あの笑顔  (鈴×主)


夏休みが終わって、生徒達の意識が文化祭に向けられた頃 和馬が国体選手に選ばれたと連絡が入った
HRの時間、はじまるギリギリにが教室に駆け込んでくる
息を切らせて、話し合いのため寄せられた机の 和馬の隣をキープする
「国体よ、国体、出れるって・・・!」
「嘘・・・マジで?」
「今 コーチから聞いたっ
 うちの学校からはあんたと部長の2人も選ばれてるよっ」
ヒソヒソと だが興奮を隠しきれないの、その言葉に 和馬はポカンと口を開ける
国体っていったら毎年 どこかの学校が出場してたのに
今年は色んな学校から 人を寄せ集めるということか
「なんか、今年初の試みらしいよ
 色んな学校から巧い人集めて最強チーム作るらしいの」
だから今年は、ポジションごとに できる選手を集めて 合宿で一つのチームに仕上げるのだとか
それで、和馬と部長が選ばれたとか
「すげー・・・なんか実感涌かねぇ」
「夏が終わっても、なんか面白いこと続くねっ」
HR中だというのに二人して、こそこそと盛り上がる
そんな楽し気な二人に 向かいに座っていたまどかが肩をすくめて話し掛けた
「二人で盛り上がってるけど、そんなすごいことなん?
 なんや部外者にはわからんわぁ」
それより 今 文化祭でやる劇について意見が割れてモメてるんだから その話し合いに参加してくれと
言った言葉に二人して、目を釣り上げて声を揃えた
「そんなことしてる場合じゃないっ」

結局、のクラスは その日のHRを全部使っても シンデレラにするかアラジンにするか、ハムレットにするか、決まらなかった
「何でもいい、どうせ俺は練習でそれどころじゃねーから」
そう言って、和馬は主役をあっさり断って
残るめぼしき男子それぞれの熱烈なファン達によって、誰を主役にするのかの話し合いは続いていた
「お前は劇出たいんじゃねぇの?」
「うーん、去年 演劇部で出させてもらったからな」
黒板に書かれてある3つの劇
ようするに、まどかが主役になるか 珪が主役になるか、色が主役になるか揉めているということだ
「ふぁーあ、なんや飽きてきたなぁ」
「別に、したいわけじゃない・・・」
「どっちでもいいよ、早く決めてくれるかい?」
当の本人達も 長引く話し合いにうんざりし出して
とうとう2時間が過ぎた頃 氷室がHRを切り上げた
明日までに、なぜその劇がしたいのかというレポートを書けと、熱烈ファンクラブの面々に、余計な宿題まで出して

「遅くなったな、おまえは帰るのか?」
「ううん、ちょっとみんなに話したいことがあるからクラブに出るよ」
「・・・何だよ、話したいことって」
並んで教室を出ながら 和馬はの顔を覗き込んだ
意味深な言葉
ちょっと気になる
また怪我とか、故障とか、そんなんじゃないだろうな
「やーね、楽しい話よ 文化祭のこと」
「ふーん・・・?」
文化祭でクラブなんか関係あるか? と
思いつつ、二人して体育館へ向かった
和馬と部長の国体参加の知らせに、男子部はまたやる気を出していたし、
女子部もつられて活気づいていた
他のメンバーは 和馬達3年を除いて新たに選ばれた新レギュラーを中心に練習を始めている

