VS 氷室 (尽×主)


掲示板の前に人だかり
テストがやっと終わって、結果がはり出されている
新学期入っての最初のテスト結果は、夏休みに出る課題と講習の量を左右する
「ふわー、徹夜でやったのになぁ」
は、苦手の英語が結局赤点スレスレという結果に終わり、なんとか胸をなで下ろしたものの
あんまりいい気分ではなかった
「日本人」だから英語が苦手と、
どうしても受け付けないあれ
今回のテストは英語の勉強にかなりの時間を費やしたのにこの結果
「私って頭悪いんだなぁ・・・」
はぁ、とため息をついた
隣で奈津実が笑う
「何言ってんのよ
 あんたはヒムロッチの数学得意だからうらやましいよ
 あいつの補習とか受けてみなよ、最低だよー」
厳しいのなんのって、と
去年散々痛い目に合った奈津実は眉を寄せてため息をついた
今回はまだ最初のテストだけあって、全教科二人ともセーフ
なんとか夏休みを死守したといった感じで、ほっと胸をなで下ろした
「なんかあっちは盛り上がってるなぁ」
隣で奈津実が不思議そうに 込み合っている奥の掲示板を指して言う
見ると、一年生がわーわーと、何か言っては掲示板を指差していた
「一年生って初めてのテストだったもんね」
「うん」
気になるのか、そっちへ寄っていった奈津実についてゆくと、背伸びをして人の隙間から覗いた奈津実が急に突拍子もない声を上げた
「ちょっと、全教科満点の子がいるっ」
「えぇ?!」
驚いても掲示板を覗き込む
「見えないよー」
人が多すぎて、の位置からはよく見えない
その隣で、奈津実がまた声を上げた
 尽ってあんたの弟君じゃないの?
 うっわー、全教科満点なんて普通取れる?!」
「え?! 尽?」
周りではざわざわと、その満点が話題になり 尽の名前があちこちで囁かれている
「頭いいのね、尽君」
「そ・・・そうなんだ・・・」
(知らなかった)
「尽って頭良かったんだ・・・」
我が弟のことながら、今までそんなこと思いもせず、は信じられずにただくり返した
「あんたの弟でしょー」
隣でおかしそうに笑った奈津実に も苦笑いを返す
尽は普段遊んでばっかりで
そうでなければバイトばかりで
運動神経がいいのは見ていてわかるけれど、まさか頭がいいなんて
想像もつかなくて、はただ困ったように笑った

その日の放課後、
先日風邪で休んだ時の分、と言われて は一人で氷室の数学の小テストを受けていた
(休んでてラッキーって思ってたのになぁ)
数学は得意だからまだこんな風に突然テストを言い渡されても何とかなるけれど
このあいだまで試験だったから、それで勉強しことがまだ頭に残っているけれど
(なんにしても氷室先生ってサボらせてくれないなぁ)
チラ、と時計を見る
はじめてから20分がたった
45分が制限時間で、その時間になったら見にくる、と
氷室は今 席をはずしている
「あーあ、わかんないや・・・」
応用問題に入ると、解き方がうろ覚えで解けない問題が出てきた
ため息をつきながら、なんとか授業を思い出そう、とが頭を悩ませていると突然ガラリと教室のドアが開いた
?」
尽が顔をのぞかせている
「あ、尽」
「何やってんの? 居残り?」
「んー・・・テスト中なの
 尽、先帰ってていいよー」
キョロキョロと、尽は教室内を見渡して 誰もいないのを確認すると大胆にも中へと入ってきた
「ちょ・・・あんた、先生来るのよ?」
「あとどれくらいで終わる?
 今日バイトないし待ってるよ」
の言葉を聞いているのかいないのか、
尽はそう言って、にこりと笑うと先程まで氷室が座っていた教師用の机に座った
「・・・先生来て叱られても知らないから」
「待ってるくらいいいって
 それよりは早くテスト終わらせなよ」
誰のせいで集中できなくなっているのか
知ってか知らずしてか、尽はその机に置いてあった紙を手許にたぐると 頬杖をつきながら読みはじめた
(もぉ・・・なんであの子ってあんな大胆なんだろう)
氷室といえば、学園一融通が聞かない厳しい先生
いくら待っていただけとはいえ、勝手にテスト中の教室に入っていれば叱られるにきまっているのに
(もしかして私も叱られるのかなぁ・・・)
氷室が戻る前に尽を追い出さなければ、と
とにかくテストを終わらせよう、とは必死に問題に取りかかった
時計は進む

結局、終了の5分前に尽を教室から叩き出し、は無事テストを終えた
待っていた尽に、いかに氷室が恐い先生かをたっぷりと話して聞かせながら家路につき
何ごともなく、話は終わる
そのはずだった

