夏休み満喫計画 その3 (尽×主)


夜、寝る前
部屋で祖父母の話し相手をしていた尽のところに、がものすごい勢いで駆け込んできた
滞在2日目のこと

「尽っっ、星がすごいのっっ」
「・・・そりゃ田舎だからね」
「違うのよっ
 そんなもんじゃないんだからっ
 いいから早く来てっっ」
いつも冷静な尽と真逆に、は興奮に頬をそめて、ぐいっと尽の腕をつかんだ
「・・・」
別に星なんかには興味ないし、
実は夜空にいっぱいの星なんか昨日見て知っている
だが、この勢いのには勝てそうになかった
仕方なく、尽は立ち上がる
ぐいぐい、と腕をひかれ、縁側に出ると ほらっ、とが空を指差した
「うん、すごいね」
「でしょっ!!!
 いいなぁ、なんかロマンチック〜」
好きな人と一緒に見たいなぁ、なんて
の口からこぼれたのを聞いて、尽は小さくため息を吐いた
それは俺じゃなくて二宮拓也サンってこと?
「電話でもしたら?」
そっけなく言うと、がこちらを見て、頬を染めた
「うん、しよっかな〜」
昨日してないし、と
そうして はにかんだように笑う
(なんなんだよ)
本気でおもしろくなく、
尽は大きく伸びをすると また部屋の中に戻った
も戻ってくる
「おばあちゃん、電話かしてね」
「はいはい、あっちだよ」
そうして、奥の部屋へと消えていく
星が綺麗とはしゃぐのも、
ロマンチックだとうっとりした表情になるのも、可愛いと思う
だけど、そういう時も思い出すのは拓也のことなのだと思うと本気でイライラする
今、一緒にいるのは自分なのに、と
言ってもそれは、には理解できないんだろうな

「ここからちょっと遠いけど、綺麗な川があってね
 そこには螢がいるよ」
「え?」
「運がいいと見れるそうよ」
「・・・へぇ」
が聞いたら喜びそうだな、と思いつつ
しゃくなので、それはそのまま聞くだけにしておいた
どうせは大好きな拓也と電話中だし、
そろそろ眠くなってきたから、今日はさっさと寝てしまおう、と
尽は先に二人の寝室になっている部屋へと行った
そこで、冷たくて気持ちいい布団に身を投げ出す
拓也に嫉妬している時は、気持ちが昂ってなかなか寝つけないんだけど

しばらくすると、が部屋に戻ってきた
ぽすん、と横の布団に座る気配を感じて、声をかける
「早かったね」
「あ、ごめん 起こしちゃった?」
「いや、寝てなかった」
声が沈んでる気がする
「どうしたの? いつもは1時間くらい話してるのに」
「うん、拓也くん明日模試なんだって〜
 なんか勉強の途中っぽくて、あんまり話せなかった」
てへ、と
力なく笑った顔に、尽は妙な気持ちになる
ザマーミロ、と
思うと同時に、やっぱり沈んでるは見たくない
ちょっとだけ同情して、
それから贅沢な拓也にむかついて、
「俺だったら彼女の電話優先するけどね」
そう言って立ち上がった
座っているに手を差し出す
「何?」
「螢、見に連れてってやるよ」
「え・・・?」
「ほら、早く」
「え・・・????」

いまいちこちらの言うことを把握していないの手をひいて、寝る準備をしていた祖父母に自転車を借り、二人は真夜中 家を出た
「どこ行くの〜?」
「だから螢見に行くんだよ」
「えぇ?! そんなの見れるの?!!」
「運が良ければね」
ものすごく古い形の自転車の後ろにを座らせて、
懐中電灯1つだけ持って、尽は田舎の道をぐんぐんこいだ
「さすがに暗いな・・・ちょっと照らしてよ」
「うん」
灯りの少ない田舎の道
真っ暗な中、目を凝らして走っても危なくて、時々細いあぜ道なんかを通るときには ひやっとする
しっかりと尽の腹に手をまわしていたが、片手を放して、尽から渡された懐中電灯のスイッチを入れた
後ろでパチ、と音がする
同時に、一筋のあかりが差し込んだ
「お、いいね
 前輪の前くらいを照らしてて」
「む、難しいこと言うなぁっ」
が尽にしっかりとしがみつきながら 尽の指定通りの場所を照らす
それで大分 走りやすくなった
背中にの体温を感じつつ、
祖父母に教えてもらった場所をめざす
車があったらもっと楽なんだろうな、なんて思いつつ
夜の風が心地よくて、
触れた身体も、何か妙にくすぐったくて、でも嬉しくて
それで、尽は御機嫌だった
二宮サン
あなたが模試なんて優先してる間に、こっちは誰にも負けない思い出を作っておくよ

30分程、なんだかんだといいながら走っていた二人に、水の音が聞こえてきた
「あ、着いたのかな」
右手が土手のようになっていて、水音はそっちの方から聞こえてくる
人の気配の全くしない場所
真夏なのに涼しくて、ここの空気はとても気持ちがよかった
「歩いてみる?」
「うんっ」
自転車を止めて、土手の方へと近付いていった
「足下気をつけて」
こんな時にサンダルなんかはいてきているの手を取り、ふらつくのを支えながら そうっと斜面を下りていく
草が伸び放題に茂っていて、いかにも螢がいそうな感じ
だが、その光はどこにも見えなかった
辺りは、尽が照らす懐中電灯の光だけ
静かで、何もない

