遊園地デート (尽×主)


本日は晴天ナリ
初夏の陽射しが少しばかりキツい午後
は拓也と待ち合わせて、今日は遊園地でデートである
「ジェットコースター乗るんだ〜」
さんは好きだね、そーゆうの」
「うんっ、大好き」
嬉しそうに園内をかけていくを、拓也は愛おしそうに見つめ、その後ろ姿を追った
二人は月に一度くらいは、こうしてデートをする
待ち合わせて、遊んで、それから帰り際にキスをして

「あれ・・・?」
が好きなジェットコースターに向かいながら、拓也はふ、と視界に入った見なれた人影に目を止めた
(尽くん・・・)
同じくデートの最中なのか、髪の長い女の子と一緒に歩いている
「・・・・」
少しだけ考えて、拓也は立ち止まった
「尽くんっ」
「え?! 尽?」
先を歩いていたが驚いて振り返る
尽もまた、立ち止まってこちらを見た
「・・・ああ、二宮サン」
そうしてその視線はへと移り、にこっといつもの悪戯な笑みを浮かべた
「偶然だね、もココだったんだ」
「うん」
家を出る前にさんざん服が決まらないだの、髪型がおかしいだのと騒いでいたは、こうして改めて外で尽に会い、少しだけ気恥ずかしくてはにかんだ
くんのお姉さん?」
尽の隣の彼女が伺うように言う
「そうだよ」
「やっぱり少し、似てるね」
「そうかなぁ・・・」
彼女の言葉に笑って答えつつ、はチラ、と尽を盗み見する
手に遊園地のビニールバックを持っている
中から覗いている大きなぬいぐるみは 多分彼女のものなのだろう
園内のゲームセンターで取ったやつ?
そういえば、尽はそーゆうのを取るのが上手かったっけ
(ちゃんと彼氏してるんだなぁ・・・)
何人もの彼女とつきあっている尽が、どんな風にその子達に接しているのか 少しだけ気になっていたは、それでちょっと安心した
デートの時は1対1だし、こうやってちゃんと荷物を持ってあげたりするんだ
こういうことは、尽にとっては当たり前なんだ
「良かったら一緒に回らない?
 せっかくだし・・・」
突然、拓也が言い出して も尽も驚いてお互い顔を見合わせた
「え? 」
「大勢の方が楽しいかなって・・・思ったんだけど」
他意のない顔で拓也が笑う
(ふーん・・・)
それを見遣り、尽は内心苦笑した
人の良さそうな顔した二宮サン
でもけっこう計算高いの、見ててわかるんだよね
は騙せても
「俺はいいけど・・・?」
彼女に、どうする? と聞いて尽は少し笑った
嫌なら断ってもいいよ、と
そういう意味の込められた優しい微笑に、彼女はううん、と首を振った
「せっかくだし、一緒に行きたいな・・・」
「じゃあ」
にこり、
今度は拓也に笑いかけて、尽は次いでを見た
含みいっぱいの二人に対して、まったく無邪気な顔ではいる
キョトンと、目をくりくりさせて それでもいつものようにどこか楽しそうにいた
(可愛いなぁ)
「ねっ、じゃ早くジェットコースターっ」
「あ、そうだったね」
二人がジェットコースターに向かって歩き出したのを見て、尽も彼女を促した
「大丈夫だよね? あれ」
「うん、ちょっと恐いけど」
笑った彼女の手を取って、前の二人について歩く
拓也の腕に時々抱きついてはしゃいでいる、大好きな人の後ろ姿を見ながら

と拓也は、手こそ繋がないものの いつもが拓也の腕や服に触れて歩いていた
楽し気に、拓也に笑いかけるを、愛おしそうに見つめる横顔
けしてこちらを見なかったが、それは明らかに尽を意識しているのを感じた
(あーあ、やっぱりか・・・)
最初に感じたこと
彼が声をかけてきて、一緒に回ろうと言った時に思ったこと
「見せつけてくれちゃって・・・」
つぶやいてため息をついた
何もわざわざデートを見せつけてくれなくても、と
思いつつ、その行為が少し子供っぽくて笑える
意外と危険視されてるのかな、なんて
尽は思って、もう一度の横顔を見た
笑っている
いつもみたいに
でも、それにほんの少しの違和感があるのが さっきから気になって仕方がない
尽はまた、の横顔を見た
今日は側には行けないから、
拓也より近くには行けないから、
自分にはこうして見てるだけしかできない、それがはがゆい

