御褒美 (尽×主)


尽はクラブに入っていない
特にこれといってやりたいものがあるわけでもなく、
加えてバイトをほぼ毎日しているから、そういう余裕がなかったりで
それで学校が終わると大抵、まっすぐ家に帰る

遅かったね」
夜の8時過ぎ
バイトの帰り道で偶然に会った尽は、疲れたような顔をした姉に笑ってそう言った
「うん〜バスケ部の試合が近くて練習がハードなんだぁ」
「へぇ・・・頑張るなぁ」
重い足取りで歩くの、鞄に手を伸ばして尽は笑う
「持つよ、放して」
「いいの?」
「いいよ」
教科書なんかがどっさりつまった鞄
それにクラブで使う練習用ユニフォームの入ったバッグ
も大変だね
 ウチのバスケ部、強いの?」
「うーん、強いよ?
 でもレギュラーの子が怪我しちゃったらしくてちょっと困ってるみたい」
マネージャーの子が言ってたと、は言って大きくのびをした
はチアリーディング部で、普段はそれほど忙しくないが
運動部の試合が近くなると 気合いを入れて練習する
それこそ、他のクラブが帰ってしまっても、いつまでもいつまでも練習は続く
の応援見に行こうかなぁ」
可愛いユニフォームを着てのチアリーデイングの応援は、他の高校にもちょっと有名で
元気いっぱい、お色気いっぱいの応援は、どの運動部にも評判が良かった
「尽も何かクラブやったらいいのに」
「うーん・・・あんまり興味ないな」
「運動神経いいのにもったいないよ」
「そぅ?」
今はバイトが忙しいから、と
そう言ったらは笑って 誰かさんみたい、とつぶやいた
に一生懸命応援されながらプレイする
それも悪くはないと思うけれど

次の日、体育の授業はバスケットだった
(バスケ部の怪我した奴ってあいつかなぁ)
隣のクラスで見学している生徒をちら、と見る
そういえば入学した頃、中学で有名だったらしいと、彼のことを誰かが噂していたっけ
自分の出番を終えて、コートの外で試合を見ていると、いつのまにか隣に彼がいて
それで尽は不思議に彼を見た
、なんかクラブやってる?」
「え? 何も・・・」
話したこともないのに、突然話し掛けられて 尽は少し驚いて彼を見た
「中学の時とかバスケやってた?
 さっきのプレイ見たけど上手かった」
「そぉ?
 別にやってたわけじゃないけど・・・」
何が言いたいんだろう、と相手を見ると 彼は少しだけ顔を輝かせて尽を見た
「もし良かったらバスケ部の助っ人してくれないかな
 レギュラー抜けて、他の1年じゃまだ使い物にならなくて
 先輩達 気合い入ってる試合だから負けたくないんだ」
新人戦だから3年は出れないから、2年だけでは人数が足りない、と
彼は言って尽を見た
「ちょっと練習にも参加してもらうことになるけど・・・」
頼む、と
頭を下げられて 尽は困って相手を見る
そんな急に言われても、と
思いつつ、一度くらいならやってもいいかな、と
が応援してくれるなら、と
それで尽は言った
「じゃあとりあえず今日練習見に行く」

バスケ部の練習は思っていたよりハードだった
(きついなぁ・・・)
見学だけのつもりが、ずるずる引き込まれていつのまにか一緒に練習している有り様で
尽は今までまともにバスケなどしたことがなかったが、基本を教えられると 元々いい運動神経が反応して、練習が終わる頃にはそれなりに動けるようにはなっていた
「頼むよ、試合までになんとかなりそうだ
 助っ人、引き受けてくれないかな」
「うーん、わかった」
いいよ、と
制服に着替えながら答える
練習はハードだけれど まぁなんとかなりそうな感じだし
何よりちょっとマジメにやってみて楽しかった
体育の授業のつまらないプレイなんかより断然、レベルの高い連係プレーや攻撃なんかを経験できる
それは、少しだけ魅力だった
それにの応援というオプションもついてくる
「いいよ、やる」
その言葉に、バスケ部の先輩も喜んでくれて、
尽は試合までの一週間、バスケ部の助っ人になることになった
毎日、ハードな練習が続く

「尽頑張るねっ」
次の日バイトを夜の遅い時間に変えてもらい、クラブの後のバイトから帰ってきた尽に がパジャマ姿で言った
「あれ、情報早いな」
「マネージャーの子が言ってたよ
 尽のおかげで助かったって」
「勝てなきゃ意味ないけどね」
さすがに練習の後のバイトはきつくて、疲れていたが の笑顔でそれもふっとぶ気がする
「お風呂入るでしょ?
 お姉ちゃんが頑張る尽にスペシャルドリンクを作ってあげる!」
「へぇ、楽しみ」
無邪気に笑ったを可愛いと思いつつ、
ドリンクよりもキスが欲しい、と言いかけて 尽はクス、と笑った
「ねぇ
 勝てたら何か御褒美出る?」
「え?」
「試合、勝ったら」
「・・・・・何が欲しいの?」
キョトン、と
こちらを見つめ返したに尽はにこっと笑う
欲しいものはいつも一つしかないけれど
それはまだ、手が届かないからとりあえずは
「・・・これ」
す、と手を伸ばして 尽はの唇にそっと触れた
そのまま、驚いて動けないに口付けする
大好きな
温かい、少し高めの体温が伝わる
ふわっとした柔らかい感触に、胸が満たされたような気持ちになっていくのだ
なんて不思議なんだろう
彼女なんかじゃこうはいかない
触れるだけの軽いキス
それでもは顔を真っ赤にさせて、怒ったように尽をねめつけた
「もぉっ、お母さんが来たらどうするのよっ」
「大丈夫、ちゃんと見てるから」
「それでもダメーーっ」
くすくす、と
尽は笑ってもう一度だけ、指での唇に触れる
「勝ったらがキスして」
そうして、悪戯な顔をして、
未だ怒ったような顔をしているにまた笑いかけた
疲れなんか、今ので全部ふっとんだ

