インターハイ  (鈴×主)


今年のインターハイは隣県で行われる
本格的に夏に入った8月、和馬達男子パスケ部は全員がベストコンディションて大会にのぞんでいた
憧れのインターハイ
夢の舞台
和馬は、コートに入ると大きく息を吸い込んだ
緊張はない
いつもの高揚があるだけ
「鈴鹿ーーーっ」
騒がしい試合前の会場
見上げると、が手すりから身を乗り出していた
側に何人か、女子部の面子も立っている
「よくそんな前が取れたな」
「気合い入ってるもんっ」
電車に長い時間乗らないと、この会場までは来ることができない
それでもは朝一の、和馬の試合を見にきてくれていた
「勝ってねっ」
「当然だろ」
の笑ってる顔
それを見て、和馬も笑った
そこで見てろ
ここがインターハイだ
おまえが目指してた晴れの舞台
かわりに俺が戦って、それで勝利をもぎ取ってくるから
「見てろ」
緊張はない、高揚があるだけ
そこで見てろ、俺だけ見てろ

初めての全国という舞台
最初の対戦相手は、何度かインターハイに出たことのある 歴史の古い由緒ある学校
身長の高い選手を揃えて、パワーと高さで押してくる
そんなタイプ
それで、ここまで勝ち上がってきたようだった
(高さばっかじゃ芸ねぇぞ・・・)
和馬の身長は175センチ
まだまだ伸びる成長途中段階
敵はゆうに190センチ超か?
まるで壁みたいに寄ってきて、プレッシャーかけてるつもりだろうけれど
「・・・あの11番速いぞ・・・っ」
試合開始後すぐに、会場は歓声とどよめきに包まれた
はば学インターハイ初出場
どうせ偶然の当たりで勝ち残ってきたんだろうと、思っていたか?
だから、油断してるのか?
「カットしろ、そっちに行った・・・っ」
敵の声、ちょっと焦ってるだろ
おまえが瞬きしてる間に、もう抜けてるぜ
速いぞ、なんて
試合前に研究してこいよ
目の前にして焦ったって遅いんだよ

前半だけで50点
いける、そう感じた
相手の背が高くて、こっちが不利だなんて思わない
俺には速さがある
それからテクニックもある
毎日の練習につき合って、何本シュート打ったと思ってるんだ
嫌でもうまくなるだろ
そしてそれは、プレイに幅を持たせるんだ

はば学の面子の中でも、和馬の背は低い方だったけれど、
それでも充分に通用した
1年でレギュラー
それからずっと上を目指してやってきた
将来はアメリカに行くんだ
だから、自分より背の高い奴とやることなんか 当然で日常
それに不利なんか感じてたら、バスケなんてできない
「和馬っ」
パスが回った
細かく速いパスで繋いでゴールまで
それで前半の50点をたたき出し
後半からは しつこいマークを強引に振り切ってゴール下へと切り込んでいった
「おい・・・っ、抜かせるなっ」
側のマークをフェイントで抜いた
知ってるか?
はば学の鈴鹿和馬は、本当はこうやって突っ込んでいくプレイヤーなんだって

「知ってるか? はば学って」

研究してこいよ、それくらい
初参加だからって、弱いなんて思うなよ
ベンチの上の客席で チアリーディング部が大騒ぎしていた
そして、そこから少し離れたところ
時々、声が聞こえてた
「鈴鹿っ、おめでとーっ」
の声
ぶんぶん手を振って、やっぱり手すりから身を乗り出してる
「ったりめーだろっ」
拳を上げた
と和馬の夢の舞台
最初の勝利、に捧げる


1試合目に勝って、2試合目にも勝った
相手は1試合ごとに強くなっていくけれど、自分達もまた強くなっていく そんな気がした
「次は強剛だなぁ、前回のベスト4」
「やりがいあるってことだろ」
宿にしているホテルで、今日のビデオを見ながら反省会をして
何だかんだと言いながら レギュラーの調子は絶好調だった
明日は3回戦
それに勝てば決勝だった
(あと2勝だぞ・・・)
そっと部屋から抜けて、和馬はふ・・・とため息を吐く
あと2勝
それでインターハイでの優勝が決まる
・・・・・」
ずるずると、人気のない廊下のすみに座り込んで 和馬は一人天井を見上げた
優勝できたら言うと決めた
好きだって、に言うと そう決めた
試合には緊張しなくても、それに少し心がギシとなる
まだ勝ってもいないのに、こんなこと
ドキドキと、心臓が速くなりだすなんて

