特別の定義 (尽×主)


ある日の夕方、尽は今日もバイト中
「いらっしゃいませ」と
いつものように いつものスマイルで元気よく言った尽は、はた、と入ってきた客を見つめた
「尽っ、頑張ってる〜?」
にこにこ笑顔の大好きな
駆け寄るように、尽のいるレジの前まで来て はにっこり笑った
クラブの帰りなのか、手に大きなバックを持って
そして隣には 二宮拓也
「いらっしゃいませ、御注文は?」
クス、と笑って尽はにメニューを差し出した
隣の二宮にも、視線をやって微笑する
気にくわないなぁ、とか思いつつ
なんでわざわざ見せつけるように、この店に二人で来るかなぁ、なんて
心の中でつぶやきながら、顔には営業用のスマイル
「うーんと、ポテトとアイスティー
 拓也くんは何にする?」
「アイスコーヒーかな」
尽の気も知らないで、
二人は並んで、カウンターの向こうで楽し気にメニューをみている
尽のバイトしているウィニングバーガーに、はよく来る
大抵奈津実かクラスの女の子達と一緒なのだが 今日は彼氏とデートのようだ
「・・・太るよ、
仲のいい二人が気に入らなくて、尽はを意地悪に見つめて言った
「ダイエットするんだって言ってなかった?」
「クラブでお腹へってるんだもんっ
 これくらい大丈夫よぉ
 あんた客の注文に文句つけないのーっ」
「はいはい、じゃあポテトとアイスティーとアイスコーヒーね」
むぅ、とふくれたを可愛いと思いつつ、注文を通しレジを打つ
「ごゆっくりどうぞ」
商品を渡すと、達は店の奥の窓際の席についた
皮肉にも、ここからよく見える席
いつも、が来てくれると嬉しくて仕方ないのだれど
拓也といるところを見ても不愉快なだけで、嬉しくもなんともない
知っててやってるんだろうなぁ、と
尽はこちらをチラ、と見た拓也に視線を返した
どうやら あのライバル宣言以来 拓也は尽を敵と認めたようである

しばらくすると、尽のクラスの女の子達が店に遊びにきた
くん頑張ってる〜?」
「遊びにきたよ〜」
どの子もクラスの可愛い子
彼女候補の、尽に気がある女の子達
「頑張ってるよ、何か買ってってくれんの?」
「もちろーんっ」
キャピキャピと騒がしい女の子達に 拓也が驚いたようにこちらを見ている
もしかして、成績優秀な二宮拓也サンはあんまりこーゆう店には来ないのかな、と
今日はわざわざ見せつけてくれるために来てくれたのかな、と
尽は内心ため息をついた
視界の端に入る二人は、まったくの恋人同士
雑誌を一緒に見ながら、楽しそうに話している
「ごゆっくりどうぞ」
女の子達の注文を聞き、商品を渡し、また別の客の相手をしながら 尽はなんとなく沈んでいくような、むかついてくるような
妙な気分でいた
わかっていても、目の前で見せられるといい気はしない
当然だけど

達の席のすぐ側に、女の子達は陣取った
「ねーねー、A組の子がくんに告白したって知ってる?」
「聞いたーっ、ふられたんたってね?」
「まぁ・・・あんまりくんにはつりあわない子だったもんね」
きゃぴきゃぴと、さっそく楽し気に話しはじめた会話が、嫌でもと拓也には聞こえた
(・・・モテるんだなぁ、尽って)
昔から、彼女が何人もいるだのモテる男はつらいだの
嘘か本当かわからないことを言っていたけれど
「すごいね、尽くん・・・」
「うん・・・なんか聞いてる方が恥ずかしいなぁ」
ひそ、と耳打ちしてきた拓也に は苦笑して言った
「こないだOKもらったって言ってた子ってテニス部の子でしょー?
 君ってスポーツ系が好きなのかなぁ?」
「えー、そんなことないって
 だってこないだ私に おとなしい子好きって言ってくれたもんー」
「おとなしいって素直ってことじゃないのー?
 暗いのとかはちょっとパスじゃない?」
「え? でもウチのクラスのあのちょっと暗めの子とかとよく話してるよね
 なんか妬けるくらい仲いいじゃん?」
「えーだったらあの子が6人目候補?」
「うっそー、私も告白しよっかなーっ」
「えーっ、ちょっとぬけがけやめてよーっ」
その間にも、女の子達の口から出る言葉はどれもこれも尽のことばかり
なんとなく赤面して、はうつむいた
(うわ〜なんか嘘みたいな会話・・・ なんであんな奴がモチるのぉ?)
チラ、と女の子達を見たら どの子も楽しそうに話しながら 時々尽を見てうっとりとした目なる
「わかんないなぁ・・・」
「え? そーかな?
 尽君は格好いいと思うよ?
 それで勉強もできてスポーツもできるんだろ?
 そりゃあ・・・モテると思うけど・・・」
(加えて、自分でモテるの自覚しちゃってるもんなぁ・・・女の子には優しいし)
普通に、荷物を持ってくれたり さりげなくレディーファーストだったりする尽の言動を思い出しは小さくため息をついた
働いている尽を見る
接客が終わって、顔を上げ チラ、とこちらを見た尽と目があった
(やだ、なんで見るのよぉ・・)
急に恥ずかしくなる
にこっと笑った尽に小さく手を振って は紅潮した頬を隠すようにうつむいて苦笑した
弟相手に、何を赤くなってるんだろう

