男達の会話  (鈴×主)


冬休みが明けて、和馬のアメリカ行きが本格的に決定した
冬の大会では見事優勝を飾り、あらためてその名を響かせた和馬は今やちょっとした有名人で
彼を見に 体育館へバスケ部の練習を見学に来る女の子も少なくなかった
クラブは引退したけれど、卒業までは後輩を育ててやってくれと
コーチに言われて和馬は今も、毎日体育館へと通っている

「先輩 三原色の絵見ましたか?」
「は?」
練習後、後輩の言葉に和馬は片付けの手を止めた
先輩と三原色って前 つき合ってたじゃないですか
 絵、3枚とも美術室に飾ってありましたよ」
「ふーん・・・」
3枚、ときいて 完成したのか、とふと思う
あのクリスマスの夜 想いを伝えあった二人
一緒に歩いた帰り道の途中で、が言ってた
色にたくさん、救われて
色をたくさん傷つけて
今 ここにいるんだと
詳しいことは何も知らない
二人がいつ別れて、今どういう風な想いでいるのかとか
は言わなかったし、和馬も聞かなかった
そこにがいれば、そんなことはどうでもいいと そう思ったから
そして、その時に言っていた
それでも絵のモデルはしたい、と
最後の1枚を、描いてもらう約束をしているんだと
「二人・・・別れてるんですよね
 鈴鹿先輩と今はつきあってるのに、まだ絵のモデルやってんすか?」
「そう言ってたな」
「絵、見ましたか?
 俺達 通りかかって見たいって言ったけど 見せてもらえなかったんですよ」
「鈴鹿先輩に見せるためにもってきた、とか言ってましたよ
 ・・・どんな絵か、ちょっと気になりますよね」
ヌードだったりして、と
悪戯っぽく憶測する後輩達に苦笑しつつ、和馬はそっと息を吐いた
展示会で見た2枚の絵
今にも泣き出しそうな目をしたの絵
冬休みに描いたのだという3枚目は、どんな風ななんだろう
色の目に、別れた後のはどういう風に映っているのだろう

その日、片付けを終え、和馬は体育館から美術室へと向かった
こんなに遅い時間でも灯りがついている
覗くと 中に色がいた
「来ると思ってたよ」
「・・・絵、見せてくれるって聞いたからな」
どかり、と
側の机に荷物を乗せて、壁に飾ってある絵を見上げた
スルリ、
かけられていた布が色の手によって取られる
3枚目の絵、明るい色彩
裸体に華を飾って、はこちらを見ていた
ああ、笑ってる
そこに描かれたは、和馬のよく知るだった
明るい目をして、まっすぐに前を向いて
笑ってる
今にも声が、聞こえそうなくらい
「華より美しいね
 女性って、不思議だ」
華咲き誇る、そういうタイトルだと彼は言い、
和馬は絵を見つめたまま 小さく息をついた
「この絵、どーすんだよ」
全部ヌード
奴の絵のモデルはこれで最後にしろよ、とには言った
ハイハイなんて、笑ってたっけ
人の気も知らないで
自分だってまだ見たことのない好きな女の裸を、他の男が見てるなんて我慢ならないんだと
そういう男の気持ちは、には理解できないんだろうか
どうせ言ったって 芸術はそんなものじゃないとか何とか
和馬にはわからない話になるのだ
芸術ったって裸には違いないじゃないか
そして、その肌を自分以外の男にさらしている事実も、変わらない
できれば、こんなところには飾っていてほしくなかった
こんなところにあったら、色んな奴の目に止まるじゃないか
「この絵どーすんだ?」
「君にはあげないよ」
「い・・・っ、いらねぇよっ」
トンチンカンな答えが返ってくる
くす、と
可笑しそうに笑って 色はの絵を見上げた
「出来上がった後 しばらく家に飾っていたら 欲しいと何人もの人に言われたよ」
「高けぇんだろ」
「昨日の人は5億出すってさ」
「ご・・・っ?!!!」
ポカン
呆れて、色の横顔を見遣る
奴がわけわからないのと同じく、奴のいる世界もわけがわからない
遠すぎる、ふとそう思った
「これは君に見てもらうために今日ここに運んだんだよ
 だからもう持って帰る
 しばらくは、側に置いておくよ」
この想いが消えるまで、と
言った色に 和馬は僅かに苦笑した
「お前って大人だよな」
ぽつり、
その想いが本気なのであろうことは、和馬が一番わかるから
色は本当にが好きなんだと、痛いほどわかるから
「そうだね、君と比べたらね」
可笑しそうに色が笑った
なんだよ、人が真剣に言ってるのに
少しは、悪いと思ってるのに
「でもまぁ、僕より君を選ぶんだから も物好きだとは思うけど」
「物好きって何だよ・・・っ」
「ふふ、嘘だよ
 君はとても、魅力的だ」
「ななな、な・・・・・っ」
くす、
また色が笑った
「真直ぐで、輝いてる
 君とは、とても似てるね」
「なんだよっ、急に」
本気なのか冗談なのかわからない
そんな色に、和馬は真っ赤になった
かゆいような言葉
バカにしてるのか、それとも大マジメなのか
わけがわからない
本当に色は、わからない
を泣かせたら承知しないよ?」
だから最後の言葉に、ハッとした
優し気で優雅な色
その目に、ほんの少しの痛みを見た
ああ、そうだよな
やっぱりお前はいつだって、本気の大真面目なんだ
「わかってる」
わかってる、絶対
泣かせたりしない、離さない
こんなに傷ついて、こんなに傷つけて ようやく手に入れたものなんだ
ようやく得た、誰より大切な女なんだ

