騎馬戦  (鈴×主)


五月晴れの本日、はばたき学園では体育祭が行われていた
軽快な音楽が鳴り響き、1年から3年のタテ割りクラス対抗で 白熱した競技が行われている
「気合いいれてけーーーーっ」
赤団の応援席には、最前列の椅子の上に立ち上がって、応援団長をつとめるがいた
スポーツが得意なの、本日の役目は応援のみ
まだ走ったりはできないの膝の状態から、競技への参加は認められていなかった
大好きな体育祭
今年はなかなかスポーツが得意な男子が集まっているようで、クラスの雰囲気は最初から優勝狙いだったから 応援にも自然熱が入る
午後からの団体戦で勝負の行方は決まる、と
応援席は、を中心に盛り上がっていた
和馬も珪もまどかも、今のところ大活躍である

「騎馬戦の人数が足りないって?」
体育祭の人気競技の一つ、全員参加の騎馬戦を前にして 係が困ったように応援席にやってきた
ドリンク片手に、は出場選手の登録用紙を覗き込む
書かれてある名前で、ちゃんとルール通りの騎馬が揃うはずだったが、その中に今日欠席の子の名前を発見した
「他のチームより1騎少ないと不利ですよ」
騎馬戦は1人足りないと、一つ騎馬が減る
クラスの人数にばらつきがあるから、最低人数のクラスが全員参加で作れる騎馬数が参加数として設定されていたが、のクラスは 元々人数が少ない上、が怪我で見学
病欠も一人出て、それで1騎作れなくなっていた
「人数が足りない場合は担任の先生なら入ってもいいことになっていますが」
「えぇ?! そんな氷室先生じゃ無理だよ」
どよ、と
周りでどよめきが起き、生徒達の視線が教員用テントで係に何か指示を出している氷室に注がれた
いつも通りのキビキビした立ち姿だが、いかんせん こういうことに向いているとは思えない
「無理だろ、スーツきてるぜ、こんな時にも」
「噂ではスポーツダメらしいし」
ひそひそひそ、ささやかれる
かといって、1騎足りない状態でやるのは、不利中の不利だ
氷室でも、いないよりはマシなのか
「しゃーねぇよな」
じゃあ氷室先生で、と
和馬が言いかけたのを、が悪戯っぽい目で止めた
「ねぇ、私、上に乗るくらいならできるよ?」
楽しそうな声、にこっと笑う目
「はぁ?!!!」
和馬は耳を疑った
なんて言った? まさか出る気か?
「だってもう歩くくらいは平気だもん」
ずっと応援で退屈してたの、と
さらっと言ってのけたの言葉に 和馬は呆れてを見遣る
突然 何を言い出すんだ
いくら退屈だからって
そりゃあ少し前から杖なしで歩いてはいるけれど、それでも
騎馬戦なんてハードな競技、何が起こるかわからないのに
「ばか、おまえ落ちたらどうすんだよ」
「落ちなきゃいいじゃない」
「そんなヤワな攻めじゃ勝てねぇんだよ」
「じゃあ鈴鹿が馬になってよ」
ね、と
突然爆弾発言をはじめた応援団長に、一同はシンとなりゆきを見守った
氷室を入れるより、怪我をしているとはいえ を入れた方がいいに決まっている
問題は、それでがまた怪我をしたりしないかということだ
騎馬戦はどの競技より荒っぽいから、毎年負傷者が出る
普通の生徒がかすり傷ですむものも、膝を傷めているなら、そこを悪化させてしまうかもしれないと
皆の心配気な視線がと和馬に集まった
「あんたなら落とさないでしょ」
「ぐ・・・っ」
そんなの保証できるかよ、と
言いたかったけれど、言えなかった
落とすわけない
なら、自分が下敷きになってでも守ってみせる
「わかった、やってやろーじゃねーか」
「そうこなくっちゃ」
これ結構得点に影響するんだから、とが笑った
騎馬戦は得点がただ加算されるだけの他の競技と違い、帽子を奪った相手のチームから その分得点をもらえるというルールなだけに、現在1位のチームを蹴落とすチャンスでもある
だからクラスみんなで気合いを入れてる
今目の前でやってる別のクラスの対決も 白熱していた
「なんかウズウズしちゃうな、出たかったんだよね体育祭」
はしゃいだ様子でが笑う
そりゃあ動くのが好きなだから、見学してるより出たいのだろう
騎馬戦なんて血が騒ぐのだろう
和馬も同じ人種だから気持ちはよくわかる
わかるけれど、だからこそ心配するのだ
「あんまりはりきりすぎんなよ」
「大丈夫だって」
そのウキウキ顔が信用ならねーんだよ、と
ため息をついた和馬の横に スッと色が出てきた
「鈴鹿くんだけに任せてはおけないね
 の騎馬の左側は、この僕が担当するよ」
涼し気な色が、を見て微笑した
「えぇ?! 三原、大丈夫なの?!」
どっちかっていうと、嫌いでしょ こういう競技と
が上げたすっとんきょうな声に、色は少し不満そうにため息を吐く
「・・・それは僕の台詞じゃないかな?」
「あは・・・」
流し目でさらりと言われたは、にへらと笑って肩をすくめた
隣で和馬が あからさまに嫌な顔をする
そういえば この二人気が合わないんだったっけと
が思った時にはバトルが勃発していた
「三原みたいなウンチと一緒だと好きな様に動けねぇじゃねーか」
和馬が色を運動音痴と決めてかかれば
「それくらいで丁度いいんじゃないかな?
 君は暴れ馬だから御者が必要だろう?」
色がにこりと余裕の微笑で言い返す
挙げ句 そうだね? と
同意を求めたの視線の先で、珪が無言で進みでた
「俺も・・・」
すい、と
手を上げて言った珪は、ほんのわずか に向かって微笑する
「俺もの騎馬をやる・・・」
二人だと心配だから、と
和馬と色をひとまとめにしてのけて、宜しくと
いつもの無表情でそう言った
なんなんだ、この面子
くしくも馬上のを巡って 恋のトライアングルではないか
(なんか・・・やりづれぇ)
騎馬の正面を担当しながら、色と珪と騎馬を組み 和馬は上にを乗せて苦笑した
「大丈夫かい?
「平気よ」
「無理するなよ・・・
「わかってる」
後ろで声がする
色と珪にはの顔が見えるけれど、前を向いている和馬には見えない
肩にかかるの手の感触と、声だけ
「鈴鹿、まっすぐ突っ込まないでね」
「・・・おう」
バスケの試合みたいに、と
が言ったのに うなずいた
こうなったら、少しでも多く相手の帽子を取って、せっかく出たのためにも より高得点をたたき出さなくては