その日、家に戻っても はなんとなく変な気持ちでいた
本人の言葉通りモテモテだった尽
直に尽を好きなのであろう女の子達の言葉を聞いて、それは現実的にの心に響いた
(あいつも罪な奴・・・)
どういう神経で、何人もの彼女とつきあってるのか知らないけれど
そしてそれを許す女の子達の気持ちも理解できないけれど
(考え方が違うのかなぁ)
ため息を吐いた時、ふ、と窓の外で声が聞こえた
(あれ・・・?)
尽が帰ってきたのだろうか
覗いて、はっとした
家の前に髪の長い女の子がいて、尽が向こうから歩いてくる
「あの・・・ごめんね、こんな遅くに」
「いいよ? どうしたの?
 電話くれたらそっちに行ったのに」
静かな夜
会話がここまで聞こえてくる
(い・・・今さら窓しめても変に思われるよね・・・)
なんとなく、盗み聞きしている自分が嫌で、は居心地悪くベッドに座った
「私・・・くんのこと・・・」
そういう雰囲気だったから、きっと告白するのだろうと
それを関係ない自分なんかが聞いてしまって、申し訳ないと
妙な気持ちでは側のクツションを抱き寄せた
自分のことじゃないのに胸がドキドキする
尽はなんて、答えるんだろう
くんのこと、好きです・・・」
震えるような女の子の声
少し間を置いて、尽は笑った
「ありがとう、嬉しいよ」
尽の声なのに、まるで尽じゃないみたい
の知っている尽は、どこか悪戯っぽくて
どこか子供じみている
そんな男の子
でも今の尽は、一人の、しっかりした、
(なんか・・・尽って・・・ちゃんと男の子なんだ・・・)
自然と顔が赤面した
「知ってると思うけど、俺 他につきあってる子いるよ?」
「うん・・・いいの、わかってる」
でも、と
その女の子は続ける
今まで心にしまってきた大切な想いを口にして その声は少し震えている
緊張で、途切れ途切れになりながら
「でも・・・私、くんの特別になりたいから・・・
 他に彼女いるの知ってるけど、くんがいいって言ってくれるなら、彼女にして・・・?」
それでも、側にいたい、と
彼女の言葉に 尽は少し笑って言った
「うん、嬉しいよ」
俺も好きだよ、と
その甘い言葉は、なんとなくの心を締め付けた
(信じられない・・・)
他に彼女がいて
それでも、側にいたいからと
言った女の子がこれで6人目
そのどれもと平等につきあって、どの子も同じ位に好きだということ?
そんなの、ありえるんだろうか
(尽ってわかんない・・・)
尽の特別になりたい女の子達
特別って?
彼女になったら、他の子よりも優しくしてもらえるんだろうか
他の子が見てるしかできない中で、手をつないだり、一緒に帰ったり、キスをしたりできるんだろうか
「・・・そんなの・・・」
ふ、と
は、思い当たって赤面した
そんなの、は尽といつもしている
何度やめろと言ったって、尽はやめたりしないから
暗い道では危ないから、と手をつなぐし
荷物を持っていたら 絶対持ってくれるし
キスだって、ダメだといってもやるし
朝は毎日送ってくれるし、時間が合えば帰りも一緒に帰ることが多い
姉弟だから、二人の顔はどこか似ていて
幼い頃からずっと一緒にいるから今さら、その顔を見て格好いいだなんて思わないけれど
それこそ小さい時は、普通に喧嘩をしたりしていた二人だから
それが二人の普通で日常だったから
いつしか尽が、に対して 大切なものを守るように
まるで恋人に接するようにしていても、それはの普通だったし、
それが特別だなんて思ったことは 一度もなかった
この瞬間まで
あの子の言葉を、聞くまで

結局、尽は彼女を家まで送ってから帰宅した
、二宮サンと仲いいんだな〜」
帰ってこちらの顔を見るなり言った尽に、なんとなく居心地悪くては視線をそらす
「そりゃ恋人だもん
 尽だって彼女と・・・あんな感じじゃないの?」
「んー・・・まぁ、そう言われたらそうだけどさ」
どうかした? と
様子がおかしいのに気付いて、尽が顔を覗き込んでくる
「なんでもないわよ」
「そぉか? なんか元気ないけど?」
「なんでもないのっ
 尽には関係ないでしょ」
どうしようもなく居心地が悪い
尽の顔がまともに見れなくて、は部屋へ戻ろうと立ち上がった
?」
「なんでもない、おやすみっ」
二階へ上がる階段を1段のぼった
そこで、その腕をぐい、と掴まれた

