい、と尽の背中を押して はうつむいて苦笑した
なんだか最近、自分がよくわからない

さて、寝る前
今夜はここに泊まることになっているから、と
尽にあてがわれたのは 知らない親戚のおじさんと一緒の部屋
は親戚達がおもしろがって、似てる者同士と どうやら嫁と同じ部屋のようで
風呂に入ったあと、ひらひらと手を振って奥の部屋へと消えていった
尽と同室の親戚は、深酒ですっかり気持ちよくなって早々に眠りについたらしく、部屋からはいびきが聞こえてくる
そろそろ自分も寝ようかな、と
冷えた廊下を歩いていた
そこに従兄がいた

「よぉ」
柱に持たれて、彼は尽を待っていたようで、
そう声をかけて、にやりと笑った
煙草の匂いが漂ってくる
「何ですか?」
「お前、ちゃんのこと好きなのか?」
どういうつもりで、相手がそんなことを言うのか 尽は従兄を無言で見遣った
「さっき見ちゃった
 姉弟でキスしちゃって、あぶないな〜オマエ」
ああ、と
それで尽は小さく微笑した
「だったら?」
だったら何?
自分も未だに、が大好きなくせに
に似た人とわざわざ結婚する方が俺にとったらコワイけど?」
「そっくりだろ
 けど、本物見たら本物の方がいいなぁ」
断然、の方が可愛い、と
従兄は言って笑った
「従兄ってのは姉弟と違って結婚できるからな」
「そうだね、本人にその意志があればの話だけど」
どこか冷めた目で冷静な返答を返す尽に、従兄は苦笑いした
「相変わらず お前は生意気だな」
「相変わらず あなたは軽薄だね」
従兄の吐く煙草の匂いが不快で、尽はやれやれとため息をついた
「あれはあれでいいんだけどな
 一途でオレのいうことよく聞くし
 けどやっぱり、初恋ってのは特別だろ」
お披露目しておいて何だけど、と
従兄はにやにやと まるで独り言みたいに言った
まだ酔っているのだろうか
それとも、本気なのだろうか
「あなたの好きにすればいいと思うけど
 そういういいかげんな男は嫌われるよ」
にも、によく似た妻にも
「ふん、おまえみたいなガキに言われたくないな」
「じゃあ御自由に」
一瞬、不愉快をあらわにした従兄に、軽蔑の眼差しを送って 尽は静かにため息をついた
そこに、奥でパタン、とドアのあく音が聞こえてくる
続いてぱたぱたと誰かが走ってくる音
何ごとかと視線をやると、驚いたことに、廊下の向こうから姿を現したのはだった
「お? ちゃ・・・」
嬉しそうにした従兄とは逆に、尽は一瞬どき、とした
一目でいつもと様子が違うのがわかる
無意識に駆け寄ったら は無言で尽に抱きついてきた
身体が、震えている

「どうしたの、
その身体を優しく抱きしめて、ぽんぽんと背中を軽く叩くと の身体からすっと力が抜けた
「尽〜・・・」
よしよし、と
その髪をなでる
それで、尽ははっとした
はらっと手に落ちる髪
が、春頃から伸ばしている髪
それが一部分、無惨に切り落とされている
「・・・誰にやられたの?」
こんなひどいこと
女の子の髪を こんな風に切るなんて
「ふえーーん、尽ーーーっ」
一気に安心したのか、
はぼろぼろと泣き出すと、今までよりも強く尽にしがみついてきた
「なんだよ・・・」
二人の様子に驚いて、言葉もなかった従兄が ようやく事態を悟りだし、おろおろと辺りを見回した
そうして、の来た方と同じ廊下から現れた嫁の姿に、その顔色は蒼白になった
この状況、
こんなことをしたのは、彼女としか考えられない

震えて、嫁に対して完全に怯えているを別室に入れて
尽は嫁と従兄を見下ろした
嫁は今、従兄の腕の中で啜り泣いている
従兄があんまりにかまうから悔しかった、と
を見て、自分はの代わりでしかなかったんだと思うと悲しくて腹立たしくて
自分より長く伸びたの髪を、女の子らしくていいと言った従兄の言葉が気に入らなくて
部屋で二人っきりになった時、
そのことに触れたら、が彼氏のために髪を伸ばしているんだと言ったのに
無意識にやってしまったんだと
側にあったハサミで、きりつけてしまつたんだと彼女は言った
(こわ・・・)
寒気がする
は多分 突然のことに怯えて抵抗もできなかったんだろう
下手に暴れていたら、髪ではなく顔を切られていたかもしれない
命に別状なく、血を見る前に逃げてこれたから良かったものの
一つ間違えればとんでもないことになっていた、と
尽は大きくため息をついた
「自分の嫁くらいちゃんと責任もってよね
 初恋だとか浮かれるのもいいけど
 今度こんなことがあったら、俺 二人とも許さないよ」
怒りはおさまらないけれど
泣きたいのはの方だと思いながら、
それでも責任は、この軽率な従兄にあるのだとわかっているから
尽はこちらを見た従兄に 言い放った
「そんなだから、あなたは軽率だっていうんだよ」
そして、
そのまま部屋を出た
今はこいつらに構っているよりも、一人震えているの側にいてやりたい