リリリリリ、リリリリリ

突然、携帯が鳴り出した
驚いて、ポケットをさぐる
出てきたのを引っぱりて耳にあてたら、聞き慣れた明るい声が聞こえてきた
「鈴鹿? 明日の試合 何時だった?」
「え? ああ、ちょっとまてよ」
から
たった今、のことを考えていたから なんとなく一人赤面して 和馬は壁にはり出してある対戦表を覗き込んだ
「明日は11時からだってよ」
「11時かぁ・・・」
「何だよ?」
ちょっとの悩むような声
何か用事でもあるのだろうか
そりゃあ毎日 こんな遠いところまで見にくるのは大変だろうけれど
「明日病院なんだよね
 でもまぁ、ギリ間に合うって感じかな」
続いた声は いつものの声だった
落ち着く
受話器の向こうで 今日のシュート良かったね、とか
着地の足、捻ったりしなかった? とか
色々話してる
いつもより腕上がってなかった気がする、とか
よくまぁそんなに見てるな、と
呆れて言ったら笑ってたっけ
「だってあんたばっかり見てるんだもん」

たとえ他意のない言葉でも
自分が一番危なっかしいからだっていう意味でも
(ちくしょう、顔がにやける・・・)
嬉しくないはずがない
電話だったから 赤くなってるのがバレなくて良かったとか
心臓の音、聞こえてないだろうなとか
そんなことを思いながら 顔がゆるむ
嬉しくて笑ってしまう

俺を見てろ、俺だけ見てろ

「明日も来いよ」
「もちろんよ」
電車で2時間半、それでも来い
見ててくれ、そこで応援しててくれ

次の日の11時、会場にの姿はなかった
いつも一番前の席で手を振ってる
病院でぎりぎりだと言ってたから まだ着いてないのだろうか
それとも今日は 来れないのか

ピー、というフエ
試合開始
いつも通りのテンション、体調
頭もすっきりしてる、なのにシュートが決まらない
「ちくしょ・・・っ、落ち着け」
相手は強い、だから思い通りにいかなくて当然だ
そして、自分達も強い
思い出せ、予選でだって苦戦した
それを勝ち上がってきたんだ、ここでやれないわけがない
視界は澄んでる、頭も冴えてる
大丈夫だ、身体だって いつも通りに動くんだから

前半32-20
相手は前回のベスト4で、はば学は初出場
よく健闘したよ、なんて言われるんだろうか
ここで負けたら、それで終わりなのに

「なにこれっ、信じられないっ」

ふと、
喧噪に混じって 声が飛んできた
「鈴鹿っ、気合い入れなさいよーーーっ」
頬を真っ赤にして、息を切らせて
が手すりのところにいた
隣に見覚えのある男も一緒に
何してんだ、今頃おせーんだよ
昨日は間に合うって言ってたくせに
それに何で 葉月まで一緒なんだ
あいつ、こんな所に何の用だよ
「勝つんでしょーーーっ」
わめいてるみたいな口調の
そんなデケェ声出さなくたってわかってるんだよ
お前の声は どこにいたって届くんだ
なんかしらねぇけど、周りがどんなにうるさくたって おまえの声だけわかるんだよ
見てろ、そこで見てろ
おまえは俺だけ、見てろ

「わかってる、
くく、と笑みがもれた
変なの、ちょっと気が昂ってたのか
それとも固くなってたのか
冷静なはずだったけど、見えてないものがあったのに気付く
そうだ、落ち着け
突っ込んで通じなければ、パスを回せ
それでだめなら、守って固めて道を作れ
「鈴鹿ーーーっ」
の声
軽く、拳を上げた
わかってる、ちゃんと勝つ
そして今日の勝利もおまえにやるから

45-38 それで試合終了
が見てたら勝てるなんて、そんなことじゃダメだと分かってるけど
それでも勝った
あと1勝で優勝、ここまで来た
「危なかったねー」
「ちょっと調子ワリかったんだよ」
「気合い抜いてる暇なんかないでしょー?」
「抜いてねぇ」
見上げたは、いつもと同じように嬉しそうに笑っていた
隣で 無表情に葉月が立ってる
「なんで葉月なんかいるんだよ」
バスケなんかに興味あったのか? と
聞いたらが笑って言った
「病院長引いちゃってね
 通りすがりに頼み込んでここまで送ってもらったの」
電車より速かったよ、と
その言葉に 葉月が僅かに苦笑した気がした
それはまぁ、御愁傷様
葉月にとっては こんなもんに興味のかけらもないだろうに

インターハイ優勝まで、あと1勝
誓いを胸に、和馬は大きく息を吐いた
最後の夏のクライマックスが近付く


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