ロミオ&ジュリエット  (鈴×主)


修学旅行が終わると、すぐに文化祭準備に入る
今年は演劇部が部の存続をかけて気合いを入れた出し物をするとかで、密かな話題になっていた
珠美がチラシを見ながら楽しそうに話している
ちゃん、助っ人として出るんだって」
「ふーん」
「相手役は三原君だよ
 二人のロミオとジュリエットなんて、素敵だなぁ」
「ふーん」
クラブ前のウォームアップをしながら、側で一人はしゃいでいる珠美に 和馬は曖昧に返事をしていた
現在の演劇部は3年の部長がただ一人でやっている
これでは部がなくなってしまう、と
この文化祭で その存在を主張しようという企画らしかった
一人では芝居は成り立たない
それで助っ人に、と言われたのが どういうわけかと色だったのだ
演目はロミオとジュリエット
つきあっている二人ならば、ハマリ役となるだろう
部長は裏で、舞台を動かしてその手腕を発揮するとか
当日はOBがライティングに駆け付けるとか、とにかく
普段は全くスポットの当たらない演劇部が、二人の主役大抜擢で大きな話題を呼んでいた
だから和馬には当然、面白くないのである

「見にきてね〜」

昨日、がのんきにそんな風に言っていた
クラブの後、劇の練習があるとかで最近は早々に体育館から消える
それもやっぱり、おもしろくなかった
そんなんじゃ、冬の大会への調整ができなくなるんじゃないか

さて、当日
どうしても見に行きたいという珠美につきあわされ、和馬は渋々講堂へ来ていた
何が楽しくて、と色のラブシーンなんか見なくちゃならないのか
イライラしながら開演を待って、隣で嬉しそうに頬を染めている珠美にため息をついた
最近珠美が二人のことを、お似合いだお似合いだと言うから
なんとなく気が滅入る
あんな奴とが、お似合いなわけあるかと、心の中でそうつぶやいてみる

会場は満員
先生までおもしろがって見にきていた
始まると、シンとしていた客席が、とたんに大きなざわつきに包まれる
幕があくと同時に、誰もが知ってる有名なシーンが広がっていた
夜のバルコニー
熱愛に溺れる二人の言葉のやりとり
「ジュリエット、愛しい人」
声が、響いていった
また会場がざわついた
「あの声・・・」
あれって、ちゃんだよね、と
隣でつぶやいた珠美の言葉に 和馬は思わず笑みをこぼす
が、男装してバルコニーの下で愛しい人の名を呼んでいる
想像もしなかった目の前の光景
会場全体が、演劇部長の仕組んだ謀にひっかかった
そんな気がした
まさか、がロミオをやるなんて

「ロミオ様、私の愛しい人」
色が登場すると、会場のざわめきはどよめきにかわった
最前列の辺りから黄色い声が上がっている
ありえない程にドレスの似合った色が、バルコニーに現れた
和馬は、今度はふきだした
軟弱な色が相手なら、がロミオでも充分凛々しい
バスケをしてるの身体は、スラリとして綺麗で
ジュリエットに向けて差し出された手、所作の全てがきちんと練習されていて決まっていた
ずっと心にあった嫉妬みたいな気持ちが すっとどこかへ飛んでいく
そんな気がしていた
隣で、珠美がほっとため息をつく
二人とも綺麗なんて、このおかしな配役でも違和感なく物語りに入っていけるのか
その様子もまた可笑しかった
こんな面白い舞台を作れる部長がいるなら、この劇を見て部員も少しは入るかもしれない

劇は拍手喝采で終わった
帰り際、すれ違った理事長が「いやぁ、新しい」なんて言ってるのを聞いた
思わずまた笑みがこぼれた
変なの、
がジュリエットじゃなかっただけで、こんなに気分が違うなんて
来る前の、イライラした感じがなくなってしまうなんて

