修学旅行 密着編  (鈴×主)


「修学旅行ゆうたらアレやろ」
最終日の夜、まどかが言い出して始まった枕投げ大会は、30分もするうちに生きるか死ぬか
やるかやられるかの真剣勝負となっていた
部屋が、戦場と化す
他の部屋からかきあつめてきた ありったけの枕を投げあい、布団の上でぶつけあう
最初のルールでは、相手陣地に多くの枕を投げ込んだ方が勝ちとかいうことになっていたはずだが
今やいかにして相手を倒すか
最後に立っていたものが勝者であるとの暗黙の了解が、男子どもの血をたぎらせていた
そこかしこから、聞いたこともない奥義が飛び出す
普段は大人しい面子までもが園芸部奥義なんてものをくり出して戦っている
そんな大騒ぎ
当然外にまで聞こえていたのだろう
うるさい、と抗議にきたのか
楽しそうだと様子を見にきたのか
女子のグループがドアを開けた
そこに、流れ弾が飛んでいく

「ぶ・・・っ」

ぼすん、と
それは丁度の顔に直撃した
ドアを開けた途端に、飛んできたから避けようもなく
まともにぶつかったデコを押さえつつ、はこちらをむいてアチャーな顔をしている和馬を睨み付けた
「うっさいのよ、あんたたち」
「わりーわりー、急に開けるからさ」
「枕返してもらいに来たの
 もうすぐ消灯でしょ」
「や、まて、持ってくな
 この戦いが終わってからにしろっ」
「戦いってねぇ」
ぶつけられた枕を手に、戦場と化した部屋を見回す
誰と誰が敵か味方か、よくわからない
しかし見ていると、とても楽しそうだった
「つっ立ってるとあぶねーぞ、
「わっ、ちょっと姫条っ」
ちゃんかて手加減せーへんで
 そっちにおる奴はみんな敵やでー」
枕が続けて2.3個飛んできた
一緒に部屋に来た女子達は、きゃーきゃー言いながら、投げられた枕を投げ返している
、おまえも手伝えっ」
「しょーがないなぁ」
飛んできたのを受け止めて、思いっきり投げつけた
偶然か、枕を両手に抱えて横を向いていたまどかに当たる
(お、気持ちいい)
「よっしゃ、 姫条狙っていけ」
「おうよ」
和馬と、二人並んで枕を拾う
拾っては投げ、技が決まると喜びあった
なんだなんだ、修学旅行
修学旅行といえば、アレやろと
まどかが言った中でようやくマトモで楽しいのが出てきたじゃないか

いつの間にか、消灯時間は過ぎていた
未だ盛り上がり続ける部屋に、慌てて男子が一人駆け込んでくる
「まずい、ヒムロッチが来たっ」
「え?!」
今まさに、和馬がバスケ部奥義とかいう技を出そうとしていたところだった
一瞬、みんなして部屋の中で固まった
「やばい、9時過ぎてるじゃないっ」
「ヒムロッチ廊下歩いてるから部屋に戻れない〜」
「俺だって違う部屋だっての」
最終日だってのに、また廊下で3時間正座の刑なんて勘弁してくれ、と
や和馬が天を仰いだその時
コンコン、と
きついノックが部屋に響いた
途端、の身体をまどかが強く押しやった

「?!!!」

2秒ほど、がたがたん、と色んな所で音がした
の投げ出された身体の後ろでは、ピシャとふすまが閉められる
「・・・え・・・?」
視界が、暗くなった
あっという間
一瞬にして、は押し入れの中に押し込まれていた
ようやく、そのことに気付いて ほっと息をつく
外では、まどかがドアを開けたところなのだろう
氷室の声が、届いてきた

「せめぇ・・・」
「文句いわない」
の他に、この押し入れには和馬が押し込められていた
最初に突き飛ばされたのが和馬で、次に押し込まれたのがのようだ
和馬は尻から押し入れの中の布団に突っ込んで 頭を低い天井でしこたま打ち
その後、突き飛ばされて入ってきたを慌てて支えていた
二人は狭い押し入れの中、かなり近い距離で、顔を見合わせている
「頭打った・・・」
「え? どこで?」
「天井」
氷室の説教する声が聞こえる
こんな時間まで何を騒いでいる
高校生にもなって、どうのこうの
「いやぁ、最後の夜やからテンション上がってもうて・・・」
まどかの言い訳する声は、すぐ側だった
どうやら、他の部屋から遊びにきていたメンバーは 達同様他の押し入れに隠されて 今のところ見つかっていないようだった
「早く帰ってくれ・・・」
ドキドキと、心臓の音が聞こえるようだった
狭い密室
暗いのに目が慣れてきたら、自分の上に覆いかぶさっているような格好のの顔がよく見えた
「おまえ、腕だるくねぇの?」
「ちょっとダルい」
囁くように交わすわずかな会話も、互いの息遣いをすぐ側で感じてゾクとする
いつ見つかるとも知れない緊迫した状況なのに、鼓動だけがどんどんと速くなっていった
側にがいる
それに、感じる

