ライバル宣言  (鈴×主)


その日、と珪は一緒に校門をくぐった
委員会の会議で遅くなった珪と、ちょうどクラブを終えて帰るところだった
二人 ばったり校門の前で会って一緒に帰ってきた
リハビリのために いつもちょっと遠回りをして帰るんだというにつきあって 珪も普段は通らない道を歩いて帰る
夏、陽はさっきようやく暮れたところだった
気温はまだ、高い
「バスケ部、いつもこんなに遅いのか?」
「鈴鹿達は9時くらいまでやってるよ
 女子もその頑張りにつられて 最近ちょっと遅いかな」
ふぅん、と
珪がつぶやくのに が笑った
「なんだか夢みたいで、インターハイなんて」
ずっと憧れていたから、と
の言葉に 珪はすこし苦笑した
「俺もバスケしてればよかったな・・・」
「葉月だったらレギュラー取れるだろうねっ
 運動神経いいもん」
入ってくれれば良かったのに、と
笑ったに やっぱり苦笑する
初恋の少女は、バスケ部に入った
何よりもバスケを優先して、バスケに明け暮れて
バスケ以外見えてないんじゃないかというくらい、毎日毎日練習してた
こっちを見てほしいと思っても、バスケ以外は目に入らないには 当然珪のことなんか見えるわけもなく
それでも消えなかった恋心は、を見続けるうちに 大きく大きく育っていった
去年のクリスマスに二人して、あの記憶を共有していると知ってからは止めようがなく
想いはつのって今にも、
今にも溢れてしまいそうだった
が好きで、が好きで
だから、こっちを見てほしい

「怪我は・・・もういいのか?」
「平気、最近はクラブも見学じゃなく一緒にやってるんだよ」
試合はできないけど、と
シュッ、と
シュートする仕種をしてみせたに、珪は僅かに微笑した
笑ってる
膝を壊して、選手生命が断たれたんだと聞いた時は 本当に本当に心配したけれど
・・・おまえ、」
強いよな、と
の横顔に 言おうとした
その時突然に 視界に知らない人間が立ちふさがる
一瞬 も珪も驚いて立ち止まり 言葉を飲み込んだ
相手は、いくつも年上の女性で 興味深そうな顔で二人を交互に見て笑っている
「葉月くんっ、その子、あなたの彼女なのかなっ?」
その質問は、唐突で強引で、大声だった

え?と
驚いたように目を丸くしたと、
相手の正体を察知した珪
質問には答えずに、珪はの手を掴んだ
「走れるか?」
「え・・・?!」
ぐい、
強く引かれて身体が後ろに傾く
「逃げるぞっ」
「ちょ・・・まって・・・っ」
慌てて、駆け出した
後ろから、しばらく追い掛けてくる足音が聞こえていた

「・・・ごめん、足、大丈夫か?」
「クラブやってるくらいだから、このくらいは平気」
全力じゃなかったし、あの人 足遅かったし、と
笑ったに 珪は微笑した
今 二人は、公園のしげみの中に隠れていて
さっきようやく追い付いてきた女性がゼィゼィいいながら二人を探して 公園を突っ切っていったのを見送ったところだった
「あれって何?」
「雑誌の記者」
さら、と答えた珪に が凄いねぇとため息を吐く
「葉月はモデルだったね、そういえば」
人気者だねぇ、なんて
のんきに言って は笑った
暗くなった公園の茂み
そろそろ出てもいいかな、と
珪が身を起こすと、隣でがクスクス笑い出した
「・・・なに?」
「なんか、思い出さない?
 よく私達こうやって隠れてたでしょ?
 あの教会の茂みのところで、帰りたくないって言って」
6才の頃、出会った教会
側に茂みがいくつもあった
帰る時間だと迎えにきた親から逃げて隠れていた秘密基地
二人だけの秘密の場所
まだ帰りたくないと、よく二人して駄々をこねたっけ
あの思い出の夏
初恋の時
「私達、やること変わってないね」
が笑った
切ないような、愛しいような
想いが胸に広がっていった
が好きだ、今もまだ

「葉月、葉っぱついてるよ」
の手が、珪の髪に伸びて来た
それをぎゅっと掴んだ
驚いたような の目
2度まばたきして それから珪をまっすぐ見つめた
「俺を見てほしい・・・」
思い出の中ではなく、今の
ここにいる、自分を
「どうしたの・・・? 葉月」
キョトン、
がまた瞬きをした
夢のような初恋の思い出
その中で生き続けている幼い二人
あの頃抱いた想いは、もうの中に残っていないのだろうか
今の自分は、の目に入っていないのか
「・・・何でもない」
苦笑した
手を放すと、は珪の髪についた葉っぱを取って笑った
「変なの、葉月」
そうだな、と
珪はまた苦笑した
想いがまた、つのっていく