「よぉ」
「あれ、鈴鹿も休憩?」
昼過ぎ、屋上へ行くとが一人でパンを食べていた
「おまえ、ここ立ち入り禁止だって」
「あんただって入ってるじゃない」
「まぁ、特等席だもんな」
「うん、どこも込んでるし」
どさ、との隣に腰を下ろして 和馬はさっき購買で買ってきたパンをコンクリートの上に置いた
和馬のクラスの今年の出し物は屋台
たいやきとたこやきで、それは朝からまどかが張り切って仕切っている
「おまえんとこは何やってんだ?」
「ウチはフリーマーケット」
「ふぅん、売れてんの?」
「目玉にしてた女性用セクシー下着は氷室先生に見つかって没収された」
「・・・されるだろ、それは」
「あはは、男子が命をかけて死守しようとしたけど隠しきれなくてねー」
「おまえのクラスって面白そうだな」
「そうだね、変な男子多いよ、楽しい」
「・・・ふーん」
ちぇ、と
パンの袋をやぶって、カツコロッケパンにかぶりついた
とは同じクラスになったことがない
いつも思う
もし、同じクラスになれたら、どんなにか行事が楽しいだろうって
普段の授業とか、席変えとか
そんなのに、張りがあるんじゃないだろうかって
「あんた、劇見てくれた?」
「ああ、見たぜ、笑った」
「えー、感想それだけ?」
「軟弱な三原が相手なら、そりゃお前がロミオだよな」
口いっぱいにパンをほおばりながら言うと、が側でくす、と笑う
「台本見た時はびっくりしたんだよー
 三原がノリノリで嬉しそうだったから 即決定したんだけどね」
が、グレープフルーツジュースの紙パックに手を伸ばした
和馬も同じやつを買ってきている
「演劇っておもしれーの?」
「うん、楽しかったよ」
「3年は全クラス演劇だろ?」
もし来年、と同じクラスになれたら 一緒に劇ができるかもしれない
そう考えたら、少しだけ嬉しくなった
やっぱり、同じクラスっていうのは重要だと思う
「でもどうせなら、ジュリエットがやりたかったなぁ」
「軟弱な男相手なら無理だろ」
「鈴鹿がやってよ」
「まぁ、俺ならおまえがジュリエットでもつり合うか」
「じゃ決まりね、来年の劇は私ジュリエットをやる」
「ばーか
 来年の劇は、もっといかつい劇をやんだよ
 あんなチャラチャラしたやつじゃない話のやつな」
「えーっ、そんなの嫌だー」
が笑った
秋の風が気持ちよくふいて行く
「しかし劇なぁ、俺台詞とか絶対おぼえられねぇな」
「台詞より演技ができるかどうかよね
 鈴鹿って不器用そうだから」
「うるせーって」
2つ目のパンは、メロンパンだった
購買で「今大人気」とか書いてあったから思わず手にとったやつ
「あ、それおいしいんだよ」
「半分食う?」
ばりっと袋を開けて、取りだしたのを2つに割った
「その半分でいい」
さらにそれを半分に割った4分の1を が受け取る
手に残った4分の1、口に放り込んだ
ざらっとした表面の砂糖が甘い
甘くて、くすぐったい
自分の、グレープフルーツジュースに手を伸ばした
最初は酸っぱいって思ったこれも、毎日飲んでると慣れてきた
と同じだと思うと、やはりそれもくすぐったくある
「来年、同じクラスになれたらいいね」
ぽつ、と
が言った
視線をやると、晴れた空を見上げている
コンクリートの上に足を投げ出して、は僅かに笑った
「あんたと同じクラスだったら、楽しいだろうな」
「そだな」
答えて、それから急に切ないような気持ちになった
パンの残りにかぶりつく
甘い味が、やっぱり少し切なかった

同じクラスになったら、きっと増々好きになってしまう

今でも止められない想い
もしかしてがいるかもしれないと、
休み時間になったら まっすぐこの屋上へ来た
去年の文化祭のことを、も覚えていたのか
二人きりで、今年もここでお昼御飯
同じ思い出を共有していることが くすぐったくて切なかった
こんなだから、忘れられないんだ
意識しなくても、勝手にばかり探してしまうから
「けどなぁ、お前って毎年氷室が担任だろ
 おまえと同じクラスになったら 氷室もついてくる気がする」
「私もそんな気するなぁ」
明るい声で、が笑った
そうして、時計を見て立ち上がる
「そろそろ行くね、当番なんだ」
「おう」
メロンパンごちそうさまと、は言うとドアへ向かって歩き出した
風が、のスカートをひらひらさせている
ぼんやりと、眺めていた
胸に広がった気持ちは、どうしようもなかった
まだ、まだ、が好きだ
多分、これからもずっと、好きになりつづける気がする
届かない想いでも

遠くでチャイムが鳴った
秋って、好きじゃない
風が冷たくなって、寂しいような気分になる
あっという間に夜になるし、気がつけば寒い冬になっている
通り過ぎていくだけの風
も、風みたいに和馬のところには留まってはくれない
(わかってんだよ・・・)
頭を振った
それはわかってることだと何度も自分に言い聞かせる
は、和馬のものじゃない
和馬を好きでもない、ただの友達
の言葉に、他意はない
そして、それでも
和馬はが好きで、忘れようとしても忘れられない
想いの深みにはまるように、吹いていくだけの風を 今も追い掛けている


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理