氷室の説教は長かった
何とか早く帰ってもらおうと、まどかが外で奮闘している
それを聞きながら、は自分の体重を支えている腕のしびれに参っていた
押し込められた時に、近くに人がいたから上に落ちないよう手をついた
狭い中では身動きができず、体重を不安定な布団の上についた両手で支えている
少しの時間なら我慢もできたが、こう5分もこの体勢をしいられるときつかった
側にいるのは和馬で、
この近すぎるキョリに、さっきから心臓がバクバクいってる
聞こえてるんじゃないだろうかと思うほど
顔が熱くなるほど、気にしてる
ここが暗くてよかったと、ほんのすこしだけ思った
こんなに近くでは、何でもない顔なんかしていられない

・・・」
「え?」
「腕、きついだろ
 力ぬけよ」
「でも・・・」
時計がないから、時間は長く感じられた
説教はまだ終わりそうにない
の腕が震えているのに、和馬は見兼ねてそう言った
体勢が逆だったら良かったのに
そしたら、がこんなに辛くはなかったのに
「いいから、俺の上のっかっていいから」
薄い闇の中、が戸惑ったように瞬きしたのが見えた
「何もしねぇし
 限界きて倒れ込んで 派手な音してバレたら意味ないだろ」
言い訳のようにつけ足した
が腕の力を抜いたら、の身体は和馬と密着する
まるで抱き合ってるみたいになるだろう
の身体が、和馬の上に乗っかる形で
「ほんとに何もしない?」
アンタには風呂覗いたっていう前科があるから、とが笑った
「・・・しねぇよ」
その言葉に、苦笑する
この距離だけで、どうにかなりそうになっている
これ以上近付いたらアレだろうな
ますますキツいだろうな、と思いつつ
辛そうなを見てるのも 嫌だった
自分が上だったら、何が何でも我慢したけど
「ごめん、ほんとはそろそろ限界だったんだ」
ふ、と
が笑った
そして、ゆっくりと身体を倒してきた
息遣いが近付いてきた
動かないよう、何故か息まで止めて宙を睨み付けるようにした和馬の胸のあたりに の頬がふれた
次に腕が、するりと下りてきて肩の辺りで止まった
ゆっくりと、の体重が身体の上にかかってくる
同時に、柔らかい感触を感じた
熱が、じん・・・と伝わる
二人の身体が、密着した

それから何分くらいたったのか、よく分からなかった
ドクドクと伝わってくる鼓動が、自分のものなのかのものなのかも わからない
熱い
身体が熱い、それを何より感じた
二人とも、もう何も喋らず ただ黙って闇を見つめている
氷室の声もまどかの声も遠かった
息遣いと、鼓動だけ
密着した、の身体の感触だけ
狭い空間で、考えていたのはお互いのことばかりだった
この距離は、 想いまでもが近付いたんじゃないかと錯角しそうになる
側に、がいる

「みんな、もぉ出てええよ」

バタン、というドアのしまる音がした後 まどかがため息まじりにそう言ってきた
身体にかかっていた体重が ふと軽くなる
「ごめん、ありがと・・・」
が、暗闇でそう言った
すぐに視界に光が入ってくる
開けられたふすま、まぶしい光
光に溶けていくの身体
部屋が、ざわざわとしだした
ようやく、ほっと息をつく
今まで 呼吸を忘れていたかのような そんな感覚さえした
息苦しい、身体に残った熱で

氷室が他の部屋へ入った隙に廊下に出て こっそりと自分の部屋へ戻り
和馬は冷たい布団にもぐり込んだ
あったかくて、柔らかいの身体
女ってみんなああなのかな、と
鈍った頭で考えた
何もしない? なんて冗談っぽく言ってた
前なら、するわけねぇだろ、と笑ったかもしれない
今は、衝動を押さえるのに必死だ
に触れたい、が欲しい、を離したくない

眠りはなかなか訪れなかった
1階上の部屋で もまた、眠れない
同室の生徒の寝息をききながら、目を閉じてそっと苦笑した
忘れたい想いは、どれだけ努力しても消えてはくれない
一層強くなって、修学旅行が終わる
恋に不馴れだからこそ、感情のコントロールができないままで
和馬も、も眠れない


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理