ラストステージ  (鈴×主)


最後の試合、準々決勝
は夢中で走っていた
これが最後
こんな風に、全力でプレイする最後の試合

歓声、それから味方の声 敵の声
ボールをつく音
バッシュがキュッ、と音をたてた
側のマークがわずか1歩離れる

「・・・こっち・・・っ」

ずっと一緒にプレイしてきた仲間
これで最後だとは、誰にも言ってなかった
心配して、怪我大丈夫って みんな言ってくれた
今回は休んでおいたら? と言ってくれたのを強引に出させてもらった
お願い、これで最後だから

(最後だから・・・っ)

バン、と
衝撃の次に、視界が揺れた
ボールはまだ手の中
パスを出す相手を探して、同時に左足を踏み締めた
倒れるわけにはいかない
もらったパスを活かさなくては

ズキン
まるで音が聞こえるほど、痛む
痛み止め打ってくれたんじゃなかったっけ、先生

ゴールは遠かった
あと3歩、側へ
右足で蹴って、3歩走った

ズキン
なんかもう、わけわからなくなってくる
背中に冷たい汗が伝う
こんなに動いてるのに、身体が少しも熱くならない

痛い

、危ないっ」
「・・・・っ」

強引だった
いつもならしないプレイ
でも最後だから
和馬のように、真直ぐ敵に突っ込んでいって
それでシュートを決めてやりたい
清清しい攻めのバスケ
ねぇ、私 昔はあんたみたいに走ってたんだよ

強引にシュートを決めた後、ブロックしてきた選手と折り重なり合うように倒れた
っ」
悲鳴みたいなチームメイトの声
大丈夫、私は立てる
「・・・平気」
最後だから、この後はもうどうなったっていい
勝ちたい
勝たせて
勝って、和馬に笑って言いたい
私、勝って終わらせたよって

「鈴鹿・・・見てる・・・?」

大歓声の会場
見回しても人はぼやけて見える
男子の試合は 女子より先に始まった
長引いていたら まだ試合中かもしれない
見てて欲しかった
最後の試合
二人一緒の夢を追い掛けてたから、私の気持ちはあんたが一番知っててくれてるはず

試合は、僅差だった
80-83
負けてる、あと何分?
ボールを運んで、シュートして、点を入れて

ガツっ、
両側から当たられた
フエが鳴る
これでファール何個目?
まるで和馬みたい、ファールで退場になりたいの?
「卑怯よっ、ばっかり狙ってっ」
部長の声が響いた
側へ寄ろうとしたら、全身に痛みが走っていった
力が、抜ける

・・・っ」

お願い、あと少し
あと少しでいい、お願い立って
、交代した方がいいよ」
、もう無理だ」
床についた両腕が、震えていた
もうダメなの?
こんな風に終わるの?
ねぇ、ずっと頑張ってきたバスケなのに
こうやって、途中で終わってしまうの?
何もなしとげられないままで

っ」

ワンワンと、耳の奥でなってる歓声の中 声が聞こえた
頭に響くそれ
反射的に顔を上げた
会場の席の一番前、手すりから身を乗り出して 汗だくで
和馬が叫んでる
それが見えた

っ、根性だせっ
 勝って終わるんだろっ、あと2分、保てばいいんだっ」

どうしてだろう
こんなうるさい会場で、和馬の声だけが聞こえる
はっきりと届く
しっかりしろ、負けるな、諦めるな、
「おまえはまだやれる・・・っ」

タイム、と
コーチが審判に告げた
交代だと、そう告げられる
その言葉に、は首を横に振った
「これで、最後なんです、だから」
「これ以上やると 選手生命にかかわる」
「いいんです、明日立てなくなったって」
選手生命なんか、とっくに切れてる
こんな風に全力で走れるのは、もうあとほんの少しの時間だけ
「これで最後だから、やらせてください」
落ち着いた声だった
不思議、あんなにグラグラしてたのに
和馬の声を聞いた途端、楽になった
立ち上がる力が涌いた

見てて、これがラストステージだから

マネージャーが半泣きで巻いてくれたテーピング
それから いつものサポーター
立てた
コートに入ると 歓声が耳に戻ってくる
やれる、あと3点 それで同点
勝つにはあと たったの2ゴール

走る、和馬みたいに
本当はこういうプレイが好きなの
部長と連係、それからフェイント
内から来るか、外からいくか わからないでしょ?
故障さえなければ、ウチのチームはもっと強くなったのに
私がもっと、点を取れたのに
っ、決めろっ」
和馬の声だとわかった
右足で蹴り上げる
高く飛べた、いつもより、ずっと高く飛べた
ボールは、あの気持ち良い音をたててゴールをくぐる

だからバスケって好き

痛みとか、そんなのはどこかに消えていた
必死すぎて、感じなくなったのか
強引に奪ったボールを仲間に繋げた
あと何秒?
お願い、あと1ゴールだけ

・・・っ」

遠かった、でもこんなのワケないはず
毎日毎日打ったんだから
誰より練習したって胸張って言える
最近は、鈴鹿の方がしてるかもしれないけど
それでも女子部の中では誰よりもよ