試合当日、先に家を出た尽は、試合会場でウォームアップ中にきゃあきゃあと応援席に入ってきたの姿を見つけた
「尽っ」
手すりから身を乗り出すようにして、手を振っている
その真下へ来て、尽は笑った
「俺の応援頼むよ」
「バスケ部の応援に来たのよー」
「俺の応援だけでいいから」
「えー?!」
呆れたようなの顔
子供なんだから、と
つぶやいたに、片手を上げた
「勝つよ」
「うんっ」
集合がかかり、尽はベンチへと駆けていく
そこにがいる
自分を見て、一生懸命応援してくれている
それだけで、勝てる気がする
尽は一人、クスっと笑った

結果、はばたき高校の勝利
騒ぐ応援席に目をやって、奈津実と抱き合って喜んでいるを見た
(可愛いなぁ・・・)
試合はハードだったけど
今までの練習もきつかったけど
それでも、やったかいがあったというもの
勝てばこんなに気持ちいいし、
何よりが、あんなにも喜んでくれている

「尽っ、やったねっ」
廊下の向こうからが走ってくるのを見て尽は顔を上げた
はまだユニフォームのままで、息を切らせている
の応援が効いたからね」
人気のない廊下
他の部員は、挨拶に出た監督を待って控え室
自由時間だと聞いて 水でも飲もうと歩いていたところ
「わざわざ渡しにきてくれたんだ」
辺りには、誰もいない
「え? 何が?
 この奥控え室でしょ? いつもそうだから尽もいると思って!」
無邪気に喜ぶを見下ろして、尽はくす、と笑った
「うん、だから勝ったら御褒美って言っただろ」
悪戯に、まっすぐその目を見た
忘れていたのか、本気だとは思っていなかったのか
「え・・・」
驚いてこちらを見上げたの肩を、トン、と押した
「わ・・・」
ぽすん、と
予想のしなかった力に、の身体はふらついて側の壁に背をつける
そうして、ツ、と側へ寄った尽に阻まれて
はすっかりその場から身動きできなくなった
「ちょっと・・・本気じゃないでしょー?」
「本気だよ」
「で、できるわけないでしょっ」
「いつもしてるよ」
「それはアンタが勝手にしてるんでしょっ」
必死の抵抗か、
ぐいぐいと両手で尽の身体を押し退けようとするが可笑しくて、可愛くて
尽は特有の意地悪な笑みを浮かべて、顎に指をかけス・・、とその顔を上向かせた
「う・・・」
「約束だろ」
真っ赤な
まっすぐに見下ろしたら、観念したのか開き直ったのか
「わかったわよっ、じゃあ屈んでっ」
そう言って、こちらをにらみつけるようにした
言われた通りに 少しだけの方に屈む
「目、閉じて・・・」
不安そうな声で付け足された言葉に、尽はを抱きしめたいのを必死に我慢した
愛しくてたまらない
「目閉じてっ」
「はいはい」
す・・・と目を閉じると、ほんのわずかに間を置いて の指が頬に触れた
それから、戸惑ったようなキス
ゆっくりと唇に触れて、それはすぐにふ・・・と離れた
(あ、思ったより嬉しいや)
ドキっとした
から触れるなんて初めてだから、それが嬉しくて舞い上がりそうになる
「足りないよ、
「な・・・なによっ」
ほんの少しだけ触れたキス
大好きだから、それだけでは足りないと わがままな自分は止まらない
「足りない」
その腰を抱き寄せた
「ちょ・・・」
そのまま、深く口付けを落とす
やわらかい甘みを味わうように、唇を重ねる
2度3度と、角度を変えて触れると、その度に切ないような吐息が漏れた
たまらない感触
が好きで仕方がない
「ん・・う・・・」
長いキスからようやく解放されて、はまたふらっと壁に背をつけた
「もぉ・・・」
恥ずかしいのかうつむいている
「たまにはクラブもいいな
 こんな御褒美があるなら」
「ちょ・・・っ、二度はないわよっ」
「くすす、ごちそうさま」
「もぉっ、尽っ」
タイミング良く 廊下の向こうから顧問が歩いてきたのを横目で見て、尽は悪戯っぽく笑った
「じゃミーティングだから行くよ」
「・・・なによぉ、逃げる気」
「そう、逃げる気
 もらうもの、もらったからね」
悔しがるに手を振って、尽は廊下を元きた方へと戻った
なんて幸福で、気持ちのいい時間だろう
本当に、こんな御褒美がついてくるなら何度だってやってもいい
そんな気に、なっている
の、応援があるなら
に、触れてもらえるなら


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