こっちを見てほしい、あいつじゃなく

次の日の雑誌に、と珪の写真が載った
二人 仲良く歩いているのを隠し撮りでもしたのだろう
人気モデル葉月 珪の恋人か?! とか何とか
大袈裟に書かれてある まるででっち上げな記事だった
「勘弁してよ」
は苦笑して 雑誌を見せに来た葉月ファンクラブの子達にそう言い続け
和馬は、面白そうに記事をくれたまどかに罵声をあびせた
「ンなの俺には関係ないんだよっ」

放課後、練習に行く前に珪と廊下で会った
そういえば昼からの授業にいなかったなと思いつつ
ふとまどかが持ってきた雑誌の記事を思い出して腹が立つ
モデルで大人気だか何だか知らないけれど、
それならそれで、気をつけろと
こんな風に写真を撮られて こんな風に記事にされたら迷惑じゃないか
今日だけで何人の葉月ファンが に詰め寄ってきたか知っているのか
「おまえ に迷惑かけるなよな」
「・・・」
誰もいない廊下に、声は妙に響いていった
「あんなこと書かれたら迷惑するだろ」
「俺は別にかまわない」
珪の声は静かで、
だから一瞬 言っている意味が分からなかった
別にかまわない?
何が? どう?
「は?」
むか、とした
お前が良くても が迷惑なんだと
繰り返したら 奴は少しだけ微笑した
それがまた 腹がたった
「何だよ、何笑ってんだ」
「そんなに好きなら 捕まえておけばいいのに・・・」
緑の綺麗な目が、まっすぐにこっちを向いている
薄い色の髪
まるで王子様みたいだと 女が騒いでるのを年中聞く
雑誌に特集が載ってるだの、
新しい写真集が発売されただの
「そんなにが好きなら捕まえておけばいい」
珪の言葉は淡々としてい、抑揚がなく
それなのに強い意志を感じた
何なんだ
そんなに好きとか、捕まえおく、とか
何の話だ
「誰がを好きっつったよっ」
思わず声を荒げたら、また珪が微笑した
ちくしょう、なんなんだ
の周りの男は、どうしてこうやって黙って笑ってる奴ばっかりなんだ

「鈴鹿は感情が昂ると って呼ぶんだな」

その言葉は、何の脈絡もなく
和馬をポカンとさせただけだった
「え・・・?」
怪訝そうに顔をしかめて見遣ったら 奴は涼しい顔をして言った
「鈴鹿がそうしているうちに、俺がさらっていく」

本当に突然で、何が何だか混乱した
ただ、妙に頭に残った最後の言葉
を、奪っていく
そう言って、奴は廊下を歩いていった
残されて、和馬はただぼんやりと立ち尽くす

何なんだ、一体
色にしろ、珪にしろ
を好きな奴は みんなして何かしら自分にからんでくる
勝手にすればいいじゃないか
そもそも自分に言うのは間違っているだろう
は色のもので、色とつきあっているんだから
和馬の想いは、今は口にすることすらできないんだから
「ちくしょう・・・」
無性に腹が立って、無性に焦ったような気持ちになった
色も珪も どこかつかみ所がなくて
そのくせと気が合ったり、初恋の相手だったりして
「あんなのがライバルってか・・・」
つぶやいて、和馬は苦笑した
我らがヒロイン は 軟弱な男にモテるらしい
「ちぇ・・・、知るかよ」
おもしろくない気分で、和馬はズボンのポケットに突っ込んでいた雑誌の記事を引っ張り出した
ぐちゃっ、と丸めて側のゴミ箱に投げ捨てる
ナイスシュート
あんなもの、どうでもいい
誰がを好きでも構わない
自分は自分を貫くだけ
今はバスケに打ち込んで、と和馬の夢だったインターハイで思いっきり
思いっきりバスケをして、そして勝つ
そうしたら、言うと決めた
たとえの迷惑になっても
色を好きなを困らせることになっても、
想いだけは伝えるんだと
そのくらいの、資格は得られるんじゃないかと
もし本当に、優勝できたら
勝利を、に届けられたら

そう言い聞かせて、和馬は大きく息を吸った
今 自分にできることは、バスケで誰よりも強くなることだけ


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