後日、
、これを君の弟に返しておきなさい」
「え?」
職員室に呼び出されたは、氷室から一枚の紙を受け取った
「これ何ですか?」
「君の優秀な弟から、私への挑戦状だろう
 そう受け取ったが」
「えぇ?!」
は、意味もわからずただ驚いて渡された紙を見た
見覚えのある数字の並んだ紙
これは、このあいだやった数学の小テスト
「これ・・・満点・・・?」
「小テストとはいえなかなかたいしたものだ
 このあいだの試験で全教科満点を取った1年がいたらしいが・・・
 なるほど、その実力は本物らしい」
どこか満足そうな、
それでいて不敵な笑みをうかべ、氷室は笑った
「これ・・・尽が解いたんですか」
「そうだ、教室の教師用の机の上に置いてあった
 たしかに余ったプリントを置いておいたが、まさか一年がそれを解くとはな」
そして、結果満点
習ってもいないのに、と
は頭の片隅で思いつつ、そんなことよりも あの日あの場所に尽がいたことを いつ氷室が叱りだすかとひやひやした
だが、氷室の頭にはそんなことはないようで 薄く笑みを浮かべたまま言葉を続けた
「君の弟に伝えておきなさい
 これは小テストで基本中の基本
 私に挑戦したいのならば、今度の試験問題を解いてみるがいい、と」
「は、はぁ・・・・」
氷室の顔と、尽の答案用紙
交互に見比べて、はポカン、としてうなずいた
氷室のこんなに楽しそうな顔は、もしかしたら初めて見るかもしれない

「あんたねぇ、何てことするのよ
 おかげで私 いつ叱られるかってひやひやしたんだからね」
「だって暇だったんだもん」
「だったら名前なんか書かないのっ」
「テストに名前がなかったら0点だよ」
「だからなんでわざわざテストなんか受けたがるのよ」
尽の部屋で、彼のベッドに座って
答案をつきつけて抗議したに、尽はくすっと笑った
「だって、氷室先生と仲いいじゃん
 なんか、妬けたんだよね」
「妬けたぁ?」
「そう、だからちょっと悪戯しただけ
 たいしたことなかったよ、問題だって簡単だし」
「・・・何よそれ
 尽って時々意味わかんないよー?」
「いいんだよ、それで先生は何て言ってた?」
「私に挑戦したいのならば、今度の試験問題を解いてみろ」
氷室の口真似をしたに、尽がおかしそうに笑う
、似てるよ」
「・・・もぉ〜
 あんたってほんと、恐いもの知らずねぇ」
「そう? 恐いもの、あるよ」
「・・・何よ」

にこ、と
笑った途端に、ふわっと
抱きすくめられて、そのままベッドへ押し倒された
「つく・・・」
抗議しようとしたら、唇を塞がれる
体重を感じながら、唇に熱を移されて
ようやく解放された時には、息苦しかったのと驚いたので胸がドキドキしていた
「もぉっ、尽っ」
「だってスキだらけなんだもん、
「だからって普通こんなことしないわよっ」
「あはは、怒るなよ」
「怒るわよーっ」
きーっ、と暴れかけたの腕を取って 尽はもう一度笑った
「氷室先生はライバルだから 相手にそれを認識してもらわないとね」
「・・・?」
(あの人、のことを好きって思ってるでしょ?)
そしても、氷室の話を好んでする
それが「恐い先生だ」とか「宿題が多すぎる」とか そんな話題でも、その話し方には親しみが込められている
毎日さんざん聞かされていたから、どんな先生なんだろうと
どんな男なんだろうと思っていた
「一番の敵は二宮さんなんだけど、外野も色々いるからなぁ
 、なんか変なとこにモテてるみたいだし」
「だから何? 意味わかんないよー」
「わからなくていいよ」
楽し気な尽に、一人置いて行かれた気分で頬を膨らませた
その紅潮した部分に 尽はまたキスをした
「・・・っ」
「油断大敵」
悪戯な顔
彼特有の、それでも許してしまう どこか子供っぽい表情
「もぉ・・・」
ため息をついて、は満点の答案に目を落とした尽を盗み見した
我が弟ながら 全然そんな風に見えないのに
ガリ勉しているところなんか見たことないのに
「俺は葉月サンみたいにやらなくてもできるタイプじゃないからね
 勉強はしてるよ、がグースカ寝てる時に」
「むっ、何よぉ」
「ようするに俺は要領がいいんだよ
 世渡り上手だから」
「なんか関係あんの?」
「あるよ、勉強なんかどう要領よくやるかだよ」
ふーん、と
少しだけ大人な顔に見えた弟を、感心して見上げて は少しだけ笑った
「でもなんか、出来のいい弟を持つと姉として鼻が高いなぁ」
(姉としてね・・・)
思わず苦笑が漏れたけれど、それはには気づかれなかった
「氷室先生が今度尽用の問題作ってくるって」
「へぇ、楽しみ」
「そんなこと言って、解けなかったら笑われるわよ?」
「じゃあ解けるか解けないか賭ける?」
「いいよぉ?」
「じゃ負けた方は勝った方に一日従うこと」
「よぉし」
笑ったに、尽もまた笑った
一日を好きにできるなんて、こんなにやる気の出ることはない
ほくそ笑んで、尽はもう一度手にした答案用紙を見た
悪いけど、数学は得意なんだ
そう心の中で、つぶやいて


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