「ねぇねぇ、ちょっと聞いて」
練習後、がみんなにした提案に、後片付けをしていた部員達は動きを止めた
文化祭で、何かやろうよ
その言葉に 全員がを見る
「体育会系のクラブだからって 何かしちゃ駄目だってことないと思うんだ」
「まぁ、そりゃそうだけど」
「何やるんだよ、バスケ部だぜ?」
「バスケ部だから、バスケやるの」
にこり、が笑った
そうして 今日のあの長ったらしいHRの間に思い付いたんだという計画を話し出す
「体育館を借り切ってね、試合をするのよ
 一般から出場者募って、試合したり、小学生集めてシュートとか教えてあげたり」
そして目玉はね、と
イキイキした目では言った
「新レギュラー対3年生の真剣試合ってどうよ!」
楽しそうにが笑う
体育館なんて 当日誰も使わないから簡単に借りれるよ、とか
男女対抗戦なんかやってみたくない? とか
その計画に、なんだかみんながノリ気になった
インターハイ準優勝、国体参加なんて偉業をなしとげた後だったから余計、バスケにみんなが燃えているのか
「どうせクラスの劇は関係ねーしな」
「文化祭で試合っていうの、面白そうだし」
客が見ていたら断然燃えるし、
新レギュラー対3年生なんて なかなか面白い試合になるんじゃないかと そう思う
「おまえ、よく思い付くな、そーゆうこと」
「だって、バスケ やりたいじゃない」
軽いのなら私も出れるし、と
が笑ったのに、和馬も笑った
そうやって、が楽しそうにしてるなら 何でもいい
何でもやる

文化祭当日、今までにない体育会系の出し物に 色んな客が集まった
朝はバスケ部の男女混合3 on 3
その後は 客を交えてのシュート競争
3分間で多くゴールした方が勝ちなんていう遊びをやった
なんだかんだで準備のまったくいらないこの出し物
客は はば学の生徒から一般の父兄や子供達まで 色んな人が参加していた
「大盛況やん」
「なかなか、面白い発想だな」
途中様子を見に来たまどかは、3連続シュートを決めて 拍手を浴び得意気に去っていき
氷室はスーツでいきなりダブルドリブル、あっという間に反則にされた
「時間がたつの早いねぇ」
午後からは、目玉として大宣伝していた 新レギュラー 対 3年生の本気試合をやるといって
始まる5分前だというのに会場は満員になっている
二階の客席も、1階の客席も全部埋まっての試合開始
「身内だからって手ぇ抜かねぇぞ」
「こっちはインターハイ行ったレギュラー3人残ってるんですからね」
審判のの合図でみんなが走り出した
3年チームの 元レギュラーは和馬と部長だけ
残りの3人は 現役チームにいて こういうメンバー分けでの試合は初めてだった
もおもしれーこと考えるよな」
「けどレギュラー以外の奴も、3年間遊んでたわけじゃないからな」
今 コートを走ってるのは 一緒に入部してずっと3年間やってきて
それでもレギュラーになれなかったメンバー達
こうして一緒に試合をするのは始めてかもしれない
(に感謝、だな)
こんな機会がなかったら、気がつくことさえしなかっただろう
みんなこうやって、必死に3年間頑張ったんだってこと
大きな大会じゃなくたって、バスケはこんなに楽しいってこと

試合終了
70-65、インターハイくらい競ったな、と
終わった後 和馬は笑った
「やっぱ先輩は強いですね」
「そりゃあお前らより1年多くやってるからな」
会場から 拍手が沸き起こる
インターハイへ行ったり、国体選手に2人選ばれていたり
最近何かと話題のバスケ部だったから、浴びせられる絶賛も大きかった
気持ちいい
こんなに見てもらって、こんなに喜んでもらえて
バスケやってて良かったな、と ふとそんな気持ちになる
「続いては、小学生限定の男の子対女の子の試合をします」
マネージャーが、あらかじめ募ってあった子供達の名前を呼んだ
「サポーターとして ウチの部員が各チームに1人入ります
 部員のシュートは禁止します、それがルールです」
男の子チームには和馬が、女の子チームにはが入った
これなら激しく動く必要はないし、
巧い人間が一人入ってゲームメイクすることで よりよい試合ができる
はそう言って、私がやると張り切っていた
「手加減しねぇぞ」
「こっちだって、男には負けないわよ」
小学生同士だから 今なら男と女で体格差なんてほとんどない
助言とほんの少しの手助けで ボールを繋いでゴールにもっていかせて
ほとんど初心者の子供達でも ちゃんとバスケらしい試合ができるように誘導する
、出て大丈夫なの?」
「あのくらいなら、平気だろ」
言う間に試合が始まった
女の子達はの指示通り パスを回して攻めてくる
「ダメだと思ったら 周りを見てねっ」
よく通る声
言われた通りに ボールを持った子がキョロキョロと 辺りを見回してパスを出した
別の子が 必死に拾う
「ほら、みんな走って」
同じコートに立って、小学生達に指示を出しながら は楽しそうに笑っていた
「やっぱ あいつ巧ぇよな・・・」
和馬がふと、苦笑する
はいつでもコート全体が見えてる
だから、パスを出す場所がわかってる
次はきっとここがあく
今は、そっちがガラ空きだ
「はい、そこでシュート」

