譲れないもの  (鈴×主)


決勝戦、最後の試合
その日もよく晴れていた
駅からここに来るまでの道には、セミの声が響いていたし
半そでの肌を、太陽は容赦なく灼いていった
今日が最後
夢の夢みたいな、インターハイの決勝戦

「鈴鹿、見てるからね」

将来はアメリカに行ってプロになるんだと言ってた和馬
叶うと思った
だって、そのための努力をしているんだから
毎日毎日 練習して、
こんなにこんなに、強くなったんだから
こんなところまで、来たんだから

試合は、苦しかった
相手は前回の優勝校
高さがある上に、テクニックもあった
激しい当たりで、何度も選手が床に倒れる
「鈴鹿・・・っ」
見守った、祈るような気持ちで
和馬の攻め、シュート
どれをとったって最高のプレイ
小さくたってバスケはできると、そんなことを言って笑ってたっけ
1年の時は もっと低かった身長
それでも、唯一1年でレギュラーを獲って、それでずっと頑張ってきたんだから

「頑張って・・・・っ」

それしか言えない
コート上の和馬
どうか、持てる力の全てを出し切って終われるよう
フエが鳴った後、後悔なんかで泣かなくていいよう
「頑張って・・・っ」
は和馬を追っていた
いつも、和馬しか 見えない

80-70で、試合終了となった
勝つことはできなかった
10点の差は縮まらず 時間はあっという間に過ぎていった
「ちくしょう・・・、負けた・・・っ」
悔しさが、身体中を駆けていく
全力だった
もうこれ以上はどうしようもなかった
だけど、負ければ悔しかった
インターハイ優勝なんていう夢のまた夢みたいなもの
それを、にあげたかった

こんなこともできない自分なんか、に言う資格はない

好きだ、なんて
言ったら迷惑になる
の恋人は色で、自分は友達
ただのバスケの仲間
もし、優勝なんてこと やってのけたら
言うくらいは許されるかもしれないと思った
たとえ、の迷惑になる想いでも
には受け入れられない感情でも
言うだけなら、もしかしたら
優勝するくらい すごいことをやってのけたら それくらい
許されるんじゃないかと思っていたけれど

「言うなってことだよな・・・」

どこか 少しホッとしたのは気のせいだろうか
ため息を吐いたら、後ろから明るい声がした
だった

「残念だったね」
「おう」
「初出場で優勝、とかだったら格好良かったのに」
「・・・勝ちたかった」
「うん」
「ちくしょう、勝てなかった」
「うん、でも、私、見てて息するの、忘れちゃったよ」

負けた悔しさは、誰にもわからない
同じように バスケをしてる人間にしかわからない
あのシュートが決まっていれば
あそこでブロックできてたら
あのリバウンド、あのファール
全部がぐるぐると頭の中に回っていく
「ちくしょう・・・優勝ってやつ、おまえにやりたかった・・・」
「充分だよ、鈴鹿」
が、顔を覗き込んできた
多分 今 ひどい顔してる
涙は出ないけど、歯をくいしばって頭が痛いほど
「格好よかったよ、鈴鹿」
後半10分の、激しいシュート
ゴールがガタガタ揺れる程だった、今も目に焼き付いてる
「それから、ラスト続けて3本決まったスリーポイント」
それから、それから

「あんたらしいバスケ
 どんどん攻めていって、あっという間にゴール下なの」

私、そういうプレイが好き、と
が笑った
心が、熱くなった

それから雑誌の取材だとか何だとかでパタパタしているうちに、は先に帰ったようだった
夕方までかかって、ようやく落ち着く
「終わったな・・・」
荷物をまとめて、ため息をついた
終わった、夢のインターハイ
全力で戦って、悔いなんかない
負けたのは、まだ悔しいけれど それでもの笑顔がその痛みを和らげていた
あんな風に、欲しい言葉をくれる奴は他にはいない

バスを下りて、地元の駅に着くと そこで何かの撮影をやっていた
何やってんだ、と視線をやると 見知った顔が見える
珪だ、珪が大勢のスタッフに囲まれて 雑誌だか何だかの撮影をしている
(・・・へぇ、あんな風にすんだな)
ふと、そう思っただけだった
通り過ぎようと、2.3歩歩いた
そこで、後ろから声をかけられた

「勝ったのか・・・?」
「え?」

わざわざ撮影を抜けてきたのか、珪が和馬の後ろに立っていた
「最後は負けた」
静かに言った
もう心は落ち着いている
言うと珪は、そうか、と
小さくつぶやいた
そういえば、昨日の試合に来ていたな
を送ったとか何とかいって
が昨日、ここで電車に間に合わないって騒いでた
 俺は撮影をしてて、たまたまここにいた」
ふぅん、と
曖昧にうなずいてみる
何でそんなこと言うんだと 思って珪の指す方を見たら 大きなバイクが一台止めてあった
撮影用なのだろうか
スタッフらしき人が、丁寧に拭いて輝きを出している
「あれで、会場まで走った
 撮影の途中で、無断で借りてったから、けっこう騒ぎになった」
「え・・・?」
ぽかん、今度は口があいた
「おまえら、昨日バイクで来たのかよ」
「あれの方が早かったから」
「乗れんのか?!」
「・・・一応」
一応って、と
思いつつ、和馬は珪の顔を見つめた
それで何が言いたいんだ
昨日 撮影をほったらかしてを会場まで送ったから 今日撮り直しているということか
でもそれを、和馬に言ってなにになる
がお詫びに何かするって言ったから、おまえが勝てば 何もいらないって言った」
「は?」
話がちょっと おかしくなってきた
「俺は関係ないだろ」
「ないけど、そう言った」
「・・・それで?」
淡々と、珪が話す
それでも、その目に意志みたいなものが宿っているのを感じた
もしかしたら、自分もこんな目をしているんだろうか
こいつはを好きだと言っていた
「お前が負けたなら、デート1回
 そういうことに、なってる」
「な・・・?!!」
なんだと、と
思わず口から出かかって、和馬はなんとか言葉を飲み込んだ
何なんだ
二人のことなんだから、俺は関係ないだろう
それを、人の勝敗勝手に持ち出して
俺が負けたら にデート一回つきあわせるだと
「ふざけんな」
「本気だ」
珪は、苦笑した
ライバル宣言といい、この言動といい
何なんだ
が欲しいなら、からむ相手間違ってるだろ
「好きにしろよ、俺には関係ねーだろ」
「一応、言っておこうと思って」
「いらねぇよっ」
吐き出して、珪に背を向けた
なんなんだ、本当に
気分が悪い、最高に悪い
送ってくれたお礼だか、迷惑かけたお詫びだか何だか知らないが
がするっていうんだから それでいいじゃないか
どうしてわざわざ 俺が負けたら、とか
そうなるんだ
どうして珪は、自分をこんなにもライバル視するんだ
「くっそ・・・」
イライラした
は自分のものじゃない
だから、どうにもならない
どうしようもない

深く深く、心に想いを沈めていって
それで小さく苦笑した
は、譲れない
でも、それでも 負けた自分には 想いを口にする資格なんてない


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