「ねぇねぇ、これ飲んだらさっき通った劇場もー一回覗いてみない?」
2時間程園内を回り、少しおちついてパラソルの下、ジュースを飲んでいたが言い出した
「あっ、私も見たいですっ」
「だよねっ、あれ評判いいんだよ
 もう少ししたら次の上演のチケット配るんじゃないかなぁ」
時計を見たに、拓也がうなずく
「そうだね、ちょっと見てくるよ」
「え?!」
さん達はここにいて」
「いいの? 拓也くん」
「いいよ」
にっこりと、笑って一人席を立った拓也は、そのまま先程通ってきた道を戻っていく
「優しい彼氏ですね」
「うんっ」
女同士の会話が聞こえて、尽は小さく苦笑した
そういうことろで点数をかせぐ前に、アナタにはやることがあると思うんだけどな
ため息を吐きつつ、尽はチラ、とを見た
やっぱり違和感を感じる横顔
二宮サン
あんなに近くにいて、アナタは何も気づかないの?

「私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「ああ、うん」
しばらくすると、彼女も立ち上がり 席には尽とだけになった
、大丈夫か?」
ちら、と見ると 目をまるくしてがこちらを見上げている
「え・・・?」
「熱あるだろ
 自分でわかってるなら、せめてはしゃがないようにするとか、あるだろ」
先程からずっと感じている違和感
朝にはそんな風な様子はなかったのに、
一緒に園内を回っていて ふと気付いた
時々笑顔が曇る
頬が火照ったみたいに見える
今日は陽射しが強いし、みんな動き回っているし
だからだろうか、と思ったけれど
「あちゃ、なんでバレちゃうかな」
困ったように、は苦笑した
せっかくのデートだから、体調が悪いだなんて言って台なしにしたくなくて
遊んでいたら辛いのも忘れると思って
熱が上がっているのに気付いても、まわりには気付かれないようにしていたのに
平気なフリをしていたのに
「そりゃ俺はのこと、毎日見てるからね
 できれば、今すぐ連れて帰りたいけど」
じっとりと、を見遣る
の悪い癖だと思う
人に心配をかけないよう、いつも大丈夫なふりをする
本当に辛い時も、平気な顔をして
それで今まで何回倒れたか
「忘れたわけじゃないよね?」
「う・・・」
上目遣いに尽を見て、は曖昧に笑った
「だって・・・せっかくのデートなのに拓也くんに変な気使わせたくないんだもん・・・」
帰るのは嫌だ、と
そしてうつむいた
自分では、そんなにたいしたことないと思う
熱だって計ったわけじゃないし、
もしかしたらそんな気がするだけで、この陽射しでのぼせているだけかもしれない
「ね、だってけっこう元気だし」
にこっ、と
笑ってみせたに 尽はため息を吐くと 席を立って側へと寄った
その額に手を当てる
「ひゃ、つめた・・・」
「たいしたことない・・・ねぇ?」
触れて、その熱が手のひらに伝わり それで尽はを軽く睨み付けた
「あるよ、8度くらい」
「そ、そんなにないわよっ」
「・・・怒るよ?」

ドキ、と
尽のその目に は言葉を飲み込んだ
(な、なによ・・・)
めったに見ない、尽の怒った顔
イライラとしたように、ため息をつく
「なんでに触れてて、これに気づかないかな あの人は」
自分達は仲のいい恋人同士だとみせつけてくれるのも結構
が彼に触れるのも、笑いかけるのも
わざわざ見えるように前を歩きながらアピールしてくれるのも大変結構
気のきくところも、優しいところも、わかったよ
もう充分です
「・・・だから他の男になんか渡しておけないんだ」
そろそろ、自分の恋人を気づかってやってくれ
大切な人なんだったら
を、自分のものだと言うのなら

「わかった、ちょっと待ってて」
熱があるくせに、拓也とのデートだからと無理をする
のことなんか、少しも気にしていない拓也も
尽には腹立たしかったが
(・・・ああもぉ、むかつくっ)
いらいらしながらも、席を立つと店を出た
園内で薬なんか、売ってただろうか