川はサラサラと流れていて、思ったよりも大きかった
「綺麗な川なんだろーね
 昼にきたら中に入れるかな」
「うん」
部屋で落ち込んでいたも、今はすっかり御機嫌で 楽し気に隣を歩いている
良かった、と
思いつつ、尽は辺りを照らして歩く
だんだんと川幅が狭くなっていくのを確認しながら、時々川の水に触って喜んでいるを見下ろした
この夜の遠出に、の落ち込んでいたのはなおったけれど、
せっかくここまで来たんだから見せてやりたい
螢が好むという上質の水
だったら上流だろう、と
尽は川を、上流へと辿りながら歩いた

「ねぇ、そろそろ戻る?」
15分程歩いた時、が言い出した
「運が良くないと見れないんでしょ? 螢」
「見たくないの?」
「見たいけど・・・」
こちらを見上げてくる顔に 尽は自信満々に視線を返した
「見せてあげるよ」
だから黙ってついておいで、と
やはり尽は今まで通りの方向に歩き出した
(・・・なんでそんないつもいつも、自信満々なんだろう)
見せてあげる、だなんて
ドキ、とする
そんな風に、自分のために こうやってこんな遠い所まで連れてきてくれたんだと思うと それはとても照れくさかった
(優しいなぁ・・・尽)
きっと、自分が拓也のことで落ち込んでいたから、こんな風にしてくれてるんだと思う
星には興味を示さなかったのに
螢にも、興味があるだなんて思えない
どちらかというと、現実的で冷静な方だから こんな ロマンチックなのは尽らしくないから
「ね、尽・・・」
ありがとう、と
お礼を言おうと思って見上げたら、
フ、と尽が足を止めて し・・・、とこちらを見て微笑した
懐中電灯の光が消える
静かな夜
水の音だけ
澄んだ、心地よい、さらさらという音だけ

(あ・・・・)
思わず、はつないだ手をぎゅっと握った
スイ・・・と、
光が目の横を通っていった
振り返って それを追ったの視線の先に、また光がともる
「あそこ見て」
隣で囁くように言った尽の指さす方
水音の聞こえる方には いつのまにか無数の光がまたたいていた
近くのはぼんやりと、
遠くのは まるで星みたいにキラキラ、と
「すごい・・・」
生まれて初めて見た螢
こんなにもいっぱい、
今まで全然いなかったのに
運のいい人しか見れないって、言われてたのに
(すごいすごいすごい・・・・っっ)
感動して、はしばらく言葉もなく立ち尽くしていた
感動に、身体が震えそうになった

、突っ立ってないで」
つん、と
腕を引かれ我に返り、は尽が指した大きな石に腰かけた
隣に尽が座ったのを見て の頬が無意識に染まる
「尽すごいっ
 すごい感動するよーーーっ」
「そぅ? よかったよ」
いつもの尽
でも螢の淡い光の中、その表情はとても大人びて見えて
それで心がドキドキした
「ありがとうね、尽」
「どういたしまして」
ぎゅっと、繋いだままの手を握ると 尽が隣で笑った
なんとなく照れくさかったけれど、それよりも嬉しい方が何倍も大きかった

しばらくその、特等席に座って、二人は螢を見ていた
「ねぇ、つかまえられないかな」
「・・・やめときな」
「だって、もっと近くで見たいんだもん」
「図鑑で螢、見たことある?」
「ない」
の言葉に、尽は笑った
「螢って何か知ってる?」
「光る虫でしょ?」
「そうだよ、虫だよ?」
それで、う・・・、と
は遠くの幻想的な光を見た
「ほんとに虫の形してるの?
 まあるい光じゃないの?」
「まぁ、丸くはないな」
(尻が光ってるだけだから)
苦笑して、尽は言うと くすっともう一度笑った
「夢は壊さない方がいいよ、
せっかくとっておきの思い出を作っているんだから、と
そう言って、複雑な顔をしているに ひとつ口付けた
「・・・っ」
びくり、と
その肩が反応する
だが、いつものような抵抗はなかった
一度、唇を離すと甘い吐息が漏れる
すぐ側で、潤んだような目をしたの その髪に小さな灯が一瞬ともった
まるで髪飾りみたい
すぐに飛んでいってしまった螢を目で追って、尽はもう一度 その潤んだ唇にキスをする
深く、深く、
の中に、このくちづけも残ればいい
夏の思い出、二人きりの夜
触れた唇から、熱を感じ 尽はそっと目を閉じた
の中で、自分という存在が一番になればいい
が、自分だけのものになればいいのに

夏の夜
聞こえるのは水の音と、ドキドキしている心臓の音
尽に聞こえないように、必死に抑えようとして はうつむいた
唇に残る熱が、不快じやないから
繋がれたままの手が、何よりも安心できて心地いいから
戸惑いは、確実に生まれつつある
ロマンチックな夜
側にいるのは、尽
ここまで連れてきてくれたのは、いつもいつも自信たっぷりの弟
ドキドキしているのは、その彼に対して
は、こっそりと尽を見遣った
遠くの螢を目で追う、その横顔はやっぱり少し大人に見えた
夏の夜はふけていく
二人を、日常から切り離すようにして


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理