修学旅行 問題児編  (鈴×主)


夏休みが終わるとすぐに、修学旅行なんてものがはじまった
学校生活で一番といっていいほどのビックイベント
好きなあの子とお泊まりだとか、勉強の日々から抜け出しての気分転換だとか
生徒達は 目的地へ向かうバスの中 若き力を全開にしてはしゃいでいた
も、和馬も例外ではない

1日目の夜、消灯は9時だという 教師の陰謀に近い台詞に男子生徒は一斉にブーイングを起こした
時計は8時を回ったところ
あと一時間で寝る時間ということか
子供じゃあるまいし
まだ何も、楽しんではいないのに
「修学旅行は遊びではない、明日の見学に備えて早く寝なさい」
氷室がそう言いながら、男子の部屋を一つずつ回っていく
「ヒムロッチもちゃうクラスまで御苦労やなぁ」
「つまんねーの」
言いながらも、和馬は部屋の中で筋トレなんかをやっていた
できれば旅館の周りの走り込みとかもしたい
修学旅行といえど、身体を動かさなければ気持ち悪い
さっき、別々のバスで行動していたも そう言って笑ってたっけ
奴はだからといって、部屋でこんな風に一人腕立てなんかはしてないだろうけど
「よし、行ったな、ヒムロッチ」
「何だよ? 何かするのか?」
「修学旅行ゆうたらアレやろ、アレ」
「アレって?」
同室の男子どもは、全員まどかや和馬と並ぶ問題児
成績は悪く、素行は宜しくない
「修学旅行っちゅーのは健全な青少年の心の育成のためにあんねや
 行くで、鈴鹿
 9時消灯とかありえへんからな」
にや、と
笑ってみせた悪友に、嫌な予感がしつつも和馬は筋トレをやめて立ち上がった
ドアを開け、廊下に氷室がいないことを確かめて外に出る
計4人、まるでコソドロのように足音を忍ばせて、階段をおりていった
目指すは1階の、露天風呂

「おい・・・まさかお前ら・・・」
「しっ、」
「今 女子入ってんじゃねーのかよ」
「あたりまえや、アホ
 誰が好き好んで男の風呂なんか覗かなアカンねん」
やっぱり覗くのか、と
和馬は 前を歩くまどかの後ろ姿にため息をついた
問題児がここに4人
中でもまどかは最悪の問題児だ
本人は遊び心やなんて言って笑ってるけれど、女子の風呂を覗くなんて行為 遊び心で通じるのだろうか
「まずいんじゃねぇの・・・?」
「見つからんかったらええんや
 共学やねんから、こーゆうとこはキッチリ押さえとかなアカンねん
 ヨソの学校もやってんねんで
 俺の知り合いのキラ高の奴なんか、普通や言うとったで」
(普通なわけあるかよ・・・)
露天風呂は、一階の離れにあるらしく 今日は女子が使う番だとかで
男子には最上階の大浴場があてがわれていた
「構造からして、こっち側に回れば覗ける気する」
「・・・あ、そう」
湯の匂いが、ここまでしてくる
綺麗に手入れされた庭なのか、林なのかの側をすりぬけながら 和馬は小さくため息をついた
本当に嫌なら、ここから立ち去ればいいものを
なんだかんだといいながら、一緒になって来ているんだから自分も「健全な青少年」なのだろうと苦笑する
修学旅行の夜に、女子の風呂を覗くなんて楽しそうだと
心のどこかで盛り上がってる
9時に寝るなんてごめんだと、
せっかくの旅行なんだから、何が何でも楽しみたいと
それは心からの欲求だった
どんなに格好つけてみたって、和馬はまだ高校2年の若造だ

「ビンゴ、この向こうやで」
白い霧みたいなのが、辺りに漂っていた
かすかに、女子達の声がする
「鈴鹿、しゃがんで」
「おう」
ここまできたら、全員協力体勢だ
4人のうち二人がしゃがむと、残った方がその肩の上に乗った
「おまえ・・・これ俺ばっか不利だろ」
「あとで代わったるがな」
まどかを肩車して、そっと立ち上がった
目隠しの垣根に手をついて、自分と同じくらいの体重を支える
ザーザー、と
湯を使う音がすぐ側でした気がした
ドキ、とする
和馬からは何も見えないが、このすぐ向こうには裸の女子がいるんじゃないか
「鈴鹿、もちっと右」
「あんま動くなよ、足場わりーんだから」
隣でも同じように肩車している悪友が、わずかにこちらへと寄ってきた
和馬ほど、体力に自信のある奴ではないから肩車も大変だろう
ここは土が柔らかくて ちょっと足下がグラグラする
気をぬくと、すっ転んでしまいそうだった
慎重に、まどかの言う通り 右へと寄った
「おおお・・・・・湯煙が邪魔やなぁ」
「わっ、あんま乗り出すな・・・っ」
ぐらり、
まどかの身体が前へと傾いて、バランスを崩しそうになる
「おまえ、もちっと慎重にやれよな
 見つかったら・・・」
言った途端、そろりそろりとこちらへ寄ってきていた隣の二人が 突然にバランスを崩した
「あぶね・・・っ」
咄嗟に、右腕を出して、上に乗ってる奴を支えた
途端、前に前にと乗り出していたまどかが転げ落ちそうになる
「うわうわうわわわっ」
「姫条っ、前に体重かけんな・・・っ」