校舎を出た
外は真っ暗で、風が冷たかった
校門の灯り
そこで珪を見つけた
奴も、向こうから歩いてきたところだった
「よぅ、帰宅部がこんなに遅いのかよ」
「・・・・・寝てたらいつのまにか」
なんとなく成りゆきで、一緒に門を出た
冬の風が冷たくて、身体が凍えそうになる
「アメリカ、行くんだって・・・?」
「おう」
そういえば、こいつものこと好きなんだったと ふと思った
同じクラスになったのは初めてで、この1年もろくに会話なんかしなかったから どういう奴かなんてよく知らない
無口で無愛想で、の初恋の相手
そんなデータしか、ない
「アメリカって遠いな」
珪は含みのあるニュアンスでそう言い、それから和馬を意地悪く見た
を置いて、行くんだ・・・?」
その言葉に、ドキとする
何なんだ、何が言いたいんだ
「俺、まだ諦めてないし、のこと」
その言葉に かっとなった
こいつ、まだ言うか
まだを好きだと、言うのか
「お前・・・っ、人のもんに手ぇ出すなよっ」
「俺は日本にいるし」
「な・・・っ」
にやり
奴が笑うのなんか 初めて見たかも
可笑しそうにこちらを見て、それからくくっと声を上げて笑い出した
「なんだよっ」
「おまえ、単純・・・」
「なんだとっ」
「でも、手、出したか出してないかなんて、アメリカにいるお前にはわからないな・・・」
「ぐ・・・っ」
翻弄される
こいつも、本気なんだか冗談なんだかわからない
何考えてるのか さっぱりだ
「ちくしょう・・・、連れてってやる」
珪を睨み付けて、そう言った
奴はおかしそうに ふーんと笑った
心がざわざわする
手に入れたら次はこれだ、誰にも取られたくない
誰かに 攫われやしないかとはらはらする
「嘘、ちょっと、虐めてみた」
「・・・ンだよっ」
にはふられた
 あいつは王子を黙って待ってるタイプじゃなかった・・・」
何の話だ、と
言ったら珪は、ふと笑った
優しくて、寂しそうな顔だと思った
「俺達しか知らない、初恋の話」
ああ、
珪も本気だったんだと そう思う
本気でを好きだった
だから痛いんだ
その想いはよくわかる
「泣かせるなよ・・・」
「わかってる」
色と同じように 珪も言った
わかってる、と
和馬はもう一度 繰り返した

手に入れたのは和馬
大切な存在を、もう二度と手放さないと誓って
冬の帰り道、深呼吸した
冷たい空気が今は心地いい


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