限界  (鈴×主)


春の大会が始まった
今度こそ優勝と、誰もが思っていた
部員は男女とも絶好調だったし この丸2年の練習で はば学は相当に力をつけていた
だから、順調に勝ち進んで、
このまま一気に 大会初優勝をもぎ取るんだと思ってた
が、ひどいファールで倒れるまで

・・・っ」
、立てるか ?」

最初、視界がぼんやりしていた
それから、自分がフロアに倒れてることに気付いて
ようやく周りの声も聞こえてきた
は上手いから、よく狙われる
一番に得点をたたき出しているから、潰しにかかってきた
誰かが、そう言ったのが聞こえた
左膝が、痛い

ドアを閉めると、試合の喧噪が一気に遠のいた
交代と告げられて、ぎゅっと唇を引き結ぶ
この気持ち、中学の時にも味わった
やりたいのに、やれない
足が痛い
痛いのなんか平気なのに、試合に出してもらえない
「・・・限界かなぁ・・・」
中学2年の夏、ひどい怪我をして それから手術してリハビリして
ようやく走れるようになって、飛べるようになって
復帰してからは必死にプレイスタイルを変えた
もう前みたいには走れない
ボールを運べない
だから、遠くからでも入るように毎日毎日スリーポイントの練習をした
足に負担がかからないよう、そういう動きを心掛けた
そうやって、騙し騙しやってきた
どこかしら、故障したままの左膝で

廊下を歩いて、医務室へ行って、簡単な治療を受けた
試合が終わったらお医者さんへ行くようにと言われ、黙ってうなずく
わかってる
医者にはいつも、行っている
インターハイ予選まであと3ヶ月
そこまで保てばよかったのに
あと、少しなのに
「きついなぁ・・・・っ」
ずるずる、と
そのまま人気のない廊下に座り込んだ
左足に、もう慣れた痛みが響いていった

・・・っ、大丈夫か?!!」
廊下の冷たさに、足がじんじんしだした頃 和馬が向こうから走ってきた
男子の試合はこれからなのだろう
顔を上げて その目を見た
真直ぐな眼、大好きな眼
昔の自分みたいに
こんな風に走りたいと思うように、プレイする和馬
心配した顔をして、駆け寄ってきた
途端、心が震えた
泣きだしそうになった

「お前、当たられたって聞いた」
和馬は、座り込んでいるの側に膝をついた
心配そうに顔を覗き込んでくる
うん、当たられた
最近ガードがきつくてね、うまく避けられなかった
でもシュートは入ったよ
さすがでしょ?
中学の時は苦手だったスリーポイント、継続は力なりってよく言ったものよね
「大丈夫か? 医務室行くか?」
どれも、言葉にならなかった
かわりに首を振って、ようやくやっと苦笑をつくり出した
「行ってきた」
大きく息を吸って、それから顔を上げる
心配気な目と、まともに視線がぶつかった
一瞬、動けなかった
弱くなる
そんな風に見ないで
私は大丈夫、大丈夫だから

「限界来たみたい」
の言葉に、和馬は息を飲んだ
「そんなひどいのか?」
が膝を傷めているのであろうことは、なんとなくわかっていた
いつもしてるサポーター
念入りすぎる準備運動
時々学校を遅れてくるのは、病院に行ってるからだと誰かが言ってたし
膝に手術の後みたいなのもある
でも、それでもは走ってたから
何でもないように、毎日練習して、試合してたから
だから大丈夫なんだと思っていた
バスケ選手には、そういう怪我や故障がつきものだと思っていたし

「・・・騙し騙しきたんだけど」
言ったの顔
見たこともないくらい頼り無かった
が女に人気があるのは、しっかりしてるからだと珠美が言ってた
お姉さんみたいで安心するの、と
そのが、今は僅かに震えて 苦笑しかできないでいる
「治療したらなんとかなるんだろ?」
「そうでも、ないみたい」
救いを求めるような和馬の言葉は、あっさりと否定される
「あと、少しだったのにな」
吐き出された言葉は、痛かった
こんな風に終わるのは嫌だと、聞こえた