「あれ? 尽くんは?」
しばらくすると、チケットを持って拓也が帰ってきて、席に女の子しかいないのに不思議そうな顔をした
「なんかわかんないけど、出てっちゃった
 待っててって」
「そうなの?
 あ、チケット取れたよ」
「わっ、ありがとう」
渡された可愛いキャラクターの書かれたチケットを見る
せっかくのデート
拓也も、尽の彼女も楽しくやってるのに 自分のせいで台なしにはしたくない
何より、拓也ともっと一緒にいたい
「楽しみね〜」
すっかり意気投合した彼女と、なんやかんやと話しながら は尽が帰ってくるのをまった
心配して、怒っていた尽に心の中でゴメンと言って

園内をつっきって、事務所まで行って、そこにいた係の人に尽は薬をもらった
「そんなに長くはきかないので早目に家に帰ってくださいね」
「はい」
礼を言って また元の道を走ってもどる
(ああもぉ、俺っていい奴)
本当は、今すぐにでもを連れて帰りたい
あんな熱、普段の日ならベッドから出てこないだろうに
即行で、学校なんか休むくせに
(そんなに好き・・・? あんな奴のこと)
むかむかしたけれど、
イライラしたけれど、
でも今はの身体の方が心配で、大切
そして、同じくらい の希望をきいてあげたい

「あ、おかえり」
「どこ行ってたの?」
「ごめん、ちょっと電話」
バイト先に大事な電話を入れるのを忘れていた、と
尽は戻って皆に言った
「じゃ行こうか」
「うんっ」
みんな一斉に席を立つ
立ち上がる時、ふらっとがよろけたのを見て 尽はその腕をす、と支えた
「あ・・・」
「ダメになったらすぐ言えよ」
誰にも聞こえないように囁く
こっちだよ、と
先に立つ拓也と、チケットを片手に嬉しそうな彼女を見ながら もらってきた薬を手渡した
「これ飲んで、あんまりはしゃがないこと
 約束するなら、目つぶってやる」
本当は、嫌だけど
自分がのデートを台なしにはしたくない
「・・・ありがと、尽」
「言っとくけど俺は怒ってるんだからな」
「うんっ」
カプセルを取り出して、テーブルの上の水で咽の奥に流し込んだ
「早く、さん、尽くん」
「はーいっ、まってっ」
は、こちらを振り返って呼んだ拓也に笑顔で返事して
それから 拓也の方へと駆け出した
っ」
ああもう、はしゃぐなって言ったのに
それは走ったりするなってことなのに
「大丈夫」
振り返って、だがは悪戯っぽく笑った
それがなんだか無性に、悔しかった

その日、夕方二組の恋人は遊園地の前で分かれた
尽は当然のように彼女を家まで送っていき、その後、苦々しい思いで帰途についた
(あーあ・・・)
熱があっても、自分が辛くても会いたい相手
にとっての拓也はそれ
尽がどんなに心配しても、どんなに怒っても
多分は、そんなに気にしないだろう
それよりも、拓也が心配するのが嫌で
拓也に気をつかわせたくなくて、平気なふりをする
全部、拓也のため
尽のことは、は考えない
「・・・ま、わかってるんだけどさ」
あっちは恋人同士で、こっちはただの姉弟なんだから
今日はデートで、尽とが一緒にいたのは ただの偶然なんだから
「あーあ」
ため息をついて、角を曲がった
そこで尽は足を止めた
が、家の前でうずくまっている

っ」
駆け寄って名前を呼んだら は顔を上げた
「あっ、おかえりっ」
元気に言うけれど、頬が赤い
「何してんだ、こんなとこでっ」
思わず、怒鳴り付けてしまった
それでがびくっと肩を震わせた
「お・・・怒ることないでしょ
 私、尽のこと待ってたんだから・・・」
「はぁ? 」
「だって今日見のがしてくれたし・・・薬だってもらってきてくれたし・・・」
おかげで拓也にバレずにすんだから
今日一日、楽しく過ごせたから
、俺の言ったこと聞いてた?
 早く帰って、薬飲んで、寝ろって言ったんだよ」
「う・・・聞いてたわよ
 だけど・・・私・・・」
いらいら、と
頬を染めて、こんなところにいるが腹立たしくて
尽は無言での腕を取った
無意識に力が入り過ぎたのか
「いたっ」
勢い良く立ち上がり、ふらついては尽を見上げた
「いたい・・・」
だが、尽はかまわずに そのままの腕をつかんで家の中へと入っていく
「ちょっ・・・尽っ、痛いよっ」
フラフラ、と
後ろでの声がする
「ねぇっ、放してっ」
今にも泣き出しそうな声だったけれど、無視した
は自分の気持ちを何ひとつわかっていない
こんなに心配して、
こんなに想って、
待っててなんか一言も言ってないだろう
早く帰って、早く寝て、一刻も早く元気になって欲しいのに