バキバキバキ、ギャシャーーーーーン

何が何だかわからなかった
耳もとで垣根が壊れる音が聞こえた時には むわっと熱い空気が顔に触れた
バランスを崩してからすぐに、ふ・・・、と身体が軽くなって
気付いた時には目の前にまどかが落ちていたのだ
もくもくと上がる湯煙
隣の二人は、反対側の土の上に転がっていた
きゃーーーーー、と
女子の悲鳴が今頃聞こえてくる
あーあ、と
腰をさすりつつまどかがつぶやくのが 耳に届くまで 和馬はぼんやりと湯煙の向こうに一瞬見えたの姿を見つめていた

消灯は9時
静かになった廊下に、和馬とまどか、そして同室の2人は正座で3時間反省の刑を言い渡されていた
1時間も座っていると、いいかげん足が痺れてくる
「だいたいお前らがグラグラするからアカンねん」
「おまえだって充分グラグラしてんだよ」
「惜しかったなぁ、ちゃんのナイスバディ・・・」
「おま・・・っ、見たのか・・・っ」
問題児の見張り役として さっきまで氷室がそこに立っていた
女子の風呂を覗くとは何ごとか、と
延々説教され、ようやく解放されたところ
ため息まじりに足を摩り出したまどかの言葉に、和馬はカッと頭に血を上らせた
「いやぁ、ラッキーやったなぁ
 ちゃんらが入ってるなんてなぁ」
「おまえーーーーっ」
「あんなことにならんかったら、お前にも見してやれたのになー」
「・・・・・っくしょーっ」
ヘラヘラ笑っているまどかの胸ぐらを掴んで、和馬は大きくため息を吐いた
風呂は思った以上に湯煙で見通しが悪かった
和馬達が垣根をブチ壊して風呂になだれ込んだ時にも、きゃーきゃー言ってる女の子達の姿はほとんど見えなかったのだ
ただ、の声が聞こえたような気がして、そっちを向いたら一瞬だけ
驚いたような顔をしたがいたのが見えた
その後は、いくら目を凝らしても誰も見えなかったけれど
「お前ばっかりいい思いしやがって」
「いやぁ、アハハ」
「あははじゃねーよ」
「まつたくよね」
相変わらず、ヘラヘラしているまどかにくってかかっていたら、背後で聞き慣れた声がした
ぎょっ、として そっと振り返る
パジャマ姿で呆れた顔をして、そこにが立っていた
ちょっと怒ったように見えるのは、多分気のせいじゃないだろう
へらへらしていたまどかも、あちゃーという顔を作ってみせた
「いやぁ、ちゃん、こんばんわ」
「さっき言ってたこと本当かなぁ?」
にこぉ、と
怒った顔のまま、が笑った
さっきのことって、アレか?
まどかがの裸を見たってことか
「あはは、ええとやなぁ、見えてへんで? 全然見えてへん」
さっきとは全く違うことを、まどかが言った
ふぅん? と
がジロジロとまどかと和馬を交互に見るのに 和馬が慌てて弁解する
「や、だってあれだしな
 煙がすごくて真っ白だったもんな、風呂」
「そうそう、ちゃんかなぁ思うても そんな裸まではな、遠かったし」
「うんうん」
何も見てません、と
二人して言うのに が今度は呆れたように笑った
「信じられないことするよねぇ、男って
 お風呂覗くって発想がもぉ、凄いよね」
被害にあった本人だというのに、どこかサッパリとは笑った
内心ホッとして、まどかと和馬は顔を見合わせる
良かった
軽蔑されて、今後二度と会話してもらえなくなったりしたら それこそアレだ
落ち込んで浮上できなくなる
「いやぁ、やっぱ男の本能やな」
「あんた達が特別にエロいんでしょ」
「や、そんなことないぜ
 みんなこんなもんだし」
「威張ることじゃないよ」
可笑しそうにが笑う
笑いながら、側のエレベーターが動いたのに目をやった
「先生かな」
「げー、また説教かよ」
「たっぷり叱られなさい」
教師の泊まっている4階から、この1階にむかってエレベーターの数字がゆつくりと進んでくる
「じゃ、私は退散するわ」
「あ・・・っ、っ」
身を翻したに、和馬が立ち上がって呼び止めた
足がしびれてる
びりびりする
心も何か 麻痺してるみたいになっていた
が笑って許してくれたなら 結果失敗に終わった悪戯も悪いものじゃない
高揚する、修学旅行という特別な行事に
「悪かったな・・・ほんとごめん」
「見てないなら許す」
もう一度が笑った
ほんの少しだけ、霞むように見えたのは言わないことにしておいた
それだけで、ムラムラしそうになったのとか

エレベーターのドアが開いて氷室が下りてきたのと、がダッシュでフロアから去ったのはほぼ同時だった
お前達には反省の色がない、とまたお小言を聞かされ
明日の自由時間で 壊した垣根の修理をするように言われ
12時ぴったりまで、和馬達は廊下に並んで正座していた
時々 教師の目を盗んで見物に来る男子達に英雄扱いされたり、
女子に笑われたりしながら、こそこそと和馬はまどかに確認する
「おまえ、本当に見てないよな」
「しつこいなぁ、おまえも
 あんな煙やったら見えへんって
 ちょーっとからかっただけやん、本気にして怒ってからに
 お前もそうとうムッツリやな」
「うるせぇよ」
そんなちゃんの裸、他の奴に見られたないか、と
笑われて顔が熱くなった
誰にも見せたくない
見られたくない
できるなら、隠してしまいたい
強く、そう思った
ムラムラとドタバタの半々で、1日目の夜がふけていく


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