「・・・・っ」
強い力
痛いくらいに押さえ付けられて、の唇は塞がれた
いつもの ふんわりするような優しいキスじゃない
恐いような、
強すぎるくちづけ
奥深くまで重ねられ、抵抗もできないの舌をからめとり
何度も中をかきまわされた
頭がぐらぐらして、
胸が苦しくて、
角度を変えて何度も何度もくり返されるそれに、無性に無性に悲しくなった
どうして尽はこんなことをするんだろう

ようやく解放された時、は全身の力が抜けるような感覚でいた
それをかろうじて耐え、壁に背を預けて立っている
「なんでそんな風にするの、
少し怒ったような声
それを聞いた途端、の目から涙が落ちた
「あんたこそ、なんでこんなことするのよっ」
睨み付けると、戸惑ったような顔をして 尽がを見下ろしている
・・・?」
「何のつもりよ・・・
 こんなの、普通じゃないでしょっ」
拓也とも、こんな風なキスはしない
まるで恋人同士みたいな
熱くて、目眩のするキス
深くに入り込んでくる、何よりも
「普通って何だよ
 したいから、してるだけだよ」
困った顔をしているけれど、その声はどこか冷めたような含みを持っていた
涙のたまった目で見上げると、心配気な視線とぶつかる
そっと、尽の指が涙をぬぐった
妙に、安心して
それでも気持ちは苦しいままだった
「泣くなよ・・・
「誰のせいよ」
尽の腕が、を抱きしめる
自分より小さくて、細い身体
女の子って弱いんだな、と
初めて思ったのは、ケンかでを突き飛ばした時
本気じゃない力で、いとも簡単につきとばせた
それにすごく驚いて、
転んで怪我をしたを見て、喧嘩していたことなんか一気に頭から飛んだ
後悔して、後悔して
自分が許せなかった
女の子は弱いものなんだ
だから、守ってあげなくちゃならない
それから、そう誓った
自分はを、守っていく

、ごめん、泣くなよ・・・」
抱きしめられた腕が優しくて、はまた無性に泣けてきた
(そーゆうことは、彼女にしてあげなさいよぉ)
でもそれは、声には出なかった
されるがままになっていると、ぽんぽん、と優しく尽が背中をたたいて
それで一気に気が抜けた
まるで、尽の方が年上みたいだ

・・・」
「もーいい」
しばらくして はぐい、と尽を押しのけると そのまま階段を上り出した
「待ってよ、
慌ててついてくる尽に、笑みがこぼれる
昔はこうやって、いつもいつも私の後ろをついて歩いてたのになぁ
「尽はね、私にこんな風にしてないで 彼女に優しくしてあげなさい」
「え?」
尽が下の段から見上げてくる
身長を追い抜かれてしまってからは、本当に久しぶりにみる景色
「彼女いっぱいいるんでしょ
 そんなの可哀想じゃない
 あんたがモテるのわかるけど、ちゃんと一人の子とつきあってあげなよ」
上から見下ろして、お姉さんぶって言った
「そして私には、こんなことしないの」
普通、恋人にすることでしょ、と
その言葉に 尽の顔が一瞬 見たこともないような悲し気な
どこか寂し気な顔になった
「え・・・」
「ヤだよ」
それからすぐに、いつもの悪戯な顔になる
一瞬、尽を凝視したら 尽は苦笑して笑った
「つきあってるから、特別だとは限らない
 彼女なんか<好き>程度だよ
 何人いたって、扱いは同じ、対処できる」
はポカン、と尽を見る
「彼女って特別なものでしょ?」
「デートしたり電話したり、家まで送ったり、キスしたりするのが特別?
 それで特別なんだったら、そういうのが本命の恋人同士なんだったら
 と二宮サンもたいしたことないね」
含みのある言葉
顔は笑っているけれど、目は寂しそうで は言葉を返せなかった
「何よ・・・」
「俺はもっと特別を知ってる
 焦がれて、必死になって、欲しくて気が狂いそうになったり、切なくなったり
 誓ったり、手を伸ばしたり、祈ったり・・・
 そんな想いを知ってるから、あの程度じゃ特別なんて言えない」
でも、世の中はそれで満足するみたいだから、と
尽は今度はいつもの笑顔で言った
「せっかく好きだって言ってくれてるのに、
 俺もけっこう好きな子だったりしたら ふっちゃうのもったいないだろ
 別に本人が彼女が他にいてもいいって言うんだから、つきあって損はないよね」
そうして、尽はもう一度だけ笑うと そのまま階段を下りていった
「おやすみ、
そしてその姿は、浴室に消えた

特別の定義
彼女の定義
好きな人の側にいて、優しくしてもらって、キスを許して
他の人よりも想っているなら それが特別
そう思っていた
尽は、それ以上をまだ知っているの?


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