別室に、はうずくまっていた
「大丈夫?」
もってきたグラスを差し出すと、受け取って一口飲んだ
甘い味が口の中にひろがる
の大好きなリンゴジュース
ほろっと、またの目から涙がこぼれた
「・・・伸ばしてたのに・・・」
やっと肩について、ちょっと大人っぽくなってきたの髪
拓也が長い髪もいいね、って言ったから それからずっと伸ばしていた髪
「ふえーん」
また泣き出したを、尽は優しく抱き寄せた
「大丈夫、またすぐにのびるよ」
「でもぉ〜」
「短いのも、らしくて可愛いよ
 俺は短い方が好きだしね」
優しく髪をなでながら、何度も繰り返す
大丈夫、大丈夫
の心が落ち着くまで
その涙が止まるまで
尽はそうして、を抱いていた

次の朝、一番に謝りにきた従兄と嫁に ちょっと怯えなからもは必死に愛想笑いを返した
「いいです、もぉ」
髪はまた伸びるし、と
左右段違いの髪で答える
昨日さんざん泣いて、何度も尽に大丈夫と言ってもらって
それで今は少し落ち着いている
ここまで伸ばすのは大変だったけれど、
切れてしまったものは仕方ない、とは笑った
「良かったら街まで車で連れてくけど
 美容院、この辺にないから」
「え・・・、でも・・・」
一刻も早く 二人から離れたいは その言葉にオロオロとする
側の尽を見上げたら また尽が助けてくれた
「大丈夫です、おかまいなく」
そっけない、突き放したような言い方
尽は尽で怒ってくれてるんだろうな、と
思いつつ、は尽の隣で一つうなずいた
今は一刻も早く、祖父母の家に帰りたい

それから、昨夜のことは4人だけの秘密にしておいてくれという従兄の願いを聞き入れ、二人は皆が起き出してくる前に の髪をなんとかしようと庭に出ていた
「前より可愛くしてやるよ」
を椅子に座らせて、尽が言う
「ほんとに?」
「まかせときなって」
言って、その段違いの髪にハサミを入れながら 尽はその髪をさくさくと揃えていった
に「こんな感じに」と言われた雑誌のページをみながら

朝食の席で、皆はの髪が急に短くなっているのに驚きながらも 誰もが感心したようにその仕上がりを見ていた
「素人が切ってこれか、尽は器用だなぁ」
結局、1時間程かかったものの、が言った通りの髪型
雑誌に乗ってるのと変わらない出来上がりに も大満足だった
「尽ってほんとに何でもできるね」
「苦労したけどね」
嫁が気を使ってもってきてくれたピンやら何やらで髪を押さえて、濡らして、少しずつ切りながら
尽が考えていたのは どっちかっていうと数学的なこと
ここの長さがこうだから、こつちの長さはこう
ここの量をこうするとこう見えるから、ここはこう
それで慣れない作業に苦労しながらも、
まるで数式を組んでいくように、
図形を展開して仕組みを考えていくように、
尽はそうして、切っていった
が喜んでくれるように
泣いたりしないように、
そして、出来上がって鏡を見たは、にっこり笑って言ってくれた
「すごいっ、すごい可愛いっ」
それで、とりあえず尽はほっとした
にようやく、本当の笑顔が戻ったから

昼前、二人は従兄の家を後にした
(もぉ二度とこない)
相変わらず、いい思い出を作れなかった彼に対して 心の中で毒を吐きながら 尽は隣で窓の外の親戚達に手を振っているを見た
短い髪
のぞいた白いうなじ
短いのが好きな尽は、実は少しだけ満足している
ひどい目にあったけれど、
も恐い目にあったけれど、
終わりよけれはまぁいいか、と
一人ごち、尽はくす、と微笑した
車は遠ざかる
を得損なった、敗北者の家から


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