もうバスケができないなんて
順調に勝ち進んできた大会
もうすぐ優勝なのに
夏には最後のインターハイの予選があるのに
ずっとずっとみてきた夢を、叶えるんだって言ってたのに
そのために、今までずっと頑張ってきたのに
「覚悟はしてたよ、ずっと・・・」
いつかダメになる
でも、いけるところまでいこう
本気でバスケができる間は、絶対手なんか抜かないで
「・・・あと、少しだったのにな」
の声が震えていた
あと少しでインターハイ予選
あと少しで夢を叶えるラストチャンス
「行きたかったな・・・インターハイ・・・」
へへ、と
まるで泣いてるみたいな顔で、が笑った
息ができないほど、苦しかった

嘘だ、こんなの
がもう、無理だなんて

「諦めるな・・・っ」
叫ぶような声だった
ほとんど衝動で、の身体を引き寄せた
ありったけの力で、震えてるのを抱き締める
抱き締めて、叫んだ
嘘だ、大丈夫だ、だから諦めるな
「お前はまだやれる・・・っ」

泣いてしまいそうだった
心が熱い
呼吸ができない
抱きしめたの身体はやっぱり震えていた
泣いているのだろうか
顔は見れなかった
自分も、泣きそうだったから

チクショウ、と
何度心の中で罵っただろう
当たるのも突っ込んでいくのもバスケだから、白熱する試合程ファールギルギルのプレイが多くなる
女子でも体格のいいのは多いから、みたいなのは簡単にふっとばされるだろう
その気になれば、
ファールを取られるつもりで、当たりに行けば
「諦めるな・・・っ、こんなので、終わるな・・・っ」
相手の選手がわざとぶつかったとしても
それでがこんな風に、膝を壊してしまっても
何も言えない
相手はたった一つのファールをもらうだけ
試合は今も、続いている

苦しかった
は、この何百倍も苦しいだろう
膝の限界
本人が、そう言うのだから間違いはない
でもこんな形で、
こんな風に 終わっていいのか
せめて、せめて自分の手で勝って終われ
最後の勝利を掴んで終われ

「コートの中じゃ、俺 お前を守ってやれない・・・っ」
悔しかった
痛い程、を抱きしめた
こんなに強くなるほど練習したのに
こんなに頑張ってきたのに
期待されてる選手なのに
バスケが大好きなのに
「ちくしょう・・・・っ」
憤り
チームメイトなら、試合中も守ってやれた
代わってやれたかもしれない
この痛み
この悔しさ
全部、一緒に分け合えたかもしれないのに
「・・・ありがとう、鈴鹿」
そっと、
の腕が和馬の背に回された
囁くように、が喋る
声はもう震えてなかった
「ありがとう、私、あと1試合だけ、出てくるよ」
それで勝って、終わりにする
それできっぱり、諦める
「ありがとう・・・」

何が、ありがとうだ
何もできない
何もしてやれない
は、自力で立ち上がり、ゆっくりと歩き出した
歓声の響く試合会場
の抜けたチームは、それでもしっかり勝っていた
スコアボードを見て、が笑った
綺麗な笑顔だと、思った

両手に残った 震える身体の感触
悲しいくらい、綺麗だった
覚悟してたと言った
いつから? どんな風に
どれだけ努力しても、いつか膝の限界がきて、いつかバスケをやめなければならなくなる日を
ずっと前から、この日のことを
独り 覚悟してたっていうのか
「くそ・・・っ」
側の壁を蹴りつけた
静かな廊下
ドアがしまったから、歓声はもう遠い
「俺に、言えよ・・・っ」
こんなこと、
こんなキツいこと
独りで我慢してないで、痛いって言え
辛いって言え
「俺が全部、受け止めてやるから・・・っ」

歓声が、ひときわ大きくなった
はば学コールが鳴りやまない
勝ったのか、当然だ
はば学は誰にも負けない
ケチなファールでエースのを潰したって、負けはしない
最後には、強い目をしたのように
譲れない夢がある
だから、もまだ終わらない


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