シュ、ゴトン

小学生用に 大分下げられたゴールにボールが入っていった
が笑う
子供達に囲まれて、あのキラキラした笑顔が戻った

「ああ、あの笑顔だ」

夏の太陽みたいな、何よりも輝いてる笑顔
憧れた男は きっと何人もいるだろう
一生懸命で、何よりバスケを楽しんで
そうやってイキイキしてる、そんなを好きになった
泣いてる顔は、似合わない

ピピー、と
試合終了のフエが鳴って、メンバーが入れ代わって また新しい試合が始まる
体育館を借りてる時間いっぱいいっぱいまで
そうしてはコートを走った
「おい、男どもっ
 女に負けてどーすんだ、気合い入れろっ」
「男なんか目じゃないよねっ」
笑う、笑う
悔しいくらいここが似合う
バスケットのコート、
が夢を追い掛けてた場所
「鈴鹿、左ががら空きだよっ」
「わかってんだよっ」
その夢を、和馬が受け継いで叶えたから、だからに笑顔が戻った
だから今、こうしてキラキラ笑ってる
「楽しいね、バスケって」
「あたりまえだっての」
ガコン、最後に和馬のパスで男の子が一人シュートを決めた
試合終了
ようやくからもぎ取った、1勝
他の4試合は惨敗だったけど
「忘れるなよ、おまえはバスケが好きだってこと」
「忘れないよ」
「やろうとすればできるってことも」
「うん、わかってる」
たとえ全力で、ライバル達と戦えなくても
大好きだったバスケを楽しむことはできる
それを忘れるな
いつまでも、そうやって笑っててくれ
「これ企画したの私よ?」
「・・・そうだったな」
が笑った
和馬も笑った
その笑顔
大好きなの笑顔、たまらなかった
にはここが よく似合う

夕方になって客が帰り 昼間の喧噪がすっかり消えると、体育館にはと和馬の二人きりになった
後片付けも終わって、文化祭の余韻も消え
秋の夕焼け空に の横顔が赤く染まる
「鈴鹿は国体かぁ」
大きく伸びをする
体育館のドアを閉めて、振り返ったの顔は やっぱり明るくて笑ってた
「頑張ってね」
「まかしとけ」
国体なんて、関係ない話だと思っていたけど
突然降ってきたみたいなマユツバみたいな話だったけど
「チャンスだもんな」
「そーよ、ラッキーよね」
それだけ強くなったってことだね、と
言ったの横顔に 和馬はまっすぐ視線を注いだ
「今度は自分のために、勝ってくんな」
「うん」
「そんで、その勢いで冬の大会も勝ち進む」
「その意気だっ」
くすくすくす、
同調して拳を上げながら が笑い出した
「何だよ」
「いやいや、今日の試合危なかったなって思って
 新レギュラーもなかなかやるじゃない」
「ま、な
 俺ら冬の大会でいらねぇって言われねーように、気合い入れないとな」
和馬も、笑った
いつもは夏が終わると引退する3年生
だけど今年は冬まで残って 下の面倒を見てくれと
コーチにそう頼まれていた
卒業したらアメリカでバスケをやるから、当然それまでも身体を作っていかなければならない
どうせなら冬の大会で上を目指そうと
3年の何人かは、このままクラブを続けることになっていた
新レギュラーを育てつつ、自分も高めて大会へ
「俺は俺のバスケのために、勝つからな」
「うん」
「見てろよ」
「見てるよ」
にこり、
横顔が、やっぱり夕焼け色に染まっていた
の心の中までは、わからない
ただ、胸がぎゅっと息苦しくなった
こういうのにも、そろそろ慣れてきたけれど

二人、ゆっくりと歩いていく
和馬の隣で、取り戻したあの笑顔はもう色褪せない


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