そのまま、無言での部屋まで腕を掴んで連れていき、
ぱしっ、とベッドにその身体を突き飛ばした
「きゃっ」
ぽすん、と
クッションが跳ねる
いつもならこんなこと絶対しないけど
今日は本気で怒ってるんだ

いいかげん、わかってよ
「痛いよ・・・尽・・・」
目に涙を滲ませて がこちらを見上げた
「もう一回だけ言うからね
 薬飲んで、早く寝て、わかった?」
いちいち言葉がきつくなる
それをどうしようもないのは、まだ自分が子供だからだろうか
何かいいかけたを無視して、尽は部屋を出ようとドアまで歩いた
だが途中、どんっと背中に何かがぶつかる
「・・・っ」
温かい、それ
いつもよりも、高い体温
尽はため息を吐きながら、呆れたように振り返った
「何よっ、そんなに怒ることないでしょっ」
熱でふらふらのくせに
立って待ってることもできず、うずくまっていたくせに
背中にすがるように がぎゅっと抱きついてきた
ため息がこぼれる
、いいかげんに・・・」
「何よっ、尽のバカっ
 ごめんねって言ってるでしょっ
 私、尽に助けてもらったからお礼言おうと思っただけだもんっ」
しゃくりあげながら、はぼろぼろと涙をこぼした
「何よっ、そんなに怒ることないのにっ
 なんでそんな風にするのっ
 尽がそんなんだったら私寝ないもんっ、薬も飲まないもんっ」
まるで子供みたいに泣きじゃくるに、尽は一瞬怒りを忘れた
「・・・もぉ、そんな泣くなよ・・・」
ぎゅっと、
その身体を抱きしめる
ああ、やっぱりいつもより熱い
泣きながらしがみついてくるのに、そっと髪を撫でた
さんざん見せつけられて、
さんざん妬かされて、
イライラして、心配して、怒って、
今日一日でたまった負の感情は、瞬間一気に流れでた
怒りは愛おしさに、スッと変わっていった
「ほんとは、しょうがないな・・・」
そして、自分もどうしようもない
こんな風に泣かせてしまうのも、
未だ熱があるのに、ちゃんと寝かせてあげられないのも
多分自分が子供なせいだ
喧嘩みたいに、度鳴ったりしてる場合じゃなかったのに

ぽんぽん、と
の背を優しく叩いて 尽はを抱き上げた
「ふぇっ」
「ごめん、怒鳴って」
そのまま、ベッドに連れていき、その身体を横たえる
脇に腰掛けると、涙に濡れた目が見上げてきた
「ごめん、乱暴にして」
力いっぱい掴んだ腕は、赤くなってしまっている
そっと触れて、キスをした
何度も何度も、くり返す
「・・・尽」
無言で、その髪をなでて そのままそっと口づけた
涙で濡れた唇
指でそっと頬をぬぐうと、はぎゅっと目をとじて毛布にもぐりこんでいった
「尽・・・」
「ん?」
「そこにいて?」
「うん」
頭まで潜り込んだまま、照れたような、それでもまだ少し震える声が聞こえた
「寝るまでいてね?」
「うん、おやすみ」
それで、少しだけ顔をのぞかせて がこちらを見た
「怒ってない?」
「怒ってないよ」
覗いた額にも、キスをする
閉じたまぶたにもキスをする
それでまた、が毛布にすっぽりと隠れてしまった
やがて、すうすうと寝息が聞こえてくる
尽はしばらく そこにいた
まだ子供な自分に、苦笑しながら
どうしようもない想いに、ため息を吐きながら


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理