決心  (鈴×主)


インターハイ予選が始まって5日目
和馬率いる男子部が、見事に優勝を果たした
初めての快挙に、客席からのはば学コールはしばらく鳴り止まず 見に来た学校生徒達は抱き合って喜びあった
会場全体が揺れている
3回戦で負けてしまった女子部も、一緒になって飛び上がった
興奮と熱気が、世界中を包み込んでる
そんな感じがした
血が熱い

「鈴鹿っ、あんた最高っ」
ひとしきりチームメイトと喜びあって、ベンチ裏のドアから会場の外に出た廊下に がいた
その姿を見た途端、和馬は持っていた荷物をほうり出す
今、一番会いたかった奴
おまえのために勝ったんだと、
インターハイ連れてってやるって約束したよな、と
全部言葉にはならなかった
何が何だかわからなくなっている
・・・っ、ちくしょう、やったぞ俺っ」
興奮冷めやらぬ心
熱いままの身体
みんなここにいるってのに、和馬はに抱きついた
きゃあ、と
の側にいた女子部の誰かが嬌声を上げる
「ちくしょうっ、インターハイだぞっ」
「うん、あんた本当に最高・・・っ」
抱きしめたの身体は、熱かった
同じ様に興奮しているのだろう
試合が始まる前、一番前で手すりから身を乗り出すようにして見ているのを確認した
そんなにしてると落ちるぞ、と
冗談言うと、真剣な目で言ってたっけ
勝てる、
あんたなら勝てる
「負ける気しねぇよ」
そう言ってやった
今日の勝利ものために
そうして、約束通り 優勝をもぎとった
今 最高の気分だった

「お前はしゃぎすぎ」
そう言われて 笑われて
和馬は慌てての身体を解放した
「まぁ、興奮する気持ちはわかるけどなー」
インターハイかぁ、と
誰かがため息をついたのに、苦笑してを横目でチラと見遣った
本当にあんまり嬉しくて
何も考えずに こんなところで抱きついたりして
でもまぁ、部長だってさっきマネージャーの手を握って号泣してたから
興奮してるし しょうがないかとは思ってくれるだろうけれど
(・・・あいつも拒否らねぇし)
チラ、
見遣ったの頬がわずかに赤いのは、抱きしめたからか興奮しているからか わからなかった
今はいつも通りの顔をして 他の男子部のメンバーにおめでとうと笑ってる
普段と何も変わらなかった
嬉しそうに笑ってる、いつものだった

「あんな顔してねぇじゃねぇか」

ふと、
色の描いたの絵を思い出して つぶやく
ここにいる全員がぎゃーぎゃーと優勝の喜びに盛り上がっているから 和馬のつぶやきなんて誰にも聞こえはしなかった
あんな悲しそうなは、嘘だ
はこうやって笑ってる
夏の太陽みたいに、輝いてる

次の日から、和馬達バスケ部は何かと生徒達の話題となった
インターハイ行けるんだってね、とか
頑張ってね、とか
そういう言葉をたくさん貰って、
今までずっと憧れてました、なんて告白を何度か聞いた
憧れのインターハイ
の夢だった、晴れの舞台
勝ったらまた、笑ってくれるだろう
一番前で応援してくれるだろう
必死の顔して、
まるで一緒にプレイしてるみたいに

ふと、
授業ノートの提出なんていう係の仕事の後、誰もいない教室の窓から外を見た
3階から見下ろしたグラウンドに、がいるのがわかった
あいつ、何やってんだ
そう思って ふと笑みがこぼれる
ここから呼んだら聞こえるだろうか
そう思って窓を開けた
だが、その前に を呼んだ奴がいたみたいだった

「        」
「        」
ここからじゃ、の声は聞こえなかった
の向いた方向から、珪が出てくるのが見える
ちょっとだけ、ムッとした
何してんだ、二人してあんなところで放課後に
(帰宅部はとっとと帰れよな・・・)
「        」
「        」
二人が何か会話を交わす
聞こえなかった
が笑ったのに、嫉妬みたいな気持ちが生まれる
他の奴になんか 笑いかけるな
「     」
「     」
珪が、手にもっていたものをに投げる
バスケットボールだった
がまた笑う
グラウンドに2本立ってる、体育の授業用のゴールに向かってシュート
綺麗にきまった
の着ている制服がヒラヒラ揺れた
(おまえもさっさとクラブ行けよ・・・)
転がったボールを珪が拾う
ターンターン、とボールをつくたび砂が二人の足下を舞っていく
見ていて、心が熱くなった
これは嫉妬だと、知っている

珪がシュートしたボールも、綺麗にゴールをくぐった
笑いあう二人
見てるとムカムカした
他の奴なんか見るな
他の奴とバスケしたりするな
ーーーーーーーっ」
窓から身を乗り出した
大声で怒鳴ったら がこっちを振向いて笑う
珪もボールを手に こちらを見上げる
俺以外の奴と、バスケなんかするなよな
「あんたクラブは?」
の声が返ってくる
風にポニーテールが揺れた
「今から行くとこだよっ」
おまえもさっさと行けよ、なんて怒鳴り返した
そんなところで遊んでないで
「あんたこそ、インターハイ控えてるんだから さっさと行きなさいよっ」
「俺、インターハイでも優勝するからなっ」
熱い心
にばかり向く心
怒鳴ったら が笑った
「おうよ、その意気だっ」
ぶんぶん手を振って、こっちを見上げてる
本気なんだぞ、わかってんのか
「見てろよっ、勝つからなっ」
「見てるよっ」
向けられた笑顔に、ようやく、満足する
熱い心、にばかり向く心
こっちを見てろ
俺を見てろ
他の奴なんか、見るな

席を立って、鞄を掴んだ
珪に妬いて、色に憤って ふと思う
と和馬の夢だったインターハイ
もし本当に勝てたら、
本当に優勝できたら、
言ってもいいだろうか
言うくらいなら、許されるだろうか

おまえが好きだと、言ってもいいか?

口元に笑みを浮かべて、和馬は教室を出た
8月に入ったらすぐに始まる夢の舞台
それまでに、少しでも強く
誰よりも強く
決めたことがある
もし優勝できたら、に言おう
言うだけでいい、伝えるだけでいい
おまえが好きだと、
それくらい、許されるだろう
それくらいなら許してくれ

そうして最後の夏がはじまる
ひとつの決心を、合図にして


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