歓声、それから割れる程の拍手
綺麗に決まった最後のシュート
気持ちよかった
最高の気分だった

私、バスケが大好きだ

83-85
それで試合終了だった
勝った、勝って終わらせた
チームメイトの声、駆け寄ってくるみんな
会場のはば学コール
ようやく、はっきり聞こえ出した
意識が戻ってくるようだ

そのまま、病院へ直行したを心配して 何人かのチームメイトが様子を見にきていた
ドクターストップ
聞いて全員が蒼白になる
「前からだったらしい、俺も今はじめて聞いた」
コーチが苦い顔をした
同じく駆け付けてきた和馬は、ぎゅっと強く拳を握る
聞いて、寒気がする言葉
ドクターストップ
もう二度と 本気のバスケはできないなんて
(・・・・・・っ)
本当に良かったのだろうか
無理をせず、じっくりゆっくり治療したら こんなにびどくはならなかったかもしれない
自分がたき付けたから
限界がきている膝でプレーしろなんて、
痛いだろうに、勝って終われなんてそそのかして
(・・・・・・・っ)
わからなかった
これで最後と言った
会場を出る時に、こっちを見て笑ってくれた
「勝ったよ」なんて、いつもみたいに軽く言って
「わかんねぇ・・・」
つぶやいた
これで良かったのかどうかなんて、わからなかった
痛いのはで、辛いのもで、自分は何もしてやれなかった

しばらくして、がやってきた
松葉杖みたいなのを1本手にしている
・・・っ、大丈夫?」
「うん、平気」
笑って、それからみんなに 心配かけてごめんね、と言い
コーチにぺこりと頭を下げた
無茶言ってすみません
こんな大事な時に抜けて、ごめんなさい
が悪いんじゃないよ」
「そうよ、あんな当たりばっかりして卑怯なのよっ」
口々に言うチームメイトを、苦笑してなだめ
は僅かに俯いた
そして、壁の時計を見ていつもみたいに
いつもみたいに明るく言った
「私、先生に挨拶してから帰るから
 みんな先、帰ってて?」
明日も試合なんだから、と
そうして器用に杖をつかって、くるりと身を翻すと廊下の向こうに消えていった

20分、待ち合い室で待った
それでも戻らないから、和馬はの消えていった廊下の方へ歩き出した
は先に帰ってと言ってたけど 帰れるはずなかった
何でもないように笑ってた
そんなわけないのに
辛くないわけ、ないのに

午後の病院は人が少ない
は、3階の廊下の奥にいた
角から杖が一本覗いている
そこを曲がると、消化器なんかが置かれた隅に が座り込んでいた
両手で顔を覆っている

・・・・」

声をかけた
何て言っていいのかわからなかった
泣いているのだろうか
は返事をしない

、」

側に膝をつく
そっと手で の顔を覆っている手に触れたら ぴくり、と
肩を揺らして顔を上げた
頬が涙で、濡れていた

ズキン、ズキン
の涙なんて初めてみる
笑ってた
平気なはずない
いつも、そうやって無理してたのか
独りで覚悟して、独りで諦めて、独りでこうやって泣いて
・・・、ごめん」
手を伸ばした
濡れた頬に触れると、の目が和馬の顔を見つめた
涙がこぼれていく
「どうして鈴鹿があやまるの?」
「お前、泣いてるから・・・・」
またはらはらと涙が落ちた
「ちょっと、落ち込んでて」
さすがに、と
が言った
「ほっといて? 帰っていいよ
 あんたも明日、試合でしょ?」
「ほっとけるかよ」
怒ったような声になった
どうしてなんだ
期待の選手
今年は絶対インターハイに行けると思ってたのに
「これで終わりかぁ
 先生に言われちゃうと、実感涌いちゃって・・・」
の涙は止まらなかった
今まで泣かなかった分 全部流れているんだろうか
「行きたかったなぁ・・・インターハイ」
ひく、と
の声が震えた
夢だった
そのために頑張ってきたのに
憧れのインターハイで、プレイしたかった
試合したかった
バスケしたかった
「行きたかったよぉ・・・っ」

こんなを誰が知ってるだろう
子供みたいに泣いて、泣いて、泣いて

「俺が連れてってやるから・・・っ」
その身体を抱きしめた
泣いてるを痛い程に抱きしめる
インターハイ
二人の夢だった
が行けないなら 俺が絶対連れてってやる

「俺が連れてってやる、・・・っ」

誰よりも大切な人
同じ夢を持ってて、必死に努力してきたのを見てた
バスケが好きで、だから頑張れる
と一緒にプレイするのは、とてもとても楽しかった
の存在で、プレイが大きく変わる程 和馬にがもたらした影響は大きい
「・・・
初めて、その名前を呼んで
和馬はぎゅっと目を閉じた
大切な人
誰よりも好きな人
の叶えられなかった夢は、自分がきっと、きっと叶える

和馬は いつまでも、泣いているを抱きしめていた
静かな病院
誰もいない廊下の隅
決めたことがある
これからの、全ての勝利はのために


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