ピー、と
マイクを通して響き渡ったフエの音に、騎馬は一斉にスタートした
一番端に並んでいた号は、陣地を突っ切って敵の後ろに回り込む
「姑息・・・」
「勝てばいいのよ、鈴鹿っ、よけてっ」
目の前の敵しか見えない他の生徒に対して、和馬とには 敵の動きや開いているルートが見えるのか
敵騎をすいすいと避けて、後ろから帽子をかっさらっていく
そんな感じであっという間に、敵チームを全滅させた
嬉しそうに、がはしゃぐ
「やーっ、楽勝っ」
「・・・けほ、目が回りそうだよ」
勝てば次もまた戦えて、他のクラスから点を奪える
そんな感じで決勝戦まで、のクラスは生き残った
得点がどんどん加算されていく
残るは体育会系の男子が揃った豪傑クラスのみ

「あの騎馬をつぶせっ」
3体の騎馬の帽子を奪ったところで、号は狙われた
上手くかわして横から帽子をかすめ取ったのまでは良かったけれど
大きく身を乗り出していたに、横から手が伸びて来た
「あぶねっ」
ぐいんっ、
和馬が強引に方向転換するのに 珪と色が合わせても 手はまた別のところから伸びて来た
そしてしまいには、体当たりされる
よこの幅が和馬の2倍ほどある柔道部の騎馬が、斜前からぶつかってきた
「ざけんな、ちくしょ・・・っ」
思わず、ガードに足を使った
そうしたら、今度は横からの腕を引っ張られた
それで、完全に 号は体勢を崩した
あっと、いう間
こんなの反則のオンパレードだ、と
思ったのは一瞬
騎馬が崩され 和馬が地面に倒されて
その上に、を守ろうと手を伸ばし その身体を抱えた珪と色が落ちてきた
ズシャー、ドスン、ザザー・・・
砂煙りが上がリ反則のフエが鳴る
砂煙りがひくと、騎馬は見事にへしゃげていた
戦利品の帽子が、辺りに転がっている

「い・・・・・・てーーーーーーーーっ」
「けほっ・・・・・・っけほ」
「・・・・・今の、反則だった・・・」
和馬というクッションの上に は見事に乗っかっていた
珪と色が、意識して を土ではなく和馬の上に乗せたのか
それとも偶然なのか
おかげでには 痛みのひとつもなかった
まっ先に立ち上がり、崩れた3人を助け起こす
「鈴鹿っ、大丈夫?
 三原も、葉月も・・・・っ」
はまったくの無傷
和馬は顔面から突っ込んで顔流血
色は肘に、珪は足に それぞれかすり傷を作っていた
敵チームの反則負けのアナウンスが入る
それで、全員が退場し
結果のチームは騎馬戦で高得点をたたき出した

水道のところで、がくすくす笑っている
それぞれに、負傷した3人は傷口を洗ってタオルでふいた
「まぁ、に怪我なくてよかったけどな」
「ごめん・・・結局落として・・・」
「美徳のかけらもない連中だったね
 野蛮な競技だよ、どうしてこれが全員参加なんだろうね?」
名誉の負傷とでも言うのだろうか
3人は身を犠牲にして、馬上の姫を守り切った
そんな感じだった
守られた姫は、さっきからおかしそうに笑っているが
「お前もいつまで笑ってんだよ」
「だって、なんか楽しくて」
「・・・らしいコメントだけれど」
「おまえは怪我してるんだぞ・・・」
「ちったぁおとなしくしてろ」
3人が、に向かって説教する
その様子に、またおかしくなった
いつもはほとんど喋らない3人なのに
気も合わなければ、タイプも全く違う
しかも恋のライバルなのに
今はこうして、同じようなことを言って 同じような顔をしてる
まるで気の合う仲間みたいに
「洗ったら手当てするからね」
一人ずつ、が消毒して薬を塗って
10分後、3人はお揃いのばんそうこうをはって戻ってきた
「なんか調子狂うよな」
「たまには、こういうのも悪くないんじゃないかな?」
「・・・そうか?」
どうだろう、と
3人は首をひねる
我らが応援団長は、もう自分の席に戻って 今やってる競技の応援に夢中
その横顔に、和馬も色も珪も苦笑した
まぁたまになら、恋のライバルが協力しあったっていいんじゃないか
こんな風に、が楽しそうにしてるなら

そしてその日、稀なる連係プレーのおかげか のチームは優勝をもぎ取るのだった
五月晴れの、あたたかな日の話


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